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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

7 若者から信頼を得て関係性を適正化する「安定期」

適切な関わりを続けると若者が抱えていた不安や警戒心が和らぎ,ワン・ダウンポジションの関係性も徐々に軌道修正される。この過程で若者との間に本来の意味での「援助者」としての関係性を築き,適性化することで,若者が抱える様々な困難にアプローチする。この段階の目標は,生活場面から得られる詳細な情報を基により精度の高いアセスメントを行い,困難の解消に向けた安全かつ確実な「第一歩」を支援することだ。

(1)効果的に「関係性」を構築するための話題のつくり方

関係性を構築していくに当たっては地道な関わりが重要であることは間違いないが,援助者にも無制限に時間があるわけではない。そこで,参考程度ではるが効果的な関わりについて,いくつかの視点を提示したい。

ア  「主役」であることを意識させる:家庭での活動では第三者との関わりが必要になる。長時間家族と話し込んだり,玄関先でコソコソ話すことは嫉妬心や猜疑心(さいぎしん)をあおり,関係をこじらせる原因になる。そこで,若者以外への対応は極力少なくし「特別な存在」として優先されていることを感じさせるのがコツだ。

イ  「意外性」を活用する:格闘技好きの若者に対して,「俺の兄貴は東大卒のプロボクサー」と言えば若者は「ウソだろ!」と疑いを持つ。だが,その疑わしい話題が事実であることが証明されればその意外性の分だけ信頼が生まれ距離感が縮まる。ただし,関心に沿うだけでなく,この種の話には「オチ」が必要で,笑えたり,ほっと安心できる程度の内容にすることが重要だ。

ウ  「秘密」を共有する:若者が悩みを打ち明けやすい環境を作るためには,援助者側の「秘密」を共有することが効果を発揮する場合がある。「実は俺△△なんだけど,これ○○には内緒ね。」といった話によって若者は自分が信頼されていると感じられる。ただし,内容は深刻なものは避け,笑い飛ばせる程度にするのがコツだ。

エ  「発展的な話題」を共有する:発展的な話題の共有は関係性の構築に役立つ。基本的に若者の興味・関心がある話題が前提となるが,連続ドラマの話,ゲーム,アニメ,釣りや音楽など毎回話題の展開が期待できるものが望ましい。若者が次回の訪問を楽しみになるように話ができれば理想的だ。

(2)カウンセリングが若者に与える「負」の影響

カウンセリングの原則は「肯定」と「共感」であり,援助者の受容的な関わりは孤立する若者にとって他者との結びつきを実感できる唯一の手段となる。こういった性質から問題の改善を伴わない状況下で恒常化・長期化すると,時として援助者への依存を生み,間接的ではあるが状態を悪化させることもある。現場でよく出会う事例は,このマイナス面の影響を受けた「ネガティブコミュニケーション」による孤立の深化だ。

通常のコミュニケーションには否定もあり,内容によっては流されたり,無視されることもある。会話が苦手な若者が受容的な関わりを求めようとすると,誰もが一度は耳を傾けてくれるような悩み相談をするしかない。繰り返すうちにより強い反応を求めてしまい,最終的には「死にたい」「殺したい」といった極端な内容でしかコミュニケーションができなくなる。こうなるといずれ周囲から敬遠され,ますます孤立が深まる。

とりわけ思春期から継続して孤立状態にある若者は,それだけでも社会性を養うための経験の機会を失っているわけで,「否定されることのない」コミュニケーションの影響も大きい。こういった観点からも援助者はメンタル面,環境面での諸問題の改善に並行し,社会適応に向けたトレーニングの場や機会を意識的に提供していく必要がある。

(3)悪循環を断って前に進むための「認知行動療法」

認知行動療法は,「認知」と「行動」の関連に着眼した心理療法で,行動に影響を与えている考え方や価値観などの認知的問題の修正によって行動の客観的な改善を図る際に役立つ技法である。無論,相談室での心理療法のように形式に従った導入は難しいが,訪問の中で起きるさまざまな変化の中で応用的に用いることで,本来の有効性を発揮する。

たとえばいじめ被害などからひきこもり状態に陥った若者の場合,「誰とも仲良くなれないかも」と否定的思考を抱くことがある。その否定的な考えは外部との接触を避けさせる方向に働くため経験の機会が失われる。これが長期化するうち強められ,「絶対に無理!」といった強い否定的思考を生み,悪循環をより強固なものとする。

しかしながら「第三者」である援助者が若者から信頼を得ることができれば流れは変わる。若者は実際に共有された事実から「絶対に無理!」という頑なな考え方に「絶対ではないかもしれない…」と修正を加えることができる。

実際,困難事例に対して高い改善率を収めているNPOを分析すると,学習や遊び,宿泊型の生活訓練,ジョブトレ等,さまざまな場面で応用的に取り入れられている。

(4)ソーシャルスキルトレーニングは生活場面に組み込む

ソーシャルスキルトレーニング(以下「SST」という。)とは,対人関係や生活上に必要な技能を身に付けさせるための訓練法で,認知行動療法の一技法として扱われることもある。近年は学校現場でも活用される技法だが,堅苦しい活動や面倒なやりとりを嫌う若者を想定した場合,この技法をいかに日常の活動や生活場面の中に取り入れていくか,といった視点が必要になる。

こういった観点から言えば「遊び」を通じたSSTの実施は有効な手段の一つである。特に小集団で行うテレビゲームやスポーツは,若者が構えることなく楽しみながら行える上,ソーシャルスキルに関わる言動の問題も表出しやすいため,絶好のツールと考えられる。

その際は,<1>「何をどう改善すべきなのか」援助者側が先に目的意識を持つこと,<2>助言に頼り過ぎず,援助者が身近な「モデル」として模範を示すこと,<3>他の若者との交流を通じて自然な気づきをコーディネートすること,などに留意しつつ対応すると効果が高い。セミナー形式で礼儀や社会人としてのマナーまで教え込むといった方針ではすぐに息が詰まってしまう。あくまでもの他の場や機会で学べることは扱わず,必要最小限に止めるといった方針が適当である。

(5)展開期以降の流れを見通した計画的な働きかけが重要

長期化・深刻化したケースの若者に対して,ありきたりな説明で支援段階を進めるきっかけを作ることは難しい。学齢期の暴力事件の後,7年間のひきこもりを経験した成人男性の実例を挙げると,就学時には,学級の担任,生徒指導の関わりに始まり,事件後,校長,教頭,養護教諭,臨床心理士,教育相談員,適応指導教室指導員,フリースクール支援員等が対応に当たった。卒業後に学校側の関わりが途絶えてからは,家庭内暴力を伴う混乱期を迎え,その後,警察,看護士,内科医,精神科医,複数の親類,民生委員,果てには宗教家までが関与している。こういった状況にある若者に対して「○○が必要だから△相談所に行こう」といった端的な働きかけを行っても具体的行動は見込めない。

こういったケースにもより効果的な提案が行えるよう,援助者は様々な技法を身につけておく必要がある。例えば,ブリーフセラピーにおける「シーディング」は現場での実践的応用が可能な技法と言える。この技法は,予め相談の過程のある状況で変化・発展するような「話題のタネ」を共有し,その状況に至った時にその変化の過程を確認したり,話題を展開させることによって,効果的な助言・指導につなげるといったものだ。

身近な例を挙げれば,お笑い芸人が番組の前半で起きたハプニングなどの「キーワード」として拾い,番組の後半などに類似した出来事や発展した話になった際に再び引用して笑いを取ることがある。笑いの「質」を高めるという意味では身近な事例として挙げられる。

現場での応用例を考えると,若者にとって次の目標や行動のモデルになる可能性がある話があれば,予めその人物の話題を笑い話や別の話のエピソードとして共有し,その後,関係性がより発展した段階や興味関心が高まってきたタイミングで「実は●●さんは・・・」と話を展開させることで共感を生み,より効果的に働きかけが行えるというわけだ。

(6)保護者への助言には「積極的な待ちの姿勢」が有効

我が子のひきこもり歴が5年,10年に突入した保護者に対して,「今はエネルギーを溜める時期」「信じて待ちましょう」といった根拠に乏しい美談で対応しようとすれば,無力感から絶望を生み,思わぬ結果を招くこともある。そこで筆者は,対応の視点として「積極的な待ちの姿勢」を提唱している。矛盾に満ちた言葉に思えるが,概して言えば「できることをやりながら待ちましょう」といった姿勢を指す。

保護者にとって苦しむ我が子を目の前にして何ら手立てもなく「待て」と言われる程,苦痛なものはない。そこで,まずはできることを具体的に提示する。内容としては,支援に役立つ若者の様子や生活場面の情報を提供してもらうことや家庭の中でのストレスを減らすといった方向性が多いが,ある程度の行動力がある保護者であれば,次の支援段階で必要となる資料の収集など,実行可能なものを依頼することもある。「お母さんの集めてくれた資料のおかげで」といった言葉かけができる内容であれば,有用感から心理的な安定にもつなげられる。

他方,保護者には見えにくい支援過程や内容を具体的に説明することも効果的だ。保護者の共感が得られるような関連深い事例を用いて「今は◎◎の例で言えば,○○を目的に関わる時期で,我々は××ができるように■■を使って対応します。」といった具体的な説明ができれば,保護者も安心と希望が持てる。加えて,「この段階では△△が起こるかもしれませんが,きちんと定着できるように●●まで様子を見守って下さい」といった現実的に予想される変化への対応を示すことも重要だ。焦りが強い保護者の場合,一時的な変化に対して一気呵成に働きかけたり,支援を中断してしまうこともあるので,配慮したいところだ。

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