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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

4 アウトリーチはその後の支援過程と一体のもの

このように自立困難層を対象にしたアウトリーチにおいては,援助者が現場の特殊性に即したノウハウを修得していない場合,本来の目的を達成するどころか,双方にとって極めて高いリスクを負った活動となり得る。また,複合的な問題を抱える若者への対応を前提にした場合,一個人,一団体でできることには限界があり,リスクマネジメントの観点からも「アウトリーチはその後の支援過程と一体のもの」といった考えに立つことが重要と筆者は考える。そこで,次に援助者が活動に携わる際の実施体制について考察したい。

(1)若者の状態と支援介入困難度に応じたチーム対応が原則

訪問の形態は,一般的に援助者2名1組でのペアでの対応が推奨されている。主に危機管理の点で強調される場合が多いが,現場の複雑な関係性を考慮した場合には,役割分担が効果的であることからも,導入段階では「原則」として推奨したい。また,幅広い対象者を想定した場合,訪問するペアの組み合わせや若者とのマッチングも重要で,少なくとも図5−8に示すように若者の状態と支援介入困難度に応じた援助者の選定が必要になる。一般的には,保護者対応や危機管理ができる熟練者と若者との関係づくりに有利な若手援助者とのペアが有効と考えられる。

但し,複数人での訪問が逆にリスクを高めてしまう場合も想定されなければならない。対人不安や強迫観念等が強い若者など,止むを得ない理由がある場合に限るが,<1>本人の状態および現場のアセスメントが進んでいること,<2>本人が受入可能な訪問の枠組(例えば訪問理由や条件など)が整っていること,<3>援助者が危機管理を行える熟練レベルの援助者であることを必須条件とし,単独での訪問を検討する余地は残したい。

図5−8 介入困難度と対象者の状態で分類するアウトリーチ
図5−8 介入困難度と対象者の状態で分類するアウトリーチ

(2)援助者の活動を支える体制を確認する

アウトリーチは援助者にとって最も負担が重い支援手法の一つである。実際,相談室対応に比べバーンアウトのリスクも高く,援助者の活動を支えるためのバックアップ体制は極めて重要になる。

まず,スーパーバイズや援助者の訪問の失敗をフォローできる「熟練レベルの援助者」が所属していることは必須だ。アウトリーチが最後のセーフティネットであることを考えると,万が一の事態を想定したリスクマネジメントは重要で,「指示に従わなかったから悪い」「約束を守らなかったから悪い」といった失敗の責任を当事者に帰すような無責任な対応は許されない。

次に,社会参加までの一連の流れを考えれば,教育,医療,福祉分野の専門職の関与によるチーム対応は必須と言える。長期化・深刻化した状態にある若者への支援に関しては,心理面だけでなく,対人面,学力面,職業面,環境面等々,多面的にアプローチする必要があり,多角的な視点を欠くと改善できずにさらなる悪循環に陥るケースもある。

また,組織内に「多様性」が確保されていることも重要だ。たとえ複数の臨床心理士が所属していたとしても皆が同じ精神分析を専門とするならば対応に偏りが生まれる可能性がある。また,価値観,慣習,文化等,急速に変化を遂げる現代社会では,世代の違いが相談活動の障壁にもなり得るので,各世代の援助者を確保したいところだ。

(3)支援ネットワークを構成することで不備を補う

援助者が所属する組織にこれらの体制が整っていない場合は,外部機関との連携も含め,活動を支える仕組みづくりに着手する必要がある。ネットワークの重要性については,他章で述べられたところなので,訪問現場における個人情報の運用に論点を絞りたい。

行政からの委託事業などでは関係機関への円滑なリファーを行うために当事者から個人情報の提供については書面による同意を取ることが推奨されている。しかしながら現場では,困難事例であればあるほど,その書面がとりにくい現実がある。

例えば,問題行動で教員や警察との対立を経験している若者の場合,公的機関に強い警戒心や不信を抱いていることもある。また,ひきこもるなどして被害念慮や強迫神経症など精神症状を有する場合には,ただでさえ第三者に握られたくない情報が複数の関係機関で共有されることに同意できる当事者は稀だ。

こういった現場の状況を踏まえると,書面にこだわり若者から支援を拒絶されるよりも,運用面での工夫を重ねることで対処する方が望ましいと筆者は考える。端的に言えば,「必要性の低い情報は共有しない」ということである。例えば,連携機関に受入の可否の伺いを立てる段階で,状態や状況といった基本情報ならまだしも,氏名や詳しい住所,連絡先等の個人を特定できる情報の提供は必要性が低い。そこで,受入が可能と判断された段階で初めて運用を検討する。困難事例に対する比較的安全な対応は,若者が同席している間に連絡・仲介・引継ぎを行ったり,当該機関へ随行しその場で引継ぎを行うなどの踏み込んだ対応である。

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