本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第5章 > 第7節 家族支援
ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第7節 家族支援  

1 家族支援の意味

家族(family)とは「夫婦の配偶関係や親子・兄弟などの血縁関係によって結ばれた親族関係を基礎にして成立する小集団。社会構成の基本単位。」(『広辞苑』第6版,2008)である。落合(1989)によれば,近代の家族には以下の特徴が見られる。すなわち,<1>家内領域と公共領域の分離(家族は私的領域であり,近代市場に参加する個人を供給する装置である。),<2>家族成員相互の強い情緒的関係(家族成員は強い情緒的なきずなで結ばれ,恋愛結婚を始発点として家族愛が特権的に優先される。),<3>子ども中心主義(家族の最も基本的な機能は子どもの社会化にある。),<4>男は公共領域・女は家内領域という性別分業(家族成員は性別により異なる役割を持ち,特に家事労働は家族愛の表れである。),<5>家族の集団性の強化(家族は開かれたネットワークであることをやめて集団としてのまとまりを強める。),<6>社交の衰退(家族は公共領域からひきこもる。),<7>非親族(非血縁者)の排除(家族は親族から構成され,非血縁者を排除する。),<8>核家族(家族の基本型は核家族である。)。

ところが,ライフ・スタイルの私事化・多様化にともなって,近代の家族をモデルとすれば「家族崩壊」,「家族機能不全」としか言いようがない現象が社会にあふれている。単身赴任家族,通い婚・週末結婚・長距離結婚,ニュー・シングル,子どもを持たない共働き夫婦(DINKS:Double Income No Kids。英語ではDINK),離婚による母子家庭・父子家庭,娘の家族と同居する三世代家族,事実婚・別姓結婚,ステップ・ファミリー(離婚者同士の子連れ再婚)といった家族・家庭の出現は「家族・家庭」の概念を根底から問い直す現象である。また,「家族機能不全」の例として挙げられる,<1>よく怒りが爆発する家族,<2>冷たい愛のない家族,<3>性的・身体的・精神的な虐待のある家族,<4>他人や兄弟姉妹が比較される家族,<5>あれこれ批判される家族,<6>期待が大き過ぎて何をやっても期待に沿えない家族,<7>お金や仕事,学歴だけが重視される家族,<8>他人の目だけを気にする表面上は幸せそうな家族,<9>親が病気がち,留守がちな家族,<10>親と子の関係が反対になっている家族,<11>両親の仲が悪い,ケンカの絶えない家族,<12>嫁姑の仲が悪い家族,といった各点に至っては全く何も当てはまらない家族・家庭がないほどであろう。

若者のさまざまな問題の背景には,こうした「家族・家庭」の在り方に問題があると考えられる。若者問題の本質の一つはさまざまな「関係性」とその認識であり,それゆえに本人と家族・家庭の関係性の変容と再構築(家族・家庭と離れることも含めて)も求められるのである。

若者支援に当たって,まず気をつけなければならないことは,「家族と本人だけの関係に閉じこめない」ということであり,広く社会に目を向け「社会の中に居場所をつくる」ということである。

社会的自立が困難な若者は,それだけで「社会の中に居場所が持てない」状況に陥りやすい。いわゆるニートなどの若年無業者に端的に表れている教育,雇用,職業訓練の機会にアクセスできない若者の問題は,世代を継承した社会経済階層とその文化の問題をその背後に抱えている。この問題の中心となる概念は「社会的排除」(social exclusion)であり,従来の「貧困」を超えた,経済・社会・文化的資源のすべてあるいはその多くを持たない人たちが本人の努力ではどうしようもないレベルで「社会の中に居場所がない・見付からない」,「自分たちをより安全で快適な環境に導く社会的資源・社会システムにアクセスできない・その方法が分からない」という社会的不平等の問題である。それはまた,社会に適応,同化する価値の受容と内在化の問題といえるかもしれない。

「働かない・働けない若者」と向き合う重要な姿勢の一つが,「働く機会と場」を作り,彼ら・彼女らと背景にある家庭・家族に明示することであるとすれば,支援者(支援組織・団体,学校,行政機関,家族など本人に関わる組織と個人)はそれに貢献できる可能性がある。若者に限ったことではないが,「働く」ことは最も身近な社会との関わりであり,「今を生きる意味」を感じさせ得る行動である。 

若者が個人の能力を発揮して社会の中で居場所を持ち,社会の一員として生きていくためには「チームで働く力」が身に付くとなお良い。その際重要なのはリアリティある他者との関わりとその認知の経験である。

問題を抱える若者とその家族を支援するに当たっては次の各点に注意したい。

(1)精神障害や発達上の問題が疑われたら受診を勧める…重要なのは「社会の中で生きていける」ことだから,服薬してコントロールできれば,それは一つの社会適応のかたちである。

(2)家族や兄弟姉妹に依存しない…家族だから分かること・できることもある反面,家族だから分からない・許せないこともある。家庭や血縁のネットワークが教育力を失い,学校が必ずしも信用を得ているとはいえない現状にあって「働く世界」は若者にとって「新たな人生=職業人としての人生=の出発点」になり得る。社会=非血縁関係だからこそできることに気づかせる必要がある。

(3)振り回されない距離を保つ…問題を抱える本人と家族に問題があることを気づかせるために当事者の話を聴くことは必須である。しかし,話を聴くこととすべて受容することは全く別のことである。

(4)コミュニケーションの回復…まずは挨拶,分かりやすい一貫した態度で「聴く」ことを心掛ける。「言いなりになる」のではなく,相互性と共感性を大切にする。

(5)モデルを示す…言葉だけでなく実際に「やってみせる」。

(6)家庭内暴力が起こったら…鉄則は「暴力に暴力で対抗しない」こと。初期ではできるだけ刺激しない。慢性期には(家庭の密室化)+(本人の退行)=(慢性的暴力)となる。密室化の予防には第三者の介入,司法の介入(警察に通報),避難の方法。避難の際は,暴力直後の避難,避難直後の連絡,帰宅のタイミングがポイントとなる。家庭内暴力予防の原則は「退行させない」=スキンシップをせずに,距離をとり会話で補うこと。

(7)生活全体の中に「働くこと」や「職場での生活」を位置づけさせる…働く世界に定着するかどうかは,毎日の生活の中に「働く生活」をどれだけリアルに位置づけるか次第である。就業前後,その後1年程度まで,長いスパンで彼ら・彼女らの仕事も含めた「日常生活」に視点を置いた指導を心掛けたい。

(8)働くことに関しては見守ることとフォローが必要…成功体験(うまくいったこと,良かったことなど,プラスの経験)と失敗体験(うまくいかなかったこと,イヤだったこと,マイナスの経験)の両方があって初めて「リアルな経験」になるという当たり前の事実の確認が必要である。どちらかだけの経験はあり得ない。また,事実を問題にするというよりは,経験をどのように受け止めたか(認知したか)に注目する。場合によっては認知の修正もあり得る。経験(行動)に基づき考え方・受け止め方(認知)を変えることを学習させるのである。

-
本編目次   前頁 前頁   次頁 次頁