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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第10節 アウトリーチ(訪問支援)の方法〜ひきこもり,不登校等を中心に〜  

6 訪問活動の倫理

(1)家庭訪問の法的根拠

まず,福祉・保健分野の専門職による訪問活動の法的根拠について確認してみたい。たとえば保健師は,以下の2点を法的根拠として家庭訪問という支援手段を用いている。一つは,母子保健法,結核予防法,老人保健法,精神保健福祉法などの各法規によって,「訪問指導」が規定されている場合であり,もう一つは,(訪問指導という用語は用いられていないものの)各法規で定められた事業の目的を達成する手段として訪問指導が用いられる場合である。たとえば発達障害者支援法においては,子どもがより早期の支援を受けられるように家族が障害を受け入れ,相談機関に結びつくことを目的に訪問指導・家庭訪問を行う場合などが想定される 41)

したがって保健師の場合,対象者の健康上のニーズが高く,その改善のために家庭訪問指導が有効と判断されれば,援助対象者と契約関係が結べていなくても訪問が可能であると解釈できるかもしれない。また福祉分野では,生活保護法や児童虐待防止法によって,福祉事務所や児童相談所に"立ち入り調査"の権限が定められている。

こうした公的支援とは対照的に,民間支援団体の立場で実施される訪問には法的根拠や倫理基準がないことが指摘されている 42)。また,ユースアドバイザーとして訪問に携わる場合にも,身分や所属機関によっては確固とした法的な裏づけを見出すことが難しいと考えられるので,支援対象となる若者と援助者としてのユースアドバイザーの双方を守るために,本人もしくは家族との契約関係・相談関係を事前に形成し,家庭訪問について合意が成立していることが望ましい。

また,守秘義務についても充分に認識・配慮する必要がある。民間支援においては医療法や地方公務員法,あるいは職業規定によって定められた守秘義務などを負っていない援助者が多いことが推測される。また,家庭訪問という性質上,対象者のプライバシーに深く触れる機会が多くなることが予測されるので,援助者としての守秘義務についても慎重な配慮が求められる。

(2)やってはならない「侵入的な訪問」とは?

「侵入的過ぎる訪問」,「やってはならない訪問」とは,どのようなものであろうか。そのとらえ方は多様であり,たとえば,訪問者との面会を拒否している本人の部屋に押し入ることなど論外であり,部屋の外から声をかけ,返事がなければそれ以上は侵入しない方がよいと言う援助者がいる。また,部屋に近づいて声をかけること自体がすでに侵入的過ぎるという意見を述べる援助者もいる。

同意なしに部屋に入ることは,どのような場合においても許されないのであろうか。許される,あるいは許されないほどの「侵入」とは,どのようなケースに対する,どの範囲の行為のことを指すのであろうか。長坂 36) は,訪問面接を継続させるためには,援助者に求められる能動性,つまり,子どもの家に出かけ,子どもと個別面接ができるように家族に介入し,面接中は受身的な子どもをリードすることが不可欠であると指摘し,訪問面接ではセラピストの能動性と受身性がバランスよく共存することが大切であると述べている。田嶌 35) が提唱する「節度ある押しつけがましさ」というキーワードも示唆的である。渡辺 42) は,明確な倫理基準のない民間支援活動の一環としての訪問においては,何より「常識を見失わないこと」が重要であることを強調している。

確かに,明確にガイドラインのない現時点においては,「バランス」,「節度」,「常識」としか言いようがないように思われる。ひきこもりケースの精神医学的背景は極めて多様であるし,家族状況なども個々のケースによって多様性が大きい。また,"対人関係を避けようとしている人に関わろうとする"という活動において,「どこまで入り込んでよいのか?」,「どこからは控えるべきなのか?」,あるいは「対人関係を避けたいという気持ちをどこまで尊重し,見守るべきなのか?」という迷いが生じるのは必然であり,それをマニュアル的に解決することは簡単でないからである。

41)平山朝子・宮地文子監修,1990,「公衆衛生看護学体系2」,『公衆衛生看護学総論2』,pp4-18,日本看護協会出版会
42)渡辺 健,2004,「訪問カウンセラーの心理」,『現代のエスプリ445,訪問カウンセリング』,pp167-174, 至文堂
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