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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

5 若者と出会うまでの準備が成否の鍵を握る

従来型の訪問支援は「ドアを開けてから」の過程がノウハウとして語られることが多いが,前述のような現場の特殊性を考慮すると,事前準備に係る作業がアウトリーチの成否の鍵を握るといっても過言ではない。

この段階で,いかに本人との関係性を築き,受入れ可能な面談の枠組を作れるのか,援助者としてのスキルが問われる過程の一つだ。ここでは,情報収集から初回訪問の設定までの留意点をまとめたい。

(1)若者との関係性の構築を前提としたインテーク

アウトリーチの実施に当たっては,基本的に保護者等家族との面談がスタートラインとなる。少なくとも以下の項目については押さえておきたい。

【インテークの主な項目】

ア 一般的な相談情報(現状や経緯,主訴,家族関係等)

詳細な情報が手に入るのであればそれに越したことはない。しかしながら若者同様に保護者も思い悩み,疲弊している可能性も十分考えられるため,保護者自身の話の流れの中でうまく聴き出すよう心掛け,あくまでこちらからの問いは必要最小限のものにとどめたい。また,保護者の言動の特徴や心理的な状態を把握する必要がある場合は,面談を数回に分け,その時々の変化を踏まえ判断する方が望ましい。

イ 支援経験やその後の経過

複数の支援を経験している場合は,過去の援助者がどういった対応,働きかけを行い,その結果,本人はどういう反応を示したか,言動や状態の変化などを具体的に把握することが重要になる。過去に関わり方の好例があるのであれば見習い,失敗があるのであれば,同じ轍(てつ)を踏まないよう対応の際の教訓にする。

ウ 訪問に対する同意の有無

インテークの段階で既に保護者が若者から同意を取っているという場合は,その際の具体的なやりとりを押さえておきたい。例えば,会話が成立しない状況にある家庭において,「嫌だったら嫌とはっきり言いなさい」といった確認の取り方では,若者が無視していることを保護者が同意したとみなす場合がある。通常ではあり得ないことではあるが,一刻も早く訪問してもらいたいと願う保護者の焦りは曲解を生むこともある。 

エ 好き嫌い,得意不得意,興味関心(具体的に)

若者の価値観にチャンネルを合わせることは,導入の糸口を探る際に必須の過程である。複数の心理・医療系の専門家のカウンセリングを受けている若者の場合,「どうせあんたも○○って言うんだろう」と言葉かけや対応の仕方を若者が先読みすることがある。過去の経験から「専門家」の関わりに不信や諦めを抱く若者に対しては特に,まずは本人の興味・関心から導入を図り,彼らの価値観にリンクすることが突破口になり易い。

オ 回避事項(やってはいけないこと,避けるべきこと等)

若者との関係性が構築されるまでは,何気ない一言が決定的な失敗につながることもある。そこで,保護者との間に揉め事がある若者の場合は,そのきっかけとなるキーワードや話題,イジメ経験など過去にトラウマを抱えている場合は,その内容などについて援助者が把握しておけば,より円滑に相談活動へと移行することができる。

カ 生活リズム(起床・就寝時間,習慣,行動等)

誰しも気分には浮き沈みの「波」がある。初期訪問の成功率を上げるためにはこういった「波」を読んだ配慮も必要だ。具体例を挙げれば,「昼夜逆転している若者の家庭に午前中に訪問しない」「本人が楽しみにしている時間帯(定期的に見ているテレビの時間など)は避ける」ということである。援助者の都合を優先してしまい,本人の気分を害してしまっては無意味に導入のハードルを上げてしまうので注意したい。

(2)若者にとって受入れ易い枠組を設定する

このように本人との関係性の構築を想定したインテークで得られた情報を基に初回訪問までの流れを作る。重要なのは,若者にとって受入可能な訪問の枠組を設定することで,保護者等を介した間接的な情報のやり取りを通じて,最終的に「一度だったら会ってもよい」程度の同意を得ることを目標としたい。

ア 「活きる」情報の提供で抵抗感を和らげる

学校に所属する若者や生活保護家庭に対する義務的強制力を背景にした家庭訪問と違い,本稿が想定する困難事例に対しては,単純に援助者が所属する組織や訪問の目的を告げても拒絶される可能性が高い。それゆえ,若者の警戒心や抵抗感を和らげるための事前の働きかけが重要となるが,原則は「具体的なイメージ」を提供することだ。

対人不安が強い若者の場合であれば,援助者はどういった人物なのか,若者が安心感や親近感を抱けるようなエピソードに沿って情報提供するのが有効だ。複数の支援を経験した若者であれば,これまでの援助者と何が違うのかについて明確にすることも効果的と言える。この際の留意点は,単なる自己アピールにならないことだ。あくまでも援助者を受け入れるか否かの判断は,若者の感覚,主観であることを踏まえ,若者にとって受入れ易い存在として導入を図ることが望ましい。

他方,訪問の際の状況を具体的にイメージさせることも抵抗感を和らげる手段となる。援助者がどういった目的で訪れ,どんな話題・情報を提供し,その際親は同席するのかしないのか,本人はどういった受け答えをすれば良いのかなど,必要に応じて状況を具体化することで不安を軽減することができる。その際は,<1>情報を数回に分け伝え,<2>反応を見ながら,<3>徐々に発展させていくことがコツだ。

但し,情報を伝え方や伝える人物次第では逆効果につながることがある。特に考慮したいのは,親子関係の状態で,口論や家庭内暴力が頻発するなど対立構図にある場合,保護者を通じて若者に働きかけても「敵の回し者」として認識され状況が悪化することがある。

こういった状況が想定される場合は,関係性が良好な他の家族や過去の援助者などの第3者を経由した若者への働きかけや,手紙やE−mail,インターネットを使った援助者による直接的な関わりも検討すると良い。

イ 間接的な関わりを通じてアセスメントを強化する

このように訪問開始前に若者に対する間接的な働きかけを行うことは,アセスメントを強化するという点で副次的な意味合いを持つ。

保護者は,あくまでも「親」であり,「専門家」ではない。言うまでもなく,保護者が見立てた本人情報が必ずしも若者の実像を反映しているとは限らず,仮に保護者自身も何かしらの困難を抱えているようなケースに至っては,その情報にも偏りなどの影響が出てしまうこともある。他方,保護者の協力という観点からは,たとえ援助者との間に固い約束事が交わされていても,いざ若者と向き合うと不安や焦り等が勝り,真逆の行為に出てしまう保護者も少なくない。

そこで,訪問開始前に複数回の面談を行い,その間の時間的・状況的変化の中で,情報を吟味することは,アセスメントを強化する上でも重要な過程と考えられ,また,「どういったやりとりがどこまで通じるのか」,援助者が保護者に期待できる協力の度合いをより現実的に把握することは,支援計画を策定する上でも有益だ。

ウ 支援計画は支援終了までの流れを見据えつつ策定する

このような過程で得られた様々な情報を基に,訪問目的,訪問形態,時間,頻度・関与期間等の大枠の支援計画を策定する。

その際は,<1>支援終了までの過程全般を見据えた系統的な内容にすること,<2>現場の流動性を考慮し臨機応変な対応が可能となるよう複線的計画と合わせてイメージすること,<3>限られたチャンスの中で効果的に関わりが持てるよう若者の興味・関心に沿った援助ツール(話題や情報,資料,道具等)を複数の準備することを心掛けたい。

以上のような前提となる考え方及び事前準備の過程を踏まえ,実際の訪問ではどのような留意点が必要なのか,ここからは図5−9に示すように関係性の変容に着眼した関与継続型のモデルを用い,各段階における援助者の在り方について論じていきたい。

図5−9 支援過程における段階的移行
図5−9 支援過程における段階的移行
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