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ユースアドバイザー養成プログラム
第3章 支援対象者の理解
  第2節 若者の抱える問題(コンプレックスニーズを持つ若者の理解のために)  

5 摂食障害,自傷行為,自殺行動

(1)摂食障害

摂食障害とは,不食や過食などの食行動異常を呈する心の病気であり,その背景には,「痩せたい」(痩せ願望)や「太るのが怖い」(肥満恐怖)といった,正常でも見られる願望が,ほとんど「妄想的」といってよいほど頑固な信念となって生活を縛っている。この病気は,周囲の視線や自分の容姿に対する自意識が高まる思春期・青年期に好発するという意味で,青少年特有の問題と言え,今日の「痩せていることが良い」という社会・文化的プレッシャーにさらされている女性に多いという点で,現代特有の問題と言うことができる。

摂食障害には,「神経性無食欲症(通称,拒食症)」や「神経性大食症(通称,過食症)」という二つの病態がある。「食べなさ過ぎるか,食べ過ぎるか。」という点では,両者はあたかも正反対の病態のように思えるが,実際には,長期的な経過の中では相互に移行することが多く,むしろ同じ病態の異なる側面ととらえた方が実際的である。また,摂食障害の患者は,体型・体重によって自己評価が著明に影響される。すなわち,拒食の時期には過活動・気分の昂揚・援助者への反発・拒否が,過食の時期には社会的にひきこもり,抑うつ気分,援助者へのしがみつきが見られ,食行動の相(拒食や過食)のめまぐるしい交代に合わせて,あたかも躁うつ病のような気分の変化が見られることが特徴的である。

ア 神経性無食欲症

思春期・青年期の女性の0.5〜1.0%に認められ,好発年齢は13〜20歳である。

原因の詳細についてはまだ不明な点が多いが,多くの症例で家族内病理は無視できない。しばしば見られるのは,過干渉で支配的な養育者の存在,あるいは両親の不和や飲酒問題,中には虐待やネグレクトといった深刻な家族内病理が存在することもある。こうした環境は自己評価の低い子どもを生み出す傾向があるが,神経性無食欲症の患者の場合には,自信のなさを完璧主義的かつ強迫的な努力で補い,そうした「つま先立ち」した生き方を,周囲から「がんばり屋」と評されていた者が少なくない。そしてある時思春期・青年期特有のさまざまなイベント─学業の挫折,いじめ被害,失恋など─に遭遇して,そのストレスから食欲不振になったり,あるいはダイエットを開始したりする。すると間もなく,彼らの完璧主義的な努力は,食行動の不自然なコントロールというあらぬ方向へと屈折し,発病へと至るというパターンが多い。

拒食による著しい低体重は無月経をもたらす。痩せ願望はしばしば否認され,本人は「太りたいのに食べられない。」と訴えることもあるが,実際には頑固な痩せ願望と肥満恐怖が存在している。自身の身体状況に危機感を抱き,食事をとろうと決意した場合でも,「いったん食べ始めると食欲がコントロールできなくなるのではないか。」という不安から,食事摂取に強い恐怖感を抱き,不食を続けている場合も少なくない。最も特徴的なのは,周囲の人間から見ると「気味が悪いほど」痩せているにもかかわらず,「自分は太っている。」と思い込むような,身体に対する著しい認知の歪み(ボディ・イメージの障害)である。なお,神経性無食欲症の一部には,過食と排出行為(自己誘発嘔吐,緩下剤・利尿剤乱用)を呈する一群が存在するが,これらの症状が併発した場合には,病態は慢性化する傾向がある。

低体重及び排出行為によってさまざまな身体合併症が引き起こされる。飢餓反応によって甲状腺機能低下,基礎代謝の低下,体温低下,徐脈,浮腫などを生じることが少なくない。また,自己誘発嘔吐によって,歯牙エナメル質の侵食によるう歯,唾液腺炎・膵炎(すいえん),さらに重篤な事例では,電解質の異常から不整脈やけいれん発作を呈することがある。

イ 神経性大食症

思春期・青年期の女性の1〜3%に認められ,好発時期は17〜20歳代前半というように,神経性無食欲症よりも発病年齢は若干遅い。

原因については神経性無食欲症と同様,家族内要因と個人要因が複雑に関与して発病すると考えられるが,あえて相違点を言えば,強迫的性格の持ち主が多い神経性無食欲症患者に対して,神経性大食症の患者では衝動的な性格の持ち主が目立つという印象がある。いずれにしても,家族や友人・恋人との葛藤・喪失のストレスを抱える状況下で,しばしばダイエットの失敗に引き続いて,あるいは,神経性無食欲症から移行するかたちで,発病する者が多い。

神経性大食症の患者は,肥満恐怖と痩せ願望を強く抱きながらも過食するという,いわば「食行動のコントロール喪失」を呈している。彼らは,体重増加を防ぐために,自己誘発嘔吐や緩下剤・利尿剤の乱用などの排出行為(排出型)を用いたり,絶食や過剰な運動(非排出型)を行ったりするが,こうした体重コントロールのための涙ぐましい努力をすればするほど,過食は悪化して病状は深みにはまっていく。一部の患者では,過食衝動から食物の万引きや盗食をしたり,嘔吐物によってトイレや浴室の排水管を詰まらせたりする者もいる。なお,過食行動にもかかわらず,体重は排出型では正常範囲内か,もしくは,それよりやや低いことが通常であり,また,神経性無食欲症のようなボディ・イメージの障害は認められない。

神経性大食症では,神経性無食欲症に比べて,気分障害や不安障害を併発する者が多い。また,自傷行為や過量服薬,アルコール・薬物乱用,窃盗癖,爆発性暴力,援助交際や性的逸脱行動などの衝動的な問題行動を持つ者が少なくなく,境界性パーソナリティ障害の重複診断が可能な者もいる。一方で,身体的には,排出行動による電解質異常がないかぎり,身体的衰弱は比較的まれである。なお,長期間にわたって自己誘発嘔吐をしている症例では,手指・手甲に,歯牙との頻回の接触によってできる「吐きダコ」が観察されることがある。

神経性大食症は慢性的な経過をたどることが多いが,必ずしも社会的な予後は悪くはなく,症状を呈しながらも,精神科医療を受けずに一定の社会適応を果たしている者も少なくない。ただし,アルコールや薬物の乱用をともなう場合,あるいは,パーソナリティ障害や非行・反社会的行動をともなう場合には,社会的な適応は不良となり,症状も遷延する傾向がある。

ウ 摂食障害の長期経過と病態の変遷

すでに述べたように,摂食障害は経過の中でその病態がさまざまに変遷する。多くの場合,不食・拒食のみを呈する病型から始まり,この段階で治療を行えば,一般に予後は良好である。しかし,拒食からの回復期に通常見られる過食傾向を無理にコントロールしようとしたり,あるいは,排出行動を行うようになると,一気に慢性化の傾向をたどってしまう。そして,罹病期間の長期化に従って,ますます治療は困難となる。これに加えて,アルコール・薬物乱用を併発すると,事態はいっそう複雑化の様相を呈してしまう。逆に言えば,病型にかかわらず,「毎日3食を食べること」,「過食はしてもいいから,排出行動を止めること」,「アルコール・薬物乱用を止めること」を達成することが,摂食障害からの回復の前提になるとも言うことができるであろう。

(2)自傷行為

ア 自傷行為の理解

自傷行為は,うつ病,摂食障害,パニック障害,解離性障害,外傷後ストレス障害,境界性パーソナリティ障害,行為障害,アルコール・薬物乱用など,さまざまな心の問題で見られる。しかしその一方で,一般の中学生・高校生の約1割に自傷行為の経験があり,その意味では,青少年によく見られる現象でもある。

(ア)自傷行為はリストカットだけではない:自傷行為とは,身体に対して意図的かつ直接的に非致死的な損傷を加える行為であり,通常,自殺の意図はなく,行為の致死性も予測したうえで行われる。この定義は,リストカットだけが自傷行為ではないことを意味している。手首や腕を切るのをやめた人が,その後,他の身体部位を切る,皮膚を掻きむしる,硬い壁を殴る,壁に頭をぶつける,火のついた煙草を皮膚に押しつけるというように,形を変えて自分を傷つけ続けるという現象はよくあることである。リストカットだけに目を奪われていては,問題の本質を見誤る可能性がある。

      ちなみに,アルコール・薬物乱用,拒食や過食などの摂食障害,避妊しない性交渉や援助交際も,自傷行為に併発することが多い行動である。いずれも広義の自傷と言えなくもないが,身体への弊害は蓄積によって生じるという意味で,間接的な損傷である。また,医薬品を過量服薬するのは,致死性の予測が難しいという点で,自殺企図に近い行動である。

(イ)自傷行為は失敗した自殺企図ではない:自傷行為は,多くの場合,怒り,恥辱感,孤立感,不安・緊張などの不快感情に対処するための方法である。すなわち,自傷者の多くは,行為に際して自殺を意図していない。彼らは,自傷する理由としてしばしば,「心の痛みを抑えている。」,「自傷は安定剤。」,「生きるために必要。」と語る。これらは,自傷行為そのものは,失敗した自殺企図ではないことを意味している。

(ウ)自傷行為は自殺関連行動である:しかし,矛盾するようであるが,自傷行為は自殺と密接に関係する行為でもある。過去1回でも非致死的な自傷行為をした人は,全く自傷経験のない人に比べると,自殺既遂のリスクが数百倍高いという報告がある。すなわち,自傷行為は,将来における自殺企図の危険因子なのである。

      自傷と自殺の間には連続的な関係がある。非致死的な自傷を繰り返すうちにエスカレートして制御困難に陥った末に,自殺の意図がないのに重篤で致死的な自傷に発展することがある。また,死ぬために自傷することは少ないが,自傷していない時に漠然とした消極的な自殺願望(彼らはこれを「消えたい」という言葉で表現することが多い。)にとらわれている者が多い。そしてある時,いつもとは別の方法(たとえば,過量服薬,縊死(いし),飛び降り)で自殺を試みることがある。

(エ)自傷行為は操作的・演技的行動ではない:その非致死性を理解しながら意図的に行っているという理由から,自傷行為はしばしば操作的・演技的行動と誤解される。しかし,自傷を始めたばかりの時期は,ほとんどの者は,家族や友人に隠れて自傷を行い,そのことを誰にも言わない。多くの自傷行為は,他人の視線の届かないところで開始される行動なのである。もちろん,操作的・演技的な自傷行為がないわけではない。しかし,そうした性質は,孤独な自傷行為を繰り返す中で偶然にもその周囲への影響力を発見してしまうことで,二次的に生じてくるものである。

(オ)自傷行為中に解離している者もいる : 自傷の最中に「痛みを感じない。」,「記憶があいまい。」と述べる者は少なくない。彼らは,平常より痛みに鈍感であるが,怒りや恥の感覚などの不快な感情を体験した場合には,いっそう痛みに鈍くなる傾向がある。解離によって「何も感じなくなる」ことで意識を苦痛から遠ざけていると考えられる。このことは,自傷する者の多くが,虐待やいじめの被害者であったり,両親の不和による緊張した家庭に生育したことと関係がある。彼らは,苛酷な環境を解離しながら生き延びてきた可能性が高い。

      だが,不快感情が過ぎ去った後にいつまでも無感覚状態が続いていると,今度は自分が「生きているのか,死んでいるのかさえ分からない」状態に陥り,不安になってしまう。自傷行為―正確には,自傷による身体的な痛みや鮮やかな血液の色―は,こうした状態からの回復に効果的である。「切っているうちに徐々に痛みを感じてきて,ふと流れている血を見ると,『あ,生きている。』と思ってホッとする」。このように語る自傷者は少なくない。そして,解離から回復したときには不快感情は消失し,まるで何事もなかったかのように心はリセットされている。自分が何に傷つき,怒りを覚えたのかを忘れてしまうこともある。このようにして,彼らは虐待やいじめのような理不尽に苛酷な状況に過剰適応してしまうのである。

イ 自傷行為をする青少年の援助

青少年が自傷したことを告白したり,相談に来たり,傷の手当てを求めてやって来た場合,「よく来たね。」,「よく言えたね。」とその行動を肯定的に評価する必要がある。自傷をした青少年の約9割は,そのことを誰にも相談せず,医療機関にも受診しないと言われている。実は自傷行為とは,たんに自分の身体を切ることだけを指しているのではなく,切った後に感染の危険も顧みず,傷がケロイド状の瘢痕(はんこん)となって残ることも厭(いと)わない態度も含めた行動を意味するのである。したがって,自傷について相談し,医学的治療を求めることは,それをしないよりははるかに自分を大切にする行動と言える。このとき援助者が自傷行為を頭ごなしに否定したり,叱責や説教をすれば,「人に助けを求め,つらい気持ちを隠さずに表現するのはいけないことなのだ」というメッセージを伝えることとなり,ますます不快感情に対処するために自傷行為が手放せなくなってしまう。

自傷行為が問題なのは,その身体損傷ゆえではない。心理的苦痛を言葉で表現せずに自傷がもたらす身体的な痛みで押さえ込むうちに,「つらい」,「悲しい」,「さみしい」といった感情語が退化し,ますます言語的な感情表現が困難となってしまう点が問題である。こうした状況では,自傷が持つ苦痛緩和効果は徐々に減弱し,頻度や損傷の程度がエスカレートしてしまう。最終的にいくら切っても不快な感情が切りかわらない状態に陥ると,自殺の危険が急激に高まる。その意味では,「生きるため」の自傷を続ける中で,皮肉にも少しずつ「死」をたぐり寄せていると言える。

いずれにしても,自傷行為に対する援助は,それをしなくなることではなく,苛酷な状況に過剰適応せずにつらさを言葉で表現できるようになることを目標にすべきである。それには,彼らがしばしば抱いている,「誰も信じられない」,「誰も助けてくれない」という信念が,「助けを求めてもいい」,「信じられる人もいる」というものへと変化する必要がある。具体的には,彼らと友好的な関係の中で,自傷行為の肯定的側面と否定的な側面について話し合い,その誘因と対処方法を一緒に模索し,言語的な感情表現を促す働きかけが必要である。併せて,家族への介入も望まれる。

注意すべき点としては,摂食障害や重篤な解離をともなう者は自殺行動の危険が高く,精神科医療機関への受診が必要であること,並びに,処方薬やさまざまな市販薬,さらにはアルコールの乱用に注意することが挙げられる。また,集団生活においては周囲への「伝染」のリスクを抑えるために,個別的な支援・相談を継続する一方で,自傷の傷跡は長袖シャツやサポーターなどで隠させるように指導することが望ましい。

(3)自殺行動

ア なぜ青少年の自殺予防が重要なのか?

平成10年以降,わが国の自殺者数は年間3万人を超え,以後9年間この状態が高止まりのまま続いているが,その多くが中高年男性であり,未成年は,全自殺者数の2%を占めるにすぎない。しかし,未成年者の死亡原因として自殺は非常に大きな割合を占めており,将来ある青少年が自殺によって命を失うことは,家族だけでなく,地域や国全体からみても深刻な損失である。

また,思春期・青年期は周囲の影響を受けやすい時期であることを考慮すべきである。同世代の青少年の自殺は,自殺した青少年と同じ境遇で苦しむ者の自殺行動を引き起こし,容易に群発自殺と呼ばれる状況を作り出してしまう。さらに,未成年期に友人などの身近な者の自殺に遭遇する体験は,その青少年が成人後の将来,自殺行動をとる危険を高めてしまうことも知られている。その意味で,青少年の自殺行動を予防することは,きわめて重要な課題であると言えよう。

イ 自殺の警告兆候

以下に,青少年の自殺の警告兆候のリストを掲げる。これらの中には,一見すると,自殺よりも,むしろ非行をはじめとする問題行動と思ってしまいそうな項目も含まれていることに注意されたい。いずれも,これがあれば切迫した自殺の危険があるというわけではないが,以下のリストに該当する問題が明らかになった場合には,その都度,青少年と「今,どのようなことを考えているのか。」を率直に話し合ってみるべきである。

(ア)行動の目立った変化:学校をさぼるようになる。家出をする。夜遊びをする。ひきこもる。食行動の変化(拒食・過食・自己誘発嘔吐)。アルコール・薬物乱用。非行化傾向。暴力的行動や無謀な行動。自殺の意図からではなく不快感情に対処するための自傷行為。

(イ)話し方・考え方の変化:死について口にする。哲学に興味を持つ。死をほのめかす文章を書いたり,絵を描いたりする。

(ウ)心理的変化:集中力がなくなる。投げやりな態度。自尊心の低下。気分の変動。

(エ)身体的愁訴:腹痛や頭痛の訴え。嘔気(おうき)。睡眠障害。

(オ)家族内の状況:

a 最近の喪失体験:両親の離婚,近親者の死。

b 暴力への曝露:身体的・性的・心理的虐待の被害,家族同士の暴力場面への曝露,家族の自己破壊的行動の目撃。

c 家族内に自殺者がいる。

(カ)現実に切迫した危険を示す行動:薬をため込む。凶器となり得る物を所持する。

ウ 自殺念慮を抱える青少年の援助

(ア)自殺念慮について率直に尋ねる。:上のリストの問題を抱える青少年がいたら,自殺念慮について率直に質問すべきである。「そんなことを質問したら,寝た子を覚ましてしまう。」という意見をよく聞くが,それは間違っている。自殺を考える段階では,人はあらゆることに自信を失い,「誰も真剣に話を聞いてくれないだろう。」,「自分を分かってくれる人などいない。」と思い込んでいる。けれども,誰かが自殺念慮に気づいてくれれば,逆にそのことが一縷(いちる)の「生きる望み」を与えることがある。

(イ)自殺念慮への対応:本人が自殺念慮を認めたり,あるいは,自分から自殺念慮を訴えてきた場合,決して叱責や説教をしてはならない。告白に対して感謝を示したうえで,本人の話を静かに傾聴し,どのような問題がそこまで本人を追い詰めているのか,介入できる余地はないのかを検討する。自殺の手段(刃物や薬)を所持していれば,その手段を取り除く努力をすべきである。

(ウ)守秘の原則には従わない。:通常の個別相談では,面接者は本人に対して守秘義務を負っているが,自殺の危険は例外であり,家族などに連絡し,安全を確保する必要がある。

(エ)未遂者への対応:当然のことであるが,身体的治療の終了後,精神医学的評価,並びに精神医学的・心理学的な支援が継続される必要がある。特に未遂後1年間は再企図率が非常に高いことから,この期間には密度の高い支援が求められる。また,いかに身体的損傷が軽症であったとしても,本人が自殺の意図からした行動であれば,深刻に受け止める必要がある。

(オ)自殺傾向を持つ子どもの親の支援:親は,子どもの自殺行動を心配し,激しく自責する一方で,子どもの自殺念慮を矮小化し,否認しようとすることがある。こうした状況は,親自身がどのように対応してよいのか混乱している証拠であり,支援に関する具体的な助言とともに,親の苦労をねぎらう支援者が必要である。また,「自殺傾向を持つ子どもの背後には,自殺傾向を持つ親がいる。」と言われており,親自身に精神保健的支援が必要な場合も少なくない。

エ 青少年に対する自殺予防教育

自殺傾向を呈する青少年は,悩みを打ち明けられる友人や信頼できる大人が周囲にいないことが多く,しかも,自殺念慮に関して,自分から親や教師,カウンセラーに相談する者はほとんどいないと言われている。こうした傾向は特に男性で顕著である。その意味で,自殺予防教育では,「つらいときに人に相談できることが強さである。」というメッセージが繰り返し強調される必要がある。また,そんな彼らが,最も相談しやすいと感じるのが友人である。したがって,自殺予防教育においては,「友人から自殺したいという気持ちを打ち明けられたら,どうすべきか。」,「友人が先生にも内緒にしてほしいと言った場合,内緒にしておくことが本当の友情なのか。」といったテーマに関して生徒に議論させることには,一定の意義があると考えられる。

【参考文献】

切池信夫,2000,『摂食障害―食べない,食べられない,食べたら止まらない』,医学書院

松本俊彦,2009,『自傷行為の理解と援助−「故意に自分の健康を害する」若者たち』,日本評論社

高橋祥友編,2008,『新訂増補版 青少年のための自殺予防マニュアル』,金剛出版


  国立精神・神経センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター精神保健計画部自殺実態分析室長 松本俊彦
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