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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第7節 家族支援  

8 現場の実践例(山梨県立精神保健福祉センターにおける家族支援)

精神保健福祉センターでは,精神科医療への受診に関する相談をはじめ,アルコール,薬物,思春期などの特定相談を含め,精神保健福祉全般にわたる相談・支援を実施している。これらは家族からの相談で始まることも多く,家族を対象とした相談活動や心理教育,親の会などの家族援助が,全国の精神保健福祉センターで取り組まれている。ここでは,特に青年期のひきこもりケースの家族支援の実際について紹介する。

ひきこもりケースでは,家族が本人を一方的に叱咤激励することで本人との関係が悪化する,本人の暴力や支配的な言動に服従してしまうことで,本人が自らの問題に向かい合うような状況にならない,あるいは,本人への積極的な働きかけを躊躇(ちゅうちょ)したまま問題が長期化するなど,特有の悪循環を形成しやすい。また,ひきこもりの状態が長期化することで疲労感や自責感,無力感を抱き,問題解決への意欲の低下や家族全体が社会から孤立した状態に陥りやすく,家族相談の中断も少なくない。まずは家族が支えられていると感じ,自信や希望,本人への新たな働きかけを試みる意欲を回復できるようになることが重要な支援課題になる。

家族だけが相談に訪れ,本人は受診や相談を拒否しているケースも多い。山梨県立精神保健福祉センターでは,こうしたケースに対して,<1>まずは今後の人生について話し合える親子関係を取り戻すこと,<2>期限を切って,現在の生活を変えるために何らかの努力を始めるか,自ら受診・相談するといった選択を本人に促す,<3>これらの関わりを試み,いずれも無効であった場合には,とにかくいったんは離れて生活することも検討してみる,といった段階的な目標に沿って家族面接や心理教育を実施している。

ある事例は,1年以上の家族相談を経て,ようやく本人の来談につながった。相談開始当初,母親は本人に過剰に感情移入しており,母子は密着した状態にあった。母親は本人の暴言に耐え続けており,父親の関わりが少ないことへの不満を訴えていた。援助者は,両親の役割分担や本人にどのように働きかけるかを具体的に話し合い,両親の新たな試みを承認し,励ますことを続けた。相談場面は,両親が本人の変化を確認しながら,次の働きかけを話し合う場として,あるいは,両親が家庭内の出来事をめぐるそれぞれの思いを共有し,連合を強める場としても活用された。また,本人が来談し,自身の道を歩み始めてからは,母親の喪失感を支えることが家族支援の主な課題となった。

家族を対象としたグループ支援が有効な場合もある。山梨県立精神保健福祉センターでは1997年から家族教室を実施している。プログラムの内容や回数は参加者の状況に応じて対応しており,現在は3回を1シリーズとして年1,2回,本人の自立を促すための家族機能について中心的なテーマとして取り上げている。ひきこもり問題に関する一般的な知識,本人の心理状態や特徴,本人と家族との間に起こりやすい関係性などについて講義し,参加者それぞれがそれまでの家族関係を振り返り今後の関わり方を話し合う場を設けている。他の家族の体験談を聴くことによって,対応を工夫することで本人に変化が現れる可能性があることを実感したり,他の家族の試みを取り入れる機会となる。たとえば,本人への積極的な働きかけを躊躇(ちゅうちょ)している家族にとっては,思い切って本人と今後のことを話し合う機会をもったことによって本人が動き出したといった経験談が大きな希望や励みになる。

家族教室を終了した家族には親の会への参加を勧めている。家族同士が互いに励まし合い,エンパワーされる場であるとともに,お互いの指摘によって家庭内の関係性を見直す機会になることもある。


 山梨県立精神保健福祉センター主任 萩原和子
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