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ユースアドバイザー養成プログラム |
第4章 | さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─ |
第1節 関係分野の制度の概要,関係法規等(社会の仕組み) |
地域社会は,あらゆる人にとって生活の基盤である。しかし近年,少子高齢化の進展,産業構造の変化,ライフスタイルや価値観の多様化等にともない,近隣における人間関係が希薄になっていて,さまざまな社会的ストレスを発生させている。ことに,何らかの支援の必要な人々にとって(子どもも成人も,障害のある人もない人も),これは一層深刻であり,孤立感や緊張を強いる要因となっている。地域社会における青少年の健全育成の点でも,今日のこのような状況は,子育て不安,家庭内での虐待,不登校やひきこもり,フリーターやニート,少年による非行・犯罪や自殺等の逼迫(ひっぱく)した問題を生んでいる。
福祉ニーズを持つ当事者を含めたすべての住民が,住み慣れた地域で安心して暮らせるために,さまざまな主体が協力しながら,共に支え合う仕組みを築き,実践していくことが地域福祉である。ユースアドバイザーには,こうした視点から,幅広く,かつきめ細やかな支援のネットワークを広げていくことが求められるだろう。
ア 変容する地域社会と,求められる住民・当事者参加
かつての日本では,地域共同体を基礎的な生活単位として,共同労働や相互扶助によって住民同士で支え合いをしていたのであるが,近代化・都市化の進展とともに,それらが大きな変貌を遂げてきている。今日の地域社会を変容させた社会・経済的な背景としては,<1>日本経済の急速な変貌,<2>家族機能の縮小・解体傾向,<3>都市環境の変貌,<4>価値観の揺らぎ等が指摘される。また,その影響で,急増する非正規雇用,ニート,ネットカフェ難民のような,新たな「貧困」の問題が浮上しているほか,近隣住民同士の無関心・緊張に起因する「心身の障害・不安」(社会的ストレスやアルコール依存等),路上死・中国残留孤児や在住外国人への排除等にみられる「社会的排除・摩擦」,一人暮らし高齢者の孤独死,若者や中高年層の自殺,家庭内の虐待・暴力等「社会的孤立・孤独」といった問題が生起している(厚生省,2000;宮崎,2006)。
このような状況の改善のため,当然のことながら行政や福祉施設等によって専門的対応がなされている。しかしそれだけではなく,住民にも,ボランティア活動等を通して地域を暮らしやすくしていくための直接的な働きをすることをはじめ,議会・行政の動向にも関心を持ち,傍聴や計画づくりへの参加等を通して住民の意志を反映させていくこと等が期待されている。なぜなら,住民にとって身近な範囲(ここではおおむね町内会・自治会の範囲から中学校区程度を指し,「生活圏」という。)について,その良さも,問題点も,最もよく知っているのはそこに暮らす住民にほかならないからである。同様に,支援を要する福祉当事者が地域生活を送るうえでの物理的・心理的な障壁は,当事者自身が一番感じているのであり,その声が聞き漏らされることのないよう,当事者の参加機会が保障されていることも必要である。そのような住民や当事者の生活感覚を起点とし,彼ら自身による活動と,行政職員等による専門的支援がうまく連携していくことが大切であるのだが,そこでは市町村社会福祉協議会等による調整活動も不可欠である。
イ 地域福祉の法的位置
一方,今日は行財政改革が進んでおり,2000年の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(地方分権一括法)の施行にみられるように,地方分権の制度的基盤が整備され,国から地方(自治体)への権限や財源の委譲が進められている。また,「指定管理者制度」や「PFT手法」等にみられる民間委託や民営化による公共経営管理手法が導入され,官から民への委譲も進行している。こうした変革期にあるからこそ,上述したような住民や当事者の声を反映する仕組みが必要なのであり,一人ひとりが持つ日常的なニーズを生活圏の福祉活動につなげ,生活圏の状況を集積して小中学校区,市町村レベルの福祉のありようを決定していくような福祉のシステムが不可欠なのである。
ところで,地域福祉の概念自体は新しいものではない。戦後,地域開発政策が打ち出されるに従い,産業・経済の都市集中が激化し,都市部の過密化や農村の過疎化にともなうコミュニティ崩壊,犯罪,公害問題等が深刻化した。それに対し,高度経済成長期の1960〜1970年代にかけて,中央政府レベルからのコミュニティづくりの提言が相次いだ。こうした中での政策として地域福祉への注目が高まり,また1974年には,岡村重夫によって地域福祉概念の基礎とも言える『地域福祉論』が刊行されている。
2000年の社会福祉事業法の改正により社会福祉法が成立し,同法の目的として「地域福祉論の推進」が掲げられた。地域住民と福祉関係者に地域福祉推進が努力義務として課された(第4条)ほか,第10章(地域福祉の推進)では,市町村地域福祉計画と都道府県地域福祉支援計画(第107−108条)や,地域福祉の推進を目的とする社会福祉協議会(第109−111条)が規定された(武川,2007)。
では,実際にどのような主体が地域福祉を推進しているのだろうか。ここでは,紙幅の関係から,社会福祉協議会,民生委員,そして住民のボランタリーな(自発性に基づく)実践主体に焦点を当てて見ていこう。
ア 社会福祉協議会
地域の福祉ニーズは極めて多様であり,児童や高齢者への虐待や一人暮らしの高齢者の孤独死への介入のように緊急度の高いものから,住民の福祉意識醸成のように長期間かけて進めていくものまで多岐にわたる。そうした問題の数々に対し,行政,福祉施設,ボランティアによる支援者等が個別的に対応するより,それらを組織化したり,個々バラバラの当事者を組織化する等して解決を図る方が,より大きな社会的インパクトをもたらし,問題状況を改善させることがある。また,福祉教育等に取り組みながら,住民の間に連帯感や問題意識を喚起し,住民主体による活動を盛り上げていくこと(住民の主体形成)や,地元の活動者・当事者・住民等と行政が将来の福祉ビジョンを話し合い,限られた資金・人材・場所・時間等の配分方法や優先課題の決定,解決手段の決定等に取り組む計画策定のような技術も必要である。そうした地域社会への援助(コミュニティワーク)を専門的に進めるのが,地域福祉の第一線機関である社会福祉協議会(以下「社協」という。)である。社協は,全国・都道府県・市区町村等の範囲ごとに設置され,福祉施設,民生委員・児童委員,住民組織等から構成されている。「地域社会において民間の自主的な福祉活動の中核となり,住民の参加する福祉活動を推進し,保健福祉上の諸問題を地域社会の計画的・協働的努力によって解決しようとする公共性・公益性の高い民間非営利団体で,住民が安心して暮らせる福祉コミュニティづくりと地域福祉の推進を使命とする組織」(和田,2001)である。
社会福祉法上の規定では,市町村社協の事業は,社会福祉を目的とする事業の「企画及び実施」,そうした諸活動・事業に関わる「住民の参加のための援助」,「調査,普及,宣伝,連絡,調整及び助成」,「事業の健全な発達を図る」こととされる(第109条)。また,都道府県社協については,上記の市町村社協事業のうち「広域的な見地から行うことが適切なもの」のほか,福祉事業に対して「従事する者の養成及び研修」,「経営に関する指導及び助言」,そして「市町村社会福祉協議会の相互の連絡及び事業の調整」と定められている(第110条)。
イ 民生委員
民生委員は,住民の身近にいる福祉の世話役であり,孤立傾向にある住民,支援の必要な住民等に気を配り,専門機関や近隣の住民等と共に見守りや声かけ等の活動を行っている。民生委員法において,その基本理念は「社会奉仕の精神をもって,常に住民の立場に立って相談に応じ,及び必要な援助を行い,もって社会福祉の増進に努めるもの」(第1条)と規定されている。市町村設置の民生委員推薦会の意見をもとに,都道府県知事の推薦によって厚生労働大臣が委嘱する「行政委嘱ボランティア」である。任期は3年で,児童委員を兼ねる。都道府県知事が定める区域ごとに「民生委員協議会」が組織される。
民生委員は,三つの原理(自主性,奉仕性,地域性)と三つの原則(住民性,継続性,総合性)に基づき,七つの働き(社会調査,相談,情報提供,連絡通報,意見具申,調整,支援態勢づくり)に取り組んでいる。
ウ 住民の活躍によるボランタリー(自発的)な実践主体
(ア)地縁団体
地縁による団体は,地方自治法に根拠を持つ任意団体で,「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」(第260条の2)と定義される。町内会・自治会等のように地域の諸問題の解決や住民間の親睦を目的とする地域包括的なものをはじめ,子ども会,青年団,婦人会,老人会のような年齢階梯別集団等がある。町内会・自治会は50〜200世帯単位で組織されることが多く,上部組織に連合町内会等,下部組織に組や班がある。代表的な活動に「運動会・祭り等」,「防犯・防災」,「ごみ処理・緑化活動」,「児童の健全育成」,「健康づくり」,「共同募金への参加等の福祉活動」,「自治体広報の配布等の行政補完」,「政治・選挙への参加」等がある。
これらは,地域共同体的な性格を有する最も基礎的な社会集団として,住民にとって不可欠な存在であるものの,全戸加入を組織原則とすること等から「前近代性・非民主性」や「住民ニーズとの乖離」等が指摘されており,加入率低下や後継者不足に悩むものも多い。
(イ)NPO・ボランティア団体
少子・高齢化や福祉ニーズの複雑化・増大を受け,サービス提供主体の多元化への社会的要請が強まり,わが国でもNPO(Nonprofit Organization:非営利民間組織)やボランティア団体への関心が高まった。これらによる地域福祉活動は,直接的なものでは,訪問介護,家事援助,配食サービス,外出支援,話し相手等さまざまであり,介護保険事業・障害者自立支援法等によって規定されるフォーマルな事業から,制度の透き間にあるニーズへのアプローチまで,幅広く,かつ柔軟に取り組める。また,より間接的,あるいは政治的なものとしては,行政への提言や総合計画策定への参加・協力,オンブズマン(仲介者)やマニフェスト(政権公約)のチェック,シンポジウムやフォーラムの開催等のように,市民活動としての機能を果たすものもある。まちづくりという点では,当該地域の文化・伝統を活かした「地域おこし」等も含められる。
NPOは,「特定非営利活動促進法」(いわゆるNPO法)の成立(1998年)によって法制化された。福祉の分野では,2000年の介護保険制度導入を契機に,この事業者としての指定を受ける目的等で,「特定非営利活動法人」(NPO法人)の設立が相次いだ。それまで,任意団体として,活動者の自宅を活動拠点にしたり,自家用車を送迎車代わりにしたりしながら,地域の高齢者世帯を支えていたような,いわゆる「草の根」のボランティア団体が法人格を取得するケースが少なくなかった。このようなボランティア団体とNPOとの区別は容易ではない。法制上,NPO法人化して受託事業等を行う団体をNPO,草の根の任意団体(法人格なき団体)をボランティア団体と呼ぶ傾向もあるが,活動実態で見れば,法人格がなくても組織規模の面で平均的なNPO法人を上回るものもあるし,法人格を有するものでも社会福祉法人等でNPO的な事業に取り組むものもあるため,必ずしも上の分類は当てはまらない。NPOの定義には,広義から狭義まで諸説あるが,定説はない。ここでは,少なくとも「非営利性」,「民間性」,「公共性」,「自発性」等を組織原理とする点で,これらが共通するという言及にとどめておきたい。
NPOやボランティア団体は,自団体のミッション(使命)に基づいて活動するため,地縁型の団体に対してテーマ型あるいは課題型の団体と言われる。つまり,行動特性として,地理的範囲に縛られない「機動性」や,潜在的ニーズにもアンテナを張り,発掘できる「先駆性」,前例や予算的制約にこだわらない「柔軟性」,自らの団体のテーマに関して,専門家の協力も得ながら追求していくという「専門性」等が特徴といえる。しかしその反面,自団体の関心に偏重する一方で他の問題に無関心になりがちなことや,利益を第一義としないことによる経営の不安定さ,ボランティア等に依存することによる資源確保の見通しの立ちにくさ,運営が素人的になりがちである,といった限界性を持っており,それゆえに組織基盤が脆弱な団体も多い。
さて,ユースアドバイザーが,地域社会において青少年の自立生活を支援するうえでは,多様な社会資源を調整しつつ,当事者を中心としたネットワークを形成していくことが求められる。そのネットワークにはいくつかの位相があり,各々に課題がある。本稿の最後に,これらについて触れておきたい。
第1は,本人の家族・知人等のネットワークである。本人の問題を知るうえで,周囲の人間関係や生活歴を把握することは,極めて重要である。また,本人が家族あるいは親友に対して,専門的支援者にはない安心感を持てることもあり,心強い存在である。
第2は当事者間のネットワークである。深刻な問題に直面した青少年が,周囲には心を開けなくても,同じ悩みを持つ人となら話しやすいということがある。このようなときには,セルフヘルプグループ等の当事者組織づくりを支援し,仲間どうしの分かちあいや励ましあいの場を提供することが大切である。
第3は,先に述べたような地域福祉推進主体のネットワークである。社会福祉の制度・サービスや援助に関する専門知識を持ち,援助計画に基づいてサポートするチームとしての機能をうまく発揮させることが重要である。同じ地域の中でも,既存の諸団体等間での利害対立や価値観・行動原理の相違等から,必ずしも円滑に連携の体制が作れるとは限らないが,互いの持ち味をいかし合って相補的な関係を持つことが,当事者にとって望ましいことは自明である。
言うまでもなく,福祉行政との連携も重要である。行政は,福祉事務所や児童相談所等を筆頭に,公的なサービス主体であるわけだが,それと同時に,地域のニーズに対して計画化・施策化し,総合的に対処していく推進主体でもある。したがって,ユースアドバイザーが支援の最前線でつかみ取ったニーズを,行政・議会につなぎ,施策化やサービスの向上を促していくことも必要である。
第4は,福祉に隣接する領域の専門機関,すなわち保健・医療機関,教育機関,就労支援機関,司法機関等とのネットワークである。人の生活問題は複雑で,行政の縦割り機構に単純に適応しないことが多い。少年犯罪を例として見ると,司法の問題,本人や家族の心理的サポート,教育や就労の問題等が絡み合っているため,複合的に対処していかなければならない。したがって,庁内の調整会議やプロジェクト等の機会をつくりながら,分野の異なる諸機関の間でヨコのつながりを持たせ,総合的な支援体制を整えることが大切である。
第5は,地元の企業・商店街や住民一般とのネットワークである。青少年が何らかの問題を抱えて力をなくしているとき(たとえば,ひきこもりの青年等),地域の無理解・偏見は,本人の孤立感を更に深め,社会との関わりを阻む障壁となりがちである。裏返せば,周囲の人々がよき理解者となり,簡単なボランティアの機会を提供すること等によって,本人にとって社会との関わりを取り戻しやすくなる。そのため,地域の人々が持つ否定的な先入観を解消し,一人でも多くの人たちが理解を持てるよう,広報・啓発や福祉教育等を行政や社協等と共に進め,支援ネットワークをつくっていく必要がある。
ユースアドバイザーには,このようなさまざまなレベルのネットワークづくりを担う一人となることが期待される。ただしこれらを分断されたものととらえるのではなく,大きな輪としてつながりを持たせていくことが肝要である。
【引用文献】
厚生省社会・援護局,2000,『社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書』,厚生省社会・援護局
宮崎牧子,井村圭壯・谷川和昭編,2006,「現代社会と地域福祉」『地域福祉の基本体系』,pp.1-11.,勁草書房
武川正吾,牧里毎治・野口定久・武川正吾・和気康太編,2007,「ローカル・ガバナンスと地域福祉」『自治体の地域福祉戦略』,pp.13-36.,学陽書房
和田敏明『新版・社会福祉学習双書』編集委員会編,2001,「社会福祉協議会の基本理解とこれからの社会福祉協議会」『社会福祉協議会活動論』, pp.2-22.,全国社会福祉協議会
【参考文献】
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加山弾,古川孝順編,2007,「まちづくり政策」『生活支援の社会福祉学』,pp.204-216.,有斐閣
牧里毎治編,2003,『地域福祉論』,放送大学教育振興会
松村直道,日本地域福祉学会編,1997,「町内会・自治会」『地域福祉事典』,pp.124-125.,中央法規
西野勝・神野直彦編,2004,『住民・コミュニティとの協働』,ぎょうせい
世古一穂,2001,『協働のデザイン,パートナーシップを拓く仕組みづくり,人づくり』,学芸出版社
高野和良,牧里毎治・野口定久編,2007,「地域福祉計画とコミュニティ再生」『協働と参加の地域福祉計画―福祉コミュニティの形成に向けて―』,ミネルヴァ書房
右田紀久恵,2005,『自治型地域福祉の理論』,ミネルヴァ書房
● | 東洋大学社会学部准教授 加山弾 |
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