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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第2節 インテークと状況把握  

7 インテーク時の注意(主に医学的観点から)

インテークにおいて医学的観点からいくつか留意すべき点を挙げる。ここではインテークを初回面接だけではなくアセスメントが行われる初期の数回を含めた評価のための面接という意味で用いている。その段階での医学的観点といえば基本的には精神医学的なものを意味していると考えられるので,以下でその観点からの注意点を挙げておきたい。

(1)インテーク時の心得

ア 面接者は中立性を持つこと

若いクライアントのインテークに当たってまず心得ておきたいことは,こちらがいかに偏見にとらわれない公平で中立的な気持ちでインテークの場に臨めるかということにある。思春期青年期の若者は極めて敏感に相手の自分に対する感情を直感的に理解する能力を持っている。自分は若者に対する偏見,あるいは犯罪やひきこもりや精神障害に対する偏見をどれだけ持っているかは,若者に関わる専門家ならまず自覚しなければならない点である。精神医学の観点からすればこの偏見については,持ってはいけないということよりも,持っていることを知っていてその自らの気持ちと取り組むという姿勢が重要であると考える。そのことを通じてむしろクライアントの苦悩に共感することも可能になる。

イ 面接者は自己の役割に謙虚でなければならない

面接者が偏見にとらわれるのと同じくらい問題となるのは,クライアントに対して過度に同情的で,あたかも万能的な救済者であるかのようにふるまう自己愛的な姿勢である。そのような「熱血」は面接者自身の自己満足であり,クライアントにとって真に役立つものでないということが,早晩,クライアントの知るところとなって,期待の分だけ大きな失望と不信感を与えて傷つけることを面接者は肝に銘じておかねばならない。救済者幻想なき情熱こそユースアドバイザーの必要条件である。

ウ クライアントの両価性に耐えること

次にインテークに当たって心得ておくべきことは,若いクライアントの両価性を十分に理解して出会うという点である。中学生となる頃から思春期青年期を通じて若者は親離れ・自分探しという発達課題を達成するために,幼い時代の大人への強い依存性を脱していかねばならないため,大人に縛られたり,大人に命令されたり,大人に叱られたりすることに対する警戒心が強まる年代であることはよく知られているが,このような大人への警戒心と反感の背後には親をはじめとする大人に対する依存欲求がまだまだ強く存在していることを知っていなければならない。逆に,青年期に達しながら親に全面的に依存した生活を送っている若者の気持ちの裏側に,親や大人に対する強い反感や怒りが存在するということも医療現場ではよく出会う若者の心性である。この人間関係における愛着と反感のような正反対の気持ちの併存する心理状態が両価性と呼ばれるものである。この両価性はインテーク時においては,自ら同意した面接であるにもかかわらず他人事のような姿勢を示したり,不機嫌な沈黙を続けたり,親が勝手に同意したといって責任を回避したり,支援など必要ないと強がったりといった面接者にとって非常に困惑させられる反応として表れることが多い。若いクライアントがこのような姿勢でインテーク面接に臨んだからといって,ただちにやる気がない,不真面目,反抗的といった否定的な評価を下すべきではない。むしろ,そのような若者は両価性を顕わにせねばならないほど,これまで人間関係に傷ついてきたり,適切なサポーターに恵まれなかったりしたのであり,面接者が誠実で穏やかな態度で辛抱強く接し続けることこそ,結局は両価性を超えて彼らの信頼を得られることにつながる。

(2)インテーク時の精神医学的評価

インテーク面接は精神医学的診察ではないので,系統的に精神症状を聴き取っていくような方法は採用できないが,就労をはじめとする社会的活動への参加を独力で実行することが難しいクライアントには,発達障害を含む何らかの精神障害を持つ者が多く含まれていることを知っていなければならない。したがって,インテークではクライアント本人だけではなく,乳幼児期から現在までのクライアントの発達経過を知っている親やそれに代わる養育者からも詳しい情報を得ることが望ましい。

ア クライアントとの面接での留意点

社会的活動への参加を難しくする精神医学的問題は,特殊な認知特性のために社会的不適応に陥りやすい広汎性発達障害や注意欠陥/多動性障害などの発達障害,過度の内気さからひきこもりやすい社会不安障害や過敏さが目立つ全般性不安障害,あるいは確認儀式などに縛られてしまう強迫性障害といった不安障害,慢性的な抑うつ感から社会的ひきこもりを生じやすい気分変調性障害などの気分障害,不安定な対人関係などの偏った性格傾向が問題となる人格障害,統合失調症を中心とする精神病性障害などが比較的一般的といえよう。このような障害の治療中のクライアントであるとか,治療歴があるといった情報が前もって得られている場合もあるが,インテーク面接やその後の支援の中で初めて精神障害が疑われる場合もある。こうした精神障害については支援中の特別な配慮を必要とすることになり,その配慮に関しては相談できる精神科医などの専門家との連携を必要とする場合が多い。

イ 保護者・養育者との面接での留意点

親をはじめとする保護者・養育者との面接はクライアント自身の面接と同じくらい重要な意義があることを忘れてはならない。特に,何らかの精神医学的問題がありそうなクライアントの場合には,出生前後からの育ちの過程と各年代での本人や家族に生じた重大な出来事(ライフ・イベント)について詳細に聴取すべきである。そのような聴取を通じて親やそれに準じる養育者はクライアントの養育上のつらい経験や感情を再体験することになり,しまい込んでいたさまざまな感情が思い出され,とりとめのない話になりがちであるが,面接者はその話に受容的に耳を傾けつつ,必要な情報を得るための質問をタイミングよくはさんでいくといった呼吸が必要である。聴取すべき生育上の注目点は,養育者と幼いクライアントの関係の詳細であり,幼児期にクライアントが周囲の人間とどのように交流し,どのような活動を好んだかということであり,幼稚園,小中学校,高校などの教育環境における学習の達成度,授業への取組姿勢,友人関係などである。その他,家族の歴史についてできるだけ詳細に聴取し,家族の結びつきや出来事によってどのような影響が生じているのかを推測しなければならない。特に,虐待的な親子関係が推測される事例では繊細に配慮された辛抱強い情報収集が必須である。


 国立国際医療センター国府台病院第二病棟部長 齋藤万比古
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