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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第6節 就職(就学)支援  

3 メンタル面からのアプローチ

(1)子どもの心身健康のために

現代の日本社会では大人だけではなく青少年もストレスにさらされている。そこには,親の別居や離婚,再婚などによるストレス,偏差値教育によるストレス,貧困生活によるストレス,虐待によるストレス,いじめによるストレスなどさまざまである。また,インターネットや携帯電話,ゲームが青少年に与える影響も大きくなっていると,親とゆっくり向き合って会話をすることも少なくなり,人間関係が希薄化し,自己表現がうまくできない若者も増えている。このような状況下で青少年の精神状態が不安定になってきているのである。そのようなストレスは,身体的症状や,精神的症状として現れ,不登校や問題行動など社会的逸脱行動に出ることが多い。その背景には,家庭や学校教育から来るストレスがあると言える。青少年の問題行動は,その原因が乳幼児期,学童期の親との関わりの中にある場合が多い。青少年の問題行動を考えるとき,今の青少年の状況を考える前に,親が乳幼児期,学童期に子どもと正しい関わりをしてきたかどうかを思い返すことが重要である。青少年が問題行動を起こしても親が自分たちの子育てを振り返らなければ解決に結びつかないケースが多いのである。子どもは親を人間としてのモデルとして日頃から見習い成長していく。夫婦間の関係が悪かったり,会話がなかったり,隣近所との関わりが悪ければ子どもに悪影響が出て当然である。子どもだけではなく,親も含めてメンタル面からアプローチすることは今の時代,必要不可欠なことであると言える。子どもたちの心身の健康度を高め,より良い心の状態をつくり,豊かでいきいきとした生活を送ることにより子どもたちは前向きに将来を考えることができるようになるのである。

(2)カウンセリングマインドの基本

ストレスがたまった時や不安な時に,周囲に相談せずに自分の殻に閉じこもってしまうと,大事なコミュニケーションがうまくいかなくなり,周囲の人との関係もギクシャクしてしまうことがある。

青少年の相談に乗る場合は,その青少年の性格的な傾向をエゴグラムなどでつかんでおくことが望ましい。またその青少年に関わる周囲の者の養育状態なども把握しておくべきである。たとえば,不登校の青少年にアプローチする場合は,学校教育では勉強の遅れなど知的な面が優先されるが,メンタル面からアプローチをかける場合は,「なぜ欠席しなければならないのか?」など人間の情的な面が優先されるのである。青少年の相談に乗る時に大切なことは青少年の出すわずかな信号でも見逃さずに受け止めることである。子どもは防衛機能ができ上がっていないため,大人から見ると異常に思える行動をとることがある。不満や葛藤が起きると我慢ができないため,泣いたり,怒ったり,騒いだりと行動に移すのである。思春期以降になると自意識ができてくる。つまり見られる意識が出てくるので異常と思える行動をとることは少なくなる。しかし,見られる意識ばかりが強くなると自意識過剰になり対人恐怖症になるケースもある。また,我慢し過ぎる子どもはバランスがとれなくなり,さまざまな神経症として現れ,不適応症状でバランスをとろうとするのである。このバランスの悪さが思春期に歪みが出る原因の一つにもなるのである。メンタル面からのアプローチは信頼関係の上に成り立つと言っても過言ではない。大切なことは,相手の話にしっかりと耳を傾け共感すること。うなずくタイミングや豊かな表情も大切である。ありのままの相手を受け入れること。指導者ではなく援助者としての気持ちを常に持ち続けること。また,あせらず,結果を急いで求めないこと。たえず,メモを取りながら相談には乗らないこと。メモばかり取っていると調書を取られている気分になってしまうからである。またメモばかり取っていると相談者の表情の変化に気づくことができないからである。否定的な言葉や相手を評価する言葉は避けること。相談が終了したら必ずその日の相談内容をまとめておき,次の相談日までに読み返し前回の相談内容を頭に入れておくことも重要である。相談を受ける場合の三つの手順は,<1>信頼関係を作る,<2>問題の核心をつかむ,<3>適切な処置をして問題を解決する,である。

また,相談を受けるうえで基本原則がある。まずは,時間制限のルールである。これは,いつまでもだらだらと話をさせず,問題解決を早めるためである。次に,愛情制限のルールである。これは相談者との個人的接触が強過ぎると,相談を受ける側の私的世界が分かり過ぎて,相談者の自己表現を阻止することがあり得るからである。最後に秘密保持のルールである。秘密が守られなければ,もちろん心を開いて相談することはあり得ないからである。最近,カウンセリングマインドという言葉をよく耳にするが,これは,相手の心に気を配り相手の心を共有して,相手が安らぐように配慮することを意味する。言い換えれば相手の立場になって,相手の身になって心を配ることである。相談に乗る人は常にカウンセリングマインドを持っていることが重要である。人には,「自分自身では分かっていないが周りの人が分かっている面」,「周りの人は分かっていないが自分自身は分かっている面」,「自分自身も周りの人も気づいていない面」がある。これが,メンタル面からアプローチし,カウンセリングマインドを持って対応することにより,次第に明らかになり,相談者の可能性を引き出し,相談者の将来への展望が開けてくることにつながるのである。また,相談を受ける立場の者が常に自分を顧みて,自分自身が向上しよう,成長しようという姿勢が強い時に,相手の心も受け入れることができるようになるのである。相手の言葉に感情的になったり,身構えていては相手も心を開かない。

(3)問題行動の背景

メンタル面からアプローチをかける上で大切なことは,「問題行動の背景をしっかり踏まえた上で適切な対応をする」ということである。ニートやひきこもりの青少年の大多数が家族を含めたメンタル面からの支援が必要である。本人だけではなく親自身にも問題があることが多いからである。親とも話合いを重ね,親の苦しみをわが苦しみと意識し十分に話を聴くことが大切である。その際,親と相対するのではなく,共に協力し,子どもの成長を願う気持ちが大切である。親の養育態度に問題があると決めつけ,親の今までの子育てを非難してばかりでは問題解決にはつながらない。親の立場になって配慮し,親の良き理解者,良き協力者として親の思いや願いに目を向け,可能な限り援助しようとする姿勢があれば,信頼関係が芽生え,青少年のより良い成長へとつながっていくのである。ニートやひきこもりなど社会参加できない家族をメンタル面から支援していくには継続性がなければならない。数回の話合いだけで改善されることはないと思ったほうがよい。本人や親のモチベーションを維持するためにも,まめに話合いを持つことが必要である。親の頑張りや本人の頑張りを評価したり,支援策を再検討することも有効である。家族を含めた支援をしていくことにより家族の中に変化が現れる。家族の良い変化は子どものやる気と行動につながる1番の近道である。最近は犯罪も低年齢化,凶悪化し,情緒不安の青少年も増えている。相談を受ける立場の人は,時として痛み苦しんでいる人を見下す傾向がある。このような中で信頼関係ができることはありえない。相談を受ける立場の人は,苦しみ,悩みに共感する気持ちが大切である。青少年自身や家族では問題が解決できないケースが多数ある。このような青少年や家族の問題解決のために共に悩み,苦しみメンタル面から支援していくことは今後ますます必要となると言える。

【参考文献】

文部科学省,2006,「小学校・中学校・高等学校 キャリア教育推進の手引き」,文部科学省

小島貴子,2006,『就職迷子の若者たち』,集英社新書

越智 通勝,2004,『秘伝 就職の極意―これで,息子は10社の内定を獲得した』,ダイヤモンド社

工藤啓,2005,『ニート支援マニュアル』,PHP研究所(財)社会経済生産性本部,2007,「ニートの状態にある若年者の実態及び支援策に関する調査研究」,(財)社会経済生産性本部

厚生労働省,2005,『労働経済白書(平成17年版)』

國分康孝,1979,『カウンセリングの技法』,誠信書房

國分康孝,1981,『カウンセリングの理論』,誠信書房

安川雅史,2006,『「ひきこもり」と闘う親と子を応援する本』,中経出版


  全国webカウンセリング協議会 安川雅史
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