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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

12 現場の実践例(たちかわ若者サポートステーションの実践から)

「ネットワーク」は,教育や福祉などの分野でも築かれているが,どうしても関係機関同士のつながりの中からこぼれ落ちてしまう若者がいる。そして,そういう若者が「ニート」や「ひきこもり」状態に陥ることが多い。たとえば,児童福祉機関であれば,児童・青少年の支援は,どうしても18歳までという区切りがあり,また大学であっても,卒業した後,就職が決まっていない場合,若者と社会とのつながりが切れてしまう。医療機関関係であれば,精神疾病などの病気が治ってきた後,どう先に進んでいいか分からない若者,そして職業紹介関係であれば,ハローワークに通っていても,求人票を応募できずに検索だけする若者などが孤立してしまう。そこで,たちかわ若者サポートステーションは,福祉機関,就労支援機関,職業紹介機関,教育関係機関,医療機関,そして企業など,若者が関係する機関と連携することで,狭間に落ちる若者を社会に戻す役割を担っている。(図4−9)

図4−9 たちかわ若者サポートステーションネットワーク図

図4−9 たちかわ若者サポートステーションネットワーク図

【事例1】

Aさん(男性,17歳)は,母親と二人暮らしで,中学1年の時から不登校になり,その後,家にひきこもりがちになる。子ども家庭支援センターの相談員が,もうすぐ18歳で支援が切れるということで,その後の就労や就学に関して相談に乗ってほしいと,たちかわ若者サポートステーションに本人と来所。

【相談での様子】

当ステーションの相談員からの質問に,Aさんは小声ながらも答えてくれる。また,外出できるようになったことを褒めると,嬉しそうな表情を浮かべる。だんだん打ち解けてくると,本人は,高校に通いたい,家庭の経済状況を考えて働きたいと希望を話してくれる。

【就労までの支援経過】

(1)Aさんや母親が,子ども家庭支援センターから当ステーションの支援にスムーズに移行できるように,役割を決める。(Aさんが18歳になるまでは,子ども家庭支援センターで母親やAさんの生活に関する支援を行い,当ステーションでは,それと並行して,Aさんの就労や自立を支援する。そして徐々にAさんが当ステーションに定着していけるように支援していく。)

(2)母親面談を当ステーションで行い,Aさんの今後について一緒に考えてもらうようにする。

(3)ハローワークと連携し,Aさんの性格に合う仕事(図書館,清掃)の求人票を出してもらう。母親も一緒に行き,Aさんの仕事探しに協力してもらう。

(4)教育相談室の相談員に,Aさんの家から近い定時制高校の紹介をしてもらう。

     上記の経緯を経て,半年後に清掃のアルバイト面接に合格した。Aさんは母親と話した結果,二つのことを同時にやっていくことは難しいと考え,とりあえずアルバイトをまずはやり始め,余裕が出てきたら,定時制高校に通うという答えを出した。

【就労後】

(5)Aさんに,毎週1回,当ステーションにスタッフと仕事の様子などを話すために来てもらい,職場定着のためのアフターケアを行う(家,職場以外の居場所機能にもなる。)。

(6)母親には,Aさんが辞めたり,また辞めそうになったら,いつでも相談に来てもらうように伝える。

大切なことは,相談者が行ける場所を一つにしないことである。特にリファー(紹介)される場合,相談者は,知らない機関に突然放り出されるという不安が大きい。そこで,上記(1)のように相談者がリファー先に慣れるために徐々に支援を移行していくことが必要となる。ネットワークを築くことは,相談者を機関から機関へ移すことではない。相談者が,社会と1本の細いつながりではなく,複数のつながりを持てるように機関同士が連携する。それが支援を強化し,若者関係機関同士のつながりの中から落とさないことにつながる。


  NPO法人「育て上げ」ネット 古賀和香子
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