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5.1.2 社会的企業の概要

 社会的企業の定義は、各機関によって異なり、形態、活動する分野等も多様である。以下、社会的企業の概要を述べる。

(1) 定義

 社会的企業の定義は以下のとおり各機関によって異なる。

内閣府の定義<注12>

  • 社会的目的をもった企業。株主、オーナーのために利益の最大化を追求するのではなく、コミュニティや活動に利益を再投資する。
  • 深く根ざした社会的・環境的課題に革新的な方法で取り組む。
  • 規模や形態は様々であるが、経済的成功と社会・環境課題に対して責任を持つ。
  • 革新的な考えを持ち、公共サービスや政府の手法の改善を支援する。また政府のサービスが行き届かない場所でも活動する。
  • 企業倫理、企業の社会的責任の水準をあげる。

貿易産業省中小企業局の定義<注13>

  • 通常・日々の活動が製品、サービスの提供に関わり、その対価として金銭を受取っている。
  • 少なくとも25%の資金を商品・サービスの交換等、商業活動から獲得している。
  • 単なる利潤の追求とは違い、社会的・環境的目的を追求することを原則としている。
  • 組織・コミュニティ内にうまれた利益・利潤をさらなる社会的・環境的目的のために再投資する。

社会的企業ロンドン(Social Enterprise London)の定義<注14>

  • 企業家志向
    社会的企業は、財の生産や市場に対するサービスの提供に直接にかかわっている。それらは、成長可能な取引事業体となり、営業上の利益を生み出していくことを追求する。
  • 社会的目的
    社会的企業は、雇用の創出や職業訓練、あるいは地域サービスの提供のような明確な社会的目的を有している。社会的企業は、地域住民の能力向上への貢献を含む倫理的な価値を有している。それらは、その社会的、環境的、経済的影響について、そのメンバーや、より広いコミュニティに対する説明責任を有している。
  • 社会的所有
    社会的企業は、関係グループ(利用者や顧客、地域のコミュニティ・グループなど)や理事の参加を基礎とした統治(ガバナンス)や、所有の構造を有する自立した組織である。利益は、配当として関係者に分配されるか、コミュニティの利益のために使われる。

(2) 企業形態

 社会的企業は企業形態によって定義付けけられているわけではない。社会的企業の主な形態としては、保証有限責任会社(Company limited by guarantee:CLG)、株式会社(Company limited by shares:CLS)、産業・共済組合(Industrial and provident society:IPS)、コミュニティ利益会社(Community interest company:CIC)の4種類がある<注15>

1) 保証有限責任会社(CLG)

 多くの社会的企業、チャリティ団体がこの企業形態をとっている。主な特徴は以下の通りである。

  • 有限責任会社である。全ての有限責任会社は目的を掲げなければならない(例:家具のリサイクル)。目的は、一般的な商業目的を掲げることも可能である。しかし、社会的企業の場合は、より特定された目的を掲げることが望ましい。チャリティ資格をもつ社会的企業の場合は、目的は必ずチャリティ目的でなければならない。
  • 多くの場合、利益はメンバー(社員)に配分されない。社会的企業が目標としている社会的・公的関心事項は、通常の民間企業と違い、利益が配当されないという法律要件によって規定されていなければならない。利益は企業の社会的・公的目的のために留保されなければならない。
  • 株主がいない。メンバー(社員)は会社の保証責任を負うが、通常は1ポンドに制限されている。
  • 会社が倒産した場合でも、利益はメンバー(社員)に配当されるのではなく、社会的・公的目的のために使用されなければならない。
  • 会社は法人であり、例外を除き代表者や株主の個人責任は追及されない。
  • 会社規約は下記の2書類に記載される。
    (a) 定  款
    会社目的、権限、資本金(株式会社の場合)、保証人(株式会社の場合)を記載
    社会的企業の場合は、利益非配分条項が含まれる場合もある。
    (b) 付属定款
    組織運営構成、組織運営手順(役割、任命、解雇、会議など)
  • メンバー(社員)は下記の権限を持つ
    (a) 理事会の選任と解雇
    (b) 監査人の任命と解雇
    (c) 定款、付属定款の改訂
  • 運営の権限は理事会に属する。理事会はメンバー(社員)によって任命され、通常任期1年で再任があるが、最大の在任期間は決められていることもある。
  • 理事会により理事長を選任し、秘書をつける。
  • 理事会は会社の利益に沿って活動する義務がある。
  • 会社設立手順は簡潔で、通常標準的な定款、付属定款がある。定款に合意できれば、申請後7日以内に手続きが完了する。申請料は20ポンドである。
  • 情報の公開(利益、監査報告、理事・事務局員の変更)をしなければならない。

2) 株式会社(CLS)

 数は多くないが、株式会社の形態をとっている社会的企業もある。CLGと大きく違う点は株主がいること、利益配当ができること、チャリティ資格は取得できないということである。利点としては広く資金を調達できることが挙げられる。一方で不利な点としては、社会的企業向けの融資(コミュニティ開発機関等による)を受けられないことがあること。また、株主の意向が反映されることにより、社会的な目的を追求できない可能性がある。倫理的投資家が株主となれば問題は一部解消される可能性がある。

3) 産業・共済組合(IPS)

 この形態をとる社会的企業も多い。この形態には大きく分けて2つの形態がある。コミュニティ組合(Community benefit society)と真正協同組合(Bona-fide co-operative)である。主な特徴としては以下の通りである。

  • コミュニティ組合は、コミュニティの利益のために設立されなければならない。会社ではなく、組合とする特定の理由を有していなければならない。具体的には、活動はコミュニティの利益のため、利益はメンバーへ配分されないなどである。
  • 真正協同組合は、メンバーの経済・社会・文化的ニーズのため、また協同で組織を所有し、民主的に運営するという意図のもとに自発的に結成された組織である。
  • 協同組合は会社と以下の特徴を共有している。
    有限責任、規約(定款)の登録、分担金、理事の権限
  • 協同組合と会社の違いは次のとおりである。
    (a) 金融監督機関が強い規制権限を持つ。法律で定められた協同組合だけが登録を許可され、継続的に基準を満たしているか監視される。金融監督機関は資格の剥奪や一時停止を行うことができる。
    (b) コミュニティ協同組合は配当が禁止されている。真正組合は配当を実施できるが、利益の配当ではなく、できる限り組合と取引をしている相手に利益を還元する。
    (c) 資本の返却受け取りの権利はある。しかし資産の受取り権利はない。
    (d) 協同組合ではいかなる個人も2万ポンドを超える出資はできない。
  • 真正協同組合は、基本的には16歳以上であればだれでも組合員になれる。一方、コミュニティ協同組合はだれでも組合員になれるわけではない。
  • 組合員の権限
    (a) 理事の選任と解雇
    (b) 監査人の任命と解雇
    (c) 規約の改訂

4) コミュニティ利益会社(CIC)

 以上の3形態が、2005年以前の社会的企業の形態とその特徴であったが、2005年には、社会的企業の設立促進を目的とした新たな企業形態が導入された。それがコミュニティの利益に貢献することを目的としたコミュニティ利益会社である。この形態の特徴は以下の通りである。

  • アセット・ロック(資産の散逸防止)
     CICは、株式会社と同様に、株式を発行し利益を配分することが可能である。株式会社と違いは、株主への利益の配分に上限(キャップ)が設けられることにある。これは一株あたりの最高配当と配当の総額に対して設けられる。また、資産をコミュニティの利益に使用されることが目的とされているので、資産を譲渡する場合でも、CIC等アセット・ロックのある組織へ譲渡されなければならない。
  • CIC監察局(CREG: the Regulator of Community Interest Companies)による審査
     CICとして会社登記するためには、会社の活動がコミュニティの利益にかなっているかの判断がCIC監査局によってなされなければならない。そのために実施されるのがコミュニティ利益テストである。これにより会社の活動がコミュニティの利益にかなっていることが証明されなければならない。
     2005年に発行された「コミュニティ利益会社規則」は、CICにふさわしい5つの活動例を挙げている。第1は、保育、高齢者介護、公共の低家賃の住宅サービスなどである。第2は、通常の営利企業であるが、社会的弱者を積極的に雇用する会社である。第3は、フェア・トレイドを行っている会社である。第4は、チャリティ団体が設立する会社で、利益の全てがチャリティに還元されるものとしている。第5は、スポーツ施設の管理運営等の会社である。

(3) 活動分野

  社会的企業は収入源によって広く分類すると、「保健、社会福祉」「コミュニティ、社会、個人向けサービス」「不動産関連」「教育」「卸・小売業」の5つの分野に入る。

図II-5-1:社会的企業の活動分野
図II-5-1:社会的企業の活動分野(CSVデータ<注16>

保健、社会福祉

 保健、社会福祉は、社会的企業活動する最も大きな分野である。この分野は大きく分けて2つのサービスに分類される。滞在施設があるサービスと、滞在施設のないサービスである。71%が前者で、29%が後者に分類される。滞在施設なしのサービスとは、デイケア(老人介護、障害者、ホームレス)、児童ケア、カウンセリング、社会福祉に関するアドバイス提供、職業復帰支援などがこれにあたる。一方、滞在施設のあるサービスとは、子ども、住居のない人々等、自分自身の世話をする能力に限界のある人々向けに、施設でサービスを提供している社会的企業が実施しているものである。

コミュニティ、社会、個人向けサービス

 この分野の社会的企業は多様である。一例としては、メンバー向けに助言、情報提供を行っている全国規模の協会などが当てはまる。他には、芸術・識字教育サービスの提供、差別・いじめ等の弱者向けのサービス、スポーツ機会の提供等をしている企業が含まれる。

住宅関連

 この分野の主な活動は、弱者を対象に低家賃で住居を提供することである。そのほかには、環境に配慮した建築、住宅関連技術コンサルティング、落書きの除去などがある。

教育

 この分野の主なものは、成人向け教育サービスの提供である。具体的には職業訓練(基礎技能、IT等)である。

卸売、小売

 この分野は、小規模な社会的企業が活動している。扱っている商品は、食品、飲料、タバコ、美術品、クラフト、リサイクル品などである。

(4) データによる社会的企業の概要

 以下に示すデータは、2005年に中小企業局が英連合王国(イングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランド)の社会的企業を対象に行った調査から引用している。社会的企業としての選定基準、調査の概要は以下の通りである。

中小企業局の社会的企業の選定基準:

  • 通常、日々の活動が製品、サービスの提供に関わり、その対価として金銭を受取っている。
  • 少なくとも25%の資金を商品、サービスの交換等、商業活動から獲得している。
  • 単なる利潤の追求とは違い、社会的/環境的目的を追求することを原則としている。
  • 組織・コミュニティ内にうまれた利益・利潤をさらなる社会的・環境的目的のために再投資する。
調査方法:  電話によるインタビュー
調査対象数:  8,401組織
調査結果:  

<1> サービス対象者

  図II-5-2:社会的企業のサービス対象者
図II-5-2:社会的企業のサービス対象者(CSVデータ<注17>

<2> 雇用による支援対象者

図II-5-3:社会的企業の雇用による支援
図II-5-3:社会的企業の雇用による支援(CSVデータ<注18>

<3> 企業規模

図II-5-4:従業員数別社会的企業の割合
図II-5-4:従業員数別社会的企業の割合(CSVデータ<注19>

図II-5-5:売上・従業員数別社会的企業の割合
図II-5-5:売上・従業員数別社会的企業の割合(CSVデータ<注20>

図II-5-6:正規職員比率による社会的企業の割合
図II-5-6:正規職員比率による社会的企業の割合(CSVデータ<注21>


<注12> 内閣府ホームページ: http://www.cabinetoffice.gov.uk/third_sector/social_enterprise/background.aspx
<注13> 中小企業局2005年調査対象の社会的企業として定義している
<注14> 塚本一郎・山岸秀雄編著(2008)『ソーシャル・エンタープライズ:社会貢献をビジネスにする』丸善
<注15> 塚本一郎・山岸秀雄編著(2008)『ソーシャル・エンタープライズ:社会貢献をビジネスにする』丸善より。
<注16> IFF Research Ltd. (2005). A survey of social enterprises across the UK. Department of Trade and Industry, Small Business Service. p.38. “Main Trading Activity by Social Goal of Social Enterprises”のデータを基に作成。
<注17> IFF Research Ltd.前掲書、p.28 “Target Beneficiaries” を基に作成
<注18> IFF Research Ltd.前掲書、p.20 “Size Profile of Social Enterprises Surveyed”より作成。
<注19> IFF Research Ltd.前掲書、p.20 “Size by Turnover”より作成。
<注20> IFF Research Ltd.前掲書、p.20 “Size by Turnover”より作成。
<注21> IFF Research Ltd.前掲書、p.21 “Proportion of Workforce Employed Full Time”より作成。

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