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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第1節 関係分野の制度の概要,関係法規等(社会の仕組み)  

8 労働環境(職業紹介を含む。)の仕組み

(1)就職準備と職業訓練

職業に就き,経済的基盤ができることは,自立の重要なステップの一つである。このため,自立支援のできるだけ早い段階から,対象者の能力や適性を十分考慮しつつ就職への道筋を検討し,計画的なアプローチを図っていくことが望まれる。

社会経験の少ない青少年が,具体的な職業イメージを持たず職業的能力を形成できないまま一定年齢に達し,就職活動の過程で困難に直面した結果,再び就職活動を行う以前の状況に逆戻りするというケースも少なくない。職業観や職業能力は一朝一夕では形成されないものであるので,職業人として生きていけるよう,労働市場や地域産業の動向も考慮に入れ,実現可能性の高いプログラムの準備を早期に開始することが大切である。

ア 地域の就職事情を知る

就職は働く人を求める企業(求人)と働く職場を求める人(求職)とのマッチングによるものであり,景気動向等による一般的雇用情勢や地域の産業構造という企業側の要因と,職業適性や能力・志向といった求職者側の要因の双方に左右される。雇用失業情勢は2008年秋のリーマンショック以降急激に悪化し,若年者にとっても超氷河期の再来と言われる極めて厳しい状況になっている。その中でも,さらに職種や地域によって就職の厳しさには差がみられる。支援対象者に地元志向が強い場合や,生活支援等の面で就職地域が限定されるような場合には,地域の就職事情や企業の状況を十分に分析することが必要である。

地域の就職事情を知るためには,都道府県や地元のハローワークが毎月取りまとめ,発表している業務統計が参考となる。全国分は毎月月末近くに「一般職業紹介状況」として厚生労働省より発表され,同省HPにも掲載される。ここで発表される「求人倍率」(ハローワークへの求人数と求職者数の比率であり,数字が小さくなるほど就職難)は,総務省統計局が発表する「労働力調査」の「失業率」と並んで労働市場の状況を示す指標となっている。

一般職業紹介状況で職業別求人倍率を見ると,たとえば就職希望者の多い「一般事務」では求人倍率が0.1倍台と極めて就職難であるが,一方,「保安の職業」では2倍を越えているなど,現状でもなお求人のほうが多い職種もある。地域別に見ると,いずれも厳しい状況ではあるものの,有効求人倍率が最も高い県では0.6倍台,最も低い県では0.2倍台と差が見られる(平成21年11月の状況)。

支援対象者の希望や期待をできる限り実現しようとすることは大切であるが,一方で,地域においてどのような産業や企業から求人が多く出されているのか,どのような職種が就職しやすいのか,そのために利用できる職業訓練機関や訓練課程があるかなど,現状を分析し,現実的な選択肢を提示する客観性とバランス感覚がYAには求められる。特に,現在のような厳しい雇用情勢の下では,就職までに相当な時間を要する場合が多いと思われるので,支援対象者の労働市場に対する理解と就職意欲の維持を図る工夫も必要である。

イ 職業訓練の利用

新たな職業技能を身に付けたいという場合には,公共職業訓練の利用も有効な方法である。「職業能力開発促進法」に基づく「公共職業訓練」では,都道府県や(独)雇用・能力開発機構が設置した訓練施設等により,目的や対象者別に多様なプログラムが提供されている。訓練課程の一部を専門学校・各種学校や事業主団体等に委託して実施しているコースもある。地域にどのような職業訓練機関や訓練コースがあるかについては,(独)雇用・能力開発機構が運営するサイト「雇用・能力開発ステーション」のホームページ(http://www.ehdo.go.jp/station/top.html)等で検索することができる。

若年者向けの職業訓練としては,企業現場における実習と教育訓練機関等における座学を組み合わせた実践的な職業能力形成プログラムが用意されている。このうち,企業が実施主体となって雇用関係の下で行われるものとして「有期実習型訓練」及び「実践型人材養成システム」,教育機関や公共職業能力開発施設または企業が実施主体となって公共職業訓練として実施されるものとして「日本型デュアルシステム(委託訓練活用型,短期課程活用型)」及び『企業実習先行型訓練システム(仕事おためし訓練コース)」がある。それぞれ募集対象や訓練期間,カリキュラム等に違いがあるので,最寄りのハローワークに利用可能なコースについて問い合わせるとよい。ハローワークなどへの求職申込者の場合,教育費を除き訓練は無料で受講することができる。また,雇用関係の下に行われる場合は資金が支給される。

なお,上記の職業能力形成プログラムには,平成20年度より本格実施された「ジョブ・カード制度」が活用されている。「ジョブ・カード」とは,正社員経験の少ない人が,ハローワークやジョブカフェ等でのキャリア・コンサルティングを通じて職業経歴や教育訓練歴,取得資格などの情報を記載し,訓練修了後に交付される評価シートを加えて取りまとめ,就職活動やキャリア形成に活用するものである。職業能力の形成状況を客観的に示すとともにキャリア形成上の課題を明確化するツールとして,国により制度の普及が推進されている。(「ジョブ・カード制度」の詳細

http://www.mhkw.go.jp/bunya/nouryoku/job_card01/index.html)

(2)就職活動の仕組み

日本の労働市場には,大きく分けて新規学卒労働市場と一般労働市場(中途採用対象)があり,採用・就職活動の仕組みが異なっている。

新卒採用の場合,在学生を対象とするため学校教育への配慮が必要であることや,募集・選考・採用内定時期と卒業して実際に入職する時期までが離れていることなどから,企業が守るべき一定のルールが定められている(新規中学校・高校卒業予定者の採用活動に関しては,厚生労働省と文部科学省の連名通達によりハローワーク・学校における求人受理や企業による採用選考のスケジュールを設定)。また,国のハローワークだけでなく,所属する学校も「職業安定法」において「無料職業紹介機関」として位置づけられており,社会経験の少ない生徒・学生の就職活動を守る仕組みが用意されている。

ア 就職媒体の特性と選択

これに対し,中途採用の労働市場では企業の採用活動の自由度が大きい。利用できる募集媒体も,ハローワークのような無料の職業紹介機関のほか,民営の有料職業紹介所 20) ,就職情報誌(紙)やインターネットの就職サイト,新聞・雑誌等の求人広告,自社のHPや募集チラシなどさまざまである。

就職活動に際しては,それぞれの募集媒体の特性を理解し,求職者の状況に応じて利用することが必要である。たとえば,有料職業紹介事業所は専門職・管理職などの人材紹介を中心とするところが多く,就職情報誌や就職サイトなどにも,それぞれの得意分野や対象エリアがある。また,職業紹介ではなく求人情報の提供のみを行う媒体の場合,求人者へのアポイントメントや求人内容の確認は,自分で主体的に行う必要がある。支援対象者がどのような就職活動を行うかによって,中心的に利用する媒体を選択し,効率的に利用することが望ましい。

イ 地域の就職支援機関との連携

一般的に,自立支援の対象者が最初から単独で就職活動を行うことは少なく,YAが補助しながら就職活動を始めることとなるだろう。YAが所属する機関や連携のある機関に多くの就職支援の経験がある場合は別として,就職支援の経験が少ない場合には,まず,最寄りのハローワークやジョブカフェなどに相談し,企業情報や求人の状況,利用できる公的支援制度などを把握するのが便利である。

たとえば,若年者就職支援策としては,「若年者トライアル雇用事業」がある。これは,学卒未就職者などの若年失業者(おおむね35歳未満まで)を短期間の試行雇用として受け入れ,仕事に必要な指導や教育訓練を実施する企業に対し,国が「試行雇用奨励金」を3か月まで支給するものである。トライアル雇用後の本採用を企業に義務付けるものではないが,制度を利用した若年者の8割程度がトライアル雇用終了後その企業での常用雇用に移行している。仕事の内容や職場への適応に不安がある場合や本格的な就職に踏み切ることにためらいがある場合などに,トライアル雇用の利用をハローワークやジョブカフェに相談してみるとよい。

ハローワークには,若年者担当の部門や特別にきめ細かい支援を必要とする求職者を担当する部門があり,個別に利用可能な制度について相談することができる。また,キャリアコンサルタントによる時間をかけた相談などが利用できる場合もある。このような地域の就職支援関係者と日頃よりネットワークを形成する工夫が望まれる。

なお,雇用情勢の急激な悪化に対応して,国によりさまざまな緊急対策が講じられており,今後も状況に応じて拡充強化される方向にある。新たな支援メニューが活用できるようになる可能性もあるので,こまめに情報をチェックすることが大切である。

ウ インターネット等の活用

支援対象者がハローワーク等に出向いて職業相談をしたり職業紹介を受けたりするのが難しい場合や,とりあえず自宅で求人情報を見たいという場合には,インターネットでハローワーク等の求人を見ることができる(「しごと情報ネット」http://www.job-net.jp/,「ハローワークインターネットサービス」http://www.hellowork.go.jp/)。具体的にどのような職種でどの程度の労働条件の求人が多いのか,就職活動に先立って知識を得るためにも活用できる。また,いろいろな職種についての一般的職業情報を知りたい場合には,(独)労働政策研究・研修機構が提供している職業情報データベース(「キャリアマトリックス」http://cmx.vrsys.net/TOP/)が便利である。

エ 求人条件の確認を十分に

このほか,就職活動時に特に注意するべきことは,求人票や募集要項などから就職後の労働条件について正確に理解し,重要なポイントを確認することである。最近は,雇用形態が多様化し,常用雇用のいわゆる正社員のほか,雇用期間が半年や1年といった有期雇用のいわゆる契約社員,臨時のアルバイト,パートタイマー,派遣労働など,さまざまな形態で求人が出されている。有期雇用の場合,契約更新はあるか,正社員への登用可能性があるかなど十分確認することが必要である。また,派遣労働者の場合は,派遣会社に登録しただけでは雇用契約に至るとは限らない。具体的な派遣先のめどがあるのか,派遣先に就職する可能性のある紹介予定派遣が利用できるかなど,見通しを確認することが重要である。(なお,労働者派遣に関しては法律の見直しが検討されており,大きな制度変更が行われる可能性がある。)

また,中には一般の従業員募集に応募したつもりであったところ,雇用関係ではなく実質的に個人で業務を請け負う契約となっていたというようなケースもある。雇用形態や雇用期間は生活基盤の安定や将来設計を左右する基本的な条件であるので,求人内容を十分慎重に吟味したい。

(3)労働者を守る法律

就職活動をしている時には,とりあえず職に就くという目標が優先されがちであるが,就職してみて初めて分かる実際の職場の状況もある。中には労働条件や仕事の内容が予想とは異なったり,法の基準が守られていないといった場合もある。このため,職場で何か困難に直面したときには,ある程度自分自身で判断し対処できるように,労働者を守る法律や制度についての基礎的な知識を身に付ける機会の提供が望まれる。

労働者保護関係法規の中心は「労働基準法」である。労働基準法には,労働契約,労働条件(賃金,労働時間,休日・休暇等),就業規則,解雇など,採用から退職に至る各局面において,使用者が守らなければならない最低基準が定められている。

たとえば,労働契約の締結時には,使用者は労働者に労働条件を明示することが義務付けられており,このうち労働契約の期間や就業場所・業務内容,労働時間,賃金,退職に関する基本的な事項については,文書(労働条件通知書)で明示しなければならないとされている。また,解雇については,原則として解雇の日の30日以上前に予告するか,30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うことなどが定められている。労働基準法の定めを下回る労働契約や就業規則は法的に無効であり,違反した場合には罰則も適用され,法が遵守されるよう労働基準監督署が指導・監督を行っている。

労働基準法のほか,賃金水準に関しては,「最低賃金法」により,都道府県別の最低賃金(時間額)が定められており,原則としてこれを下回る賃金で労働者を働かせることは認められていない。最低賃金額は毎年見直され,公示されるので,地域の最低賃金額について一度確認しておくことが望ましい。

また,「男女雇用機会均等法」では,募集・採用から退職までの雇用管理における性別を理由とする差別の禁止や妊娠・出産等に係る不利益取扱いの禁止,事業主が職場のセクシュアルハラスメント防止対策を講ずる義務などについて定められている。

このほか,労働保険や社会保険についても,法律により適用対象や事故の際の給付条件等が細かく定められている。このうち,業務上の事由または通勤による負傷・疾病・障害・死亡に対して給付が行われる労災保険については,労働者を使用するすべての事業が適用対象となり,勤務日数にかかわらず,またアルバイトなどの臨時的雇用の労働者にも適用される。

(4)職場への適応と定着に向けて

雇用形態の多様化や産業構造の変化などの中で,多くの企業において,若年者をじっくり育成するゆとりが失われがちであり,職場の人間関係も厳しさを増す傾向がみられる。従来から,せっかく就職しても短期間で離職してしまう若年者が少なくなく,職場定着のためのフォローアップが若年者支援の大きな課題となってきたが,職場環境が複雑化する中で,職場内に相談相手を見つけにくい,問題を抱えていても周囲が気づかず事態が深刻化する,などのケースが目立つようになっている。

特に,集団内での活動経験があまりない若年者の場合,職場のルールや人間関係にうまく適応することが苦手なことも多く,ストレスをためたり,いじめなどの対象となったりする例も少なくない。問題への対応が遅れると,解決に時間がかかり,権利の回復やダメージからの立ち直りが困難になりがちである。支援対象者が職場で何らかの問題を抱えている場合には,その内容に応じて早めに専門の機関への相談を勧められるよう,最寄りの主な相談先を確認しておくことが必要である。

【労働問題に関する主な相談先】

◇労働条件や労働災害など(たとえば賃金不払いや長時間労働,解雇,業務上の事故への補償など)

→ 労働基準監督署,総合労働相談コーナー

◇職場での男女差別やセクシュアルハラスメントなど → 都道府県労働局雇用均等室

◇職場でのいじめ,パワーハラスメントなど → 総合労働相談コーナー

◇失業給付や公共職業訓練の受講など → ハローワーク

※上記四つの相談先については,都道府県労働局の所在・連絡先情報を参照

 http://www.mhlw.go.jp/general/sosiki/chihou/index.html

◇法律一般についての相談など → 法テラス(日本司法支援センター) http://www.houterasu.or.jp/

※多くの自治体や専門団体などでも,無料で相談に応じる窓口が開設されている。

【参考文献】

独立行政法人労働政策研究・研修機構,2009,「職業ガイダンスブック−就職サポーターの基礎知識−」,独立行政法人労働政策研究・研修機構

独立行政法人労働政策研究・研修機構,2005,「就職サポーターのワークブック−ケーススタディとアドバイスポイント−」,独立行政法人労働政策研究・研修機構

※上記2つの資料は,独立行政法人労働政策研究・研修機構が運営する「キャリアマトリックス」の「教育,キャリア相談担当者向けメニュー」(http://cmx.vrsys.net/TOP/GCG_03.php)からダウンロードできる。


 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構情報研究部長 金崎幸子

20) 職業紹介事業を行うには国の許可(一部無料紹介事業については届出)が必要
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