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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第7節 家族支援  

5 心理教育

(1)家族援助としての心理教育的アプローチ

若者の抱える多くの問題は最初に家族がさまざまな相談機関に意を決して訪れることから始まる場合が多い。そのため当初は家族援助を継続的に行うことが必要となる。例として表5−5にひきこもり相談に家族が訪れたときに,家族に最初に伝えるべき事柄を示した。これは相談を受ける側もこのような態度で家族に接するべきであるということも示している。ひきこもりに限らず,家族は多くの場合それまでさまざまな家族内あるいはインフォーマルな相談などの努力をしており,相談機関や医療機関を訪れるときは非常な勇気をふるっているのである。また,多くの場合,初期に相談したところで「ちゃんと相手をしてもらえなかった」という体験をしていることが多い。それは相談を受ける側からいえば,「自分たちの専門ではない」ので,他を紹介する,あるいは「本人が来なければ」という応対をするなどの場合が多いからである。相談を受ける可能性の高い関係機関では,とりあえずいったんは家族の相談を継続し,単なる紹介に終わらない関連機関や種々の社会資源との連携を作るよう努力する必要がある。

表5−5 ひきこもり家族支援の基本的態度

○「ひきこもり」は誰にでも起きる可能性があります。

○「ひきこもり」は,対人関係の不安や自分に自信が持てないことなどを背景に,社会に一歩を
踏み出せないでいる状態のことで,「怠け」や「反抗」などとは異なります。

○過保護や放任などの親の育て方や過去の家庭環境などに原因を求める考え方は,多くの場
合問題の解決にはあまり役に立ちません。

○家族の対処の仕方によって,少しずつ解決していける問題であり,家族や周囲が「ひきこもり」
の解決を焦らないことが大切です。少なくとも,家族の焦りを本人にぶつけないことがポイン
トとなるでしょう。

○それでも,どうしても家族に焦りは残ります。それは親としてとても自然な気持ちです。持って
行き場のない親の気持ちを,安心して話せる人や場所,家族が自分たちの経験や思いを共有で
き,孤立感を和らげられるような場所を見つけることも大切です。「家族教室」や「家族グループ」
などがその役に立つでしょう。

伊藤順一郎監修,2004,『地域保健におけるひきこもりの対応ガイドライン』,じほうより

(2)心理教育の定義

表5−5の最後にあるように重要な支援法として家族教室や家族グループがある。同じ問題に苦しむ家族の集まりで,それらを効果的に運営する方法に心理教育がある。心理教育は精神医療の領域で精神障害(主として統合失調症)の再発防止に効果的とされる方法であり,家族に対して行われるときには家族心理教育と呼ばれる。「心理教育を中心とした心理社会的援助プログラムガイドライン」(以下「心理教育ガイドライン」という。)における定義では,<1>精神障害やエイズなど受容しにくい問題を持つ人たちに(対象),<2>正しい知識や情報を心理面への十分な配慮をしながら伝え(方法1),<3>病気や障害の結果もたらされる諸問題・諸困難に対する対処方法を習得してもらうことによって(方法2),<4>主体的に療養生活を営めるよう援助する方法(目標)とされる。ここでは対象者が自ら抱えた困難を十分に受け止めることができるよう援助するとともに,困難を乗り越える技術を習得すること,現実に立ち向かうことができる力量を身に付けること(empowerment),困難を解決できるという自信(self−efficacy)を身に付けること,自己決定・自己選択の力を身に付けること,援助資源,社会資源を主体的に利用できるようになること,などが目指されている。心理教育は一方的な専門家から患者,家族への疾病教育ではなく,認知行動療法的アプローチや集団精神療法,解決志向的アプローチにおける技術などを取り入れながら,系統的なプログラムにより再発予防や問題解決を目的とする支援の有効性を高めようという点が特長である。対象者は本人でも家族でも,また一緒の参加でもよいが,特に家族心理教育は科学的にもその効果が確認されている。また共通する問題としても,ひきこもり,不登校,摂食障害,そのほかの精神科的問題(統合失調症,うつ病),思春期の家族,など多くの対象に同じようなやり方で実施可能である。

(3)心理教育的家族グループの進め方

心理教育的な家族グループ(家族教室)を実施しようとする場合,実施する機関やスタッフ,対象とする問題の違いによってさまざまな枠組み(開催回数,頻度,1回の時間,開催日時,会場など)が考えられる。それぞれに最適と思われる枠組みで設定すべきであるが,継続プログラムとして数回開催すること,情報提供と自由な話合いによるグループセッションを組み合わせることは共通である。参加者数は名前や顔を相互に覚えて親しくなる規模として7〜10人が最適で,うまく進行させるためには事前にスタッフの役割分担を決め,進行を白板に書くなりポスターにするなりして参加者もスタッフも分かるようにしておくのがよい。

多くの場合,最初に1時間程度の情報提供があり,その後1時間から2時間のグループワークを行う。これをワンクールで4〜5回実施するが,もともとこの方法が最初に用いられた統合失調症の場合はその後,情報提供なしのグループセッションのみを4,5回続ける場合が多い。

情報提供は,分かりやすい言葉で,適宜質問したり,今までどう思っていたか聴いたりして双方向性で進める。またテキストやヴィジュアルな教材を工夫することが必要である。正確な情報により過剰な自責感や自らの偏見を軽減することがその目的である。

表5−6に「心理教育ガイドライン」で推奨されている解決指向型と呼ばれるグループセッションの進め方を示した。ブレインストーミングあるいはSST(社会生活技能訓練)の問題解決技法と共通する方法で,原因追及よりもむしろ良くできている対処や今後の解決に焦点を当てることが重要である。

表5−6 解決志向的家族グループ

<1>グループの進め方を確認する。

<2>最近おきた「良かったこと」,「ほっとしたこと」などを話す。

<3>グループの中で相談したい「困っていること」を出してもらい,今日のテーマを決める。何人かに
案を出してもらい,緊急性や共通性などから決めていく。それをホワイトボードに板書。

<4>相談したいことについて,詳しく話し話題を共有する。

<5>参加者それぞれが,アイデアを出す。アイデアはホワイトボードにすべて書く。

<6>相談した人が,アイデアから,自分なりの対処を選択する。

<7>必要ならば,ロールプレイや情報提供を行う。

<8>一人一人感想を言って,グループを閉じる。

浦田重治郎他,2004,『心理教育を中心とした心理社会援助プログラムガイドライン(暫定版)
厚生労働省精神・神経疾患研究委託費13指2.統合失調症の治療およびリハビリテーションの
ガイドライン作成とその実証的研究成果報告書』より

(4)個別の家族支援にいかす心理教育

個別家族面接の場合も,上記心理教育的グループの進め方は応用できる。良かったこと,うまくいったことを話してもらい,良い対処ならそこをサポートして継続し,他の解決法が必要なら何か実現可能な工夫を探し,小さな変化を目指すのである。また必要なら適宜情報提供を行う。相談初期だけではなく,経過中の節目節目,あるいは心理教育的なグループ終了後も家族支援が必要な場合このような面接を定期的に行うことは有効である。あくまで家族との協働作業を目指し,できているところを家族が発見し何とかできそうだという希望を見い出すことが目標となる。

【引用文献】

伊藤順一郎監修,2004,『地域保健におけるひきこもりの対応ガイドライン』,じほう

浦田重治郎他,2004,『心理教育を中心とした心理社会援助プログラムガイドライン(暫定版)厚生労働省精神・神経

疾患研究委託費13指2.統合失調症の治療およびリハビリテーションのガイドライン作成とその実証的研究成果報告書』


【参考文献】

後藤雅博,1998,『家族教室のすすめ方〜心理教育的アプローチによる家族援助の実際〜』,金剛出版

後藤雅博,2000,『摂食障害の家族心理教育』,金剛出版

伊藤順一郎,鈴木丈,1997,『SSTと心理教育』,中央法規出版

土屋徹,2006,『精神科版家族教室スタートアップ読本』,精神看護出版


 新潟大学医学部保健学科教授 後藤雅博
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