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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第3節 支援計画作成のための評価  

5 現場の実践例(若者自立塾Y−MACの実践から)

(1)(株) K2インターナショナルジャパンの紹介

(株)K2インターナショナルジャパン(以下「K2」という。)は不登校やひきこもり・家庭内暴力など,さまざまな生きづらさを抱えた子供達・若者達を支援している。そのような若者達の最終的な自立の方法を模索し続けながら【住まう場所】をつくり【食べていくための手段】として飲食店を展開するなど,K2の活動は若者たちと共に成長し,変化をしてきた。

20年前に活動を開始し,96年に株式会社化,現在は事業内容により株式会社,有限会社,二つのNPO法人を併設し事業展開をしている。このような事業展開は出会った若者たちと,彼らが生きていくことを【きれいごとでなく支える】という現実に向き合ってきた結果である。

(2)自立塾を受けるに当たって

平成17年度から厚生労働省の施策である「若者自立塾」事業を受託しているが,この事業を実施するに当たって,私たちが今まで取り組んできた20年間の実践に加え,意識をして《目に見えるカリキュラム》の構築を行った。

自立塾という入口から来る若者は,今まで私たちが関わってきた若者たちと同じくさまざまな生きづらさを抱えていることに変わりはないが,状況,年齢,抱えている問題,終着点はかなり違っている。

《目に見えるカリキュラムの構築》は,目に見えない若者の不安を取り除く一つの手段である。

さまざまな層の若者たちがまず入口として入りやすいという安心感を持ち,そして参加した若者の知的欲求・精神的欲求が満たされ,それぞれが達成感を感じる。そのうえで実際に一人ひとりに必要な個別支援と集団支援を行う。共同生活はそのための大切な基盤となる。

(3)自立塾の具体的なプログラム

K2が運営する若者自立塾Y−MACには,アウトリーチからカウンセリング,共同生活,座学研修,各種ボランティア,自営店舗での研修(プレOJT),外部企業での研修(OJT)等の段階があり,個別の支援計画に沿って自立へのステップを作っている。支援計画は本人や親御さんとの入寮面談に沿って作成し,入寮から1週間め,1か月め,2か月め,3か月めに行う本人とのカウンセリング,保護者,スタッフとの話合いをもとに調整していく。

支援内容は個々の関わりからスタートし,段階を経るにつれてY−MACの中での集団,地域活動,企業,サークル等での集団的な活動が増え,就労・自立へと促していく。

しかし,大切なのは本人が社会に出た後に戻れる場所,人とのつながりがあるという安心感を持って出ていけるかどうかで,それが最終的に1番の支えになると思っている。

(4)その後のフォロー

3か月の入塾期間が終了した後も本人の希望があれば,プログラムの継続,海外就労体験,ボランティア活動をしながらのステップアップができる。また就職した後も引き続き住む場所と食事の提供を受けられ,仲間づくりも継続できる。自営店舗での雇用の受け皿があり,そこで働く先輩達がいる・・・。そのような場があることで,3か月という期間がきっかけづくりの機会となり,現実として定着した就労・自立へとつながっていく。

K2は,目の前にいる生きづらさを抱える若者たち一人ひとりに向かい,その子たちのニーズに従って支援をしてきた。必死の思いで相談にくる親御さん,さまざまな問題に葛藤する当事者にとって,ありきたりのプログラムや言葉がけでは意味がない。

彼らは目に見えない不安に立ちすくみ,将来に希望を持てずにいるのだ。

私たちのするべきことは,まず彼らの漠然とした不安を目に見える具体的な不安に変えること。

そして,目に見える不安を解消するために具体的な場とロールモデル(行動の基盤となる存在)を提供し,諦めずに何度でも失敗できる環境を整えてあげることであると思っている。

(5)今後の課題など

現実として自立塾に来る若者たちの中には,自覚のあるなしに関わらず精神的な疾患,知的障がい,発達障がいの状態を抱えた若者たちも少なくない。彼らに対しての見立ては生活の中,さまざまな活動の中で,また保護者からのヒアリング等も合わせ総合的に判断しなければならない。そのうえで私達の守備範囲と範囲外とに分けて,専門分野への適切なつなぎと連携,医療・福祉・専門機関・行政等との連携により,本人を中心として包括的に支援し,また孤立させないことが何よりも大切なポイントであると考えている。

そのためには私たちの活動自体がたくさんの人とつながり,開かれた場所になることをいつも念頭において活動している。

ますます高年齢化・深刻化している若者の状況に対して私たちが現在提案していることは,親御さんたちが1対1で子どもに接するのではなく,チームとして若者たちを支えるシステムをつくっていくこと,その中で若者たちが社会に合わせ矯正させられるのではなく,彼らがそのまま持っている個性と能力の範囲で自立し,支え合って生きていける仕組みを広げていくことだと考えている。

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(6)査定と支援計画の実施(活用)状況,効果等

若者自立塾Y−MACにおいて,支援計画を進める過程についてご紹介したいと思う。

ア アセスメントの基準

まず,入塾を希望する参加者,保護者に対して行う私たちのカウンセリング,面談は対象者と保護者がどのような状況にあり,私たちの提供するプログラムに参加できるか,また参加できない場合は他のプログラムや他の機関で適切な紹介先があるかを見定めることが主な内容となる。その後の具体的な事柄については共同生活と並行していく。

イ 限られた時間の中で行う面談,アセスメント

私たちのような団体ではあまり多くの時間を面談に使うことはできないため,保護者,対象者に質問票を記入していただき,それにしたがって面談を行う。

保護者には生育歴から家族関係,これまでの経過などを,対象者には自分から見た家族について,悩んできたこと,学校での体験などをできるだけ細かく書いていただく。

これは時間の短縮だけではなく,言葉では語れないことの聞き取りやその後,支援をスタートした時に問題となった状況において見直し,検証するための資料にもなる。

ウ 抱え込まないで必要な支援につなぐ

自立塾には非常に幅広い相談があるため,自立塾として面談を行う中で対象と考えられる方は約半数,その中で実際に参加するまでに至る人は1,2割である。

対象者でないと判断する例は共同生活に適応できない(自傷,他傷行為,アルコール中毒等の専門家介入領域,医療領域,経済的な問題,等々)場合はほかの支援手段の情報を提供し,必要に応じて実際にその団体や機関にこちらから連絡を取っていく。

いろいろな窓口や機関,団体を転々とさ迷ってたどり着いた方も多く,面談時の適切な判断とつなぎは非常に重要な役割であると思っている。

エ 共に考えるという姿勢

上記のようなつなぎも本人や保護者の納得なしに行ってはトラブルになりかねない。必要な支援であっても心の問題を抜きにしての支援には結果がともなわないと感じている。特に初期面談での判断は非常に難しく,代表者や責任のあるスタッフ,経験豊富なカウンセラーのみが対応し,必要があれば専門家の判断を仰ぐようにしている。

何より本人や保護者がどのように納得をし,次の段階に進めるかを見据えながら,共に考え歩んでいくという姿勢で支援を行っている。

オ 支援計画を本人に伝え,先の見通し目標を持って活動させる。

Y−MACでのカリキュラムは月2回の入寮日があり,ほぼ個別でのスタートとなる。大卒の若者も小,中学齢からの不登校経験者も,10年以上のひきこもりからの若者も仲間としてここで生活し,最初は同じプログラムを受講する。

しかし,進み具合や目標,必要な期間は一人ひとり違うので,各節目での個別面談によって振り返りを行い,その後の支援計画を修正,確認していく。

同じ場を共有していても,それぞれが自分の目標に向かって進んでいるのだということの確認がとても重要な作業となっている。

また,支援計画は短期的な目標,中長期的な目標を立てるが,本人が安易な道を選択したがることも多く,そのような場合はいくつかの選択肢を用意し,本人がその中から決断し進むという方法が有効だと感じている。自ら決めたこととその後の検証を繰り返し,やりたいこととできること,できないことを自覚するためにさまざまな体験を行っている。

カ 支援計画は日々変わる。

支援計画の修正は本人との定期的なカウンセリング,面談を通して行うが,その間にさまざまなカリキュラム,就労体験,ボランティア体験,当番,寮での生活等を通してスタッフ,外部協力者,就労先の職員さんなどからの意見が大きく影響している。

最初の見立てでは非常に問題の少ない若者と思った場合でも,実際に生活をすると,たとえば《体の具合が悪いことを理由に決まったスケジュールで動けなかったり》,《生活もコミュニケーションもよくできているが,いざ仕事体験をすると非常にごく常識的な行動ができなかったり》,《生活の中では気づかなかったことが,仕事を一緒にした現場から発達障がいの疑いが大きく出てきたことなど》,保護者にも気づかなかった問題点が共同生活の場,また自営店舗での研修の場,地域コミュニティの中での複数の視点によって明らかになっていくのである。

スタッフ間ではメーリングリストにより個々の塾生のちょっとした日常の変化について毎日情報交換をし,必要に応じて専門家へのつなぎなどを含めて支援計画の修正を行っている。

キ これらの取組による効果

私たちのような共同生活をともなう支援現場においては,対象者との距離が近い分,その場その場の感情(なんとかしてあげたい…など)で行動してしまう恐れがあるが,それは決して当事者に対して良い結果を生み出さないと実感している。私たちの現場では各持ち場(研修スタッフ,事務局,自営の各店舗の店長,寮など)の担当者が一定の支援計画に基づいて一人の対象者に対しチームで対応しているのだということを確認し合い,情報を共有することが最も大切で,そのことが団体としてのリスクマネージメントになり,対象者に対しても有効な支援を提供することに大きく影響していると感じている。

しかし,私たちの行っている支援計画やアセスメントはまだ完成されたものではない。今後は更に内容を精査し,他の団体にも提供できるような支援計画を作っていくことが現在の課題だと思っている。


 若者自立塾Y−MAC 岩本真実
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