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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第1節 関係分野の制度の概要,関係法規等(社会の仕組み)  

2 公的扶助の仕組み

(1)公的扶助の概要

公的扶助制度は社会保障制度の一つとして,社会保険制度と並び国民・住民生活を保障するものである。社会保険制度は,生活上の困難がもらたす一定の事由(保険事故)に対して,保険技術を用い,被保険者があらかじめ保険料を拠出し,保険者が給付を行う公的制度であり,防貧的機能を有している。

それに対して,公的扶助制度は,国民の健康と生活を最終的に保障する制度として位置づけられ,その特徴として,貧困・低所得者を対象としていること,最低生活の保障を行うこと,公的責任で行うこと,資力調査あるいは所得調査をともなうこと,租税を財源としていること,救貧的機能を有していることなどが挙げられる。

公的扶助制度は,大きくは,資力調査を要件とする貧困者対策と,所得調査(制限)を要件とする低所得者対策の二つがある。

前者の貧困者対策には,生存権を実現する生活保護制度がある。生活に困窮している国民すべてに対して,健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度であり,その上で積極的にそれらの人々の社会的自立を促進する相談援助・支援活動を行うよう定められている。

後者の低所得者対策には,公的扶助と社会保険の中間的性格を持つ社会手当制度,民生委員の相談援助活動を通して資金の貸付を行う生活福祉資金貸付制度,低所得層を中心に住宅を提供する公営住宅制度等がある。

(2)生活保護制度の仕組み

ア 生活保護制度の目的・原理・原則

生活保護法は,憲法に定める生存権を実現するための制度として制定されている。このことについては,生活保護法第1条に,「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基づき,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする」として明記されている。すなわち,生活に困窮している国民に対して,健康で文化的な最低限度の生活を保障(所得保障を指す)するだけでなく,さらに積極的にそれらの人々の社会的自立を促進する相談援助・支援活動(生活保護法では「自立助長」と条文規定している。対人サービスを指す。)を行うことも示されている(法第1条)。

また,同制度では,次の三つの基本原理(その他,法第1条の国家責任による最低生活保障を入れ四つとする考えもある。)を定めている。<1>すべての国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を無差別平等に受けることができる(無差別平等の原理,法第2条)。<2>保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない(最低生活保障の原理,法第3条)。<3>保護は,生活に困窮する者がその利用し得る資産,能力(労働能力を指す。)その他あらゆるものを,その最低限度の生活のために活用することを要件とし,また,民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われなければならない(補足性の原理,法第4条)。

そして,その運用に当たっては,次の四つの原則を定めている。<1>法は申請行為を前提としてその権利の実現を図ることを原則としている。一方,保護の実施機関は,要保護者の発見,あるいは町村長などによる通報があった場合適切な処置をとらなければならない(申請保護の原則,法第7条)。<2>厚生労働大臣の定める基準により測定した,要保護者の需要を基に,そのうちその者の金銭または物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行う(基準及び程度の原則,法第8条)。現行の保護基準は,最低生活に必要な費用を各種の扶助ごとに金額で示しているが,この基準は保護が必要かどうかを判定するという機能も有している。つまり,保護基準は,保護の支給基準であると同時に保護の要否の判定基準ともなっている。<3>保護が要保護者の年齢別,健康状態といった個々の事情を考慮したうえで有効適切に行われなければならない(必要即応の原則,法第9条)。<4>保護の要否や程度を世帯単位で判定して実施する。つまり,個々の困窮者には保護の請求権があるが,その者が生活困窮に陥っているかどうか,あるいはどの程度の保護を要するかという判断は,その者の属している世帯全体について行う(世帯単位の原則,法第10条)。

イ 生活保護の種類と方法

生活保護法は,その前提要件として,収入,資産,能力を活用し,さらに私的扶養,他の法律による給付を優先して活用し,それでもなおかつ生活に困窮する場合に初めて保護を適用する仕組みである。

生活保護法で定める保護の種類は,8種類の扶助(生活扶助,住宅扶助,教育扶助,介護扶助,医療扶助,出産扶助,生業扶助,葬祭扶助)に分けられている。保護は必要に応じて1種類(単給という)から二つ以上の種類の扶助が受けられる(併給という。)。給付は金銭給付を原則とし,それにより難い場合には現物給付を行っている。なお扶助の種類別でみれば,医療扶助と介護扶助においては,給付の性格上,現物給付で行っている。それ以外は,金銭給付の方法で行うことを原則としている。なお,介護保険法の制定にともない創設された介護扶助は,保険の1割負担部分と入所者生活費(従来の施設入所への入院患者日用品費に相当するもの)に対応する。一方,介護保険料は生活扶助で対応する仕組みとなっている。

また生活保護は居宅保護を原則としている。しかし,それにより難い場合には施設にて保護を行う。生活保護法で規定されている保護施設には,救護施設,更生施設,医療保護施設,授産施設,宿所提供施設の5種類があり(法第38条),それぞれ施設の目的・対象・機能が違っている。

ウ 被保護者の権利・義務

生活保護を受けている者(被保護者)は,特別な権利を与えられている一方,義務も課せられる。

被保護者の権利には,次のものがある。<1>正当な理由がないかぎり,すでに決定された保護を不利益に変更されることがない(不利益変更の禁止,法第56条)。<2>保護金品を標準として,租税その他の公課を課せられることがない(公課禁止,法第57条)。<3>すでに給付を受けた保護金品,またはこれを受ける権利を差し押さえられることがない(差押禁止,法第58条)。

また,被保護者の義務には,次のものがある。<1>保護を受ける権利を譲り渡すことはできない(譲渡禁止,法第59条)。 <2>常に,能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図り,その他生活の維持,向上に努めなければならない(生活上の義務,法第60条)。<3>収入,支出その他生計の状況について変動があったとき,または,居住地もしくは世帯の構成に異動があったときは,速やかに,福祉事務所長にその旨を届け出なければならない(届出の義務,法第61条)。<4>福祉事務所長が行う生活の維持,向上,その他保護の目的達成に必要な指導に従わなければならない(指示等に従う義務,法第62条)。

エ 費用の返還と徴収

次のような場合,保護費の返還と徴収が行われる。<1>急迫した事情などにより資力があるにもかかわらず保護を受けた場合(法第63条)。<2>届出の義務を,故意にこれを怠ったりあるいは虚偽の申告をした場合など不正な手段により保護を受けた場合(法第78条)。なお,不正受給については,単に費用徴収にとどまらず,その理由によっては,生活保護法の罰則規定(法第85条)あるいは刑法の規定に基づき処罰を受けることもある。<3>扶養義務者が十分な扶養能力を有しながら扶養しなかった場合。この場合は,その扶養義務者の扶養能力の範囲内で,保護のために要した費用の全部または一部を徴収されることがある(法第77条)。

オ 不服の申立て

当然受けられるはずの保護が正当な理由もなく行われなかった場合は,行政上の不服申立てによる救済の途が認められている。それは,次の二つの段階がある。<1>福祉事務所長の行った保護開始・申請却下,保護停止・廃止などの決定に不服がある者は,都道府県知事に対し,審査請求を行うことができる(審査請求,法第64条)。<2>都道府県知事の裁決に不服のある者は,さらに厚生大臣に対して再審査請求を行うことができる(再審査請求,法第66条)。また,都道府県知事の裁決を経た後は,裁判所に対して訴訟を提起することができる。

(3)生活保護の実施

ア 生活保護の実施機関としての福祉事務所

福祉事務所は,社会福祉法において「福祉に関する事務所」と規定されている。生活保護法,児童福祉法,身体障害者福祉法,老人福祉法,知的障害者福祉法,母子及び寡婦福祉法のいわゆる福祉六法を中心に援護,育成または更生の措置に関する業務を行っている第一線の総合的な社会福祉行政機関である。すなわち,生活保護の実施機関という側面と,福祉各法(福祉五法)の実施機関としての側面を併せ持っている。都道府県,指定都市,市及び特別区においては義務設置,町村は任意設置である。職員として福祉事務所長のほか,査察指導員,現業員及び事務職員を置くことになっており,対人援助に当たる職員は,社会福祉主事資格を有する者が当たることになっている。

イ 生活保護の実施

生活保護の決定実施過程は,受付→申請調査→要否判定→決定(開始・却下)→支給(変更・停止)→廃止のプロセスをとる。すなわち,原則として要保護者(生活困窮状態にある者)が申請を行い,保護の実施機関が,保護の要否の調査,保護が必要な場合その種類,程度及び方法を決定し給付を行う。

保護の要否を判定し決定・実施する機関は,申請者の居住地または現在地(居住地がないか明らかでない場合)を所管する福祉事務所であり,そこが実施責任を負う。

福祉事務所では,申請を受け付けると,地区を担当しているソーシャルワーカー(社会福祉主事)が家庭訪問などを実施し,保護の要否を調査する。これが,補足性の原理を満たしているかどうかを確認するためのミーンズ・テスト(資力調査)である。

この調査結果に基づいて,原則として世帯を単位に保護の要否を決定し,それを申請者に文書で通知する。この通知は,申請があった日から14日以内にしなければならないとなっているが,特別な理由がある場合は延長し30日以内に行うこととなっている。保護の要否や程度は,保護基準によって定められたその世帯の最低生活費と収入認定額とを対比させることによって決められる。そこで認定された収入が保護基準によって定められたその世帯の最低生活費を満たしていない場合に,その不足分を扶助費として給付する。

(4)低所得対策

低所得対策には,主として社会手当制度,公営住宅制度,生活福祉資金貸付制度がある。

ア 社会手当制度

社会手当は,社会保険と公的扶助(生活保護制度)の中間的性格を持つ,無拠出の,すなわち保険料などを納めなくても受け取ることができる,現金給付を指している。それは,所得制限のある選別的手当と所得制限のない普遍的手当に分かれ,わが国の支給する社会手当は,恩給や戦争犠牲者援護などを除き,社会手当である。

わが国の社会手当としては,児童手当,児童扶養手当,特別児童扶養手当,特別障害者手当,障害児福祉手当などがある。

イ 公営住宅制度

低所得者を対象に住宅を提供することを目的としており,母子世帯,高齢者,心身障害者などを対象とした住宅や低家賃住宅などがある。1996(平成8)年の公営住宅法改正により,所得制限別の第1種,第2種の区分を撤廃,事業主体の民間住宅の買い取り借り上げが可能となったこと,社会福祉法人が公営住宅を住宅として使用できるようになるなど,その内容も変わっている。

ウ 生活福祉資金貸付制度

生活福祉資金貸付制度は,低所得世帯や障害者,高齢者,失業者世帯などを対象として,低利子もしくは無利子で,生活に必要な資金を貸し付ける制度である。生活福祉資金の種類は,総合支援資金,福祉資金,教育支援資金,不動産担保型生活資金である。

生活福祉資金貸付制度の実施は,都道府県社会福祉協議会であるが,貸付業務の一部は市町村社会福祉協議会に委託している。利用者に対する相談業務については,市町村社会福祉協議会の担当職員だけでなく,地域の民生委員が担っている。特に,民生委員は制度発足から重要な役割を担っており,申込みに関する相談だけでなく,世帯の調査や貸付世帯への日常的な訪問を通し必要な援助活動を行っている。

【参考文献】

岩田正美・岡部卓・清水浩一編,2003,『貧困問題とソーシャルワーク』,有斐閣

岡部卓・六波羅詩朗編,2010,『公的扶助論』,中央法規出版


  首都大学東京都市教養学部教授 岡部卓
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