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第3部 調査結果の分析

第2章 非行の家庭的要因

帝京大学文学部教授 星野 周弘


要旨


この章では,内外の諸研究が,これまで少年の非行を引き起こすと指摘してきた家庭内の諸要因は,現在の我が国においても非行化要因として妥当するか否かについて検討する。具体的な検討課題は以下のとおりである。1) 非行少年は単親家庭(父又は母を欠く家庭)に相対的に多いか。そこではしつけが適切に行われていないか。2) 家庭の経済的水準,文化的水準は非行発生に影響を及ぼすか。3) 父母への同一化子どもに対する親の関心,親に対する子どもの愛着,子どもへの体罰・干渉などの掬圧,家庭の情緒的安定機能など,親子関係が子どもの非行化に影響を及ぼすか。4) 子どもに対する親の信頼,子どもの家庭的役割の存在などは,非行化を防止するように作用するか。

調査結果の分析から,以下のことが導かれた。1) 非行少年は単親家庭や経済的水準の低い家族に比較的に多いが,その家庭自体が非行化要因となるのではなく,そこで親子関係における問題がひきおこされたとき,そのことが非行化を促す。2) 緊密ではない親子関係(子どもへの無関心,放任)体罰・干渉などの抑圧,子どもに情緒的安定を得させないことなどは,子どもの非行を動機づける要因となる。3) 親への同一化(高校生を除く),親への愛着,認知された「子どもに対する親の信頼」,家庭における子どもの役割意識などは,非行を抑制する心理的要因となるとみられる。これらが形成されなかったり,消滅したりしたとき,子どもの非行化が促されやすい。4) 社会で承認され推奨されている目標の達成へのかかわりの乏しさ,子どもの遊び志向への許容度の大きさなど,家庭の文化的水準の低さは,子どもの非行化要因として作用し,ときには非行を深化させる可能性をもつ。5) 非行の家庭的要因の影響力は,一般に低年齢の子どもに対して大きいとみられる。6) 家庭内にある非行化要因は,本調査研究で検討された限りでは,これまでの20年間に大きく変化していないとみられる。


1 家族に関連する非行化要因(概観)

青少年の非行問題を引き起こす家族に関連する要因としては,これまでに様々なものが指摘されてきている。

我が国でも欧米諸国でも共通して指摘されている家族内の非行化要因のうち,主なものを示すと,以下のとおりである。

第一は,単親家庭における家族の機能障害である(Stern,1964:総務庁〈総理府〉青少年対策本部,1979,1990:米川,1995)。かつては,両親あるいは父母のいずれかを欠く欠損家庭そのものが子どもの非行化を導きやすいと考えられていたが,現在では,単親家庭において,親子間の交流が乏しく,子どもの放任がみられるような場合に,子どもの非行化が促されやすいと考えられている。

第二は,家庭の経済的水準の低さである(Toby,1964:総務庁〈総理府〉青少年対策本部,1979,1990:West and Farrington,1973)。これについては2つの見方があり,その1つは,家庭の経済的水準の低さが子どもに「相対的欠乏感」をもたらしたとき,子どもはそれによって非行を動機づけられるようになる,というものである。相対的欠乏感とは,スタウファーらによって提唱された概念で,「自分は他の大勢の人々とは違って,不当に差別された恵まれない状況にある」という感情であり(Stouffer et al.,1949),これは社会への敵意を生みだしやすいとされている。もう1つは,経済的生活水準の低さが子どもに対する無関心,放任,子どもの情緒的安定の無視など,望ましくない親子関係をもたらすことから,子どもの行動が統制されなくなる,という見方である。

第三は,家庭の文化的水準の低さである(星野,1981:総務庁〈総理府〉青少年対策本部,1979,1990)。家庭の文化的水準の低さは,広域社会に普遍的な価値,生活様式,行動様式,思考様式などに子どもを同調させることを困難にするので,その中で社会化を経験してきた子どもたちは,自然に逸脱した行動様式をとりやすい,と考えられている。アメリカでは,下流階層文化の中での社会化が子どもの非行化を促進するという理論が数多くみられている(Cohen,1955:Miller,1958:Cloward and Ohlin,1960)。

第四は,親子間の交流の乏しさ,放任,父母に対する子どもの同一化の乏しさ(Glueck,S. and E.,1962:Nye,1958:総理府青少年対策本部,1979),親に対する子どもの愛着の乏しさ(Hirschi,1969:総務庁青少年対策本部,1990:星野,1989),体罰,過干渉などの子どもに対する抑圧(星野,1981:総務庁青少年対策本部,1990:West and Farrington,1973),家庭における情緒安定機能の障害(米川,1995:総務庁青少年対策本部,1990)など,親子関係における諸問題である。これらの要因は,2つに大別できる。1つは,子どもの内部にあって非行を抑制するように作用する要因で,父母に対する子どもの同一化や愛着がそれである。この程度が小さければ,子どもの行動はそれだけ統制されにくい。他の1つは,子どもに対する放任,抑圧,子どもの情緒的安定への障害などで,子どもを家庭から逃避させたり,親への反抗をひきおこしたり,家庭を準拠集団とさせないようにしたりする要因である。

第五は,子どもに対する信頼や役割の欠如である(Reckless,1962:総務庁青少年対策本部,1990)。レックリスは,自己統制力,欲求不満への耐性,責任感,よい自己概念などが非行に対する内的抑制力となり,子どもに対する合理的な期待と役割,しつけ,家族の人々の一貫した道徳的態度などが非行への外的抑制力となると述べている。つまり,子どもが適切な期待をかけられ,役割を与えられることは,子どもに自分の存在意識を認識させ,よい自己概念をもたらすことを通じて,その非行を防止すると考えられている。

このほか,過保護,子どもに対する評価尺度の一元化,期待過剰なども少年の非行化を促す要因とされるものである(星野,1997)。


2 目的

この章では,これまで,青少年の非行化を促すと指摘されてきた上記の諸要因が,現在でも非行を生みだすように機能しているかどうかを,今回の非行原因に関する調査結果に基づいて明らかにすることを目的とする。

具体的な課題は以下のとおりである。

1) 非行少年は単親家庭に相対的に多いか。また,単親家庭では,しつけ(parenting)が適切に行われないことが多いか。、

2) 家庭の経済的水準,文化的水準及び子どもの遊び志向に対する許容度などは,非行発生に影響を及ぼしているか。

3) 父母への同一化,親との交流親への愛着,子どもに対する体罰や干渉,などの程度が,子どもの非行化を促しているか。また,家庭における子どもの情緒的安定の有無は,その非行化と関連するか。

4) 子どもに対する親の信頼,家庭における子どもの役割などの有無は,子どもの非行化に関連するか。

なお,以下の分析においては,いくつかの尺度を構成し,その測定結果と非行との関係を検討している。尺度構成に用いられた質問に回答しなかった少年は分析対象から除かれている。以下の各表に示された「該当数」は分析対象とされたものの数を表している。また,鑑別少年と補導少年との反応がほぼ等しいときは,両者を一括して「非行少年」として扱うことにした。


3 単親家庭と親子関係

表3-2-1は,中学生と高校生について,単親家庭で生活しているか,両親家庭(両親ともそろっている家庭)で生活しているかを,非行の有無別に示したものである(青-A4)。この表では,三世帯家族で,祖父母あるいはそのいずれかが同居していても,父あるいは母を欠く場合は単親世帯に含めている。


表3-2-1 家族形態と非行との関係  <CSVデータ>

身分 非行少年 一般少年
中学生 高校生 中学生 高校生
家庭 単親家庭 111(32.0) 70(25.0) 181(28.9) 304(10.2) 320(10.1) 642(10.2)
両親家庭 236(68.0) 210(75.0) 446(71.1) 2662(89.8) 2836(89.9) 5498(89.8)
347(100.0) 280(100.0) 627(100.0) 2966(100.0) 3156(100.0) 6122(100.0)

( )内は100分比と両親ともいない少年,両親の有無が不明である少年を除く。


この表から,中学生,高校生のいずれにおいても,非行少年には単親家庭で生活しているものが,一般少年に比べて相対的に多くなっていることが読み取れる。単親家庭であること自体が非行化の要因となっているわけではないが,単親家庭は,両親家庭に比べると,非行少年を生みだしやすいという傾向がみられている。これまでの調査研究では,特に親の離婚に起因する単親家庭の子どもが非行化する割合が高いことが示されている(総務庁青少年対策本部,1990)。

単親家庭からなぜ非行少年が生みだされやすくなるか,について検討するために,単親家庭,両親家庭の別に親子関係のあり方をみたものが表3-2-2である。親子関係が緊密であるか否かをみるために,「親子交流スケール」を作成した。これは,「将来の進路について親と話をする」「学校の勉強の内容について親と話をする」「親は私の意見や考えに耳をかたむけてくれる」「友達のことを親に話す」(以上,青A-6)のそれぞれが「時々ある」とした少年に各1点を与え,「ほとんどない」とした少年には得点を与えない,という手順で作成された。得点は0点から4点まで分布する。得点の高い少年では親子関係が緊密であり,得点の低い少年は,親から受容されず,放任された状況にあると見なすことができよう。


表3-2-2 家族形態と親子関係  <CSVデータ>

親子交流スコア 該当数 0 1 2 3 4
単親家庭 非行中学生 111(100.0) 24(21.6) 33(29.7) 14(12.6) 23(20.7) 17(15.3)
非行高校生 70(100.0) 7(10.0) 7(10.0) 18(25.7) 21(30.0) 17(24.3)
一般中学生 304(100.0) 36(11.8) 46(15.1) 56(12.4) 77(25.3) 89(29.3)
一般高校生 320(100.0) 26(8.1) 42(13.1) 77(24.1) 99(30.4) 76(23.8)
小計 805(100.0) 93(11.6) 128(15.9) 165(20.5) 220(27.3) 199(24.7)
両親家庭 非行中学生 236(100.0) 39(16.5) 46(19.5) 49(20.8) 54(22.9) 48(20.3)
非行高校生 210(100.0) 31(14.8) 33(15.7) 39(18.6) 55(26.2) 52(24.8)
一般中学生 2662(100.0) 159(6.0) 373(14.0) 555(20.8) 734(27.6) 841(31.6)
一般高校生 2836(100.0) 200(7.1) 380(13.4) 642(22.6) 832(29.3) 782(27.6)
小計 5944(100.0) 429(7.2) 832(14.0) 1285(21.6) 1675(28.2) 1723(29.0)

( )内は100分比

両親ともいない少年,両親の有無が不明である少年を除く。


この表は,中学生では,一般少年でも非行少年でも,単親家庭で生活している少年では,両親家庭で生活している少年に比べて,親子関係が緊密ではないことを示している。高校生では,単親家庭,両親家庭の別と親子関係のあり方との間に明白な関係はみられていないが,中学生,高校生を合わせてみると,両親家庭よりも単親家庭で,親子間の交流が緊密に行われていないという傾向がみられる。

同じ表から,非行少年には親から受容されていないものが比較的に多い,という傾向を読み取れるので,単親家庭では親との緊密な交流が比較的に保持されにくく,このような関係を保てなかったとき,子どもの非行化が促されやすい,とみることができる。

小学生については,単親家庭で生活しているもの(小-A3)は非行少年(78名)の17.9%,一般少年(2444名)の9.6%であり(全体では,両親の有無が明白な2522人中の249人,9.9%),中学生,高校生の場合ほど顕著ではないが,非行少年はやはり単親家庭で比較的に多くなっている。小学生の場合は,親から受容されている度合いは単親家庭でも両親家庭でも大きく異ならない。単親家庭で子どもの非行化の可能性を大きくしているものは,小学生では,家庭の経済的水準(単親家庭のうち,83.5%が父を欠く家庭)や親への愛着の乏しさなどであるとみられる。お父さんのような人になりたい(単親家庭の小学生28.1%,両親家庭の小学生45.0%,以下同順序),お母さんのような人になりたい(42.6%,49.1%),お父さんといろいろ話をしたい(43.8%,62.6%),お母さんといろいろ話をしたい(64.3%,74.6%)などとしている少年は,単親家庭で明らかに少なくなっている。これらの親子関係と非行化との関係については後述する。


4 家庭の経済的,文化的水準

家庭の経済的水準と非行との関係については,経済的水準の指標や測定尺度に何を用いるかによって,異なった結論が導かれる。したがって,両者の間の関連性について確定的な解答を得ることは困難であるが,ここでは少年たちの持ち物から家庭の経済的水準をとらえることにした。自分だけの部屋,自分専用のテレビ,ラジカセ,衣類のタンスのそれぞれを持つ少年(青-A5)(小-A4)に各1点を与え,全調査対象者の経済的水準を表わす得点を求めた。得点は0点から4点まで分布する。得点の多い方が,経済的に豊かな水準にあると見なされる。この結果を小学生,中学生,高校生について,非行の有無別に示したものが,表3-2-3である。大学生,有職,無職少年については,家庭から離れて生活していたり,自分の収入で持ち物を購入したりするので,彼らの「家庭」の経済的水準を持ち物から推定することは適切ではないため,この表からは除外した。


表3-2-3 経済的水準と非行との関係  <CSVデータ>

経済的水準スコア 該当数 0 1 2 3 4
身分 一般中学生 3021(100.0) 220(7.3) 507(16.8) 793(26.2) 908(32.7) 513(17.0)
非行中学生 366(100.0) 46(12.6) 66(18.0) 96(26.2) 88(24.0) 70(19.1)
一般高校生 3255(100.0) 84(2.6) 212(6.5) 603(18.5) 1319(40.5) 1037(31.9)
非行高校生 293(100.0) 6(2.0) 35(11.9) 62(21.2) 86(29.4) 104(35.5)
一般小学生 2561(100.0) 583(22.8) 772(30.1) 654(25.5) 400(15.6) 152(5.9)
非行小学生 79(100.0) 26(32.9) 28(35.4) 13(16.5) 10(12.7) 2(2.5)

( )内は100分比


この表から,小学生では,非行少年は経済的に豊かではない家庭に多く,中学生でも,非行少年は,一般少年に比べると,豊かではない家庭にやや多いという傾向がみられている。高校生では,非行少年と一般少年との間に,家庭の経済的水準についての差異はみられない。いずれの少年の間でも,性別の差異は大きくない。

このように,少年の属性によって異なる結果が得られるのは,すでに述べたように,家庭の経済的水準の低さ自体が少年の非行化に影響を及ぼすというのではなく,それに起因するしつけや親子関係のあり方における問題が非行化に影響を与え,かつこれらの問題の影響力は低年齢の少年に対してより大きく作用するとみられるためである。経済的水準と親子関係に関する非行少年と一般少年との問の差異は,高校生では大きくないが,小学生と中学生では,これが比較的に大きくなっているからである。親子関係については次節で述べる。

次に,家庭の文化的水準と子どもの非行化との関係を示したものが表3-2-4である。文化的水準スケールは次のようにして作成された。中学生,高校生については,自分の本箱,4冊以上の辞書,自分の机,自分のパソコンのそれぞれをもっている少年(青-A5)に各1点を与え,各少年の得点を求めた。小学生については,自分の本箱,自分の机,辞書・図鑑,学習百科のそれぞれを持つ少年(小-A4)に各1点を与えた。得点はいずれも0点から4点まで分布する。得点の大きいほうが,家庭の文化的水準が高いと見なせることになる。


表3-2-4 文化的水準と非行との関係  <CSVデータ>

文化的水準スコア 該当数 0 1 2 3 4
身分 一般中学生 3021(100.0) 41(1.4) 512(16.9) 1239(41.0) 1129(37.4) 100(3.3)
非行中学生 366(100.0) 58(15.8) 112(30.6) 141(38.5) 52(14.2) 3(0.8)
鑑別所入所中学生 89(100.0) 21(23.6) 25(28.1) 26(29.2) 16(18.0) 1(1.1)
一般高校生 3255(100.0) 82(2.5) 355(10.9) 942(28.9) 1685(51.8) 191(5.9)
非行高校生 293(100.0) 44(15.0) 73(24.9) 111(37.9) 58(19.8) 7(2.4)
鑑別所入所高校生 124(100.0) 21(16.9) 30(24.2) 45(36.3) 24(19.4) 4(3.2)
一般小学生 2561(100.0) 61(2.4) 399(15.6) 756(29.5) 804(31.4) 541(21.1)
非行小学生 79(100.0) 8(10.1) 12(15.2) 25(31.6) 25(31.6) 9(11.1)

( )内は100分比


これは以下のような考え方に基づいている。社会には,文化的に承認され,達成を奨励される「目標」があるが,その目標とのかかわりをもち,それを達成するためにエネルギーの投資を積み重ねている少年,すなわちその目標にコミットしている少年は非行をすることが少ない(Hirschi,1969)。これは,非行をすると,その目標達成の可能性が潰えることが普通だからである。このような社会的に推奨されている目標へのコミットメントの度合を,上記の持ち物の有無から測定しようとしたわけである。

表3-2-4は,小学生,中学生,高校生のいずれにおいても,非行少年は,一般少年に比べて,文化的水準の低い家庭に多いことをはっきりと示している。この傾向は鑑別所少年において特に顕著である。この点についての性別による差異は小さい。非行少年は,文化的水準の低い家庭での社会化を経験することから,個体と遵法的社会とを結ぶ絆(bond)の1つである文化的目標へのコミットメントを弱め,そのことから非行をもするようになる,とみることができる。

家庭の文化的水準は別の方法でも測定できる。少年たちは,社会的に支持されている価値を追求するように奨励される一方で,仲間集団の「遊び志向的な文化」にも接触する。その「遊び志向的な文化」への同調が,家庭でどれほど許容されているか,また少年の生活が家族の耳目から遮断される条件が家庭内にどれほどみられるか,ということも家庭の文化的水準を測る尺度になると考えられる。つまり,子どもの生活が遊び志向に傾くことを許容し,かつ子どもがどのような生活をしているか家族に知られないような状況を許容しているかどうかによって,家庭の文化的水準を測定しようというわけである。

このためのスケールは,中学生,高校生の場合,自分専用のテレビ,ラジカセ,バイククレジットカード,名刺,自分専用の(携帯)電話,自分の部屋のカギのそれぞれを持っている少年(青-A5)に各1点を与えるというもので,各少年の得点によって「遊び志向への家庭の許容度」を測定しようとした。得点は0点から7点まで分布するが,ここでは得点が高いほうが遊び志向への許容度が高いということになる。小学生については,自分の部屋をもつ少年が少なく,また,その持ち物が家庭の経済的水準によって制約されているとみられる。そのため,持ち物からこの種のスケールを構成することは適切ではないので,小学生についてはここでは触れない。

中学生,高校生の遊び志向に対する家庭の許容度を示したものが表3-2-5である。この表から,非行少年は,中学生,高校生とも,一般少年に比べて,遊び志向に許容的だとみられる家庭に多くなっていることが分かる。特に鑑別所に収容されている少年において,この傾向は顕著である。性別による差異は小さい。


表3-2-5 遊びに対する許容度と非行との関係  <CSVデータ>

遊び許容スコア 該当数 0 1 2 3 4〜
身分 一般中学生 3021(100.0) 738(24.4) 1291(42.7) 700(23.2) 231(7.6) 61(2.0)
非行中学生 366(100.0) 71(19.4) 132(36.1) 102(27.9) 52(14.2) 9(2.5)
鑑別所入所中学生 89(100.0) 15(16.9) 21(23.6) 26(29.2) 23(25.8) 4(4.5)
一般高校生 3255(100.0) 204(6.3) 832(25.6) 1090(33.5) 834(25.6) 295(9.0)
非行高校生 293(100.0) 16(5.5) 59(20.1) 72(24.6) 95(32.4) 51(17.3)
鑑別所入所高校生 124(100.0) 5(4.0) 18(14.5) 20(16.1) 47(37.9) 34(27.4)

( )内は100分比


以上のことから,家庭の文化的水準の低さは,一般に子どもの非行を促進する方向に作用するとみられ,また家庭の経済的水準の低さも,低年齢の少年の場合,その親子関係の障害を引き起したとき,非行化への影響を及ぼす,とみることができる。


5 親子関係

次に,親子関係と非行との関係についてみてみよう。中学生,高校生については,親への同一化の有無,親子関係の緊密さ(子どもに関心を払う-放任する,の別),親に対する愛着の程度,体罰及び干渉による抑圧の程度,情緒的安定の有無などと非行との関係を分析する。小学生については,親への同一化,親への愛着,体罰による抑圧などの程度及び情緒的同一化の有無と非行との関係を取り扱う。

まず,表3-2-6は,父母への同一化の有無を,少年の身分別,非行の有無別に示したものである(青-A6)(小-A7)。中学生では,父,母に同一化しているもの,男子で父に同一化しているもの,女子で母に同一化しているものが一般少年に多く,非行少年で少なくなっているが,高校生では,これらの割合は,一般少年と非行少年との間でほとんど異ならない。小学生では,母に対する同一化,女子の母に対する同一化が一般少年で多くみられるが,父に対する同一化と男子の父に対する同一化は,一般少年と非行少年とでほぼ等しくなっている。


表3-2-6 親への同一化と非行との関係  <CSVデータ>

質問 該当数 父のような人になりたい(注) 母のような人になりたい(注)
実数 % 実数 %
身分 一般小学生 2562 1065 41.6 1204 47.0
非行小学生 79 35 44.3 26 32.9
男子一般小学生 1337 642 48.0    
男子非行小学生 51 27 52.9    
女子一般小学生 1225     805 65.7
女子非行小学生 28     16 57.1
一般中学生 3023 1170 38.7 1478 48.9
非行中学生 366 117 32 143 39.1
男子一般中学生 1528 646 42.3    
男子非行中学生 271 99 36.5    
女子一般中学生 1495 909 60.8    
女子非行中学生 95     44 46.3
一般高校生 3255 1314 40.4 1570 48.2
非行高校生 293 134 45.7 162 55.3
男子一般高校生 1739 761 43.8    
男子非行高校生 200 108 54    
女子一般高校生 1516     888 58.6
女子非行高校生 93     52 55.9

(注) ワーディングは,中学生,高校生では,父(母)のような人でありたい,となっている。数値はなりたい(ありたい)としたものの数および100分比


次に,親子関係の緊密さと非行との関係は表3-2-7に示されている。親子関係の緊密さを表すための尺度については,本章の第三節で述べたとおりである。表で示したスコアの大きいほうが,親子関係が緊密であると見なされる。この表から,中学生では,非行少年に親子関係が緊密ではないものが多いことが読み取れる。高校生も,同じような傾向を示しているが,この点に関する一般少年と非行少年との間の差異は,中学生の場合よりも小さくなっている。中学生,高校生のいずれでも,男子よりも女子に,緊密な親子関係を保持しているものが多いが,性別にみても,上記の関係は妥当する。小学生については,この分析をするための質問は用意されていない。小学生でも,友だちのことを親によく話すものは,一般少年で36.5%(「ときどき話す」を含めると84.0%),非行少年で20.3%(同79.8%)となっているので(小-A5),一般少年に緊密な親子関係を保持しているものがやや多いとみられる。


表3-2-7 親子関係の緊密さと飛行との関係  <CSVデータ>

親子交流スコア 該当数 0 1 2 3 4
身分 一般中学生 2965(100.0) 197(6.6) 417(14.1) 608(20.5) 811(27.4) 932(31.4)
非行中学生 355(100.0) 66(18.6) 81(22.8) 65(18.3) 78(22.0) 65(18.3)
一般高校生 3202(100.0) 230(7.2) 428(13.4) 731(22.8) 943(29.5) 870(27.2)
非行高校生 288(100.0) 42(14.6) 41(14.2) 57(19.8) 76(26.4) 72(25.0)

( )内は100分比


表3-2-8 親への愛着の程度と非行との関係  <CSVデータ>

愛着スコア 該当数 0 1 2 3
身分 一般中学生 2965(100.0) 1718(57.9) 927(31.3) 320(10.8)  
非行中学生 355(100.0) 140(39.4) 137(38.6) 78(22.0)  
一般高校生 3202(100.0) 1877(58.6) 1016(31.7) 309(9.7)  
非行高校生 288(100.0) 132(45.8) 97(33.7) 59(20.5)  
一般小学生 2339(100.0) 954(40.8) 755(32.3) 430(18.4) 200(8.5)
非行小学生 75(100.0) 16(21.3) 20(26.7) 16(21.3) 23(30.7)

( )内は100分比


第三に,親に対する愛着の程度と非行との関係をみると,表3-2-8のようになる。親に対する愛着の度合を測るスケールには,中学生,高校生では,「親から愛されていないと感じる」「親がきびしすぎると思う」の2項目を用い,小学生では「親がきびしすぎると思う」「よその家に生まれきたらよかったと思う」「親が私のめんどうをもっとみてくれるとよいと思う」「家にいても楽しくないと思う」の4項目(小-A7)を用いた。いずれも,各項目について肯定したものに1点を与えている。したがって,ここでは,得点が多いほうが,親への愛着の程度が小さいと見なすことになる。得点は,中学生,高校生で0点から2点,小学生で0点から4点まで分布する。

この表から,小学生,中学生,高校生のいずれにおいても,非行少年では親に対する愛着が比較的に乏しいとみられる。一般少年では親に対する愛着の程度は性別によって異ならないが,非行少年では,男子よりも女子が親への愛着を抱いている。しかし,女子一般少年に比べると,その程度は小さい。親への愛着は,親を嘆かせるような行動を回避させるように作用するので,これを欠くことは,子どもの非行化に加担するとみられる。

第四に,子どもに対する抑圧と非行との関係を体罰と干渉の側面からみてみよう。体罰の程度をみるためのスケールは,「親は家の中で暴力をふるう」「小さいときに親から暴力をふるわれた」の2項目(青-A6)(小-A7)を用い,干渉の程度をみるためのスケール(中学生,高校生のみに適用)は,「親は私に勉強しろという」「私が何をすべきか親は私に指図する」の2項目(青-A6)を用いて,それぞれ作成された。各項目について肯定したものに1点を与えている。得点はいずれも0点から2点に分布する。得点の大きいほうが,体罰をよく経験し,干渉を受けていると見なされる。

表3-2-9から,小学生,中学生,高校生のいずれにおいても,非行少年では,一般少年に比較して体罰を経験したものが多くなっていることがわかる。非行少年の中でも,女子は男子よりも体罰を受けない傾向を示しているが,一般少年女子に比べると,体罰を受けたとするものが多くなっている。


表3-2-9 体罰と非行との関係  <CSVデータ>

体罰スコア 該当数 0 1 2
身分 一般中学生 2965(100.0) 2509(84.6) 335(11.3) 121(4.1)
非行中学生 355(100.0) 213(60.0) 96(27.0) 46(13.0)
一般高校生 3202(100.0) 2651(82.8) 418(13.1) 133(4.2)
非行高校生 288(100.0) 187(64.9) 73(25.3) 28(9.7)
一般小学生 2339(100.0) 1922(82.2) 319(13.6) 98(4.2)
非行小学生 75(100.0) 45(60.0) 16(21.3) 14(18.7)

( )内は100分比


また,表3-2-10は,中学生,高校生の非行少年には,親からの干渉をよく受けるものが相対的に多いことを示している。この点については性差はみられない。

第五に,家庭においで情緒的安定を得られるか否かが,少年の非行化と関連するかを検討した。これは,中学生・高校生では,「家庭の雰囲気は暖かい」(青-A7),小学生では,「家にいても楽しくない」(小-A7)という質問から把握された。前者では肯定的な反応が,後者では否定的な反応がなされたとき,情緒的な安定が得られていると見るわけである。この結果は表-2-11に示されている。小学生についても肯定的な回答者数を表示してあるので,情緒的安定を得ているものの割合は,100からそれぞれの割合を差し引くと求められる。この表から,小学生,中学生,高校生のいずれにおいても非行少年では,一般少年に比べて,家庭で情緒的安定を得ていないものが多いことを読み取れる。


表3-2-10 干渉と非行との関係  <CSVデータ>

干渉スコア 該当数 0 1 2
身分 一般中学生 2965(100.0) 758(25.6) 1395(47.0) 812(27.4)
非行中学生 355(100.0) 98(27.6) 126(35.5) 131(36.9)
一般高校生 3202(100.0) 1267(39.6) 1217(38.0) 718(22.4)
非行高校生 288(100.0) 73(25.3) 109(37.8) 106(36.8)

( )内は100分比


表3-2-11 情緒的安定と非行との関係  <CSVデータ>

質問 該当数 家庭の雰囲気は暖かい(注)
身分 一般中学生 3023(100.0) 2438(80.6)
非行中学生 366(100.0) 208(56.8)
一般高校生 3255(100.0) 2513(77.2)
非行高校生 293(100.0) 197(67.2)
質問 該当数 家にいても楽しくない(注)
身分 一般小学生 2562(100.0) 662(25.8)
非行小学生 79(100.0) 34(43.0)

(注) 肯定したものの数および100分比


以上のことから,少年の非行化を促進するように作用するとみられる「親子関係にかかわる要因」は,親への愛着の乏しさ,体罰,家庭で情緒的な安定を得られないこと,親子関係が緊密でなく,子どもへの関心が乏しいこと,などとすることができる。これらの要因は,小学生,中学生,高校生のすべてに妥当するとみられる。このほか,小学生では母への同一化がなされないこと,中学生では父及び母への同一化がなされないこと,また中学生と高校生では,親からの干渉を多く受けることも,それぞれの非行化要因となるとみられる。


6 子どもへの信頼と子どもの役割

子どもに対して,親が適切な期待を寄せ,役割を与え,また信頼を抱くことは,子どもに自己の存在意識を認識させ,よい自己概念を抱かせることを通じて,その非行化を抑制すると考えられている。このことについて検討した結果が表3-2-12である。


表3-2-12 信頼・役割と非行との関係  <CSVデータ>

役割スコア 該当数 0 1 2
身分 一般中学生 2612(100.0) 419(16.0) 1655(63.4) 538(20.6)
非行中学生 235(100.0) 62(26.4) 148(63.0) 25(10.6)
一般高校生 2787(100.0) 394(14.1) 1908(68.5) 485(17.4)
非行高校生 214(100.0) 49(22.9) 140(65.4) 25(11.7)

( )内は100分比


この表に示されている「役割スコア」は,「親は私のことを信頼している」(青-A7)「家事の手伝いで決まった役割がある」(青-C1)とした少年に各1点を与えることから求められた。この表は,信頼され,かつ役割を持っているものが,中学生,高校生では,一般少年に相対的に多くなっていることを示している。小学生については,信頼されているか否かの質問はなされていないが,家事の手伝いで決まった役割を持つもの(小-C1)は一般少年で33.4%,非行少年で11.4%であり,役割を持たないものは一般少年で12.2%,非行少年で34.2%となっている(その他は,決まった役割はないが,ときどき手伝う,としている)。

このことから,子どもを信頼し,また子どもに家庭的な役割を与えることは,多少ともその非行化防止に寄与するとみられる。


7 家族と非行(まとめ)

これまで述べてきた非行化の要因を整理して図示すると,図3-2-1のようになる。すなわち,非行少年の家庭では,次のような特徴がみられている。

1) 単親家庭が比較的に多い。

2) 経済的水準が低い(高校生の家庭を除く)。

3) 文化的な目標との関わりが乏しいという意味で文化的水準が低い。

4) 子どもの遊び志向への許容度が大きい(小学生の家庭を除く)。

5) 父あるいは母への同一化がみられない(高校生の家庭を除く)。

6) 親子関係が緊密ではなく,子どもへの関心が乏しい。

7) 親への愛着が乏しい。

8) 体罰が加えられることが比較的に多い。

9) 子どもへの干渉が比較的に多くみられる(小学生の家庭を除く)

10) 子どもが,その中で情緒的安定を得られていない。

11) 子どもが信頼されず,また役割も与えられていない。

これらが,少年の非行化を導く家族的な要因だとみられるが,単親家庭や経済的水準の低さは,それ自体が非行化の要因となるわけではなく,それらが子どもへの関心の乏しさ,親への愛着の乏しさ,家庭における情緒的不安定などをもたらすことを通じて,子どもの非行化が引き起こされるとみられる。

また,鑑別所に収容されている少年の家庭では,社会的に承認され推奨されている目標達成との関わりの乏しさ,子どもの遊び志向への許容度の大きさなど,文化的水準の低さが顕著であり,この種の要因には,非行を深化させる可能性が考えられる。


図3-2-1 非行の家族的要因  <CSVデータ>

子どもの属性別に少年の非行化を導く家族的要因を示した図

○印は,非行少年家庭に相対的に多いものを表す。

×印は,小学生について検討されていない(調査項目がない)ことを表わす。


家庭的な要因の影響力は,一般に,高校生よりも,中学生,小学生において大きいとみられる。

家族に関連する要因は,その非行化への影響のしかたの違いから,いくつかに分けられる。

その1は,子どもに不満,悩み,緊張などをもたらし,それが非行を動機づけるという過程をたどって非行を発生させる要因である。子どもへの無関心(放任),体罰,過干渉,情緒的安定機能の欠如などがこれにあたる。

その2は,子ども自身の内部にあって,心理的に非行を抑制し,子どもを遵法的社会に結びつける絆として作用する要因,すなわち非行抑制要因である。親への同一化,親への愛着,認知された「子どもに対する親の信頼」,家庭における役割意識などがそれで,これらが形成されなかったり消滅したりしたときに,子どもは非行化への途をたどりやすくなる。

もう1つは,逸脱した家庭の文化で,子どもがこれに同調したときに非行化が引き起こされる。社会的目標との隔絶遊び文化への志向に対する許容など,文化的水準の低さがこの種の要因である。

家族に関連する非行化要因は,我が国においては,これまでの20年間に指摘されてきたところと大きく変化していない。過去の第1回,第2回の調査にも,今回の調査にも含まれなかった主な要因は,過保護とその影響に関する事項であるが,これについての検討が残された課題であろう。


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