本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第5章 > 第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法
ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第11節 非行等幅広い分野におけるアウトリーチ(訪問支援)の手法  

8 若者が抱える困難に多面的にアプローチする「展開期」

援助者による安定的な関わりによって,若者が抱える悩み等が共有されると,心理的負担は徐々に軽減される。この段階に来れば,環境調整を含む多面的なアプローチが可能となり,困難解消に向けての行動もより発展的なものへと移行できるようになる。その際は,適応までの一連の流れを見据えた上での働きかけが重要となり,個々人の状態に応じた折衷的な援助手法を用いつつ,段階的に移行を図ることで,より効果的な支援を展開したい。

(1)中間的なトレーニングメニューで必要経験を補う

社会的な孤立状態が長期間に及ぶ若者,とりわけ学齢期から5年,10年とひきこもる若者にとって,カウンセリングのみで自立を達成することは難しい。社会性などの適応能力の発達のためには,学校や社会生活の中で得られる多様な経験が糧となるため,孤立によって得られなかった経験を一定程度補う過程が必要となる。

但し,この過程には,「質」が問われてくる。そもそも孤立状態にあった若者にとって外出の際の不安や抱えるストレスは一般的な若者に比べて相当に強い。そのため,「人と会わせること」「活動に参加させること」等,社会参加までの一過程を単純に目的化した働きかけが繰り返された場合,苦手意識や精神症状が強められたり,関係性の崩れや若者の疲弊からその後の働きかけが難しくなる。

そこで,活動に移る際は,「外出先で出会う人々とコミュニケーションが取れるのか」,「遭遇する出来事に対して適切に認知し対処できるのか」,「外で受けるストレスをうまく解消できるのか」等,外部環境との適応段階で想定すべき課題へのケアを行うことは必須であり,また,その活動を通じて若者自身がどういった気づきを得て,どういった行動や意識の変化が表れるのか,さらにはその変化がどのように次の行動につながっていくのかといった内容の部分についても,事前に検討する必要がある。  

高い改善率を収める当該分野のNPOの取組を分析してみると,個別対応から小集団活動,集団活動に至るまでの過程は系統化され,最終的な目標につなげるために一つ一つの行動に意味づけや目的が設定されている。また,その活動内容も若者の状態によっては,既存の支援メニューに当てはめるのではなく,個々人の興味・関心,趣味等から中間的なトレーニングメニューを設定し,小集団活動の際のグルーピングの際も「状態」「性格」「共通点」等を検証しマッチングが行われるなど,効果性を高めるための工夫が重ねられている。

(2)「段階的移行」によって安全かつ確実な前進を生む

中間的トレーニングメニューの実施に当たっては,本稿の骨子の一つである「段階的な移行」が重視される。こういった考えを心理療法に求めると行動療法における「シェイピング」が一例として挙げられる。この手法は,目的とする行動を達成するために,スモールステップを設け段階的に目的の行動に近づけて行く方法である。

相談機関に通いたいと思っているひきこもりの事例で説明すると,<1>援助者とメールでやりとりをする,<2>援助者と電話で話をする,<3>援助者と自分の家で会う,<4>援助者と車で相談機関の外観を見に行く,<5>援助者と相談機関へ入る,といった具合にスモールステップに分け,徐々に目的の行動に近づけていく。

実践に当たってのコツは,「いかにして余分な負担を減らせるか」にある。ある目的を設定した若者が「同級生や近所の人に見られたくない」といった思いを持っているのであれば,極端な話,ファーストステップは人通りの少ない夜出かければ良い。それでも不安を持つ若者であれば,使用する車の後部座席に外からは様子が伺えないように日よけ等の仕掛けをしたり,車の中で流す音楽を本人の好きな曲やリラックスできる曲にするなどの細かい工夫も凝らしたい。あとは,目的の行動に移った際にきちんと成功体験を設定することで,「出かけて良かった」と思えるような体験内容にしたい。

(3)悩みを聴く際の真摯な姿勢が若者の心を開く鍵

この段階まで関係性が発展すると,若者の悩みや不適応の根本要因にアプローチする機会も増える。対人トラブル,異性問題,家族関係,勉強や将来の不安などから,虐待や犯罪被害,自殺企図に関わる深刻なものまで,多様である。

留意点としてはまず,悩みの大小に関わらず「適切に受け止めること」である。たとえば性的な虐待など他言できない深刻な問題を抱えている若者は,援助者が本当の悩みを打ち明けるに値するかどうか,反応を確かめるためにあえて軽微な悩みを繰り返し相談することがある。この際に「それくらい自分で考えれば?」といった対応に出れば,若者から信頼を得られずにサインの発信を思いとどまらせてしまうこともある。

次に打ち明けられた悩み(特に被害的体験)に対しては,解決に向けた「具体的な方針を示す」ことも必要だ。たとえばいじめ被害に合い,インターネットの掲示板に誹謗中傷を書き込まれているとしよう。このような現在進行形のケースでは「辛かったね」といくら慰めたところで何の気休めにもならない。まずは被害拡大を防ぐために掲示板管理者等に削除依頼を行うなどの緊急措置が必要で,若者には具体的な解決方法と援助者が協力できる内容を伝えると効果的だ。

その場では方針が示せない問題であった場合は,「すごく大事なことだから一番良い方法を調べてみるよ。」などといった声掛けできちんと誠意を示すとともに,具体的な回答の期日を示すなどして若者が見捨てられたと感じないように十分に配慮したい。

(4)非常事態は不適応行動を修正するための「教育機会」

精神疾患,発達障害,自殺企図への対応に関しては他の章ですでに論じられているため,最後に「パニックや暴力」に遭遇したときの対応について触れておきたい。あくまで参考までに。

ア 動揺せずに心を静める

援助者が若者の言動に動揺していては適切な対応はできない。また,援助者がうろたえたり,感情的になっている様子が伝わると,自暴自棄を招いたり,暴力行為をエスカレートさせる危険性もある。

イ 周辺状況を把握し,物理的な安全を確保する

衝動的な行動が起きやすい状況にあるため,周囲の状況を速やかに確認し,物理的な安全を確保する。たとえば刃物や危険物などがある場合,若者とその危険物の間に徐々に回り込む。2階であれば窓側に立つなどして,衝動的な行動に移った時にカバーできる態勢を取る。ただし,危険物を目視しながらの移動や急な動きは若者に刺激を与えるため,声かけを行いながらゆっくりと行動する。

ウ 行動の意味を分析し,具体的な対応を図る

(ア)「場」を変える

その行為を誘発した人物が同じ部屋にいる場合,その人物を別室に移動させるか,もしくは「○○君,一緒にあっちの部屋に行ってみないか?」「○○,ちょっと出掛けようぜ。」といった声かけで場所を移動させることで落ち着かせる。

(イ)行動の言語化と意味づけ

若者が落ち着いた後には,何故そのような行為に至ったのかを一緒に考える作業も必要になる。自尊心が低い状態にある若者の場合は,暴れたことを過度に悔やみ自暴自棄になる恐れもあるため,その状況に至った経緯の言語化とその行為を意味づけすることによって,次はどうすれば防げるのかを共有する。

(ウ)表現の変換による認知の軌道修正

事態が収束しても,相手への怒りが強い若者の場合,安易な反応には注意した方が良い。たとえば「○○を殺す。」といった具体的な発言に対し,単に「殺すなんてダメだ。」という反論は,憎しみの対象である相手を擁護する発言と捉えられ逆効果になることがある。こういった場合は,「殺したいほど辛い思いをさせられたんだな。」といった具合に表現を変換する。つまり,「殺す」という言動には同調せずに,その結論に至った経緯の方に意識を戻すことで,若者が抱えるつらさにのみ共感するというわけだ。

エ 状況に応じた約束を交わす

若者の混乱が収まりある程度の気持ちの整理ができた時点で,負担にならない程度の約束事を交わす。たとえば「次にカッとなったら必ず○○を思い出すように。」,「今度◎◎と言われたら△△と返せ。」,「□□をやってもだめだったらその場から離れようぜ。」といった具体的な対処法を含む約束が望ましい。

(5)専門機関への誘導には当事者の抵抗感等に配慮する

精神科等専門機関を受診することは,本人のみならず保護者にとっても容易なことではない。日本には未だカウンセリング文化が定着しているとは言えず,精神疾患や発達障害に関する一般社会の理解も高くはない。

そこで,誘導の際は,<1>言語化による困難の共有・整理,<2>精神疾患や精神科等に関する誤解や偏見の解消,<3>自己決定を前提とした第3者情報の提供,<4>必要に応じた仲介,などに視点から効果的な対応を目指したい。

<1>,<2>については,いわゆる「心理教育」に当たるものだが,コツとしては,「鬱は心の風邪」といった表現に象徴されるように,観点を変えるなどして本人が受入れ易い表現で状況の整理を行うことだ。特に「心の病」を受け入れ難いと思う若者には,不安等の検証を行った上で,「心は体の一部」⇒「根拠のない不安は体から来るもの」⇒「体の症状を回復させる」といった方向で整理すると抵抗感が薄れる場合がある。他方,保護者の一部には,かなり以前の精神科のイメージ等から「薬漬けにされるだけ」「一生病院に閉じ込められる」「結婚や就職ができなくなる」といった誤解や偏見を抱いている者もいる。こういった場合は,新薬の登場など精神医療の発展の経緯や早期治療の有用性など具体的な説明によって予め偏見を解く必要がある。

<3>に挙げるように,受診は当事者の自己決定を助けるという方針で対応するが,病院選択については,援助者側が医療機関の情報を収集し,必要に応じて予めコンタクトを取ることも考慮したい。レントゲン等客観的証拠を基に診断する内科や外科に比べ精神科での診断は,担当医のカウンセリングスキルに左右されるため,力量の差が出易い。また,誘導したとしても「ひきこもり」「家庭内暴力」のキーワードを出した時点で他の病院に回されたり,わずか5分,10分程度の問答で診断を行い,十分な説明もないまま,複数の薬を渡すといった病院もあり,当事者に精神医療への不信を抱かせる要因の一つとなっている。こういった病院に当たると情報提供した援助者に対してもネガティブな感情が及ぶ可能性があるので留意した対応が必要である。

<4>の仲介については,当事者が自分の状態について表現能力を持たない場合に限るが,当事者と医師との間に入り,相互のコミュニケーションを助ける。対人不安が強い若者の場合,医師を前にすると何ら言葉が発せなったり,問診に応じられても緊張で内容の吟味もなく返答してしまうことがある。一方,保護者が代弁する際も,関係性の崩れから状況の一部のみが特化され伝わったり,勝手な推測で若者の状態を伝え,誤診を生んでいるケースもある。そこで,医師に伝えるべき内容について本人がメモに起こすことを援助したり,当事者の了解が得られれば援助者が代行で文書に起こすなどして,医師とのコミュニケーションを助ける。但し,この過程には,援助者側に一定程度の精神医療の知識がある求められるため,臨床心理士等のバックアップが得られるようにしたい。

(6)ネットワークを活用することで支援の「質」を高める

ア 「知ること」から始まる他機関との連携

言うまでもなく連携の前提は「知ること」である。他機関の目的や役割について知らなければ連携は成立せず,諸制度についても知らなければ活用のしようがない。そこで,援助者は,少なくとも主要な支援情報については収集し,一元化しておくことを心掛けたい。

例えば,虐待やその疑いが認められる場合は児童相談所,ドメスティック・バイオレンスが認められる場合は配偶者暴力相談支援センターや婦人相談所等,金銭的なトラブルや親族間の争いごとがある場合は法テラスや家庭裁判所など,「悩み」や「問題」毎に整理しておくと効果的だ。

諸制度についても同じで,当面の生活すら危うい貧困家庭には,生活福祉資金貸付制度や生活保護制度,進学費用が工面できない学生には各種奨学金制度,雇用保険を受給できていない若者には,職業訓練と生活保障のための給付制度等,年々形を変えるものもあるため,事前に情報収集を行い,活用できるものがあれば積極的な運用を図りたい。

イ 多元的なネットワークは若者だけでなく援助者を支える

本稿では「アウトリーチはその後の支援過程と一体のもの」という前提に立ち話を進めてきたように,若者が抱える困難の解消に当たっては,一担当者,一機関で担えない問題も多い。そこで,他機関との連携による支援が重要性を持つわけだが,援助者は少なくとも「機関レベル」,「市民活動レベル」,「個人レベル」の3元的なネットワークとのつながりを意識したい。

ここで言う「機関レベル」は地域に限定したものではない。前項で専門機関について述べたが,NPO等民間組織においては,それ以上に優劣の差が激しい上,専門性を有する支援団体が地域に存在するとは限らない。こういった場合,無理に地域にあるNPOの支援を活用しようとすると時として若者の不利益につながってしまう。

他方,全国的な視野での誘導を考えた方が結果につながる場合も少なくない。ひきこもり状態にある若者の中には,コンプレックスや比較の対象になり易い,同級生や知人がいる地域では,最初の一歩が踏み出せない若者もいる。また,仲間と共に暴走行為や窃盗などを繰り返していた若者の場合,同じ地域に戻ると仲間からの強い勧誘に合い,自立が阻害される場合もある。こういった観点からも全国的な視野でネットワークを意識すると支援の幅が広がり,「質」も高まってくる。

次に,社会性を養うという観点からは,援助者が所属する組織内部の活動だけでなく,外部の市民活動の活用は有益なものとなる。ボランティア,自助グループ活動,各種イベント,フリースペース,スポーツクラブ,サークルなど市民活動レベルの活動は,活用の仕方次第で効果的な援助手段となる。より円滑な誘導と活用を実現するためにも,連携する可能性のある主要な団体とは「顔の見える」関係を構築しておきたい。

三つめに個人レベルを挙げたのは,援助者自身への配慮である。前述のようにアウトリーチにはさまざま素養が求められるが,現実的にすべての知識,能力を身に付けることは難しい。そこで「分からないことがすぐに聞ける」「迷ったら気軽に相談できる」といった頼りになる存在が身近にいるかどうかで,援助者の負担が大きく変わってくる。

-
本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁