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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第6節 就職(就学)支援  

6 現場の実践例(ジョブコーチ)

求職者であるAさん(20代前半,女性)は,高卒後いくつかの仕事に就いたが,いずれも短期間で離転職を繰り返していた。Aさんは新しい環境に慣れることが苦手で,いつも強い不安感を抱いており,仕事や人間関係にうまく対応できなかった。また,直前まで勤めていたB社では,仕事上のミスで解雇され,ひどく落胆し,退社後も精神的に不安定な状態が続いていた。このため,心配した家族に促され精神科を受診したところ,Aさんは発達障害の一つである「アスペルガー症候群」を有しており,職業生活における不適応から二次的にうつ症状が出ていると診断された。

その後Aさんは,しばらく通院・服薬を続けながら静養し,うつ症状の改善を図り,求職活動を再開した。ハローワークの職業相談で,これまで仕事や人間関係でうまく対応できなかったことや「アスペルガー症候群」と診断されたことを話したところ,自分に合った働き方や適職について,一度,地域障害者職業センターで相談をしてみてはどうかと勧められ,職業センターで職業評価を受けることになった。

職業センターでは,障害者職業カウンセラーが,Aさんの障害特性や支援ニーズを把握するための職業評価を行った。その結果,Aさんは,作業面では,必要以上に確認を繰り返し効率的に作業を進められない特徴がある一方,対人面では,周囲に迷惑を掛けているのではとの不安が強く,上司や同僚に気軽に相談したり,援助を求めることができず,問題を抱え込んでしまう傾向があることが確認された。そのため,カウンセラーは,Aさんが就職し安定して働き続けるためには,作業手順や指示の与え方等についての工夫や配慮,職場における円滑な人間関係を構築するための支援が必要と考え,Aさんの同意を得て,ジョブコーチ支援を活用し就職支援を行う「職業リハビリテーション計画」を策定した。

職業センターにおけるジョブコーチ支援は,カウンセラーの進捗管理の下で,ジョブコーチが,一定期間,職場を計画的に訪問し,障害者に対し職務遂行や職場内におけるコミュニケーション等に関する支援を行うとともに,上司や同僚に対し,障害特性に配慮した仕事の与え方等に関する必要な助言・援助を行い,職場の中で自然なかたちで見守り支えることができるような体制の構築を目指す。

その後Aさんは,カウンセラーの支援を受け,ハローワークに求人を出していたC社に応募し,就職前の職場実習から就職後までを含めた4か月間,ジョブコーチ支援を受けることになった。支援開始に当たっては,カウンセラーがC社の職場環境や職務内容を事前に確認し,Aさんの特性を踏まえた改善策をC社に提案するとともに,支援期間や支援方法等を示した支援計画を作成した。また,ジョブコーチは,Aさんの従事作業を事前に体験し,コツをつかんだうえで,Aさんに対する支援に活用するための作業手順書等の支援ツールを作成し,効果的な支援に備えた。

支援開始後は,はじめのうち,ジョブコーチは事業所を集中的に訪問し,Aさんが一人でも仕事ができるよう,あらかじめ作成しておいた手順書等を使って作業支援を行うとともに,上司等に対する相談,報告等の具体的な仕方について重点的に指導した。また,休憩時には,従業員同士の会話にAさんがうまく参加していけるよう援助した。その結果,Aさんは仕事を順調に覚え,同僚との関係も徐々にうち解けてきたことから,支援後半では,支援頻度を段階的に減らし,ジョブコーチはできるだけ手を出さずに,Aさんの仕事ぶりや上司や同僚の対応を見守り,職場内でAさんへの支援が自然に行われるよう仕向けた。

このような障害者職業カウンセラーとジョブコーチとのチームワークによる計画的な支援によって,AさんはC社での仕事や人間関係に円滑に適応することができ,支援終了後も安定して働き続けている。


 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 小嶋文浩
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