本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第5章 > 第3節 支援計画作成のための評価
ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第3節 支援計画作成のための評価  

6 現場の実践例(特別支援教育における査定〜発達障害学生支援計画作成のための評価〜)

学校教育においては,平成19年度より特殊教育から特別支援教育体制への移行にともない,小・中学校では,発達障害(学習障害,注意欠陥/多動性障害,高機能自閉症,アスペルガー症候群など)のある児童生徒に対して,適切な支援を行うための支援体制の整備を進めている。また,幼稚園や高等学校においても,このためのモデル事業が実施されている。文部科学省は教育の構造改革の一環として,大学教育の改革を進めている。この中で,大学などの高等教育機関は,学生の多様な個性や能力から生じる学習ニーズに的確に応じることが求められている。この多様な学習ニーズには,障害に起因して生じるニーズも含まれる。このような情勢から,将来は支援を受けた発達障害のある児童生徒の高等教育機関への進学が増加してくと予想される。

一方,平成17年4月に発達障害者支援法が施行された。この法律では,発達障害のある学生の状態に応じて,大学及び高等専門学校において,適切な教育上の配慮をすることを求め,教育的な支援の必要性が明示されている。

発達障害は,外見上からは障害と理解されない場合が多く,周囲がどのように理解していくか,学習上のニーズや行動上の困難性について,どのように支援していくかが課題となる。大学などにおいては,これらの学生への支援体制を整備していくことが重要である。

平成17年に独立行政法人国立特殊教育総合研究所が行った全国の大学・短期大学・高等専門学校1,272校の学生相談もしくは保健管理部門の担当者を対象とした調査によると,発達障害もしくは発達障害があると思われる学生の相談は,229校(回答を得た797校中)であった。すべての発達障害の学生が学生相談室を利用するわけではないことや学生相談室の担当者が必ずしも発達障害を専門としているわけではないことから,ここで示された数以上の学生が在籍していると考えられる。表5−1に,発達障害のある学生が呈する困難例を示す。

表5−1 発達障害のある学生が示す困難の例
困難の領域 記述例
対人関係や大学での生活上のトラブルに関すること 「友人とうまく付きあえない」,「約束を守ることができない」,「サークルや級友とトラブルを起こすことが多い」,「孤立している」,「余暇時間が適切に使えず,学内各部署にきまり切った質問をして回っている」,「集団が苦手なため単独で休息できる空間を見つけると常に使用する」など
学業上の問題に関すること 「講義についていけない」,「ノートが取れない」,「提出期限が守れない」,「課題や単位取得が予定通り進まないことからくる自己否定感」,「科目履修の管理が困難」,「本人は一生懸命学業に取り組んでいる様子であるが,成果が上がらない」,「授業中,突然はずれな質問をするため,授業が中断される」など
行動・情緒面の問題に関すること 「物事がうまくいかないことで感情のコントロールが困難になり,パニックになる」,「自己主張が強く,自省に欠く」,「気持ちが落ち込みやすい」,「自尊心が低く,自分はダメな人間であると訴える」,「感情的に起伏が多い」,「不適応場面でカッとなり,手が出たりする」など
就労の問題に関すること 「進路を決められず就職活動がうまくいかない」,「対人関係の形成に困難があるのにもかかわらず,そういった能力を高く要求される職種を選ぼうとして失敗をくり返す」,「対人関係が主体の仕事や臨機応変が必要な仕事は困難」,「やりたい職業がみつからない」など

表5−2に,これらの困難性に対して,高等教育機関(2工業高等専門学校,5大学)が実際に実施している発達障害のある学生に対する支援例を挙げる。

どの機関においても基本的には,既存の組織を利用して,保健センター(もしくは保健室)や学生相談が中心となって,支援を展開している。A校やD大学では,専門的な知識・技能を有するカウンセラーや精神科医が専門家として関与し,保健センターや学生相談を中心とした取組が報告されている。その他,特徴的な取組として,B校では,障害学生就学支援プロジェクトを立ち上げ,月例会議を開催し効果的な解決方法の検討を行っている。また,C大学では障害の枠に限定せず,同じような取組を行っている。具体的には,学生支援懇談会を開催し,教職員が共通認識を持って支援を展開するための会を運営している。また,専門的な知識・技能を持つ教職員が,発達障害のある学生の対応へのアドバイス等を行い,他の教職員を支援する体制を構築している。このような会が機能するか否かは大学等の規模にも左右されるが,有効な取組である。

F大学では,障害のある学生だけでなく,学習に困難さのある学生の学習支援をラーニングセンターという組織で実施している。発達障害のある学生に対しても学習支援を行い,同時に学生相談室において心理・生活全般に対する相談,教職員を対象に発達障害に対応するための知識やスキルアップを狙って,発達障害研究会による勉強会を開催するなどの取組があった。学習支援を組織的に行っている大学等であれば,このようなラーニングセンター等が発達障害のある学生の支援においても有効に活用できると考えられる。

E大学,G大学では,発達障害を含む学生全体の支援のために,関連する部署間の学内の連携がスムーズになるように,既存の組織の改編を行っている。保健センターや学生相談室等のスタッフだけでなく,学生課や学生センターや就職課やキャリアセンターなど,学生と直接に対応する職員の理解が高まることと,保健センターや学生相談室等とが効果的に連携することは,発達障害のある学生の支援において必要不可欠なことであると考えられる。

表5−2 高等教育機関における発達障害のある学生への主な支援例
A校 学生相談室(各教科選出された5名)と保健室(看護師1名,保健室補助職員1名)が中心となって対応。
非常勤スクールカウンセラー(臨床心理士2名)が専門的知見に基づいて相談とアドバイスを行う。
B校 障害学生就学支援プロジェクト(メンバー: 副校長,教務主事補,学級担任,学科学生相談員,心理カウンセラー,保健室看護師,校長が指名する教職員)において,学生の対応策を検討。
C大学 基本は担任に相当するアドバイザーが対応し,必要に応じて専門的知識・技能を持つ教職員が支援。
全学的に学生支援を検討する学生支援懇談会などで支援策を検討。
D大学 カウンセリングルーム(保健管理センター併設)が中心となって対応。
学習面の配慮等は修学支援委員会で検討。
E大学 保健センターが中心となって対応。学生相談室が保健センター内にある。非常勤の精神科医がおり,相談をつなぐ。
F大学 学生相談室において心理・生活全般に対する相談。ラーニングセンターにおいて学習支援。
学生相談室が中心となって発達障害研究会による勉強会を行う。
G大学 保健センターと学生相談室において対応。保健センターではMHAテストの後,必要な学生を精神科医が面接する。カウンセリングセンターで全般的な心理・行動面の相談や支援を行う。

この他,各高等教育機関では,具体的に以下のような取組を行い,学生の生活,学業面で効果を上げている。

(1)教職員のための学生サポートブックを作成し,発達障害についての説明を行うことにより理解啓発を図っている。

(2)定期的な学内連携会議を持ち,関係者間で情報を共有している。

(3) 学生相談室においては,本人への自己理解を促すよう本や資料を用いながらカウンセリングを行っている。

(4)不安軽減のためのカウンセリングやサポートグループ(仲間からの心理的サポート)を活用している。

(5)レポートの書き方を指導したり,大学院生等にチューターを依頼している。

(6)SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)を行っている。

(7)ボランティアの学生サポーターを利用し,試験前の予想問題と模擬回答の作成や過去問などを集める手伝いを行っている。

(8)試験のスケジュール,教室などを事前に確認するように助言している。

(9)キャリアサポートセンターと共通理解を図りながら,職業について調べ,現実的な職業・職種に目を向けることができるようにしたり,アルバイトを奨励している。

(10)卒後のフォローを円滑にするために,地域の発達障害者センターとコンタクトをとり,来談させている。

これらの支援の実践例からは,発達障害学生支援に際して,以下の6点を踏まえることが重要であることが明らかになった。<1>相談窓口を明確化する,<2>発達障害に関する自己認識(自己フィードバック)のためのカウンセリングを行う,<3>周囲の理解を促す取組を恒常的に行う,<4>学内外において支援をつなぐため,関係者間で共通理解を図る取組を行う,<5>学内外の人的・物的リソース(資源)の利用を図る,<6>卒後を見越した地域の専門機関との連携を図る。


 国立特別支援教育総合研究所総括研究員 原田公人
-
本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁