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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第3節 支援計画作成のための評価  

2 アセスメントのための心理検査

(1)留意点

ア 正しく実施する

心理検査はマニュアルに沿って正確に実施しなければならない。それを前提に標準化されているからである。誰かのやり方を模倣したり,自己流のやり方をしたりしたのでは,適切な解釈ができない。

また,その検査を受けるに当たって必要とされる能力や動機づけが不足していると,正しい検査結果は得られない。たとえば,手の動きにくい人に素早く回答を記入する知能検査を行っても,正しく能力を測定できないし,真面目に答える姿勢がなければ,どんな性格検査からも意味のある解釈は引き出せない。実施上のハンディの少ない人が,適度にリラックスしつつ,真剣に検査に取り組むというのが,適正な検査のための必須条件である。

したがって検査者は,検査を実施する過程もよく観察しておく必要がある。クライエントの意欲は検査の途中でも変動し,上の空になったり,よそ見をしたりする場合があるし,マニュアルで想定されているのと異なったやり方をしてしまう場合もある。その意味で,実施結果だけを見て解釈するのは,なるべく避けるべきである。

イ 個々の検査の特徴と限界を知る

心理検査は種々の理論や研究に基づき,クライエントの特定の側面について探る目的で作成されている。したがって,適切に標準化され,高い統計的妥当性を持つ検査であっても,ターゲットとなっている側面以外については,原理的に解釈できない。特定の検査結果によって,人格全体を云々するのは,たとえば心電図だけですべての病気を診断するのと同様に危険なことである。逆に,その特定の側面について言えば,一定の客観性を持った指標として,アセスメントにいかすことができる。

したがって心理検査を実施するに当たっては,そのターゲットを定め,絞り込んでいく必要がある。一般には,まず実施の容易なタイプの知能検査と性格検査を実施し,知能や性格の特徴を大まかにつかんでから,個々のクライエントのニーズや問題性に応じた検査を選択,実施していくという方法がとられることが多い。このような検査の組み合わせをテスト・バッテリーと呼ぶ。心理検査の有効性は,テスト・バッテリーがクライエントのニーズや問題性と合致しているかどうかに大きく左右される。

ウ クライエントにフィードバックする

心理検査は基本的にクライエントのために実施するものであり,その結果をフィードバックするのは原則である。しかも適切なフィードバックはアセスメントの目的にも合致することが多い。

先に述べたように心理検査は一定の限界を持っているが,その結果をクライエントに投げ返して反応を観察し,意見を聴くと,プラスアルファとして新たな情報を得ることができる場合がある(もちろん,検査の特徴や限界について,できるだけ分かりやすく説明することが大前提である。)。フィードバックが適切になされれば,クライエントは自分にとって耳が痛いような所見,劣等感を刺激されそうな所見についても,自分に当てはまると思うときには,率直に肯定し,実際その傍証となるようなエピソードを語ってくれることが多い。また,検査結果について語り合う中で,クライエントが自己理解を深めたり,新たな見方を提示してくれたりすることもあり,それもアセスメントに役立つ。その意味で,心理検査を行う者の仕事は,検査の実施,解釈のみならず,このフィードバックの過程まで含めるべきだと考える。

(2)主な心理検査

ア 知能検査

知能検査は,多くのクライエントに対して同時に,しかも比較的容易に実施できる集団式知能検査と,個別に実施する個別式知能検査に分けることができる。

集団式知能検査の代表的なものの一つが,「新田中B式知能検査」であり,少年鑑別所においても基本的なテスト・バッテリーに組み込まれている。この検査によって知能水準を大まかに測定した後,知能に問題がありそうな場合や,知能の詳細な診断がクライエントのニーズに即しているような場合には,個別式知能検査を用いて,よりきめ細かく調べていくことになる。

WAIS−III,WISC−IIIなどの個別式知能検査においては,言語的な能力,処理速度,計算能力,抽象的思考力など,知能のさまざまな側面を把握することが可能であり,そこからクライエントの得意なところ,不得意なところを明らかにし,支援に役立てることができる。ただし,得意,不得意のアンバランスがあまりに大きな場合には,発達障害などの問題が潜んでいる場合もあり,専門家へのリファーも検討しなければならない。

知能検査の取扱いにおいて,特に気をつけなければならないのは,知能指数(IQ)の一人歩きである。どんな知能検査も知能全体を包括的に測定できるわけではなく,知能の特定の側面を,特定の見地から測定しているにすぎない。したがって,知能指数はあくまでクライエントの知能を把握するための目安と考えるべきである。

また,知能検査で示された値は,「それだけの能力がある。」という証拠になるが,逆に示されなかったからといって「能力がない。」と即断するのは危険である。今後の成長,発達の余地を考慮しなければならないし,何らかの要因で能力の発揮が妨げられている可能性もあるからである。クライエントにフィードバックする際にも,このような知能検査の限界を丁寧に伝え,その結果は,伸ばすべき長所,補うべき短所について考える手段として用いるよう心掛けねばならない。

イ 性格検査

性格検査は,クライエントに一定の質問項目について答えさせ,その結果を主に統計的に処理する質問紙法と,あいまいな刺激を提示して,それに対するクライエントの反応を分析・評価する投影法に大別できる。

質問紙法は比較的容易に実施が可能であり,解釈にもそれほどの専門性を必要としないことが多い。少年鑑別所においては,犯罪や非行に関連の深い人格特性を測定する目的で作成された法務省式人格目録(MJPI)が基本的なテスト・バッテリーに組み込まれているが,一般にはMMPI,YG性格検査などが広く使用されている。

これらはいずれもクライエントの性格特性について広く浅くつかむことを目的にしたものであるが,質問紙法の中には,測定する特性や領域をより絞り込んだものもある。たとえば,顕在性不安検査(MAS)は慢性的な不安の強さをターゲットとした質問紙法であり,東大式エゴグラム(TEG)は,交流分析に基づいた人格構造の理解を目的とした質問紙法である。クライエントのニーズ次第では,これらの検査もテスト・バッテリーに組み込む必要がある。

投影法は,質問紙法と比較するとクライエントが自由に反応できるため,分析の材料が豊富であり,そこから引き出せる解釈も多彩である。反面,専門的な訓練が十分なされないと,解釈が主観的,恣意的になりやすい。特に代表的な投影法であるロールシャッハ・テストや絵画統覚検査(TAT)の解釈には,かなりの知識と経験を要するので,初心者は適切な指導を受けることが必須である。また,バウム・テスト,文章完成法なども,本格的な解釈には一定の専門性が必要である。ただ,作成された絵や文章をもとに,検査者とクライエントが話し合う中で,クライエントの心情や関心事を明らかにしていくという,面接を補助するような活用方法をとることもできる。

ウ その他

新版職業レディネス・テスト,田研式職業興味検査などの職業に関連する検査,CRT運転適性検査などの運転に関連する検査,学力を診断するための各種の検査など,多くの検査が開発されているが,その活用に当たっては,知能検査,性格検査と同様,クライエントのニーズとのマッチングと,検査結果の適用範囲についての正確な理解が必要である。

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