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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第4節 グループワーク  

4 認知行動療法

(1)はじめに

認知行動療法は,生物・心理・社会の複合した問題に対して,個人の抱えている問題をアセスメントすることで,個人と環境との相互作用を把握し,変化し得る認知(ある場面で浮かぶ考えやイメージ)や行動(客観的に把握できる動作)の面から介入することで,問題を解消しようとする行動的技法と認知的技法を効果的に組み合わせた心理療法である。

(2)認知行動療法の原則

認知行動療法には,六つの基本原則がある。一つめは,「関係性」である。認知行動療法を行う際,治療者は患者との信頼関係とともに協同的実証主義に基づき,問題解決チームを形成しながら協力関係を築き面接を進めていく。面接の中では,治療者と患者とが対等の関係性の中で,耳を傾けつつ,質問や理解できない点を確認し合い,お互い活発に対話していく。二つめは,「認知行動療法の基本モデル(図5−6)を理解すること」である。関係性とともに,このモデルに沿って患者の問題を整理し,状況が個人にどのような影響を与えているのか,といった全体像を把握していく。


この図5−6は,環境と個人の相互作用を図にしたものである。この図は,ストレス源である状況(環境)が個人の認知・感情・行動・身体にどのような相互作用が起こっているのか,また,その反応が個人内部でどのような相互作用が起きているのかを把握するためのものである。 

図5−6 認知行動療法の基本モデル(伊藤,2005)
図5−6 認知行動療法の基本モデル(伊藤,2005)

三つめは,「問題解決的な志向で進めていくこと」である。原因を追究するのではなく,「今,ここにある」問題に焦点を当て,どのような要因がその問題を維持させているのかを分析し理解する。そして,現実的な目標を立て,その目標を達成することで問題の解決を目指す。

四つめは,「心理教育と再発予防の視点」である。心理教育は,患者に認知行動療法に関しての教育を行うことや,患者の抱える問題や症状についての情報などを提供し,自分自身が抱える問題を知識として理解することで,解決するための対処法を習得することを目的とする。さらに,患者の内在する資源に働きかけることで,自分自身の対処できる力を引き出し,自分自身の状態をより良く理解し,再発の予防をすることを目的とする。

五つめは,「構造化」である。開始から終結までの流れ(アセスメント→問題の同定→目標設定→実践→検証→維持と般化)を説明する。そして,1回ごとの面接では,あらかじめ,話し合う内容を決めていく。これを「アジェンダ設定」という。これは,1回の面接の流れが全体の流れへとつながり,治療者と患者が「今,何のために何について話し合っているのか。」ということを明確にして面接を進めていくためである。

六つめは,「外在化」である。面接の中で話し合っていることを,文章や図を使って紙に書き出すことで視覚化し,治療者と患者が共通理解しながら面接を進め,自分自身の問題を客観的にとらえることができるようにするためである。

(3)認知行動療法の考えに基づく若者への支援の例

思春期・青年期という時期は,心身ともに大きな成長過程にある。ここでは,そういう心身の成長過程の中で不適応な状態が起こっている若者に対する認知行動療法の例を紹介する。

一概に,不適応な状態という背景には,さまざまな問題が存在する。たとえば,病理的な問題から家族の問題や,友人関係まで,個人個人により異なっている。また,背景となる問題は,直接,解決することさえ難しい場合もある。さまざまな背景を抱える若者に対して,過去の話ではなく,「今,ここ」に焦点を当て,問題がどのように維持されているのかを理解し,解消していくための手法としての認知行動療法は,大いに役立つものである。

若者に対して認知行動療法を導入する際,動機づけが重要になってくる。若者は,自ら自分の問題を言葉で表現し,解決するための行動を進んですることはめずらしいが,治療者との関係性が生まれてくると,その中で問題を表面化していくことができるようになってくる。治療者は,問題解決の視点を持ちつつ,「どのような対応をすれば,元気になっていくか」という視点も持つ必要がある。特に,不登校やひきこもりといった非社会的傾向を持つ若者は,背景にある問題に巻き込まれ,自分の状態がどうなっているのかさえ把握できない状態が続いていることが多い。同時に,人に対して敏感な面を持っていることが多い。したがって,セラピストは,ゲーム,マンガ,音楽,スポーツなど共通の窓口を見つけ,そこからコミュニケーションを図る必要がある。一見,治療的ではない会話でも,若者にとっては,見知らぬ人に今までの自分のことを話すことは神経を使うことがある。セラピストは,できるだけ若者に安心感を与えながら,関係性を構築するためにあらゆる手段を使う必要がある。

次に,治療者は,心理教育を行い,お互いが共通の理解を持ちアセスメントを導入していく。関係性から心理教育への流れは,若者の動機づけを高めることができる。

そして,面接への動機づけが高まり,認知行動療法を導入していく。認知行動療法の中で,特に重要としている「アセスメント」は,認知行動療法のモデルを使いながら患者が「今,どのような環境の中で,どのような反応をしているか」ということを治療者と一緒に理解し,共有していくプロセスである。

治療者は,具体的な事例を患者に挙げてもらい,「その時,どのような考えやイメージが浮かんだか。」(認知),「そう考えると,どのような気分になったか。」(気分),という状況と個人との相互作用を把握していく。また,「身体には,どのような反応が起こったか?」(身体),「その時,どのような行動をしたのか?」(行動)というように認知や感情から身体や行動への相互作用も把握し,個人の反応としてモデルに当てはめていく。つまり,患者の体験を外在化することで,問題を維持させている悪循環が共有される。その結果,この悪循環のループから脱する方法を考えていくことができるのである。

アセスメントが進むと,自分の悪循環のループがはっきりと見え,自分の問題が整理されてくる。そこで,「今,何がどのように困っているのか」ということが認知行動療法の視点から見え,「問題を同定する」ことができる。そして,その問題を解消するための「目標を立てる」ことができる。目標に関しては,患者の人生についての目標ということではなく,面接の中で扱うことができる目標を立てることが重要である。

アセスメントから問題の同定をし,目標を立てると,その目標に対する「技法の選択」をする。まずは,何のための技法なのかをしっかり心理教育することが大切である。そして,認知行動療法のさまざまな技法をパッケージとして使用し,患者に合ったものをつくり上げていく。技法のみの介入ではなく,アセスメントからきちんと進めたうえで介入することが効果を最大限に発揮することにつながる。

技法には,さまざまなものがあるが,ここでは代表的なものを説明する。不快な感情や不適応行動の一因には,認知の仕方によるものがある。その認知に焦点を当て,介入をする技法として「認知再構成法」がある。ストレスとなる問題状況に対して,患者の認知を同定しその主観的強さをパーセンテージで表わす。そして,その中で,不快な感情に特に関連する認知を選択しさまざまな角度から検討する。その検討内容から,患者にとって確信度が高く実行可能な認知を選択し,新たな認知として不快な感情を再評価して検証していく。


例 (CI: クライエント,Th: セラピスト)

Cl : 「昨日の夕方出かけた時,近所の人おばさんたちがこっちを見て何か話していたんです。きっと自分のことを話しているんだと思い,すごく嫌な気分になりました。」

Th : 「他の人が,自分のことを話しているのではないかと考えると,すごく嫌な気分になったんですね。その嫌な気分をパーセンテージで表すとどのくらいになりますか?」

Cl : 「だいたい70%ぐらいです。」

Th : 「70%も嫌な気分だったんですね。その時どうしてそのような考えが浮かんだのでしょうか?」

Cl : 「それは,以前に似たことがあって,だからそう考えたんです。」

Th : 「なるほど,では,そのような考えをいろいろな角度から検討してみましょう。たとえば,もし,別の見方をするとしたらどのような考えができると思いますか?」

Cl : 「今回は,以前の人と違うし,はっきりと自分のことを言われていたわけではないかもしれない。」

Th : 「そう考える確信度はどのくらいですか?そして,嫌な気分はどのくらいになりますか?」

Cl : 「確信度は,80%ぐらいです。嫌な気分は,40%ぐらいです。」

Th : 「では,もし,同じ状況で他の人だったら,どう考えますか?」

Cl : 「たぶん,別に自分のことではないかもしれないし,別に直接何かあったわけではないから大丈夫だよ,と言うと思います。」

Th : 「そうですか,では,あなたは,そう考えることがどのくらいできますか?」

Cl : 「60%ぐらいです。」

Th : 「では,そう考えると気分はどうですか?」

Cl : 「嫌な気分は,30%ぐらいになります。少し,気分がすっきりした感じがします。」


このように,不快な感情を引き起こす認知をさまざまな角度から検討することで,クライエント自身の考えを広げることができる。

次に,目に見える行動に焦点を当て,介入する技法として「問題解決療法」がある。ストレスとなる問題状況を把握し,この問題状況と反応を具体的に表現する。そして,問題が現実的に少し解決した状況をイメージし,そのイメージする目標を達成するためのさまざまな手法を検討していく。その際に,その状況に対する認知を適応的なものに整えていく必要がある。検討した手法の中から効果と実行の可能性が高いものを選び,仮説として行動計画を立て,実験していく。これは,患者自身が生活の中で行動を計画し,実践そして検証していくということが重要になってくる。


Cl : 「自分のことを噂しているのではないかと考えると人目が気になって,外出できないんです。」

Th : 「そうですか。まずは,できるところから始めていきませんか。実験だと思って,問題を小分けにしてできるところからやっていきましょう。」

Cl : 「はい,そう考えると,少し楽になります。」

Th : 「それは良かった。では,まず,今の問題状況から少し解決されたイメージをしてください。」

Cl : 「人目が気になるけど,週2回ぐらいは外出できるようになること。」

Th : 「では,週2回外出するためには,どのような手段が必要でしょうか?」

Cl : 「まずは,計画を紙に書く。あと,前日にどこに行くか決めておく。それと,人目が気になるけど大丈夫と紙に書いてお守りを作る。」

Th : 「では,それぞれどのくらいの効果的で,実行可能ですか?」

Cl : 「すべて,80%ぐらい効果的だと思います。実行も80%ぐらい可能です。」

Th : 「そうですか,では,この手段に沿って計画を立てていきましょう。」


技法の導入後,患者自身が生活の中で,技法を実践し,それを自分のものにしていくことで自己対処能力を高め,再発予防へとつなげることができる。

思春期・青年期は成長過程である。それは,自己対処能力を身に付けることが最大の治療と成長となる。時間が止まることがないのと同様に成長も止まることはない。一刻と状況もその個人の反応も変化している。それだけに,心理教育はその成長を促す一因となる。治療者は,その変化を見立てながら面接を進めていくことが望まれる。

【引用文献】

伊藤絵美,2005,『認知療法・認知行動療法カウンセリング 初級ワークショップ』,P8,星和書店


【参考文献】

斎藤環,1998,『社会的ひきこもり 終わらない思春期』,PHP新書

大野裕,2003,『心が晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳』,創元社

デボラ・ロス・レドリー,黒澤 麻美訳,2007,『認知行動療法をはじめる人のために』,星和書店


 洗足ストレスコーピング・サポートオフィス臨床心理士 久保田康文
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