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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第6節 就職(就学)支援  

9 現場の実践例(個別就労支援プログラムIndividual Placement and Support : IPS)

(1)IPSとは

IPS(Individual Placement and Support。以下「IPS」という。)とは,米国で1990年代前半に開発された就労支援モデルであり,数多くの無作為化比較研究が行われ,一般就労率の向上などの有効性が実証されており,近年注目されている科学的根拠に基づく実践(EBP:Evidence Based Practice。以下「EBP」という。)の一つである。EBPとは,科学的に効果的であると証明された事実や根拠に基づいた援助プログラムである。

わが国においては,2005年より千葉県市川市国府台地区において日本版IPS(IPS−J)が開始されている。近年,東京や愛媛でもIPSを志向した取組が開始されつつある。

IPSでは,就労は治療的効果があり,ノーマライゼーションをもたらすと考えられている。IPSの最終目標は,リカバリーである。つまり,重い精神障害を持つ人々が,生活の自立度を高め,精神保健が提供するサービスへの依存を減らしていくことである。精神障害を持つ多くの人々は,自立度が高まるに従って,自尊心が高くなり,症状に対する理解が深まり,症状に対応し,生活全般に満足感を覚えるようになる。働くことが,多くの場合,これを達成する手段となる。

(2)IPSの基本原則

IPSの基本原則を表5−4に示した。施設内での職業前訓練やアセスメント(査定)は,本人の仕事へ取り組む意欲を減退させ,適職を見つけ出すことの弊害となることがあるとして最小限にし,短期間・短時間のパートでも,一般雇用に就き,さまざまな仕事に従事することでこそ,仕事内容,自らの適性,関心,そしてニーズを知り得ることとなるという理念がIPSの根幹に位置づいている。よってIPSでは,「train−then−place:保護的な場で訓練する」伝統的なやり方よりも,「place−then−train:早く現場に出て仕事に慣れる」やり方を重視する。また,職探しや障害開示,職場での支援は,支援者側の都合ではなく,本人の技能や興味・選択に基づき,迅速に職場開拓が行われ,職場の中にジョブコーチとして出て行って,その中でのサポートを継続していく。また,IPSの構造やサービス内容に関しては適合度評価尺度(Fidelity Scale)が開発されており,原則に忠実に実践されるほど,有効性が高いことが示唆されている。

表5−4 IPSの基本原則
症状が重いことを理由に就労支援の対象外としない
就労支援の専門家と医療保健の専門家でチームを作る
職探しは,本人の興味や好みに基づく
保護的就労ではなく,一般就労をゴールとする
生活保護や障害年金などの経済的な相談に関するサービスを提供する
働きたいと本人が希望したら,迅速に就労支援サービスを提供する
職業後のサポートは継続的に行う

(3)従来の職業リハビリテーションとIPSモデルの違い

IPSは,従来の職業サービスと違い,職業準備性ができている,できていないなどの判断をしない。診断名,症状の重篤度,入院歴等と就労達成率との関係に相関しないというエビデンス(証拠,検討)があるが,IPSでは,本人が「働きたい」という希望があれば一般の職に就けるという強い信念に基づき,ケアマネジメントの手法を用いて,本人の好みや長所に注目した求職活動と同伴的な支援を継続するなど,特徴ある活動を展開する。 

従来,欧米でも職業リハビリテーションは医学モデルを反映した段階論的なものであった。一般就労はその人が安定するまで避けるべきストレスと考えられており,そのためノーマライズされた環境から隔離した福祉的作業所などで,症状の安定や職業準備性の向上を目指していた。その結果,暗黙の目標は彼らを普通の市民というよりは「良い患者」になるよう手助けすることであったのでは,とベッカーらは指摘している(Becker,2003)。また,従来行われてきた広範囲にわたる職業評価は,「できないこと」に着目することが多いため,精神障害者は職業準備性が整っていないと決めつける結果となり,職業サービスから排除するよう機能したとも指摘している。よって,IPSでは従来の発想から転換し,彼らを信頼し,可能性を信じること,そして「障害を持っていても働くこと(一般就労)ができる。」という希望を伝えていくことが重要となる。

【引用文献】

Becker, D.R.&Drake, R.E.:A Working Life For People with Severe Mental Illness, 2003,堀宏隆監訳,2004,『精神障害をもつ人たちのワーキングライフ−IPS:チームアプローチに基づく援助つき雇用ガイド』,金剛出版


 地域精神保健福祉機構・コンボACT−IPSセンター 香田真希子
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