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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第1節 関係分野の制度の概要,関係法規等(社会の仕組み)  

4 障害者福祉の仕組み

(1)障害者福祉の理念

ア ノーマライゼーション

国際連合は,1980年の「国際障害者年行動計画」の中で,「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合,それは弱くもろい社会なのである」とうたっている。障害者の問題は,差別と偏見の歴史の中にあるといってもよい。

1950年代後半に,デンマークのN.E.バンクミケルセンは,知的障害者の入所施設の生活が極めて,非人間的な環境にあることを問題とし,知的障害者の生活条件を一般市民と同じにすべきであるという考え方を打ち出した。つまり知的障害者は「あたりまえの」「普通の」生活を送る権利があり,その生活を支える社会を構築するという意味がある。この考え方をノーマライゼーションといい,障害者福祉を支える理念となっている。また,今日では障害者福祉の理念にとどまらず,社会福祉の理念としてもこのノーマライゼーションの考え方そのものが浸透してきている。 8)

このノーマライゼーションの理念は,北欧,北米をはじめ,先進諸国に広がり,具体的には脱施設化と施設解体,地域生活の実現という障害者福祉政策の転換への影響力となっていった。またノーマライゼーション発祥の地,デンマーク,スウェーデンは,ともにこれらを推進していく活動に,知的障害のある子どもを持つ親や知的障害のある当事者自身が参画していったことは注目すべき点である。つまりそこには,理念としてのみ存在するノーマライゼーションではなく,当事者主体の権利の実現という価値があるといえよう。さらには,政策に具体化され,社会の変革を促すという使命を着実に果たしてきた。

そのような側面からいうならば,今日のわが国における障害者福祉制度等の在り方においては,ノーマライゼーションは言葉とその概念は浸透しつつあるものの,その価値に基づいたシステムの転換にはいまだ至っているとはいえない状況にある。

イ インクルージョン

インクルージョンという言葉は,本来「包含,包み込む」ことを意味する。このような意味を持つインクルージョンは,教育及び福祉の領域においては,「障害があっても地域で地域の資源を利用し,市民が包み込んだ共生社会を目指す」という理念としてとらえられている。このインクルージョンが注目された契機としては,1994年にスペイン・サラマンカで開催されたユネスコの「特別ニーズ教育世界会議」で採択し宣言された「サラマンカ声明」によるところが大きい。

わが国のこれまでの障害児教育の体系は,障害児は障害児学級,養護学校,盲学校,聾(ろう)学校で学び,いわゆる障害を持たない子どもたちとは異なる教育の場が用意されてきた。このことから障害を持つ子どもと持たない子どもが分離されてしまうことにより,差別や偏見が助長され,障害の理解が進まないという考えに基づき,障害のある子どもと障害のない子どもとの統合教育(インテグレーション)の必要性が唱えられてきた。しかし統合教育は場の共有に重点が置かれ,一人ひとりに適合した教育までには至らなかった。

前述の「サラマンカ声明」には,「特別な教育的ニーズを有する人々にも,そのニーズに見合った教育を行えるような子ども中心の普通学校にしなければならない」,「インクルーシブな方向性を持つ普通の学校こそが,差別的な態度と闘い,すべての人を喜んで受け入れられる地域社会を建設し,万人のための教育を達成するための最も効果的な手段である」とある。 9) これは,単なる場の共有のみを統合とするのではなく,その中で必要な支援を個別に用意することの必要性を指摘しているものである。

ノーマライゼーションの理念を踏まえるならば,このインクルージョンの考え方はその延長線上にあるといってよい。「障害があるから,養護学校(現在は特別支援学校)を卒業したら社会福祉施設に入所する,通所する」のではなく,そこで提供される支援が個別のニーズに応じているのかどうかということが大切であり,かつそのサービスが必要な人は誰でも利用できる資源として,地域の中に存在していることが重要である。

インクルージョンは,地域社会はさまざまな人によって構成されていることが自然であり,そこで,それぞれがその人らしい暮らしを築いてくことを実現していく社会の在り方を示している。

(2)障害者の実態

障害者分野での基盤となる法律は,障害者基本法であり,障害とは,身体障害,知的障害,精神障害の三つが規定されている。『障害者白書(平成21年版)』の厚生労働省の調査によると,わが国の障害児・者の数は,723.8万人であり,総人口の5%を超えている。

上記の障害の種類別では,身体障害児・者が366.3万人で,そのうち肢体不自由が50.6%,心臓や腎臓,呼吸器などの機能障害である内部障害が30.5%,視覚障害及び聴覚障害が18.9%であり,内部障害の増加が特徴的であり,また65歳以上の障害を持つ高齢者が60%を超えている。

知的障害児・者については,「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ,日常生活に支障が生じているために,何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」という定義で調査が行われ,総数は,54.7万人で,そのうち在宅者が41.9万人,施設入所者は12.8万人と知的障害の約2割が施設に入所している。

精神障害児・者数は,302.8万人と増加傾向にあり,精神病院に入院・通院している精神疾患のある人を表している。精神病院の入院患者は,35.3万人で,欧米に比べて高い割合となっている。

このほかには,高齢にともない,視覚や聴覚,肢体等に何らかの機能障害があって,障害の認定を受けていない人も存在する。わが国の超高齢社会というのは,誰もが心身に何らかの障害を持つ可能性があるということであり,自らのみでなく,自らの家族,地域のこととしてとらえていくことが求められている。

(3)障害のとらえ方:国際生活活機能分類(ICF)の視点

今日の障害の概念は,世界保健機関(WHO)によって国際的に共通の視点から分類・整理されている。1980年に公表された国際障害分類によると,聴覚の異常,手足の切断などの心身の機能の異常や形態の欠損という医学的な意味の「機能障害」,その機能が障害を持つことにより,歩行や入浴,排泄の困難が生じる「能力障害」,能力に障害が生じることにより,就職が困難などの社会生活上に不利益を生じてしまう「社会的不利」など,これらが相互に関連するとらえ方がある。

2001年には,国際障害分類を改定し,国際生活機能分類(以下「ICF」という。)として整理された。病気/変調は,健康状態に,機能障害は心身機能・身体構造に,能力障害は活動に,社会的不利は参加,にそれぞれ置き換えられている。「障害」という否定的な表現を排し,状態をニュートラルに表現し,それぞれに何らかの障害や規制を受ける状態において,「機能障害」,「活動制限」,「参加制約」と表現することとした(図4−2)。また,図4−2の個人因子と環境因子は,合わせて背景因子と称され,障害は,障害の原因となる病気/変調からのみもたらされるのではなく,個々人によって異なる背景の影響を多分に受けて表れるものであるとしている。つまり,障害は個人に帰属するものではなく,諸状態の集合体であり,その多くが社会環境によって作り出されたものであるとされる。したがって,この問題に取り組むには社会的行動が求められてくる。

図4−2 国際生活機能分類(ICF)の構成要素間の相互作用

図4−2 国際生活機能分類(ICF)の構成要素間の相互作用

(資料)厚生労働省資料より

(4)障害者福祉の制度

障害分野における理念法でもある障害者基本法は,第3条に「何人も障害者に対して,障害を理由として,差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」と差別の禁止を規定している。したがって国や地方自治体の施策は,これに沿ったものでなければならない。しかしながら,わが国の障害保健福祉施策は,障害種別ごとの法律等に基づき,サービスが提供されており,全国共通の利用のルールはなく,地域における社会資源の状況やサービス提供体制が異なるなど不整合があるとされている。そのために地域や障害種別により,サービス利用に格差を生じることになってしまっている。

そこで障害者が地域に普通に暮らせる社会を構築するために,2006年に障害者自立支援法が施行された。以下に同法の基本的方向性を概観する。10)

ア 障害のある人が普通に暮らせる地域づくり

地域においては,支援を必要とする障害者は高齢者と比較すると数が少ないために,これまでは障害とサービスの拠点が遠くなりがちだった。このため,身近なところにサービスの拠点を増やすため,既存の社会資源をいかし,多様な地域の状況に対応ができるよう,必要な規制緩和等を行うこととした。またこれまで原則として障害種別ごとにサービス拠点を整備する必要があったが,障害種別を超えて共通の場でそれぞれの障害特性等を踏まえたサービス提供ができるようになった。  

イ 障害のある人のニーズや適正に応じた自立支援

サービスとして提供される支援がより一層効果的なものとなるように,施設や事業の体系を見直した。障害種別を超えて対応できるように制度の見直しをする一方で,具体的な自立支援のサービス内容を一人ひとりに合ったものにしていく必要があった。このため,障害者が地域で自立して生活することを考え,一般企業等で就労することができるよう施設・事業の体系を見直すとともに,新たな就労支援事業を創設するなど障害者のニーズや適正に合わせて就労を支援していくこととした。

ウ 市町村を中心とするサービス提供体制の確立と国,都道府県による支援

障害者施策の中心を担うのは市町村であり,市町村中心の体制を確立するとともに,国や都道府県が,広域的,技術的,財政的などの観点から重層的に支援する体制の整備を図ることとした。そのため,市町村は障害者福祉サービス及び相談支援など提供体制の整備のために障害者福祉計画を作成することにした。

エ 効果的・効率的なサービス利用の推進

どのような状態の人にどのようなサービスを提供するか市町村によることになっており,地域差が生まれる大きな原因となっている。相談支援体制を整備するとともに,こうしたルール化等を進めることにより,必要なサービスをより効果的・効率的に,より公平で透明なプロセスで提供できるよう客観的な尺度(障害程度区分)を導入した。

オ 費用の公平な負担と資源配分の確保 

制度の公平性や持続可能性を確保するために,「みんなで負担する」という考え方が重要である。また,限られた社会資源をより必要な分野に重点的に配分することが必要である。このため利用者負担を見直し,負担能力の乏しい方へ配慮しつつ,福祉サービスの利用量に応じた1割を上限とした定率負担にするとともに,国,都道府県の財政責任を強化した。

(5)障害者自立支援法における障害福祉サービス

図4−3によると,個人に対する費用の給付である自立支援給付と,市町村に実施責任がある地域生活支援事業のサービスに区分できる。自立支援給付には,介護給付,訓練等給付,自立支援医療等,補装具がある。

介護給付には,家庭に訪問して入浴,排泄などの生活全般のサービスを行う居宅介護(ホームヘルプサービス),介護者が病気の場合等に短期間,障害者支援施設等で介護を受ける短期入所(ショートステイ),常時介護を必要とする人に主として日中に障害者支援施設で行われる介護や創作活動または生産活動の機会の生活介護,主として夜間に行われる,共同生活を営む住居での入浴,排泄等の介護の共同生活介護(ケアホーム),施設入所者を対象とした夜間の介護の施設入所支援などが利用できる。

訓練等給付では,身体機能や生活能力の向上のための自立訓練,就労に必要な知識・能力向上にための訓練などの就労移行支援,雇用されることが困難な障害のある人への就労の機会の提供や就労に必要な知識・向上のための訓練などの就労継続支援,夜間に共同生活を営む住居における相談や日常生活上の援助の共同生活援助が利用できる。

図4−3 新たな障害福祉サービスの体系:総合的な自立支援システムの構築

図4−3 新たな障害福祉サービスの体系:総合的な自立支援システムの構築

(資料)厚生労働省資料より


 東洋大学社会学部教授 高山直樹

8) 社会福祉士養成講座編集委員会編,2006,『新版社会福祉士養成講座 障害者福祉論』,中央法規出版,6頁     
なおノーマライゼーションの理念を発展させ,,,ノーマライゼーションの8つの原理が提唱された著を参照されたい。   
ベンクト・ニィリエ著,河東田博他訳,1998,『ノーマライゼーションの原理』,現代書館
9) 佐藤久夫他編著,2002年,『福祉キーワードシリーズ 障害者と地域生活』,中央法規出版,9ページ。
10) 社会福祉の動向編集委員会編集,2008年,『社会福祉の動向2008』,中央法規出版,204〜205ページ。
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