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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

2 生活保護ソーシャルワークにおけるネットワークの意義

(1)関連専門職・関係機関との連携・協働

生活保護ソーシャルワーカーは,生活保護を受けている者・世帯(以下「利用者」という。)の生活問題・課題を解決・緩和するに当たり,いろいろな関係機関・関連専門職等と連携・協働し,相談援助活動を進めていく。

利用者の生活問題・課題は,労働,健康,住宅,教育,家族関係の調整等と多岐にわたっている。また,それは,問題の質,内容によっては,身体的・心理的・社会的・経済的等と多様な側面を持っている。さらには,利用者個々の世帯の置かれている状況やこれまでの生活との違いや問題・課題の発生の違いにより,どれ一つとして同じ内容のものはないという個別性・具体性を有している。

そのため,生活保護ソーシャルワーカーは,利用者の生活問題・課題を多面的・総合的・一体的にとらえていかなければならないのと同時に,それぞれの問題・課題に対応するためにいろいろな関係機関・関連専門職等と協力しながら相談援助活動を進めていくことになる。

そこで,ここでは,関係機関・関連専門職などとの連携・協働をどのように進めていったらよいのか,という観点から述べていく。

(2)連携・協働を考える必要性

利用者の生活問題・課題の解決・緩和を図るうえで,関係機関・関連専門職の連携・協働は必要不可欠である。生活保護実践においては,これまでも関係機関・関連専門職などと連携・協働を行いながら,利用者の生活問題・課題を解決するために有効な社会資源の提供を行ってきている。

近年,社会福祉行政機関の専門家やサービス供給組織の多元化などが促進されるという社会福祉の潮流がある。そしてそれと軌道を一にして,生活保護実践の中で,特に連携が強調されるようになってきている。利用者の傾向として,高齢・障害・母子などのハンディを持つ世帯が大半を占めるようになってきていることが,大きな理由である。これらの世帯の抱える生活問題の多様性・複合性などから判断して,より多くの関わりを必要とする世帯が増えている。ハンディキャップを持つ世帯の中でも,とりわけ増大が顕著な高齢者に対して,高齢に加えて傷病,障害というハンディキャップが重複している世帯,またそれ以外の世帯においても,傷病の慢性化,障害の重複・重度化,いじめや放置,不登校などの問題・課題を抱える世帯が増加している。

以上のことは,従来にも増して,それぞれの問題・課題解決に,多数の関係機関・関連専門職などが関わる必要があることを意味している。そこで,それぞれの機関・専門職などが個々に関わるのではなく,相互に連携・協働をとりながら,利用者世帯の生活を総合的に判断し,それぞれの領域でどのような相談援助活動を行わなければならないか,を検討する必要がある。

(3)連携・協働のレベル

生活保護ソーシャルワーカーは,以下の関係機関・関連専門職などと連携・協働をどのように推し進めていったらよいかが重要となってくる。ここでは,連携・協働をいくつかのレベルに分けて述べていく。

ア 福祉各法との連携・協働

一つには,福祉各法ソーシャルワーカーとの連携がある。この場合,次の機関・職員との連携・協働を考える必要がある。

(ア)同一福祉事務所内の他法ソーシャルワーカーなどとの連携・協働

福祉事務所には,生活保護以外に,高齢者,身体障害者,知的障害者,母子,児童,女性など福祉関係各法ごとのソーシャルワーカーや嘱託医(精神・一般)などがいる。そこで利用者の生活問題・課題に応じて,そうした他法ソーシャルワーカーなどと連携・協働をとりながら生活保護実践を行っていくことが大切となってくる。この場合,同一組織内という利点があり,連絡調整が最も密に取れ,課題に即応できる関係にあるともいえる。 

(イ)郡部(県所管)福祉事務所の生活保護ソーシャルワーカーと身障,高齢者業務関係の町村役場の担当職員との連携・協働

高齢者・身障の入所措置権の町村委譲(1993年4月1日)・知的障害者の入所業務の町村移譲(2003年4月1日)により,町村役場で入所に関わる相談援助活動も展開されている。高齢者,身障のハンディキャップを持つ利用者世帯が増えていることを考えれば,これまで以上に郡部福祉事務所,町村役場が一体となり相談援助活動を展開していく必要がある。たとえば,高齢者や身体障害者に対し,ホームヘルパーの派遣や住宅改良など在宅サービスや施設サービスの提供を町村役場の老人福祉法,身体障害者福祉法,知的障害者福祉法,介護保険法,障害者自立支援法等の担当職員と一緒に進めていく必要がある。

(ウ)児童相談所,身体障害者・知的障害者更生相談所,婦人相談所などの福祉専門行政機関との連携・協働

福祉事務所の家庭児童福祉部門の強化のため家庭児童相談室を設置している所もあるかと思う。家庭児童問題において,難しい相談については児童相談所が,軽易な相談については福祉事務所が担当することになっている。また,婦人相談に関しては福祉事務所内に配属されている婦人相談員と連携し,婦人相談所での一時保護や婦人保護施設の入所の必要性などを検討していく必要がある。身体障害者・知的障害者更生相談所との連携については,身障,知的障害各法担当職員と連携しながら,同機関での相談・判定及びサービス給付(補装具・日常生活用具・在宅及び施設サービス)の是非について検討することが必要である。

(エ)各種の支援センターなどのサービス調整・提供機関などのソーシャルワーカーとの連携・協働

地域のサービス提供機関と連携調整を行いながら,利用者の在宅生活の維持強化あるいは退院・退所後の在宅生活の途を切り開く必要がある。

イ 保健・医療との連携

二つには,利用者世帯の問題・課題の多様化に対応するため,福祉各法を超えて保健,医療などとの連携をより一層進めることが必要となってきていることである。そこでは,それぞれの関係機関・関係専門職などと,どのように関わっていくかが課題となる。

(ア)保健との連携・協働

寝たきり,認知症等の要介護高齢者,一人暮らし,高齢者夫婦世帯などの高齢者世帯,身体障害者,知的障害者,精神障害者などの障害者世帯,母子世帯,病気療養中の人がいる傷病者世帯などにとって健康をどのように回復,維持,向上させていくかということは大切なことである。保健所,市町村保健センター,訪問看護ステーションなどの保健師など保健関係者と連絡調整しながら,相談援助活動に当たる必要がある。ここでは,保健師,看護士などとの関係が重要となってくる。

(イ)医療との連携・協働

傷病に関する知識,治療方針,治療方法,治療期間など,利用者(患者)が療養に対して積極的に病識や治療に関する意欲を起こすのは,生活保護ソーシャルワーカーは当然のこと,医療関係者が利用者に対してどの程度働きかけるかに左右される。医療関係者は利用者に対し,傷病についての理解と同意を求め,治療を円滑に進めていかなければならない。そのため通院・入院している医療機関との連携・協働が不可欠である。また福祉事務所においては,嘱託医(精神・一般)が配属されており,レセプトの見方や傷病や治療に関する基本的で重要な事柄,あるいは相談援助活動を進めるうえで受けておきたい専門的なアドバイスなどをしてもらうことも大切である。とりわけ長期療養に及んでいる慢性疾患の利用者,心の病を持つ利用者,難治性の疾病を抱える利用者などはこれまでの療養生活の見直しと今後の療養について検討するには,医療関係者からの見方は援助計画の策定や見直しにとって必要不可欠である。また能力活用においても就労能力の一部をなす身体能力がどの程度であるかを確認するうえで医学的診断は重要な要素となる。しかし,ここで気を付けておきたいことは,医学的診断はあくまでも身体的側面での判断であり,そのまま就労の可否に短略的に結びつくものと解してはならないということである。一つの重要な判断材料として活用するようにすべきである。ここでは,医師,看護師,医療ソーシャルワーカーなどとの関係が重要となってくる。

ウ 労働との連携・協働

労働能力を活用するうえで,年齢,性別,身体状況,障害の有無や程度,学歴,資格,これまでのキャリアなどから判断し,就労援助を行っていく。職業安定所(ハローワーク),シルバー人材センターなどの機関との連携を考える必要がある。就労し収入を上げるということも大切だが,利用者が将来的にも安定した収入をあげることができる,またその人の残存能力を最大限発揮するよう福祉的就労,生きがい就労,社会参加などといった幅広く柔軟な発想をもって就労援助に取り組んでいくことが大切である。ここでは,各機関担当者の関係が重要となってくる。

エ 地域との連携・協働

(ア)地域の社会資源とりわけ民生委員との連携・協働

民生委員においては,利用者の生活状態を適宜把握してもらうとともに,何か利用者が困ったこと,不測の事態が生じたときなど報告・連絡を取り合いながらそれへの対処など検討する必要がある。

(イ)親族,近隣などインフォーマルな人たちとの連携・協働

利用者にとって最も信頼のおける存在は,親族,近隣などの存在である。利用者の課題解決に向けて精神的・物質的支援は,フォーマルなサービスでは対応できない場合には,利用者の生活の支えとなる。たとえば,役所の休庁期間など,福祉事務所など公的機関での関わりができないとき,親族,近隣などの協力が必要である。

オ その他

社会保険事務所,労働基準監督署,家庭裁判所,警察,消防署など関係機関との連携も念頭に置いて相談援助活動をする必要がある。

(4)主要な相談援助活動

ア 就労支援

利用者の労働能力の状態によっては,通常,就労指導といわれる就労援助を行うことは生活保護実践の大きな柱の一つとなる。このことは,利用者がどの程度の労働能力を持っているのかにもより,一律どの利用者に対しても行うことにはならない。生活保護ワーカーはその労働能力を引き出し,活用できるよう援助していくことが大切である。そこでは,次のことに気を付ける必要がある。一つには,労働能力に見合った就労援助を行うことである。すなわち,年齢,性別,これまでのキャリアなどを考慮に入れた就労援助である。求人先があるからといって,利用者に機械的に就労を促すことがないようにすべきである。利用者の能力を超えた,あるいは大幅に下回る就労は,結果的にみて,就労継続を困難にする。また,初めて仕事に就く新卒者や一定年齢を超えての転職は,新しい人間関係を構築することにもなり,利用者にとって大きな負担となる。仕事での悩みなどを積極的に受け止め,サポートするようにすべきである。

二つには,利用者の意向を尊重することである。利用者がどのような仕事に就きたいのか,また可能であるのかよく見極めることが重要である。これまでの就労で得た知識や技術や問題解決能力をいかせる職を利用者自身が一番よく把握していることがある。本人の意向や適性に合った就労援助を進めるべきである。

三つには,本人の能力に加えて,世帯全体の状況を考慮に入れて就労援助を行っていくことである。労働形態が変わることは,世帯全員の生活にも関わってくることである。たとえば,世帯員に育児や介護などを必要とする人がいる場合,精神面でのサポートや公的サービスの提供などを行い,利用者の不安を少しでも軽減する状況をつくる必要がある。

四つには,収入が上がるという理由だけで就労を進めるのではなく,将来にわたって安定した仕事と収入を確保することを考え,相談援助を進めていくことである。

イ 療養指導

利用者の中には,これまでの生活から心身ともに傷つき,療養が必要な人が多数いる。病気を契機に生活困窮に陥り,生活保護を受けるようになった人たちである。

生活保護ワーカーは,疾病を抱える利用者に対して,どのような相談援助を行ったらよいのか,その利用者の生活実態を十分把握した上で検討すべきである。そこでは,次のようなことに気を付ける必要がある。

一つには,利用者はもちろん家族をはじめとする周囲の人たちが,病気や障害などを正しく認識することが大切である。

たとえば,心の病気の場合には,当事者はもとより家族をはじめ周囲の人がこのことで苦しみ生活しにくい状況にある。そのため治療することは,自分たちの生活を取り戻すことにつながるということを説明し理解を求めるようにすべきである。最近は,医療サイドでも,患者自身の治療に対する知識や同意が必要であるとする,いわゆる「インフォームド・コンセント(説明と同意)」の重要性が認識されてきている。医療・保険関係者の協力を得ながら,疾病や障害に対する認識が持てるよう働きかけるべきである。

二つには,治療が生活全般に及んでいることに留意することが必要である。治療は,受診や処方された薬を間違いなく服用するというだけでは効果的とはいえない。家族が病気のことを理解して配慮することが大切である。

三つには,治療の目的と,療養し治癒したときの生活設計をきちんと利用者と地区担当ワーカーの間で確認しておくことである。療養はともすれば長期間にも及ぶ。その生活の中で将来の希望を見失い自暴自棄となり,ただ漫然と日を送る人も中にはいる。そのような事態を招かないように,治療意欲を引き出し,以前の活動能力を少しでも活用していけるよう,相談援助に工夫をする必要である。

【参考文献】

岡部卓,2003,『改訂福祉事務所ソーシャルワーカー必携・生活保護における社会福祉実践』,全国社会福祉協議会

岡部卓・森川美絵・新保美香・根本久仁子,2009,『生活保護の相談援助活動自己点検ワークブック』,中央法規出版


  首都大学東京都市教養学部教授 岡部卓
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