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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第10節 アウトリーチ(訪問支援)の方法〜ひきこもり,不登校等を中心に〜  

7 標準的な訪問ガイドライン

ここまで,訪問活動の困難性や留意点を強調して述べてきたが,筆者らの意図は,ひきこもりケースに対する訪問活動を否定したり,抑制することではない。むしろ,これまで以上に積極的な訪問活動が展開されることが必要であると考えており,それだけに,支援に関わる援助者に訪問の倫理性や構造論的観点を認識していただきたいと思う次第である。

以下,地域精神保健の立場から新村らが提言したひきこもりケースへの訪問ガイドライン 43) を一部改変し,標準的と思われる訪問のあり方を提言してみたいと思う。

(1)なぜ訪問支援が必要とされているのかを確認・認識する

一般に,思春期・青年期ケースは,家族からの相談によって事例化することが多い。とくにひきこもりや非行事例では,本人は他者との接触を頑なに回避・拒否しており,家族の希望によって訪問を始めることが少なくない。誰がどのような理由で訪問を希望し,どのような経緯で訪問を実施することになったのかを振り返ってみることは重要である。

一般に,訪問が始まるのは以下のような経緯・理由からであろう。

<1>受診や相談を目的に外出することが困難である,居住地が遠隔であるなどの理由で,本人が訪問による面接を希望している場合。

<2>おもに家族が訪問を希望しており,本人も訪問に同意している,ないしは積極的には拒否をしていない場合。

<3>本人に病歴や病的なエピソードがあり,家族や関係機関から医療機関への受診の必要性についての判断や精神医学的な判断を求められている場合。

<4>本人の心身の状態や家族状況などに対して早急に介入する必要がある,あるいは,本人・家族の安全や生命の危険性について訪問以外の方法では確認ができないと援助者が判断した場合。

<5>健康問題や家族機能の問題などにより家族の問題解決能力に期待ができない,自分が直接本人に会って状況確認や援助方針を見定める必要があると援助者が判断した場合。

<6>本人の意向は充分に確認できないが,家族が強く訪問を希望している場合。

このうち,<1>は訪問が必要になった理由や本人の意思が明確であり,理想的である。<2>のような状況では,来談している家族とひきこもっている本人との間で,あるいは家族同士で訪問の必要性についての認識が大きく異なっている場合があり,訪問による本人や他の家族成員の反応に注意を払う必要がある。<3>及び<4>については,事前に状況を詳しく確認し,保健福祉事務所・市町村の精神保健福祉相談員や保健師,児童相談所の児童福祉司,警察官など,法的根拠をもって介入できる専門職へのつなぎを検討する必要があるかもしれない。

<5>及び<6>については少し詳しく述べておきたい。

思春期・青年期の長期化したひきこもり事例の中には,家族だけが来談し,本人は治療や援助を求めようとする積極的な動機づけに乏しい,あるいは,自ら問題を解決しようという能動性・積極性を半ば放棄してしまっている人がいる。こうした状況は,本人が自ら治療・援助を求めて来談してくる場合に比べて,本人との関係づくりは明らかに困難である。

また,訪問を実施しなければ本人にアプローチできないこと自体が家族機能の低さの表れであることも少なくない。本人に適切な励ましを送ることができない,今後の生活設計や進路選択について話し合えない,相談・受診の必要性を本人に説明・説得できない,問題の解決に向かうような有効な手立てを見出すことができない,あるいは,自分たちには問題を解決する力がないという無力感で一杯になっているときなどに,家族は"専門家の訪問"に頼ろうとすることがあるからである。そして,本人と家族との間で解決され得なかった葛藤状況を万能的に解決してくれる"救世主"のような存在として援助者・訪問者に期待を寄せている場合には,訪問者が否応なく,「自分こそがこのケースを何とかしなければならない」という心境に追い込まれたり,そうした役割と責任を自ら背負い込んでしまう事態が起きやすい 44)

自分がこうした事態に巻き込まれていることは,できれば訪問の前に認識しておきたい。というのも,こうした状況に置かれていることを自覚できていないときに,援助者は,そうとは意識しないまま,「バランス」,「常識」,「節度」を失ったまま逸脱行動に及ぶことがあるからである。

こうした事態に陥らないためには,訪問することになった経緯や理由,訪問を希望しているのは誰か,あるいは訪問の目的と方法,その実現可能性などを慎重に吟味することが重要である。とは言っても,家族から訪問を求められたときに,こうした考えに囚われて判断に時間をかけ過ぎたり,最もらしい理由をつけて訪問の実施を先延ばしにするのも良くない。援助者の態度に幻滅した家族は,その後の展望のないまま相談を中断してしまうことがあり,その結果,有効な介入が年単位で先延ばしになる事例を少なからず経験するからである。

(2)初回訪問に至るまでの準備

本人の暴力行為や強迫行為の家族への巻き込みが激しいときなどは,家族や身近な援助者から緊急の訪問を要請されることもある。相談者のニーズに速やかに応じるという姿勢が必要であることは言うまでもないが,家庭訪問は多くの人的・時間的コストを要する援助手段であり,1回1回の訪問の質を向上させていく工夫も必須である。そのためには,援助者なりの見立てを描き出せるような事前の情報収集と整理,あるいは本人の了解を得る手続きなど,初回訪問までの事前準備について検討してみることも重要である。

こうしたプロセスにおいて,家族との関係を深めることは重要な支援課題の一つである。そのためには,まずは最初に来談した家族を第1相談者として受け止め,相談に至るまでの苦労や努力を充分にねぎらいつつ,家族が何にどのように困っているのかを把握する必要がある。また,事前準備の過程で家族が落ち着きを取り戻してきたり,本人の状態が安定してくる,本人が来談・訪問に同意するなどの進展がみられることがある。

以下,訪問するまでの事前準備として必要と思われる項目を列挙してみたい。


ア 事前の情報収集

身体的・精神的疾患の有無,本人の生い立ちや養育環境などを含む生育歴,これまでの相談・治療歴の有無や経過などは,医療の必要性や精神医学的な判断が必要な場合には必須の確認項目である。また,青年期のひきこもり事例の中に広汎性発達障害を背景とする事例が含まれていることも分かってきており ),母子手帳や幼稚園・保育園の連絡帳,小・中学生時代の通知表などを参考にするなどして家族から発達歴を確認しておくことも,本人・家族へのその後の関わり方を考えるうえで役立つことがある。

また,本人の生活の様子や本人の言動などの情報を家族から得ることを通して,本人と家族がどのような気持ちで日々の生活を送り,どのような事柄について,どのように困っているのかについて,想いを巡らすことを試みてみたい。暴力のみられる事例については,本人の言動にみられる特徴や,本人の同意を得ないまま訪問を実施した場合,本人がどのような反応を示すであろうかを推測すること,暴力の出現が予測される場合には,その対象や程度を推測しておくことも必要である。

これらと同時に,本人や家族の健康的な側面(ストレングス)を認識しておくことは,本人・家族との関係づくりや援助の糸口を見出していくうえで重要であろう。たとえば,「うちの子どもは仕事が続かず,5回も解雇されている」,「何もできない」と家族が訴えているときに,「5回も就職できた」,「求職活動を進める力は充分である」とリフレーミング(意味づけを変換)したうえで,これまでの職業選択は適当であったかどうか,採用された後,実際の勤務を通して難しく感じられたのはどのような場面であったかなど,真に必要な支援課題を絞り込み,課題に取り組む動機づけを高めることができるかもしれない。

イ 訪問の目的を設定する

できれば,その時点で得られている情報をもとに,当面の短期的目標と中期的・長期的な支援目標を立てておきたい。一般的に,ひきこもりケースに対する訪問の短期目標としては,数回の訪問で本人に会える,もしも初回で本人に会えれば,短時間のやりとりをして,次回につながるような支援関係を形成するというくらいが順当なところであろうか。 

中・長期的な目標や訪問活動のゴールとしては,訪問者との面接を来所型の相談に切り替えて継続する,訪問者が所属する支援機関の支援プログラムを利用できるようになる,他の生活・就労支援機関の支援プログラムや医療機関につながる,などが考えられる。また,精神科の外来治療や入院治療につなげる,児童相談所で一時保護するなどの強力な介入を想定して初回訪問に臨む場合もある。

ただし,数回の訪問で目標を達成したり,何らかの変化を生じさせることに固執するよりも,達成できなかった目標について援助方針や目的の設定が適切であったかどうかを検討する,事例の理解や支援方針を再検討するなど,粘り強い姿勢が重要である。また,家族が訪問という介入手段や"専門家"の支援に対して万能的な期待感を抱いていることがあるので,家族が訪問に何を期待しているのか,援助者ができることとできないことなどを家族と話し合い,訪問の目的や目標を家族と共有しておくことをお勧めしたい。

ウ 訪問することを他の家族や本人に伝える

一般に,来談者以外の家族や本人の了解を得たうえで訪問することが推奨されている。予告なしに訪問することは,本人にとって侵襲性の強い体験となり,ひきこもりを強化してしまうことも考えられる。まずは家族から援助者が訪問することを伝えてもらう,または手紙を渡してもらうなどして,訪問に対する本人の反応を確認するのが一般的であろう。また,援助者が訪問に行きたいと考えていることを家族から本人に伝えてもらうことで,家族と本人とのコミュニケーションが再開する契機になることがあるかもしれない。来談者以外の家族が訪問に同意しているかどうかも確認しておきたい。 

ただし,本人が深刻な精神医学的な問題により現実検討能力が低下している,激しい暴力が続いている,生命に関わるような危険が生じているなどの局面では,本人や来談者以外の家族の意向が確認できないまま訪問を実施することはあり得る。こうした場合でも,できる限り本人の意思を尊重する姿勢には変わりはないが,事例の緊急性や強力な介入の必要性,介入の法的根拠などを冷静に判断することも必要である 44)。こうした判断の根拠や介入方針の検討に困難を感じる場合には,地域の市町村や保健福祉事務所,精神保健福祉センターなどに助言を求めることをお勧めしたい。

エ 訪問のセッティングを工夫する

事前に得られた情報から,訪問するのならば何曜日の何時頃が良さそうか,どの場所で本人に会うのか,どのような話題を選べば本人と話ができそうかなどを検討する。また,訪問に対する本人の反応を予測しながら,訪問する側の人数,職種,性別や年齢層,経験年数などを検討しておく必要がある。暴力行為が激しい対象の場合には警察官などとの同行訪問を検討する,新人職員が担当の場合は経験の豊富な職員と同行訪問するなど,援助者側の安全を確保することも忘れてはならない。本人との間で良好な関係を形成している関係者がいる場合には,その人に同行してもらうことも工夫の一つである。

また,子どもがひきこもっていることや,そのことで相談機関を利用していることを近隣の人に知られたくないと思っている家族も多い。訪問時に機関名の入った車は近くに止めないでほしい,制服では来ないでほしいなどと依頼される場合もあるので,事前に確認が必要である。 

オ 関係機関との情報交換

訪問前の準備として,関係機関との事前の連絡・協議が必要な場合がある。教育関係機関や児童相談所,医療機関などがすでに関わっている場合や,それらの機関と連携を図ることが必要な場合には,家庭訪問を実施する場合にも,他機関の合意や了解を得ておくことが必要な場合がある。ただし,家族の同意を得ずに他機関と情報をやりとりすることは原則として厳禁である。

(3)訪問・面接の進め方

訪問というセッティングは,来所型の相談よりも想定外の出来事に出会うことが多く,援助者の想定どおりに構造を維持することが難しい。会いたくないと言っていた本人が部屋から出てくるなど,援助者側の予想していなかった事態が起きることもあり,基本的には状況に合わせて臨機応変に,家族や本人の意向に沿って進めていく柔軟さが求められる。

以下,本人に会えた場合と,本人には会えなかった場合に分けて,訪問場面におけるいくつかの留意点について述べてみたい。


ア 本人に会えた場合

<会えたことを大切にする>


ひきこもり事例,特に暴力を伴う場合,初回の訪問で本人と会って話ができる機会は決して多くはない 39)。また,本人は援助者と会うだけでも相当な努力をしているかもしれない。まずは,「よく顔を出してくれた」,「会えて嬉しい」といった気持ちを伝えることが重要であると思われる。

<自己紹介>


原則として,訪問者は自分の身分や職業,訪問の目的などを正確に伝える必要があるが,本人の現実検討能力が著しく低下しているために強制的な介入が必要とされるような局面や,専門職の介入を過剰に被害的に体験することが予測されるような状況においても,「常に本当のことを述べるべきである」とマニュアル化するのは難しいようにも思われる。

ただし,「自分の職種や立場をそのとおりに名乗れない」,「何とか解決の糸口を見出すためには身分や訪問の目的を偽ることも致し方ない」といった判断は,通常の人間関係や治療・支援関係においてはあり得ないことであり,そのような判断に至った場合でも,「常識的ではないことをしている」という自覚は常に必要である。それしか方法がないと感じられるときには,家族関係の問題に援助者が過剰に巻き込まれている可能性なども充分に検討するべきである。

また,支援関係の形成を焦るあまり,援助者自身のプライバシーや個人情報を開示して本人との共通点を強調すること,本人が援助者個人に対して抱く興味・関心を支援関係の形成に利用しようとすることなども,程度,節度をわきまえた慎重な姿勢が必要である。有効な支援関係と親密な人間関係とを単純に混同してはならない。

<面接の内容・テーマ>


対象が小学生・中学生年代の場合には,自分の内面に起こっていることを言語化する力がまだ充分に育っていないことがある。青年期事例においても,訪問によってようやく面接することができた本人は,治療・援助に対する積極的な動機づけが乏しい,対人緊張や回避傾向が強いなど,自ら来談する人に比べて援助・相談関係の形成が困難,ないしは慎重な配慮を要する場合が多いと考えるべきであろう。自分がどのような経過でひきこもっているのか,どのような気持ち・心境で過ごしているのかなどをすぐには語れない人も多く,訪問前の情報収集の内容を活用し,毎日の生活パターンや趣味,楽しみにしていることや特技など,本人にとって話しやすく侵襲性の少ない話題を取り上げるなどの工夫により,スムースに面接に入っていけるかもしれない。

また,著しく緊張感の強い人や発達障害圏の人との間では言語的な面接が難しい場合があり,一緒にゲームをする,筆談を交えるなど,言葉でやりとりする必要のない面接の進め方を工夫することが有効な場合や,訪問に至った経緯や今後の方針,あるいは訪問者の考えや印象,感想などを簡潔・明確に伝えることを意識すると,クライエントに「分かりやすい」と体験され,援助者−クライエント関係が安定しやすいことがある。

一般に,ひきこもる本人との面接において,本人の内面に侵入しすぎてしまう,子どもを傷つけてしまうといった不安を抱く援助者は多い。とくに家庭内暴力がある場合には,面接後の暴力的な反応を恐れ,援助者は当たり障りのない話題に終止してしまう傾向がある。その結果,訪問が継続できたとしても,本人が抱えている問題の本質的な部分に触れることができないまま経過したり,本人の生活状況には全く変化が生じないこともある。

訪問面接を重ねる中で,いずれは解決すべき課題について話し合えるようになることが目標となるが,どこまで侵入的な態度を控えるのか,いつ頃から本人の内面に介入してゆくのかといった迷いやジレンマは,情緒的な交流を回避し,内的にひきこもっている人との面接では常に直面することである。

<本人の様子や部屋の中の様子の把握>


家庭訪問においては,家族や本人との面接内容だけからでなく,本人の身だしなみや外観,家族とのやりとりの様子,部屋の状態,居住地の環境なども併せて把握する。とくに,食事や睡眠などの健康状態,清潔の保持などのセルフケアの力,家族の疲労の度合いを確認することは,介入の緊急性を判断するためには重要な項目である。身体的衰弱が激しい場合などには,医療機関や保健師などへの速やかなつなぎが必要である。

<次回訪問の約束>


初回訪問では,本人,援助者ともに緊張が高いため,早めに終了することが推奨されている 46)。また,訪問を継続した方が良いと判断した場合には,面接を終了する前に次回訪問の日時を約束しておくと,援助の継続性を確保しやすい。

イ 本人には会えなかった場合

<その後の援助について>


ひきこもり事例の場合,家族を対象にした訪問を何回か実施した後,初めて本人に会えたという経験をしている援助者が少なくないようである。訪問前には援助者に会うと約束していても,そのときになると,「やはり会いたくない」と態度を反転させる人もいる。特に,暴力をともなう事例への訪問では初回から本人に会えることは少ないが,そのような場合でも,「会いたい」というメッセージを家族から伝えてもらったり,家族相談と並行して自宅への訪問を続け,本人の部屋のドア越しに声を掛ける,あるいは本人宛の手紙やメモを残すなどの働きかけを続けることで暴力が改善することもある39)

<家族面接に臨むときの姿勢>


本人が援助者と会うことを拒んだとしても,訪問してきた援助者に対して強い関心を寄せていることがある。こうした場合,家を訪れてきた援助者の振る舞いや家族との会話の内容,訪問が終わった後の家族の表情や態度などから,自分の気持ちに耳を傾けてくれそうな人かどうかなど,援助者・訪問者に対する見立てが行われているかもしれない。

あるいは,本人と家族が対立していたり,著しく関係が悪化している状況では,家族とやりとりしている援助者は,それだけで「家族と結託している」と解釈されるかもしれない。本人の同席なしに家族と面接するときでも,本人の存在を意識し,本人の立場や気持ちを尊重する姿勢が必要である。また,会いたくないという気持ちを尊重することが,本人との関係づくりに有効であるという意見もある。

ただし,外界への関心や現実検討能力が著しく低下している場合,訪問者イメージが著しく歪められて空想されている場合などには,こうした配慮や気遣いはまったく報われないばかりか,むしろ有効な介入を遅らせる原因になることもあり得る。援助者には,会うことができていない本人が訪問をどのように体験しているのかを画一的に判断することはできないことを自覚するべきであり,さまざまな情報を組み合わせて,できるだけ総合的に推測・判断する姿勢が求められる。しかしそれでもなお,訪問によって本人に変化がみられるかどうか,経過を追って判断する以外には方法が見出せないことも少なくない。

(4)初回訪問後のフォロー 

<1>継続性の確保と訪問の頻度


ひきこもり事例の場合,本人や家族状況に何らかの関係が生じるまでに,ある程度の期間を要することが多い。基本的には,性急な解決よりも,まずは訪問を継続することや本人との関係を形成・維持することを重視するべきであろう。

継続的な訪問に際して,どの程度の頻度で訪問するのが良いかについては,まだ充分に検討されていない。福祉保健分野の公的支援機関では,関係機関との交代制をとったり,家族の来所・電話相談なども取り入れながら,月1回程度の訪問を継続するのが一般的であるが,週に2回など,より集中的な訪問が有効であるという支援経験を述べる援助者もおり,今後,訪問の頻度についても検討が必要である。

<2>他機関,とくに医療機関につなぐ援助


訪問の結果,医療機関や他の相談機関に本人や家族を紹介する必要性が明らかになることがあるが,実際に医療機関につながるまでには相当な援助期間を要することも少なくない。

また,他機関を紹介した時点で援助関係が途切れることもあり,他機関への紹介・つなぎには慎重な配慮が必要である。紹介先の所在地や連絡先を伝えるだけで良いのか,先方の担当者との間に入って日時を調整する,あるいは初診や初回相談に同行することが必要な場合まで,他機関への紹介にあたって必要となる支援の程度は事例によってさまざまである。紹介と同時に支援が終了することばかりではない。しばらくは本人や家族が次の援助者との支援関係を築けるよう見守ることが必要な場合もある。

とくに医療機関につなぐときには,保健所の嘱託医に訪問への同行を依頼し,顔見知りになった医師が勤務する医療機関を初診してもらうなど,できるだけ無理なく外来治療や入院治療に導入できるよう工夫したい。

<3>家族への支援


10代の子どもがひきこもってしまうと,家族,特に母親にとっては,それまで培ってきた交友関係や地域社会からのつながりを断たれてしまい,子どもと同様に家族も孤立した状態に陥りやすいことが指摘されている。家族内では子どもとの密着した生活が続いている場合などには,そのことが子どもの社会参加の阻害要因になったり,子どもの回復が親の喪失感や抑うつを引き起こすこともある。また,他の家族員が身体的・精神的な健康問題や障害,経済的問題などを抱えていることもあり,こうした場合には,子どものひきこもりだけでなく,家族全体を視野に入れて支援を組み立てていく必要がある。

(5)援助者自身へのサポート

訪問活動においては,援助者に対する本人や家族の期待や依存が強まると同時に,援助者の側にも,「自分こそがこの人を何とかしてあげなければ」といった万能的な感覚や,本来は家族や本人自身が取り組むべき責任性までも援助者が肩代わりし続けてしまうといった事態も起きやすい。その一方で,援助者が心理的に巻き込まれないことばかりに気をとられているために有効な支援が展開できない場合もあるが,いずれにしても,担当援助者がクライエントや家族との関係性を振り返り,自らの関わり方を検討・調整することは簡単ではない。

さらに,福祉保健分野における訪問について上記したように,訪問後,比較的早い展開が生じる事例がある一方,かなり長い経過を経て徐々に有効な展開がみられる事例,あるいは年単位の働きかけによっても全く変化が生じない事例もあり,継続中の訪問が効果を上げているのかどうか判断に迷うことも少なくないので,訪問を続けている援助者が事例検討会に参加したり助言を受けることができる,専門家のスーパービジョン 47) を受けられるなどの研修体制や関係機関との連携体制が整えられていることが望ましい 48)


 山梨県立精神保健福祉センター所長/山梨県中央児童相談所副所長 近藤直司

 東京都精神医学総合研究所精神保健看護研究チーム技術研究員 新村順子

 東京都精神医学総合研究所精神保健看護チームリーダー主任研究員 田上美千佳

46)厚生労働省,2003,『10代・20代を中心とした「ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン』,じほう
47)対人援助職者が専門家としての資質の向上を目指すために受け持ったクライエントに対するカウンセリングを指導者(Supervisor)の前で報告または指導を受ける教育方法
48)渡辺 健,2004,「クライシスが聴こえる−危機に臨むこころ」,『現代のエスプリ445,訪問カウンセリング』,pp108-114.至文堂
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