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ユースアドバイザー養成プログラム
第5章 支援の実施
  第8節 フォローアップ  

2 現場の実践例(NPO法人「育て上げ」ネットの実践から)

NPO法人「育て上げ」ネットでは,若年者就労基礎訓練プログラム(通称:ジョブトレ)を通じて,若者の就労を支援している。プログラム終了後には,正社員就労を希望する者もいれば,アルバイトから始めることを望む若者もいる。その中でも大切にしているのが,「働く(就労)」こと以上に「働き続ける」ということである。ジョブトレそのものが就労を目的とした支援プログラムであるため,安定的に就労できるようになると“卒業”という形になる。しかしながら,卒業後もずっと働ける状況でいてほしい,できれば年に1回でも顔を出して,状況を聞かせてほしいという現場の思いから生まれたフォローアップのための事業が「ウィーク・タイズ・プログラム」である。

ウィーク・タイズ・プログラムでは,卒業生のフォローのために以下のようなサービスを提供している。

(1)定例会(食事会・呑み会・スポーツイベントなど)

(2)個別支援(キャリアカウンセリング・就職/転職支援)

(3)保護者支援

(1)定例会

毎月,立川市にある事務所内で夕方から開催されるのが食事会・呑み会である。スポーツイベントは土日や祝日に行われる。これら定例会には三つの機能が備わっている。一つには,同時期にジョブトレに参加していた者同士の情報交換の場であり,同窓会的な場の提供である。過去に何らかの悩みを抱え,孤立状況にあった者にとって,働けている事実だけでは自分の成長を相対的に実感しづらく,また,自らが所属している職場と他の職場を比較して考えることは難しい。同様の経験を有していた者同士であれば,安心して過去の自分と今の自分を比べながら話すことができ,互いに変化したところ,現状の課題について伝えることができるのである。アルバイトから始めた者であれば,次のステップを考えたとき,すでに目標である働き方をしている安心できる仲間には,忌憚のない意見や質問をしやすい環境がこのプログラムにはある。

二つめには,卒業生である若者とジョブトレに参加している若者とが交流をすることで相乗効果が生まれることである。卒業生にしてみれば,ジョブトレに通う若者は後輩であり,先輩としてのアドバイスや社会に出てみての率直な感想−良いところ,つらいところ,楽しいところ,難しいところ−を伝えることができる。後輩であるジョブトレに通う若者にとっても,目の前の卒業生は過去に自分と同様の経験または状況にいたことから,自分の悩みを吐露しつつ,気軽に質問することが可能となる。何より,卒業生にしてみれば,「自分の仕事を語る」ことで自尊心が涵養され,責任感が育まれる。ジョブトレに通う後輩は過去の自分であり,彼らに語りかけるということは過去の自分への語りかけに等しい。自分がどれだけ変われたか,あの頃とは違い自分を再認識できることは,仕事を続けるうえで非常に有意義なのである。

最後は,現状のシンドイ部分や,職場の上司や同僚,業務内容への愚痴(不平や不満)を安心して吐露できる場としての機能である。他人が集い生産活動を行う職場では,誰でも大なり小なりの不平や不満を抱えている。それはすぐにでも離職するといったものではなく,小さなストレスの積み重ねである。そのガス抜きを定期的にすることで,翌日からの仕事に備えることができるのである。このガス抜きをする場がないとき,小さなストレスは少しずつたまり,どこかで“いっぱいいっぱい”になってしまう。

すでに顔見知りとなっていれば食事会や呑み会でグループとなるが,卒業生同士にしろ,新しくジョブトレに参加した者にしろ,知らない者同士の交流のきっかけとしてスポーツイベントなどを関係構築のフックとして開催している。

(2)個別支援

ジョブトレを卒業した若者の進路は多様であり,前述のように正社員として就職した者もいれば,アルバイトや契約社員,派遣社員など,卒業時の事情と希望に合わせたものとなっている。しかし,働き続けていれば考え方も変化をしていく。業務内容は好きだが職場を変えたい。非正規社員ではなく正規社員を目指したい。もっと自宅から近いほうがいい。一人暮らしをするために収入が多い仕事に就きたいなど,働き続けることとは別に,現状に変化を求めるものもいる。そのとき,フォローアップとしてこのプログラムで提供しているのが,個別的なキャリアカウンセリングや就職/転職支援である。

キャリアカウンセリングといっても,専属のカウンセラーは彼ら・彼女らがジョブトレに参加する前の状況から現在に至るまでのすべてを把握しており,また,クライアントである卒業生とも長年の信頼を築いている。保護者との連携も密である。だからこそ,今の職場環境や労働条件から,次に求めるものまでをざっくばらんに話すことができる。1日や2日の付き合いでないからこそ気軽に,真剣に話せる機会の提供ができるのかもしれない。

就職や転職活動にしても,確かに履歴書作成や面接の練習はするが,内部ですべてを完結するのではなく,近隣のハローワークやジョブカフェの相談員と連携をとり,有効活用できそうなセミナーには積極的に参加するよう卒業生には促す。また,一般企業などとのつながりの中から,本人と先方企業にマッチングが可能であると判断した場合は,直接希望の人事担当者を紹介することもある。すでに紹介しようとする企業に,ジョブトレの卒業生が働いている場合などは,人事担当者の理解も早く,比較的スムーズに面接まで進む。そこから先は相性の問題もあるので何とも言えないが,卒業生の仕事が評価されるにつれ,次に続く若者にチャンスが広がるのは,支援側としても大変ありがたいことである。

(3)保護者支援

ウィーク・タイズ・プログラムには保護者への支援も含まれている。卒業生に何か悩みやトラブルがあれば,保護者はそれに気がつく。そのとき,すぐにジョブトレの担当者に連絡が入ることで,早期に問題解決に動くことが可能となる。また,卒業生の進路がアルバイトであった場合など,保護者としては当然将来を心配するものであるが,卒業生自身の気持ちを把握していることで,保護者と卒業生の間に入って,状況説明や今後のキャリア形成などを話し合う場を作り,相互理解を進めることもできるのである。卒業生が考える次の働き方,働き先と,わが子を思う保護者の考え方が必ずしも一致するわけではない。しかしながら,社会とつながり,働き続けている若者にとって保護者の理解は何よりの支えとなり,心のよりどころとなるのは事実である。だからこそ,フォローアップに関しては,保護者とのつながりも重要な機能として残しておかなければならないのである。


 NPO法人「育て上げ」ネット理事長 工藤啓
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