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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第3節 支援計画作成のための評価  

3 アセスメントのまとめ方

(1)少年鑑別所におけるアセスメント

ア 収容鑑別の流れ

面接や心理検査で得られた情報は整理,集約され,クライエントやその置かれた状況についての全体的な理解に統合されていかなければならない。そのプロセスは,アセスメントの行われる場や位置付けによってさまざまであろうが,参考までに少年鑑別所における収容鑑別(家庭裁判所で観護の措置の決定がなされ,少年鑑別所に収容された少年に対して行うアセスメント)を例示する。

図5−4は収容鑑別の流れである。面接と心理検査が流れの中心に位置し,そこに行動観察,医学的診断,外部資料などが加えられ,最終的に判定会議に集約されて,鑑別結果通知書というレポートが提出される。ただし,情報の集約は判定会議の場だけではなく,それ以前の段階から随時行われ,少年の問題を理解するための仮説もその都度修正されていく。そのプロセスこそが重要であるので,以下に具体的に説明する。なお,モデルとしたのは少年鑑別所においてしばしば見られるケースを想定し,かなり単純化して作成したフィクションである。

図5−4 収容鑑別の流れ(平成21年版犯罪白書より)
図5−4 収容鑑別の流れ(平成21年版犯罪白書より)

イ モデルケース

17歳,無職の男子少年。今回の非行は共犯1名とのひったくり。これまでの非行歴は最近の万引程度であり,少年鑑別所への入所は初めてである。

入所時の調査における印象は「頼りない」,「弱々しい」というものであった(第一印象は,少年の一面にすぎないが,その後の変化を見るうえで重要であるため,記録しておく必要が大きい。)。

初回の面接では,小学校時に両親が離婚し,以後,実母と祖母に育てられてきたこと,小中高と熱心に野球に取り組んでいたが,けがで野球部を退部した頃から,不良交遊が始まり,高校を中退して怠惰な生活に陥っていることなどが分かった。このような情報と先の印象を組み合わせると,もともと意欲や主体性の乏しい少年が,スポーツという目標や枠組みを失って崩れてしまうというパターンの典型のように思えた。

だがその後,少年は別の面を見せ始める。少年鑑別所での生活に慣れるにつれて,ぐんぐん元気が回復し,得意な運動の場面はもとより,初めて経験するロールプレイングの場面でも,積極的に他の少年をリードする積極性,主体性を見せた。しかも,自己本位のリーダーシップではなく,運動の苦手な少年を気遣うなど共感的な行動も観察された。また性格検査においては,社交性や顕示性が特徴的であった。一方,実母との面会では,年齢に比して依存的で,甘えたような素振りがやや目立った。職員に対しても,親和的だが,何かと支持を求めるような依存的なところが見られた。

また,家族関係については,最近になって祖母が倒れ,実母が働きながら介護しており,少年にまで手が回らない状態であることが明らかになった。また外部情報として,社会調査を行う家庭裁判所調査官から,離婚前後,相当長期間家庭が混乱し,以後,少年がかなり「甘えん坊」になってしまったという母親からの情報が入手できた。これは少年の依存性の問題の背景と考えることができる。

このような情報を総合すると,「もともと意欲や主体性の乏しい少年が,部活動の挫折によって生活目標や枠組みを失ったため,生活が崩れた。」という当初の仮説よりも,「依存性の問題を残している少年が,家庭でのサポートを失ったことにより不安定化し,そこに部活動の挫折による生活目標や枠組みの喪失が加わったため,生活が崩れた。」という仮説の方が妥当と考えられた(もちろん,この新たな仮説にはなお精密化や検証の余地があるし,生活の崩れから非行に至るプロセスについても何らかの仮説の提示が必要となる。)。

収容鑑別の中では,このようにさまざまな情報を入手し,組み合わせつつ,仮説を繰り返し設定し,最も有力な仮説を選択していくという作業が常時行われている。収容鑑別はおおむね1か月間に集中して組織的に行われる特殊なアセスメントであり,一般的なアセスメントはより緩やかなペースで進むことが多いはずであるが,情報を収集しつつ仮説を絞り込んでいくプロセス自体は変わらないと思われる。

(2)留意点

ア 中心的な原因を把握する

クライエントが陥っている問題状況の原因は無数にある。それらを片端から列挙していくのは容易であるが,それでは支援のポイントがつかめない。その中心をまず明らかにする必要がある。

前述のモデルケースの場合,「年齢に比した場合の依存性の強さ」,「家庭でのサポートの低下」,「部活動の挫折による生活目標や枠組みの喪失」を中心的な原因として指摘した。それらは,クライエントが繰り返し語るテーマを掘り下げていったり,心理検査の結果や行動の特徴を集約したりする中で,次第に浮かび上がってきたものである。「クライエントがなぜこうなったのか。」という疑問を念頭に置きつつ調査を続けていれば,それらは最も有力な説明概念として,自ずと明らかになってくることが多い。

ただ一般的には,クライエントの資質上の最大の弱点,最もクライエントを苦しめている環境要因,最近の重要なエピソード等が関連していることが多いので,焦点が絞りにくい場合は,まず,それらを確認することから始めることが近道であろう。

このようにして中心的な原因が定まり,その周辺に他の主要な原因や,それらの相互作用等を適切に位置付けることができれば,問題状況の構造はひとまず把握できたことになる。

イ 長所や資源を見出す

アセスメントの初心者は往々にしてクライエントの欠点や問題点の指摘に終始しがちである。それらは確かに目立つものではあるが,その列挙だけでは,あまり支援の役には立たない。なぜなら,それらについてはすでに大半が指摘され,何らかの対応がとられており,現時点で新たな手掛かりにはなりにくいからである。むしろ長所や資源をいかす方が解決の近道になることが多い。

アセスメントを行う者は,どうしても物事の暗い面,否定的な面に敏感になりがちなので,私たちは意識的にクライエントの長所や彼の持つ資源を見出すよう努めなければならない。

ウ 保留・修正する

100パーセント完全なアセスメントはあり得ない。いくら入念に情報を集めても,はっきりしない部分は必ず残る。もちろん,私たちは支援に役立つアセスメントをすればよいのだから,クライエントのすべてを知る必要はない。しかし重要と思われる部分に確信が持てない場合もないとは言えない。

そのような部分については,「〜であることも考えられるが,現状では断定できない。」などとして結論を保留すべきである。分からないことを分からないと言い,疑問が残ることは疑問が残ると言っておかないと,アセスメントの信頼性は大きく損なわれる。

また,アセスメントを終了した後に,その結果と食い違う情報を入手することも稀ではない。特に実際に支援が開始されると,思いもかけぬ展開となり,事前の予想が覆される場合がある。そんなときにはアセスメントの修正を躊躇(ちゅうちょ)してはならない。アセスメントと支援は相互作用しつつ,互いの精度と有効性を高めていくものであり,アセスメントは常に修正に対して開かれていなければならない。

エ 他機関と連携する

クライエントのニーズはさまざまな領域に重層的に関連していることが多く,アセスメントに当たって他機関の協力が必要となる場合がある。

代表的なものは精神疾患や発達障害の疑いのある場合であり,これらには精神科医などの専門家へのリファーが必要となろう。また,犯罪,非行や自己破壊的行動が見られるようなときには,警察や少年鑑別所の相談機能の活用も考慮すべきである。

オ 目的に応じて記載する

まとめの記載方法は,その目的や使用方法によってさまざまであり,場合によっては箇条書きやフローチャートのような記載の仕方も考えられる。参考までに,前述のモデルケースについて項目立てて記載した,ごく簡単なまとめを図5−5に示す。なお,これは鑑別結果通知書の記載様式とは異なるものである。

図5−5 まとめの一例

現状:高校中退後,不良仲間と怠惰な生活を送っており,その中でひったくり,万引きなどの非行を散発的に反復している。

問題点:子どもっぽい依存性をいまだかなり残した少年であり,周囲から十分な支持や受容が得られないと不安や不満を高めやすい。最近,実母が祖母の介護に追われるようになり,家庭のサポート力が低下したことから不安定になってきており,加えて,熱中していた部活動に挫折し,生活目標や枠組みを見失ってしまったため,せつな的,享楽的な構えを強め,生活を崩している。

長所・資源:家庭や学校への適応は最近まで良好であり,常習化した問題行動もない。保護者との関係も現在まで保たれている。また,知能や社交性,統制力等に特に問題はなく,サポート体制の強化と,生活目標の再確立がなされれば,生活の立て直しは可能である。

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