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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第1節 相談における基本的態度と心得等  

3 カウンセリングマインド

カウンセリングは歴史的な研究体系の上に乗った行為であり,その醍醐味は相談者の自発的行動を促すとともに心理的なカタルシス(心の浄化作用)をもたらすことにある。特に悩み,苦しみ,迷いといった精神的な負担を負った相談者に効果的である。ただし,カウンセリングは一朝一夕にできるものではない。カウンセリングは“スキル”と言われることが多いが,継続的で長期の訓練(実習・体験)から身に付くことからして単なるスキルではなく“習慣”という見方もできる。つまり一人前のカウンセラーになるには,理論学習と長い期間にわたる訓練が必要となる。メンタルヘルスの維持が叫ばれる今日,うつの予防や予見の観点からも,カウンセラーを配置する組織や機関が急増している。ただし,とても大切なことはカウンセラーは医者ではないということである。ユースアドバイザーの皆さんがカウンセリングの訓練や勉強に取り組んでいただくことは大変良いことだが,若者自立支援などの包括的ネットワークで取り組む課題をカウンセリングだけで解決することはできないということを当初から理解し,カウンセリングが万能ではないことをわきまえてもらいたい。

(1)カウンセリングの代表的な方法

<感情的アプローチ>:起きている事態や環境よりも,相談者自身の感じ方に焦点を当てて相談者に無条件の肯定的関心を持つ「受容」と,相談者の内的世界を共感的に理解しようと努め,それを相手に伝える「共感的理解」,そして相談者との関係で心理的に安定し,相談員の自分も無理なく自分の言動や態度を受容できる「自己一致」。この3原則を実践するのが来談者中心カウンセリングと言われ,カウンセリングの基本とされている。

<認知的アプローチ>:人の感情は思考(合理的,認知的プロセス)により影響され,問題があるときは非合理的な思考によって考えたり行動したりするのだから,認知の仕方を合理的に変えれば行動も変わるというもの。たとえば「卒業して就職しないことは恥ずかしいことだ。」という非合理的な考えを「就職するのにこしたことはないけれど,そこで自立できなくてもよい。」と言い換えることで,苦しみから解放され新しい行動の可能性も生まれるというもの。

<行動的アプローチ>:相談者の行動に焦点を当てて観察し,行動そのものを体系的に整理・記録し,反復訓練などで改善していくもの。この研究のプロセスからリラクゼーションやアサーショントレーニング(自分も相手も納得できる主張の訓練)が生まれてきた。

<その他>包括的アプローチ,マイクロカウンセリング,ヘルピング,現実療法等々がある。

(2)カウンセリングマインド

広く行われていて,カウンセリングの基盤になっているものとしてロジャースらにより発展してきた来談者中心カウンセリングをベースとしたカウンセリングのステップは図5−2のように進めていく。

図5−2 カウンセリングの基本ステップ

図5−2 カウンセリングの基本ステップ

本書ではカウンセリングの専門家ではない方のために,比較的容易に実践できる受容と共感的理解による方法を紹介する。

<良くない例>

相談者:僕,今,決めかねているんですよ。

相談員:ああ,そう。でも今になって言ったって始まらないよね。とにかく頑張ろうよ。

相談者:はぁー。そうですね。(この先が続かない。)

勇気づけているらしいが,なぜ決めかねているのかを掘り下げていないし,決めかねている苦しさも無視されてしまう結果,不承不承の行動になってしまい,結果が読めなくなる。

<良い例>

相談者:僕,今,決めかねているんですよ。

相談員:そうですか,どっちにしようかと悩んでいるんですね。

相談者:そうなんですよ。どちらにしても結局何も変わらないんじゃないかと思うんですよ。

相談員:うんうん,君の気持ちはよく分かりますよ。結局何も変わらないというのはどんなことで?

相談者:それはですね‥‥‥‥。(この先気持ちや考えが吐露されてきて自己理解が進む。)

良い例では,受容と共感,積極的傾聴,繰り返しという方法がいかされているケースであり,相談員自身の価値観やべき論や方法論はとりあえず脇に置いておき,来談者中心に進めるものである。

カウンセリングマインドとは,突き詰めれば「傾聴」と「共感」と「繰り返し」の3点を相談員の価値観を脇に置いて実践してみることである。言葉にすれば次のようなことである。

うんうん…それで?…なるほど…つまり○○○○○ということなんですね。

相談者が「そうなんですよ。」と言えるかが一つのポイントとなる。

また,繰り返しでは相手の感情表現(つらい,苦しい,いやになる,頭にきているというような言葉)をこちらから言ってあげることが効果的である。もちろんあいづちやうなづきといった付随的な態度もワンパターンにならないように使用することで,相談者が飾らない自分の言葉で話しやすくなるものである。このようなほんのちょっとした言葉づかいや受け止めてあげる態度は,カタルシスを生み,相談者の自己理解を飛躍的に促進し,相談員がこうしてはどうかと助言しなくても能動的で納得のいく行動を誘発させやすくなるのである。

人は自由に言えないときに詰まってくるし,マイナス感情も芽生える。カウンセリングマインドは傾聴という技法を使い,相談者の内面を自由に語らせることでスッキリさせるとともに,自分の至らない部分や不足していることなどを冷静に認識させ,自ら立ち直ってもらうために極めて有効な方法である。ただし,傾聴にも限度がある。前述のように,状況や進行具合によって指示や説得や委任というスタイルもとれるように準備は怠らないようにしたいものである。

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