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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

4 若者支援におけるネットワークの意義

若者支援において,ネットワークを構築することが好ましいのは,若者の自立に関わる問題自体が,重層的・複合的であって,分割すると解決できないからである。重層的・複合的な問題は,重層的・複合的な仕組み,つまり,ネットワークによって解かざるを得ない。ネットワークとは,ネットワークのメンバーが,その多様性を響かせ合うことで,個々のメンバーでは行い得ない解決を生み出せるような,創発的な場である。具体的には,ネットワークは,以下のような特性を持つことが望ましい。

(1)重層的であること

重層的であるとは,アクター 26) のレベル 27) が多様であることである。ネットワークのメンバーは,そのレベルにおいて多様でなければならない。たとえば,地方自治体が,教育,福祉,労働,医療などの関連部門が協議し合う場を設けて,「うちにはネットワークがあります。」と言うことがある。これは,重層的ではない。行政の関連部署と出先機関からのみなるネットワーク,市民団体だけのネットワーク,一般市民だけのネットワークではなく,レベルの異なるアクターが参加した,重層的なネットワークのほうが,はるかに相乗的な解決を導ける。つまり,一人ひとりの市民,NPOや企業の団体や職能団体などの中間団体,さらには,行政が連動した,異なるレベルのアクターが集まった,縦断的なネットワークであることが望ましい。

(2)複合的であること

複合的であるとは,アクターの領域が多様であることである。若者の自立支援に関心を持つ団体だけのネットワーク,雇用主だけのネットワーク,障害者の就労に関心を持つ団体だけのネットワーク,あるいは,ひきこもり支援機関だけのネットワークといった領域を限定したネットワークではなく,本人の持つ複合的な問題に忠実に,医療,教育,福祉,法律,ビジネス,政治など,異なる領域のアクターが集まるネットワークが良い。市民活動においては,特定のイシュー 28) に注力して問題解決を図るという手法がとられがちだが,若者の自立支援は,複合的な問題であるという認識に立って,横断的なネットワークで対処するのが望ましい。

(3)相乗効果が期待できること

アクターが協働し,相乗効果を発揮して創発的な解決を生み出せるネットワークがのぞましい。たとえば,病院でいえば,医師,看護士,ソーシャルワーカー,作業療法士などからなる多職種チームをイメージするとよい。つまり,チームとして,対象者本人を中心として,創発的に問題を解くネットワークである。特定の支援団体が自分の団体を中心としたさまざまな連携先を持っていることを「うちにはネットワークがあります。」と称する「ネットワーク」もどきや,自分のところにふさわしくないケースを他の機関に紹介するためのネットワークは,ネットワークではない。なお,相乗効果の生じるレベルは,個人(対象者)レベルとは限らず,政策形成レベルであってもよい。

ネットワークを構築するアクターには,それぞれの利害があるが,その利害を超えて連携することのメリットを優先しなければならない。よって,(たとえば,個人情報の保護を理由とする)連携の阻害や顧客の囲い込みは排除されなければならない。筆者の関わる,青少年就労支援ネットワーク静岡は,それ自体が,さまざまな個人や機関の連携体(=ネットワーク)であり,何十人ものサポーターが,メーリングリストで,ケース情報を共有することにより,相互にフィードバックし合い,向上し合う仕組みをつくり上げている。

(4)地域に根ざし,継続的であること

若年者の支援は,地域に根ざし,継続的でなければならない。そのための一つの工夫は,都道府県が主導して,市町村単位で,ネットワークづくりを促進することである。一定の大きさ(たとえば,人口30万人程度)の地域ごとに,地域割りのネットワーク構築をすることを,行政機関の方針にしておけば,安易にネットワークが崩れることはない。たとえば,保護司会はそのような地区割りの仕組みになっている。また,このような地域別ネットワークと連動させて,就労困難者のためのワンストップサービス機関を地域ごとに設置することもできる。ネットワークは,開かれていなければならないが,容易に崩れるようであってはならない。

(5)エンパワーメントに基礎を置くこと

就労困難な若者の複合的な問題に対応できるようにさまざまな「専門性」の支援者を取りそろえたネットワークは,しばしば,本人をディスエンパワーしてしまいがちである。あくまで,ネットワークの中心にあるのは,若者本人(ないし,こうした若者が抱える諸問題)でなければならない。別の言い方をすると,多数・多様なアクターが加わるネットワークが,一つのシステムとして機能するのは,たとえば,自立に困難を抱える個人をエンパワーするという目的が,ネットワークの力の結集点(相乗作用が起きる地点)となるからだ。よって,ネットワークへの当事者やその家族参加は重要である。たとえば,精神障害を持つ人たちの地域生活支援を目指す,NPO法人コンボは,役員にも家族や当事者が加わっている。

上記の5条件を満たし,最も完成されていると思われるネットワーク型の支援事業は,大阪府の地域就労支援事業である。地域就労支援事業は,就労困難者の集中する「地域」に,障害者,母子家庭の母,中高齢者,同和地区出身者,学卒無業者など,複合的な就労阻害要因を持っている者が多数存在するという問題意識からスタートした。各地域に,ワンストップサービスセンターである,地域就労支援センターを設置し,地域就労支援コーディネーターを配置する。コーディネーターは,当事者主体の原則の下に,サポートプランを立てる(複合的な問題であれば,官民にまたがる多機関チームである「個別ケース検討会議」で検討する。)。そして,コーディネーターは,伴走者として,地域を足で稼いで,サポートプランを実施し,定着後のフォローアップまで行う。

この大阪府の例もそうであるが,こうしたネットワークの形成には,行政の力が大きく与っている。三重県は,県内のNPOを取りまとめて,行政とのフラットな勉強会を繰り返すことを通じて,官民連携の協働体を構築し,横浜市は,NPOや地域の学識経験者などをメンバーとする研究会からスタートした,地域資源を結集した協働体を構築している。地方自治体が,主導権を持ち,開かれたネットワークの形成に努めることが,強く求められる。

【参考文献】

加藤哲夫,2002,『市民の日本語―NPOの可能性とコミュニケーション』,ひつじ市民新書

広井良典,2009,『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来』,ちくま新書


  静岡県立大学国際関係学部准教授 津富宏

26) アクター : 特定の社会的領域(ドメイン)において活動する主体。
27) レベル : 社会を分節化したものととらえたとき,その構造化の単位。個人レベル,組織レベル,社会レベルなど。
28) イシュー : 社会的な関心を集め,解決が要求されている争点。
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