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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

10 現場の実践例(ひきこもりの地域支援)

田辺市におけるひきこもり支援は,平成13年1月ひきこもり検討委員会(以下「委員会」という。)を設置,同年3月ひきこもり相談窓口(以下「窓口」という。)を開設,行政と民間を含む関係機関のネットワークを基盤に展開している。委員会は年2回開催しているが,委員の中から13名が小委員会として月1回定期的に開催,相談から見えてきたニーズを協議し,支援に必要なものを生み出してきた。委員会の組織構成と,ひきこもり支援システムは,図4−7,図4−8のとおりである。

ひきこもりの支援は,家族からの相談が多く,まずは家族相談を継続することである。相談に来られた家族の不安や苦悩を軽減し,家族自体が孤立しないような配慮が求められる。家庭内の緊張感が和らいだとき,やっと本人に出会えるきっかけができる。また本人相談を重ねていくうちに,1対1の信頼関係が深まり,他者との交流への糸口になる。相談は継続と初期段階からのラポール(信頼関係)が大切で,まずは支援者と本人,あるいは家族との関係づくりが大切になる。また1対1だけでなく,同じような状況の者同士の出会いの場,交流によって,孤立感を和らげ,共に支え合える状況が生まれる。

窓口の支援は,相談の継続による,本人あるいは家族との信頼関係の深まりと,家族の集まりである「家族会」や,青年が集い語り合える「自助会」を生み出した。「家族会」は平成16年4月から自主活動になり,現在も継続中である。「自助会」も平成17年4月から自主活動を目指し,青年が主体となった自助会『知音(ちいん)CHI-IN』を開設している。

一方民間では,有志による青年の居場所が生まれ,平成18年10月にはNPO法人の認可を受け,更に居場所とは別に平成20年,市の施設を借用して南紀若者サポートステーションの開設に至った。また,これまで青年の体験活動に関わってきたボランティアによるNPO法人が生まれ,現在は就労以降支援事業A型を取得し,就労訓練の場を提供している。この間,既存の社会福祉法人が,青年を受け入れる場の提供や,支援の場に職員を派遣する等,民間が行える最大限のノウハウと技術と人材を提供してきた。

またネットワーク機能を充実させるためには,医療機関の協力は不可欠である。田辺市では支援全般に,委員会委員である精神科医の果たした役割は大きかったと考える。田辺地方における支援の広がりは,医療・教育・労働機関を含めたネットワーク機能を充実させるとともに,市行政だけでなく,県行政にも少なからず影響を及ぼし,地域を広域的にエンパワメントさせた。

和歌山県は,平成16年度から,全国に先駆けて『「ひきこもり」者社会参加促進事業』(現「ひきこもりお助けネット事業」)を開始。民間のひきこもり支援機関を『「ひきこもり」者社会参加支援センター(以下「社会参加支援センター」という。)』として指定し,県及び市町村で運営補助を行なってきた。さらに平成21年度から,精神科医,精神保健福祉士,保健師,臨床心理士といった専門家による個々の「ひきこもり」者に合った支援方針検討制度,及び「ひきこもり」者が社会参加に必要な対人能力や自信の醸成などを目的とした社会体験事業を社会参加支援センターに新たに導入し,機能強化を図ることにした。また,同じく平成21年度から和歌山県精神保健福祉センターに国の新規事業である「ひきこもり地域支援センター」を設置した。

窓口の重要な機能として,ひきこもりの背景を見極めることがあげられる。疾病や障害がある場合には,適切な支援機関や福祉制度の活用を紹介する。統合失調症や発達障害の疑いで紹介するが,中には医師の診断がつきにくい事例もあり,そういった場合には,窓口で継続支援となる。一部そういった事例を含みながら,基本的には疾病や障害を背景にしないひきこもり事例に対する継続支援が行なわれてきた。個別相談と仲間づくりを並行しながら,親子共々エネルギーを蓄え,心理的な孤立感から開放され,社会との接点を徐々に広げるという社会的活動につながった。

社会体験活動としては,民間が文部科学省の委託で実施している『青少年の意欲向上・自立支援事業』や「ほんまもん体験」(社団法人和歌山県観光連盟の体験型観光活用支援要綱),和歌山県経営者協会主催の京都「私のしごと館」見学体験,紀南障害者就業・生活支援センターでの就労訓練,和歌山大学でのアミーゴ(ピュア)とラテンアメリカ研究会との交流会等,さまざまな活動に参加してきた。その成果として,自動車免許取得,ハローワーク面接,アルバイト,進学,就労,一人暮らし等社会的行動の変化が見られた。こうした行動の変化は,必ずしも本人に出会ってからというのではなく,家族への支援の継続だけで見られることもある。このことは,ひきこもり支援における家族支援の有効性を示していると思われる。これまで地域で実施してきたひきこもり支援サービス(相談,家族会,青年自助会,居場所,社会体験,就労支援,家庭訪問)の中で,転帰の評価としては青年自助会が最も有効であった。今後どのような体験活動が,ひきこもり青年の社会的自立支援へのプログラムとして有効であるのかを,検討していく必要がある。

また窓口開設後一定のシステムが築かれたが,田辺市の目指す住民主体の健康な「まちづくり」の取り組みの中に,ひきこもり支援は行政の課題として位置づけられてきた。地域住民に対する啓発活動等により,地域全体からひきこもり支援活動に対し一定の理解を得るように努力することは重要なことである。そして,これまで述べてきたように,相談を中心として,行政,公的機関,民間団体が連携し,ひきこもり支援における種々の取り組みは継続,発展してきた。長期化するひきこもり支援の入口としての生物学的背景の見極めと個人情報を保護するためには,行政の窓口や医療機関の役割は欠かせないであろう。今後も,ひきこもり支援の継続のためには創造的で柔軟なサービスを提供できる民間団体の存在が不可欠であり,行政から民間団体への経済支援を念頭とした財源の確保は急務の課題と言えよう。そして,このシステムの基盤になるネットワーク機能の普遍化を目指し,潜在する人材の発掘と,更に支援の輪を広げ,若者が生きやすいまちづくりを目指していかなければならない。

図4−7 田辺市ひきこもり検討委員会組織構成

図4−7 田辺市ひきこもり検討委員会組織構成

図4−8 田辺市ひきこもり支援システム

図4−8 田辺市ひきこもり支援システム

  畿央大学 目良宣子
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