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ユースアドバイザー養成プログラム
第4章 さまざまな社会資源─関係分野の制度,機関等の概要,関係機関の連携等─
  第2節 ネットワーキング  

9 現場の実践例(当事者グループをコアとする, 地域のネットワーク)

私は非定形精神病と診断されている。双極性気分障害と統合失調症をもっている。私をサポートしているのは,住んでいるコミュニティのピアサポートグループである。

経験の分かち合いを主な活動とするピアサポートグループでは,メンバーAがメンバーBをサポートする形ではなく,A,B,C,……の各メンバーが病気を持ちながら,頑張って地域で生活していることを確認して,

「あいつも頑張っているなら,自分も頑張ろう。自分にも同じことができるだろう。」

という気持ちが自然に成長していく。お互いがお互いのロールモデルとなる。メンバーAがメンバーBのために(One be for him/her)ではなく,各メンバーが共に立ち上がっている(One be with him/her)状況があるべきピアサポートグループである。

(1)ピアサポートグループでの行事におけるボランティア(支援者)の役割について

ピアサポートグループは原則当事者のみで運営されている。そこに流れるのは,Nothing takes place about us without us(自分たちのことは自分たち抜きに決められたり,行われたりしてはならない)の精神である。これは,全世界で共有された当事者の姿勢である。

私のピアサポートグループは,市の障害者福祉センターで月に2回「経験の分かち合い」のミーティングをもっている。その分かち合い活動の中で

「米の研ぎかたって,どうするの?分からないんだけど。」

というメンバーがいた。それがきっかけになり,みんなでランチを作る料理会をしようというアイデアが出た。メンバー同士の情報交換で,障害者福祉センターには調理室はないが,隣接する公民館には調理室があるということが分かった。月に1回,第2日曜日のランチを作って食べることが決まった。公民館の予約の手配,レシピの選択とコピー取りは当事者のみで行われた。しかし料理室のどこに何があるか分からない。ボランティアで参加してくれる人と交流をもつのも楽しかろうということで,料理会には毎回,精神保健ボランティアの人や,地元の県立看護大学の助教に頼んできてもらった。

ここで私たちが気になったことは,市の障害者福祉センター,公民館の事務所,精神保健ボランティアの所属先である市の社会福祉協議会,県立看護大学の精神看護科は互いに同じ問題を扱っていながら,横のつながりがないということだ。複数の社会資源が狭い地域にあるにもかかわらず,互いに相手のじゃまをしないことばかりをケアしていた。そこでコミュニティのリソースのネットワークの要は当事者グループであると言えるだろう。本来ならば,当事者グループが軸となりネットワークの芽を作るのではなく,ワンストップで何もかもできるようなコミュニティネットワークが形成されていないと,いけないのだが。

(2)理想のボランティア,協働する支援者の態度は一見さぼっているように見えること

幸いボランティアに来てくれた人は,出しゃばったりせずに当事者から指示された役割を果たしてくれた。各メンバーも自分のするべきことを把握して,料理会は行われた。支援者にとって一番つらいことは,自分がすることがないことである。しかし私たちの料理会に参加してくれたボランティアの方たちは,私たちのために(for us)何をしてあげられるか,という態度ではなく,私たちと共に(with us)何ができるかという態度だった。だから,全員分のお茶を入れて,ただ座っているだけの時もあった。しかしそこに,ちょっと疲れたメンバーが,一緒に座ってお茶を飲んで休んだ。それこそ私たち(すぐに頑張ってしまう)当事者にとって一番必要なケアだった。お米が研げるようになったメンバーは生活保護で暮らしている男性で,食事はいつも菓子パンだったが,今では「御飯党」になった。


  NPO法人地域精神保健福祉機構共同代表 宇田川健
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