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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第6節 就職(就学)支援  

10 コラム(就労支援に関するエビデンス)

就労支援には本当に効果があるのだろうか。支援者は自分の努力が自己満足でないかどうかを確認したいし,行政をはじめとする予算提供者は予算が有効に使われているかどうかを知りたい。

エビデンスとは,社会的介入の効果に関する,バイアス 31) をできる限り排除した,判断の結果である。良質のエビデンスは,ランダム化比較試験(RCTs: randomized controlled trials)によって与えられる。RCTsは,介入を受ける実験群と受けない統制群に,対象者を無作為に割付け,介入後の両群の差を比較するというデザインで,新薬を承認するための臨床試験に用いられる。医療介入同様,人間を対象とする介入である就労支援についても,RCTsによる良質のエビデンスが要請されるのは,倫理的に当然である。しかしながら,わが国の青少年就労支援に関する良質のエビデンスはない。今私たちにできることは,海外で積み上げられたエビデンスに参照することである。

海外において,就労困難者の就労支援に関して,有効であるというエビデンスを積みあげてきたのが,伴走型支援の一つ,精神障害者の就労支援手法である援助つき雇用(supported employment)である。その成果を図5−7に示す。12件のRCT研究のいずれにおいても,実験群(援助つき雇用群)の一般就労率が,統制群のそれを上回っている。

図5−7 IPS援助付き雇用のRCT研究
(n=12)における一般就労率の比較
図5−7 IPS援助付き雇用のRCT研究(n=12)における一般就労率の比較

就職困難者の就職支援としてすぐれたエビデンスを持つプログラムには,ジョブクラブとJOBSがある。ジョブクラブは,参加者を10名〜12名の小グループとして組織し,グループメンバーの相互作用を基盤として,就職をかちとるプログラムである。マッチングのうえランダム化したRCTの結果,プログラム開始後2か月の時点で,統制群の55%に対し,実験群の90%が就職するという劇的な効果を挙げている。

JOBSは,問題解決として就職活動をとらえ,有効な職探しのスキルを身に付けてもらうことで問題を解けるという感覚を強化し職探しの動機づけを図る,グループセミナー形式のプログラムである。JOBSは,二度のRCTで検証されているが,1991年に行われた,追試であるJOBS IIは,1週間のセミナー(4時間のセッションを5回)を長期失業者に対し行った結果,(特にうつに陥る可能性の高い対象者について)5%水準で再就職に有効であることが示されている。

今後は,わが国においても,就労支援に関する良質のエビデンスをつくりだし,また,それに基づいて政策を展開していくことが,強く望まれる。

【参考文献】

ネイザン・H・アズリン,ヴィクトリア・A・ベサレル,(訳 津富宏),近刊,「キャリアカウンセラーのためのジョブクラブマニュアル ―職業カウンセリングへの行動主義的アプローチ』,法律文化社

デボラ・R・ベッカー,ロバート・E・ドレイク,2004,『精神障害をもつ人たちのワーキングライフ―IPS:チームアプローチに基づく援助付き雇用ガイド』,金剛出版


  静岡県立大学国際関係学部准教授 津富宏

31)バイアス:本稿では,社会的介入の効果の推定値に誤差をもたらす要因
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