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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第1節 相談における基本的態度と心得等  

5 動機づけ面接−Motivational Interviewing,MI

(1)動機づけ面接とは

面接者は対象者の考え方や行動が変化するための援助を行う。動機づけ面接は,本人が変わりたい方向を見出し,その方向に変わろうとする対象者に力を添えていくようなやり方である。面接者が何か特別にものを知っている専門家で,対象者は専門家の言うとおりにしなさい,といったやり方ではない。われわれは,「これが正しい姿であり,こうなるべきだ」,「それはふつうじゃない,改めるべきだ」といった反応をしがちである。また,われわれは,変化する目標は決まっており,対象者がなりたい方向もそのはずだと思いがちであるが,対象者のそれとは必ずしも一致するとは限らない。対象者の変化したい方向を探るためには,面接者の価値観や考えといった視点を保ちつつも,対象者の生き方としてとらえ,対象者の話をよく聴き,本人の価値観やなりたい方向を確認し,変化のために具体的に何が必要かを対象者と一緒に考えていくことが必要になる。

また,人が行動や考え方を変えていくためには,本人が日常生活の中で,変化するための努力を継続していく必要がある。動機づけ面接では,本人が変わる方向に具体的な目標を決めていき,その方向に変わらないといけないという気持ちが強くなるようにする。また,「なんとかしなければならないが,やれる自信がない」,「今のままでは良くないのは分かるが,変わったら良いことがあるのかどうか分からない」,といった心の中の対立する感情を探って解消することによって,変化のための具体的な行動を起こせるように援助していくようなやり方である。つまり変化のための動機づけは,対象者本人の中にあり,それを引き出していくといった面接の方法である。動機づけ面接は,日常の家族や友人とのコミュニケーションとは異なる,援助者のためのコミュニケーションスキルであり,対象者との共同作業のプロセスである。

(2)自己動機づけ発言(チェンジトーク)

人が行動や考え方を変えるとき,言葉がきっかけになることが多い。自分が変わりたいとか,こうしたいという発言が出てくると実際に変わってくることがある。つまり言葉が行動を変えるのである。動機づけ面接は,本人から自分が変わるような発言を引き出していくような面接である。このような発言を「自己動機づけ発言」(チェンジトーク)と言い,こういう発言の種類がそれぞれの頭文字をとって「DARN−C」と呼ばれる。このDARN−Cを引き出していくことが動機づけ面接の目標になる。

次に,DARN−Cのそれぞれの内容を確認する。DはDesire(変化への希望)である。これまでできなかったこんなことができるようになりたい,などの変わりたいという願望である。AはAbility(変化できる能力や自信があるという楽観的な見通し)に関する発言である。具体的であれば,今すぐにでもやろうと思えばできるような小さなことをできるということでよい。過去の成功体験を述べることもこれに当てはまる。RはReason(変化することの利点)である。変化することでポジティブな結果がともなってくるという理由を挙げているような発言がこれに当たる。NはNeed(変化しないことへの心配,懸念)である。「このままでいたら困る。」,「このままだと仕事がなくなる。」など,ネガティブな理由を言う。CはCommitment(変化に必要な実際の行動の具体的な計画や考え)に関する発言である。

人が変わるためには,変わりたい人がどう変わりたいかを明確に自分の言葉にし,どう変われば問題が解決するかを具体的に考えて,実際に考え方ややり方を変えることが必要である。動機づけ面接ではこのような言葉を引き出しながら,実際に行動し,変化への努力を継続することを支援していく。そのためには,対象者の変わる必要(ニーズ)や具体的な行動を自分ができ,変わることができるという見通し(自己効力感,セルフエフィカシーとも言う。)を引き出すことが重要なポイントになる。

(3)五つの原則

動機づけ面接には,五つの原則がある。<1>共感,<2>矛盾を広げる,<3>言い争いを避ける,<4>抵抗を手玉に取る,<5>セルフエフィカシー(自己効力感)を支持する,がそれである。次に,各原則の内容を確認していく。

原則<1>である動機づけ面接における共感とは,「対象者の気持ち・感情・思考・価値観を正確に言葉にして聞き返していくこと」である。同情や面接者が同じように感じているということを言葉にすることではない。また,「あなたが苦しいのはこれが原因だ」といった解釈や決めつけとも違う。対象者がどういうときにどう感じるのかを面接者が言葉にして映しとっていくことがポイントである。これは面接者の仮説でよいので確認していく。対象者の変わりたくない気持ち,抵抗,不健康な行動について面接者の感情や価値判断を交えず,言葉にして聞き返していくのである。これは,相互の信頼感を作るうえで重要になる。

原則<2>は,矛盾を広げる,である。対象者が変化したい方向とは矛盾して,まずいことをやっているということを分かりやすいように示して,対象者の矛盾しているという認識を強めていくことである。これは,現在の行動と,個人的に重要な目標や価値との間に食い違いがあることに気づくことが,変化を動機づける,という考え方である。面接者が対象者の矛盾を直接指摘したり,責めたりするのではない。面接者は,基本的には同意して,対象者の矛盾に気づかないふりをしながら,対象者の言葉をそのまま使いながら聞き返していく。対象者は,自分が言った言葉を聞き返されるのであるから,抵抗は最も少なく,自分が矛盾した発言をしていることを面接者に目前ですぐに再現され,「あれ,自分はそんなこと言ったのか。」と考えさせられるようになる。人間は矛盾を感じるとそれを正したくなる傾向がある。面接者ではなく,対象者が変化について語るのを促すということである。

原則<3>は言い争いを避ける,である。面接者がエキスパートで対象者が素人なのだからすべて教えてやるというのではなく,対象者自らが進んで変わっていくように援助していく。直接に非難したり,責めたり,説得しても,対象者は本人から進んで変化をしようとはしない。 

原則<4>は抵抗を手玉に取る,である。対象者がまずいと分かっている不適切な行動を取ることがある。それをだめだと一方的に否定しても変化は動機づけられない。抵抗をうまくかわしながら本人にとってよい方向に変化できるように力を添えることである。動機づけ面接では,「しかし」や「けれども」という言葉を使わないようにしていく。できない,やれないという言葉にいったん同意して,聞き返していきながら,抵抗の方向を変えていくというやり方である。相手の力を利用し,相手に触れて力を添えながら抵抗の方向を変える合気道のようなイメージである。対象者が変化する方向に向かうよう対象者の意図に言及する。たとえば,対象者「自分は一生懸命やっている。人とうまくやれれば,もっと自分の生活がよくなるのに・・・。」,面接者「あなたは変わろうと一生懸命取り組んでいるのですね。あなたにとって人とうまくやることはとても大切なのですね。」というように,努力したが無駄だったと対象者が変化への動機づけを失いかけているような場面で,さらに継続して努力してみようという方向に聞き返していくといったものである。このように,対象者の意図に触れつつも,対象者の変化への抵抗をかわしながら,対象者が変化する方向に向かうように聞き返していく。

原則<5>は,セルエフィカシーをサポートする,である。本人が自分で変われる,具体的にこうできるといった見通しが持てるようにしていくことである。本人ができている部分に話を絞っていき,そのような話を増やしていく。否定的な反応の部分に対して,面接者は特別な反応はしない。人がこれならできそうだと実感するためには,<1>身近で小さな行動目標を立てる,<2>たとえ小さなことであっても,成功体験を大切にする,<3>身近な良いモデルを見る,<4>もっと自分をほめてあげる,などがある。

(4)四つの戦略

動機づけ面接の戦略,つまり面接者側の具体的な話し方がOARSである。このOARSは,開かれた質問(Open Ended Question),是認(Affirm),聞き返し(Reflective Listening),要約する(Summarize)の英語の頭文字をつなげたものである。次に,OARSのそれぞれについて説明する。

開かれた質問(O)とは,「どんな気持ちですか。」,「どんな考えですか。」,「どんなことがしたいですか。」,など対象者がいろいろな応え方ができる質問のことである。対象者によっては,どんな気持ちと言われても,表現しようがないという場合がある。そのような場合には選択肢を提示して,確認していく。

是認(A)は相手の話の中で認められるもの,使えるもの,いいと思えるものを聴き返して確認していくことである。本人ができるということを述べているときに聞き返していくような場合は,是認にあたる。

聞き返し(R)は動機づけ面接で最も使われる。先の例のように相手が使った言葉をそのまま聞き返したり,示唆された気持ちを聞き返す単純な聞き返し,相手の言っていることを極端に増強して聞き返したり,裏の意味を取って聞き返すといった戦略的に用いる聞き返しもある。これらは自己動機づけ発言(チェンジトーク)を引き出すために用いられる。

要約(S)では,相手の話の中で使える部分を拾い上げていく。これは,花束をつくるという比喩で表現されることも多い。矛盾すること,もの及び行動,それらに対する態度や感情,キーポイント(うまくいった(ている),資源となるところ,を注意深く聴き,その中から1本1本 “花 ”を選んでいく。その“花 ”をまとめて,温かく,共感的に,善悪の判断を差し控えて,相手に花束として提示する。矛盾を広げる場合は,その矛盾をそのまま並べる。相手の話を要約する際,面接者が対象者の言葉をできるだけそのまま使うようにしながら,何をまとめるかについては面接者が決めている。“花”の選び方は対象者が心の中で対立する感情を解消して実際の具体的な行動に移せるように,対象者の変化へのニーズやメリットを引き出しながら,対象者が変化したい方向とは矛盾をしている行動や考え方をしていることに気づいていけるようにまとめることがポイントである。

対象者が迷っている場合,変化することと変化しないことのプラス面とマイナス面を並べて点数化して評価していくといった決断分析をし,対象者本人に決定を促す。

動機づけ面接で重要なのは,対象者の反応をよく観察して見極め,どこに反応し,どこに反応しないのかということを状況に応じて効果的に選択し,対象者の変化へのニーズや変わることができるという見通しを強めていくことである。

(5)動機づけ面接のトレーニング

動機づけ面接は,実践の現場で使う技術である。個々の技術については反復して確認し,実際に使えるようにしていくしかない。うまくやっている人の様子を見ながら観察学習をすることで,対象者の発言のどこに反応して,どこに反応しないのかということを学ぶこともできる。最も良いのは直接学習である。実際にやってみて対象者から得られた反応から学ぶことである。それまでのやり方を変えてみて,対象者の反応やその変化から,こう言えばいいのかといった手応えを得ることになる。

それまでの面接のやり方をいったん,横に置いて,別のやり方をわざわざやるのは容易ではない。そのために,動機づけ面接のトレーニングでは動機づけ面接のやり方を学ぶ前に,故意に相手の抵抗を引き出すようなやり方をしてみるという負の練習を行うなど,多くのトレーニングメニューがある。

(6)まとめ

人の行動がその人の価値観と結びついているということは,面接者の言い方一つで簡単に人が変化するわけではないことも意味する。動機づけ面接では,「家族」,「やさしさ」,「裕福さ」,「名声」などを書いたカードを並べ替えてもらい,対象者が大切にしている価値観を確認していくような作業を行うこともある。さまざまな視覚的ツールを用いるのも動機づけ面接の特徴である。対象者が間違った方向に行ったときに,無理やり面接者がもっていきたい方向にもっていくのではなく,対象者に寄り添いつつ,本人が本当に行きたい方向を探りながら,軌道修正していく援助をしていくのが動機づけ面接である。技術的なことだけができれば動機づけ面接ということではない。

動機づけ面接は,面接者からの一方的な説諭や教示とは根本的に異なり,双方向性のあるものである。言い換えれば,面接者が変化を促し,対象者が変化を促されるというものではなく,お互いに刺激を与え合うプロセスを通じて学習し,お互いに変化するプロセスでもある。

対象者が,面接者に話をして「自分で進むべき方向を決めた」と感じられ,そのやりとりやプロセスには面接者のさまざまな配慮や技術が含まれていることに対象者は気づかないで,変化への動機を引き出されるというのが動機づけ面接と言えるだろう。

【参考文献】

ウィリアム・R・ミラー,ステファン・ロルニック,松島義博,後藤恵訳,2007, 「動機づけ面接法 基礎・実践編」,星和書店

Rollnick, S. et al.,1999, Health Behavior Change: A Guide for Practitioners . New York: Churchill Livingstone. (ステファン ロルニック,クリストファー バトラー, ピップ メイソン, 地域医療振興協会公衆衛生委員会PMPC研究グループ 翻訳,2001,『健康のための行動変容─保健医療従事者のためのガイド─』,法研)

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