本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第4章 >第2節 ネットワーキング
ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

1 ネットワークを構築する意味

若者自立支援は,若者が,市民となるための(=シティズンシップを獲得するための)支援である。ネットワークを構築するのは,支援者自身が,互酬性に基づくネットワークを形成することを通じて,シティズンシップを獲得するためである。さらに,明確に言えば,ネットワークを形成するのは,包摂的な社会づくりそのものである。

アメリカの政治学者,ロバート・D・パットナムは,次のデイビット・ヒュームの言葉を引く。

「あなたの穀物は本日刈り入れ時である。私のものは明日になるだろう。お互いにとって有益なのは,今日は私があなたとともに働き,そして明日はあなたが私を助けることである。私はあなたに親切心を持たず,あなたが私にそれをわずかしか持たないことも知っている。したがって,あなたのために骨折るようなことは私はしない。もし見返りを期待して,自分自身のためにあなたとともに働いたとしても,私は裏切られ,あなたの恩返しを期待したことが無駄となるであろうことを知っている。ゆえに私は,あなたを一人で働くままとする。あなたも私を同じく扱う。季節はめぐる。そして,われわれ双方とも,相互の信頼と安心の欠如のゆえに自らの収穫を失うのである。」

図4−4 ロバート・D・パットナム『孤独なボウリング』p165

図4−4 ロバート・D・パットナム『孤独なボウリング』p165

パットナムのキーワードは,互酬性である。互酬性とは「きっと誰か他の人が私に何かしてくれると確信するから,あなたからの特定の見返りを期待をせずに自分はこれをしてあげる」という規範である。パットナムは,『孤独なボウリング』において,上のとおり,アメリカにおいて,他者への信頼が,世代ごとに下がってきたことを示した。

政治学者である,パットナムの問題意識の根幹には,トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』の中で,強調したように,民主主義は自発的結社によって支えられるという発想がある。社会組織が,互酬性の規範に基づいた,市民の自発的協力の仕組みによって,集合行為のジレンマ 21) を克服し,社会の効率性を高める能力のことを社会資本 22) という。パットナムは,イタリアを例に取り,自発的結社に象徴される市民的積極参加のネットワーク(=市民共同体)を社会資本の本質的な形態ととらえ,州の市民共同体の程度が,州政府のパフォーマンスや生活満足度と密接に関連していることを実証した。

パットナムの主張を補うのが,歴史学者シーダ・スコッチポルの議論である。スコッチポルは,アメリカの民主主義が退潮した理由を,階級横断的なメンバーシップと代表制を特徴とする巨大な草の根的な自発的結社が衰退し,代わりに,エリートが運営するアドボカシー・グループや非営利組織が興隆したことに求めている。スコッチポルは,市民社会を再構築するために,改めて,草の根的な自発的結社の組織化を通じたネットワーク形成を求めている。

若者支援は,「地域づくり」である。

【参考文献】

ロバート・D・パットナム(訳 柴内康文),2006,『孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生』柏書房

シーダ・スコッチポル(訳河田潤一),2007,『失われた民主主義―メンバーシップからマネージメントへ』慶應義塾大学出版会


  静岡県立大学国際関係学部准教授 津富宏

21) 集合行為のジレンマ:集団の構成員各自が,個人レベルでの合理的行動をとった結果として,全員が損害をこうむってしまうこと。
22) 社会資本:人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる,信頼,規範,ネットワークといった社会組織の特徴
-
本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁