本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第5章 > 第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法
ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

3 「施設型」支援とは異なるアウトリーチの特殊性

(1)アウトリーチはその目的で4つの類型に大別される

子ども・若者育成支援推進法が支援対象とする子ども・若者(以下,「若者」という。)の年齢層は0歳〜40歳までと幅広く,その状態も不登校,非行からニートに至るまで多様である。他方,援助者の素養や所属する組織体制も異なるため,一括した概念では論点が絞りにくい。そこで,まずは平成19年度「若年者向けキャリア・コンサルティング研究会・作業部会」で分類されたアウトリーチの4類型に沿って各形態の概要をまとめてみたい。

ア 若者自立支援機関に誘導するための家庭へのアプローチ「機関誘導型」

家庭での訪問活動のうち,支援機関への誘導を目的とする短期の訪問支援を指す。フリースクールや宿泊型自立支援施設,保健所等公的支援機関,地域若者サポートステーションなどで取り組まれている。援助者の役割が明確であるため,対応の方針や支援計画が比較的立てやすい。

イ 直接的自立支援を行うための家庭へのアプローチ「関与継続型」

家庭での訪問活動のうち,直接的な支援を目的として実施する比較的長期の訪問支援を指す。学齢期の不登校を対象とした家庭教師方式の活動から専門家による訪問カウンセリングに至るまで多様だが,第三者が継続的に家庭内へ入ることによる環境への影響力は四つの類型の中で最も大きい。

ウ 支援対象者を発掘し,接触するための関係機関へのアプローチ「機関連携型」

教育機関,矯正保護機関,保健福祉機関等,若者が結びついている機関へのアウトリーチを指す。各機関が連携することによって進路未決定者や他機関の支援が必要な若者などを対象機関に円滑に誘導することができる。各機関とのケース共有によって連携がとりやすい。

エ 支援対象者を発掘し,接触するための若者の集まる居場所へのアプローチ「直接接触型」

家庭での支援が難しい若者に対する居場所へのアウトリーチ。公園や繁華街,ゲームセンターやネットカフェ,パチンコ店などの遊技場,暴走行為の集会といった若者の集まる場所に出向き,直接接触を図る。保護者からの情報が得られにくい若年ホームレスや非行傾向の若者へのアプローチも可能となる。

(2)相談室対応とは異なる現場の特殊性を理解する

本稿では,以上の類型のうち,比較的難易度が高い「機関誘導型」,「関与継続型」のアウトリーチを中心に話を進め,とりわけ公的支援機関では,ノウハウの蓄積が不十分と思われる「関与継続型」に力点を置きたい。次に支援の方向性を探る際の前提となる事柄について相談室対応との違いに着眼しまとめてみよう。

ア 対象となる若者は困難事例が多い

アウトリーチは「家庭」や「居場所」といったプライベート領域への介入を伴うため,相談室などの限定的な枠組で行われる支援に比べ,当事者の負担感や抵抗感は非常に強い。従って,依頼が寄せられる際は,そのマイナス面を凌ぐ相応の問題が生じた段階にある場合が多く,相対的に困難事例の割合が高くなる。

このような「最終手段」としての利用の場合,ほとんどの支援対象者は既に複数の支援者の関与や専門機関による支援経験を有している。多様な関わりを経て,なお改善されなかった若者に対して,援助者が相談室対応の延長といった感覚でアウトリーチに臨むとすれば,支援への誘導はおろか,インテークの段階で決定的な失敗を招く危険性もある。

イ 若者の相談意欲がない状態が前提

不登校やひきこもり,非行等による社会的孤立の長期化は,2次的な困難を生み易い。もとより不適応は対人関係上の問題を一因とする場合が多いが,孤立による限られた人間関係は,社会性の発達を遅れさせ,対人関係上の苦手意識を強めてしまう。

その状況に至るまでの経緯や環境によっては,対人恐怖,強迫神経症,不安障害,うつ病などの精神症状を発症している場合も少なくなく,複数の支援者の関与を経験している若者であれば,失敗から無力感や絶望感を抱いたり,過去の支援者とのトラブル等から「支援」そのものに不信や疑心を持つ者も稀ではない。

このような諸要因からアウトリーチの現場では,若者の相談意欲がない状態での対応が求められ,彼らの閉ざした心を開き,相談意欲を高めるための高いカウンセリングスキルが求められる。

ウ 事前情報と生活場面で得る情報には差異がある

当事者が現状に対して適切な認識を持たず,表現能力に乏しい場合,相談室での見立ての精度を保つことは容易でない。特に対人関係や生育環境の理解という点では,必ずしも当事者が客観的に状況を把握しているとは限らず,保護者面談で得られる情報だけでは,援助者が見立てを誤り,適切な対応ができない場合もある。

以下に実際に筆者が訪問現場で関わった事例を簡潔に示す。

【事前情報】問題行動を繰り返しADHDの疑いで通院を勧められた男児

  【実情】両親の離婚問題と母親のネグレクトが要因

【事前情報】対人関係のトラブル(主にいじめ)と性格的な問題とされた非行傾向の少女

  【実情】ドメスティック・バイオレンス,父親からの性的虐待が影響

【事前情報】親からは怠け,医師からは社会不安障害と診断された若者

  【実情】母親の精神疾患と発達障害

いずれも訪問前の保護者や関係者面談の情報のみで見立てを行えば,事態の悪化が懸念された事例である。実際,複数の支援機関の関与を経ても長期化している事例を分析すると,このような見立ての誤りが少なからず存在する。

こういった観点からもアウトリーチによる生活場面の共有は大きな意味を持つ。相談室対応では把握できなかった問題に関しても直接アプローチする事が可能で,生活場面から得られるさまざまな情報を基に精度の高い見立てを行い,その時々の状態に応じたきめ細かい支援が実行可能となる。

 エ 訪問現場では「関係性」の多角的分析が必要

相談室対応における一対一の面談形式と異なり,訪問現場における相談活動は流動性が高く適切な枠組の設定が難しい。援助者が若者との個別面談を望んだとしても突然,友人や家族が割り込んできたり,若者と共依存の関係にある保護者の場合,援助者が若者から信頼を寄せられ始めると途端に非協力的な姿勢に切り替わることもある。また,ウで述べたように関与継続型の現場では,家庭内の問題に触れる可能性も高い。援助者の対応次第では,対立構図に巻き込まれ,若者との接触はおろか,保護者との関係も崩れ訪問自体を拒絶される危険性もある。

-
本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁