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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第7節 家族支援  

3 メンタルの面から

(1)共依存(Co−Dependency)関係に注意し,家族の閉ざされた関係に閉じ込めない 

広い意味での適応に関して問題を抱える若者に対して,家族との関係の面から注意したいことは共依存関係に気づかせること,また,共依存関係から脱却できるように,家族・親族以外に広くさまざまな資源があることに気づかせ,それにアクセスできるように支援することである。

「共依存」とは,人間関係そのものに依存するというアディクション(addiction:嗜癖・依存症)の一つであり,正式に学術用語として定義されているわけではないが,一般には「相手との関係性に過剰に依存し,その人間関係に囚われている状態」であり,「自己評価やアイデンティティを他者にゆだねる『自分らしさの喪失』」であるとされる(緒方,1996)。また,それは社会学的にはギデンズ(Giddens,A.)が指摘するように,「他者によって,自分の欲望を定義されることを必要とする生き方」 32) であり,市民社会を広く理解するキー・コンセプトになっている。

共依存の状態にある人は,一般に自分自身の問題に向き合うより家族など身近な人の問題に目を向けてその問題を引き受け,その処理に自己犠牲的に当たるため結局は自分自身も大切にできなくなる。本来は自分自身(たとえば,子どもが問題を抱える場合は親・養育者自身)の問題であることに気づかず・あるいはあえて向き合わず,家族など問題が顕在化している本人に問題の所在を気づかせ,それに向き合って解決する方向性を与えない。その結果として,見かけの努力とは裏腹に困った状況や問題がそのまま放置されるばかりか,いっそう深刻な状況をつくり出す。共依存の人が自己犠牲的に問題を引き受けその処理をしてしまうので,問題を抱える本人は状況や問題の深刻さを受け止めることなく,「どうにかなる」という認識を持ってしまうためである。問題を持つ当事者は,人間関係が構築できないなどさまざまな問題を複合的に抱えているため,共依存の人の「共依存」という問題は見えにくく,むしろ子どもを心配する親・養育者,兄弟姉妹を支える家族といった役割を持つため,共依存関係に気づかないことも多いのである。問題を抱える本人と家族の関係に配慮しながらも「距離のとり方」と「非血縁の他者のネットワークにどのようにつなぐか」は支援のポイントとしておさえておきたい。

「共依存」の特色としては次の各点が挙げられる。 33)

ア 自分を価値の低い者と感じ,自分が他者にとってなくてはならない者であろうと努力する。

イ 他者からの好意を得るためなら何でもする。

ウ 常に他者を第一に考え,自らは犠牲になることを選択する。

エ 奉仕心が強く,他者のために自分の身体的,感情的,精神的欲求を抑える傾向が強い。

オ 他者の世話をやくことによって,その他者が自分へ依存するように導く。

カ 強い向上心を持った完全主義者で,自分は物事を完璧にやれないから良い人間ではない,方法さえ見出せば完璧にやり遂げられるはずだと信じている。

キ 自分と他人との境界があいまいで,他人の感情の起伏の原因が自分にあると思ってしまう。

ク 他者に対して不誠実,支配的で,自己中心的である。

ケ 策略的な手段を用いる傾向があり,自分の気持ちを直視せず,平気で嘘をつく。

共依存からの脱却は,次のようなプロセスを経ることになるだろう。

ア 問題が顕在化している本人だけではなく,まず何よりも親や家族自身,広くは家族間の関係性の問題であることに気づかせる。

イ 当事者,親・養育者,家族それぞれの立場ではなく「独立した個人」としての生き方を支援者と共に考える(人のためではなく自分のためという意識付け)。

ウ 本人との距離をとる = 家族など血縁だけでなく,非血縁の社会的資源の存在とそれへのアクセス方法に気づかせ,困難はあっても今までの関係性を変え,認知の変容を図る。

ポイントは家族など「血縁」を基盤とした「閉じた」関係から,行政などのサービス・支援機関・支援者など「非血縁」の「開かれた」関係に移行させるため,資源のありかを広く求め,あくまで「線引き・限界を認識した支援」に乗せることである。そのうえで当事者本人が問題に向き合い,自分で動き出すのを「見守る」姿勢が望まれる。

(2)うつ病やうつ傾向が家族の間で共有される場合があり,的確な状況把握のために医療につなげ,アドバイスをもらいながら支援する

反社会的・非社会的問題行動・逸脱行動の背景には,家族間で共有された「うつ病」などがあることも考えられる。うつ病の人は悲しみ,心配になり,怒りやすくなり,不安が強い。また,一般に自尊心が低い。うつ病の兆候は,日常の変化に表れるが,その主なものは以下のようなものである。

ア 悲しみ,憂うつ気分,気落ち

イ 楽しかったこと(たとえば,性行為や他の活動)に対する興味の喪失

ウ 食欲減退,体重減少(または,体重増加)

エ 睡眠障害または過度の睡眠

オ 考えが進まなかったり,理由なくイライラする

カ 疲れやすい,気力低下,せかせかする

キ 自分が価値のない人間だと思う,罪悪感

ク 集中力,思考力,記憶力,判断力の低下

ケ 自殺念慮または企図

こうした傾向が「家庭の文化」を形成していることも考えられるので,本人を含めた家族を地域の精神保健福祉センターにつなぎ,医療・福祉面からのアドバイスをもらいながら支援する必要がある。その場合,診断やアセスメント(査定)はそれ自体に意味があるというよりは,これからの社会的適応・社会的自立の方向性を考え,実際に支援する際の重要なポイントをつかむ手段と理解したい。

32)Giddens,A.,1992,「The transformation of intimacy. Stanford University Press.」,松尾精文・松川昭子訳,1996,『親密性の変容−近代社会におけるセクシャリティ,愛情,エロティシズム』,而立書房
33)Schaef.Anne.W.,1987,「When Society Become An Addict, Harper SF.」, 斎藤学監訳,1993,『嗜癖する社会』,誠信書房
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