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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

6 「ワン・ダウンポジション」から始める「導入期」

自発的に相談に訪れる若者との「イーブン(対等)」の関係に比べると,相談意欲が極めて低い訪問現場の若者との関係性は,むしろ援助者の「ワン・ダウンポジション(一段下がった立場)」で始まる。事前準備の段階での働きかけの結果にもよるが,この段階においては,多くの場合,援助者は若者にとって「招かれざる客」であり,信頼できる対象とは程遠い存在にある。まずは,若者が抱える不安や警戒心を解くことから始め,少なくとも援助者は「敵ではない」といった認識を得ることを目標としたい。

(1)積極的傾聴と「空気」を読んだ対応

「傾聴」はカウンセリングの基礎で,当事者の話に熱心に耳を傾けることの重要性は訪問現場での対応においても変わりない。だが,それ以上に場の「空気」を読んだ臨機応変な対応が求められるのも現場の特徴だ。

初回訪問の際の面談は,若者と保護者,援助者側の3者による設定が一般的だ。多くの場合,保護者は本人の代わりに現状や経緯,悩み等について話そうとするが,これを援助者が傾聴に徹してしまうと,思わぬ結果につながることがある。

相談室のように自発的に相談に訪れ,若者自身が必要性を感じているのならまだしも,信頼できるかどうか分からない初対面の人間に過去の失敗や悩み,コンプレックスに触れるような話を暴露されることは苦痛に過ぎず,「援助者の訪問」=「嫌な思いをする時間」として認識されてしまえば,次回以降に会えなくなる可能性も出てくる。そこで,事前に保護者と話題の方向性を取り決めておくか,突発的な話題に対しては,内容を見極め援助者側が別の話題にシフトさせることも必要になってくる。

他方,本人対応の際も聴きに徹することでマイナスに働くことがある。答えを待たれている間の静まり返った時間や会話の途切れた微妙な間は,自己表現が苦手であったり,不安,緊張が強い状態の若者には,気まずさやプレッシャーとして認識されることが多い。そこで,援助者側が積極的に話題を提供するなどして雰囲気をつくることも大切で,問いかけの際も「Yes or No」で簡単に答えられるよう質問を変換するといった配慮も必要だ。

いずれにしても程度問題であることには間違いないが,場の「空気」をしっかりと読むことを意識したい。勿論,この「空気」とは場当たり的なものではない。インテークで得られたさまざまな情報,面談の際の設定,その時々の若者の言動,表情や声,目線,仕草などから総合的に判断しながら適切に対応する,というもので,ある種の経験則を問われるスキルでもある。

(2)生活空間という「地の利」を活かす

相談室対応に比べて訪問現場が有利な点は,眼前に「生活空間」が広がっているということである。訪問の際は,若者の関心に沿った「ネタ」を複数準備する必要があるが,十分に準備ができない場合でも部屋には,本やゲーム,写真やポスター,CD,DVDに雑貨等々,話題には事欠かない。

この際,注意したいのは,心理学や自己啓発系の本の話題で,仮に部屋にそういった類の物がある場合は,若者のコンプレックスなどに触れる可能性があるので,状況が把握できるようになるまでは取り上げない方が無難だ。

他方,これらの対象物からは,言葉にできない本人の価値観や思い,心理状態や感覚といったものを知る手掛かりが得られるので,さりげなく観察すると良い。ごく稀に見立てのために心理検査やコラージュ,箱庭等を持ち込み,活用を図ろうとする援助者がいるが,多くの場合,関係性を崩す結果につながっている。あくまで自然な流れの中で,地の利を活かすことが肝心だ。

(3)目標は「敵ではない」存在としての謙虚な出会い

家族間に不和や対立がある場合の導入の際の留意点については,前述の通りであるが,往々にして,突発的な出来事は起こる。日頃の親子間の葛藤が強い場合,面談の際に保護者が突然,本人に怒鳴り出すといった事態も十分にあり得る。その際,援助者が保護者に任せ推移を見守るのか,あるいは保護者を制止してでも仲裁するのか,判断力が問われる場面だ。原則的には,まずは場を分けるなどして本人との個別対応に持ち込みたい。

他方,本人の問題発言に対する心構えも必要だ。不適応状態の長期化・深刻化は,物事の捉え方や考え方に偏りを生じさせ,反社会的な発想や言動を生むことがある。初期面談の際は,対人緊張や不安,混乱等の影響でこういった側面が強化され問題発言につながり易い。これを安易に援助者が諭すために否定したり,自らの考えを提示することは,時として関係を崩す要因になる。逆に「話してくれてありがとう」「君の味方だよ」といった言葉で真摯な姿勢を表現すると,イマドキの若者には「ウザい」「見下してる」といった否定的な感覚として受け取られる場合もある。そこで,「○○君は△△と思うんだ?」と否定も肯定もしない言葉で受け止めるか,「言うよねぇ〜」などその場を気まずくしない流行り言葉を用いて受け流すなど状況に応じた判断が必要だ。

この際,援助者側が若者に早く気に入られたいとか,理解してもらおうといった思いが先行してしまうと無理な条件の枠組を作ってしまったり,保護者対応に不備が生じて支援環境を損なう可能性もある。こういった観点からも導入期の目標は,「敵ではない存在としての謙虚な出会い」をイメージすることから始めたい。

(4)会えなかった時の丁寧な対応がその後の「信頼」を生む

「本人が同意したにも関わらず,訪問しても会えない」,「何度か会えたがその後部屋から出てこなくなった」援助者にとって,最も悩ましい事態の一つである。以下に会えなかった場合の基本的方針とアプローチ手法について例示したい。


ア 「ひきこもる」権利を尊重する

たとえ承諾を得た訪問であっても,援助者は自室にこもる権利を侵害してはならない。「顔を出してくれるまで」と言って持久戦に持ち込んだり,「帰るから」と告げておいて実際には待ち伏せしたり,「出てこなければこちらから」と言って強引に押し入るといった無理強いは,自傷行為や家庭内暴力,あるいは支援への不信やトラウマを生み,その後の自立の機会まで奪い続けるリスクがある。

そこで援助者側は,会えなくても無理せずに撤収することが原則で,まずはアプローチの方法に再考を加えることが肝心だ。その際は「いつ来るか分からないから不安」といった心理的負担をかけないように「○日後の△時ぐらいに出直してみるね」と具体的に日時を指定したり,他方,迷惑をかけたと自分を責めるような生真面目な性格の若者であれば,「また■■の用事で近くに来る時にでも顔出してみるね」といった配慮を持った語りかけで次の機会に備えたい。

イ 必要以上の保護者対応は行わない

「せっかくなので」と言って保護者と延々と話し込む援助者もいるが,多くの場合,良い結果につながらない。保護者との関係が極めて良好ならばその限りではないが,猜疑心から告げ口されていると感じたり,長時間家庭に滞在されることで心理的に追い込まれる若者もいる。そこで,保護者から求められても可能な限り,電話や別の場所での面談に切り替えるように心掛け,その場で話す必要があるのであれば,会話は「本人に聞かれていることを前提」に最大限配慮した内容にする。

ウ 発展性を持たせた援助ツールを活用する

手紙やE-mail,電話等の間接的な働きかけは使い方次第で高い効果を発揮する。複数の支援を経験した若者には,「会いたい」「話を聞かせて」といった内容の繰り返しは効果が薄く,「このままじゃ人生ダメになる」「ここまで時間かけてきたんだよ」といったネガティブな内容の手紙では若者を不快にさせるだけで破り捨てられるのがオチだ。

対応の方向性としては,援助者の訪問がポジティブなイメージとなるように工夫を凝らす。例えば,援助者側のイメージが十分に伝わっていないようであれば,援助者の人柄や考え方,価値観を推察できるようなエピソードを盛り込んだ内容にする。もしそうでない場合は,本人が興味・関心を抱いている内容から話を展開するのが基本的なスタイルだ。

その際のコツとしては,その日に起きた出来事や話題性のある内容を扱うことで,「自然体」を意識することだ。それから次回が楽しみになるような発展性のある話題,例えば連続ドラマのようにストーリーが進展するものを盛り込むと読んでもらえる可能性が高まる。その他,不安な気持が和むような絵や写真といった視覚的な工夫を凝らしてみたり,会話を苦手とする若者や場面緘黙などが見受けられる若者には交換ノート等を用いた交流がうまくいく場合もある。また,現代的なツールで言えば,インターネットを通じたチャットやオンラインゲーム上でのやりとりから本人と価値観のチャンネルを合わせ,現実の訪問へと発展させる方法もある。

エ 生活パターンに合わせた訪問内容に変える

若者の生活パターンに合わせ日時や回数を変えることが功を奏す場合もある。典型例は昼夜逆転のケースだが,午前中の家庭訪問はそもそも論としておかしい。また,家族間の不和など対立状態がある場合,家族がいない時間帯であれば,会えるケースもある。

他方,訪問の内容にも検証が必要だ。若者の心理的な状況によっては単独訪問に切り替えたり,援助者側の対応に不備があったとすれば,ペアを交代することも必要だ。あとは訪問の理由に工夫が必要な場合もある。「心の相談」といった若者にとって抵抗のある支援目的を全面に押し出すのではなく「情報提供」「家庭教師」等々,本人が受け入れ易い内容や表現に変えることがその工夫に当たる。もちろん,それが全くの偽りになってはならないし,援助者の限界を踏まえ,実行可能,継続可能な範囲に止めるよう留意したい。

(5)若者の心理状態に配慮して約束は交わす

約束を守ることは人間関係を円滑に保つ上での基本である。相談支援の場面でも同様であるが,特に限られた人間関係の中にある若者との約束には注意したい。いくつもの予定や仕事を抱える援助者と異なり,ひきこもる若者にとって家族以外との約束は唯一のものかもしれない。それが破られるとなると相対的に落胆の度合いも大きい。導入段階では特に信頼を得る切り口の一つであるため,約束した内容や訪問の日時などはメモを取るなどして必ず守るように心掛ける必要がある。

他方,この段階で若者側に安易に約束をさせることは,避けた方が良い。例えば「ピアノが弾ける」という話題が出たとしても,「次回聴かせて」と約束を取り付けてしまうと,その後,会えなくなる場合がある。援助者に認めてもらおうと虚偽の内容を告げてしまったり,弾けたとしても完璧にこなそうと自らプレッシャーでダウンしてしまう若者もいるためだ。そこで,もしこの段階で約束を交わすのであれば,「もしタイミングが合ったら」「○○君の都合が良い時に」といった曖昧な表現や幅ある言葉で,ダメだった時の理由を含ませておくと無理が来ない。

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