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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第5節 生活支援  

2 生活自立支援のスタイル

ここでは,若者たちを社会参加につなげるために,どのような環境で生活し,何をするのが効果的なのかを探り,生活自立支援のスタイルを提示することとする。


(1)多種多様な体験こそが問題解決力を育てる

最近の子どもたちは指導者からの評価を気にする余り,苦手なことや下手なことを避け,できることにしか手を出さない傾向にある。また,先に述べた「したいことしかしない」ので,体験が著しく少なくなっている。そして,「できることしかしない」と「したいことしかしない」ことで,困難をともなう新しいことに挑戦するのを極端に嫌がり,その機会をほとんど持たないまま歳を加えていっている。長い人生のうちには,特に現代社会においては,新しいことに取り組まなければならないことが必ず生じる。そのハードルを越えていく力をつけるためにも,若い時に,できるだけ多くの新しい体験をしておくことが必要である。その豊富な体験こそが問題解決力を育て,行きづまらない人生を実現していくことになるからである。

(2)一緒にやって見せることが大事

小学生の子どもたちと一緒に風呂に入ると,きちんと体を洗うことができない子どもが多いことに気づく。アトピー治療の専門家は,体を洗うことを指導することで7割が改善すると言っていた。小学生の時にできなくても,二十歳にでもなればできるようになるだろうと思っているのは間違い。二十歳になっても風呂にきちんと入ることができない若者が多く存在する。そこで,生活は伝えることが特徴と言ったように,一緒に風呂に入ることで,洗い方を伝えていく。また,生活体験をする合宿所では薪割りをするのだが,ヨキ(薪を割る柄の長いオノのようなもの)で丸太を割るときに,大学院の学生が近づいてきて,「何センチの高さから振り下ろせば割れますか」と尋ねられたことがあった。彼にとって言葉や文字で学習することが大事なのだろうが,まず,割ることができる人がやっているのを見て,それから真似をしてやってみることしかないのだ。このことは,体を洗うことや薪を割ることだけでなく,すべてのことに対して言えることである。

(3)主人公意識を育てる

若者たちの多くは,責任を負わされることを極端に嫌い,そのような立場に置かれると,そのプレッシャーからストレスになって,自ら退いてしまう傾向がある。我々のところでは,一人ひとりの存在を神輿の担ぎ手と見て,「みんなで担いでいこう。」と呼びかけることにしている。主人公意識とは,独りで神輿を担ぐことではなく,全体に気配りをして互いに助け協力しながら,みんなで神輿を担ぐことである。ものごとを進めるには,一人でやるよりも,実力の違う複数の人たちと協力しながらやる方がはるかに難しい。竹箒(たけぼうき)で合宿所の庭を掃く場合でも,一人でなら小学5年生でもちゃんとやれるが,学年が違う子が3人でやろうとすると,急に難しくなる。全体に対して目配り,気配りをしながら主人公意識を育てるには,常に流動的に変化している「生活」の中で培っていくのが効果的である。

(4)3歩以上は走る

だいぶ以前に,親が子どもに「早く,早く」と言うのは良くないということが流行し,大人たちが口に出さなくなったことで,それ以後に育った子どもたちの行動が極端に遅くなってきた。「遅いのはその子の個性だから待ってあげましょう。」というのがその根拠であるが,常に待ってくれるものだという気持ちからか急ぐことができなくなった。できるだけ早く行動することは,動きにともなってアタマも回転するわけだから,我々のところでは,脳を刺激するために,「3歩以上は走ろう。」と言うことにしている。動作が遅くて自立できない人たちが結構いることを思うと,生活の中で急がなければならない時の訓練はしておかなければならないことである。

(5)台所は宝の山

行きづまりを感じて立ち往生している若者の多くは,考え過ぎるほどよく考える。考えてばかりいて,一歩踏み出して行動することが苦手だ。そんな彼らと台所に入って一緒に食事の支度をすることにしている。台所は他の生活空間と比べると比較的狭いところに,大きい物から小さい物までのさまざまな種類の道具や皿があり,それらを毎日使い分けて調理している。しかも,調理は水加減,火加減,塩加減など,加減が重要になる。バーチャル体験ばかりで実体験が不足している人たちには,この「加減」が身に付いていないのが特徴の一つに挙げられる。「加減」を体験し身に付けることができるのが台所である。献立を立てるのは企画力,野菜を刻んだり,ガスの火を上手に使い込むのはマネージメント力,そして,複数の人と台所に立てば,否応なしにコミュニケーション力が身に付く。しかも,ガソリンの値上げにともなうバイオエタノールの生産で農産物などの高騰が続くなど,台所からは世界も見える。このように,自立支援をするには宝の山とも言える台所を大いに活用するべきだと思う。

(6)日常生活と非日常体験のバランス

一つにじっくり取り組み持続する力は,目立つことのない日常生活によって培われる。生活の力とはそういうものを言うのだと思う。生活リズムが整っている日常生活がきちんとしていれば,非常時には実力が十分に発揮される。まつりなどの行事のような非日常体験は,日常生活の潤滑油としての役目がある。日常生活と非日常体験の量のバランスが,自立支援には重要なポイントとなる。

(7)自立支援には少し不便な生活環境が適している

若者が,生活を通して社会参加を目指し自立支援をするには,いつでも何でも自由に手に入れることができる環境よりも,少し不便な生活環境が適している。他人と力を合わせ助け合うことで,つながりを回復し,バーチャル体験が過剰にならず,手足を動かし汗を流して実感できる実体験の量を増やすことで,思い切って(=考えることを一旦止めて)一歩前に進むことができる呼吸を体得できるからである。さらに,食事をきちんととることで生活リズムが整い,台所の体験などの小さな成功体験を蓄積することによって自信を取り戻すことができる。

おわりに

生活を通しての自立支援では,支援者と支援される者とは同じ生活者として,共に道を歩む同志的な関係でなければならない。この関係こそが生活自立支援のスタイルそのものだと確信する。


 NPO法人子どもと生活文化協会(CLCA)会長 和田重宏
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