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第II部 調査の結果

第4章 困難を抱える青少年への対応

5.1 英国における社会的企業設立の経緯と主な社会的企業の概要

5.1.3 主な社会的企業支援組織の概要

 英国内の9つの地域には、それぞれに社会的企業を普及しそれらを支援する「中間支援組織」と呼ばれる機関がある。英国現地調査(2009年1月19日〜29日)では、社会的企業ロンドン(Social Enterprise London、以下「SEL」)と社会的企業ウェスト・ミッドランズ(Social Enterprise West Midlands、以下「SEWM」)を訪れた。現地での聞き取り調査等の結果を基に、2つの中間支援組織について概説する。

(1) 社会的企業ロンドン(Social Enterprise London

 社会的企業ロンドン(以下「SEL」)は1998年に設立された。社会的企業の中間支援組織としては英国で初めてのものであった。貿易産業省が社会的企業室(SEU)を設置したのは、この3年後である。2003年には、社会的企業連合(Social Enterprise Coalition:SEC)と呼ばれる中間支援組織の全国組織ができた。
 設立以来、社会的企業という存在のプロモーションや、政府に対するロビー活動をした。現在は、労働党も保守党も社会的企業を支援している。その他の活動としては、以下のようなものがある。

<1> 起業の支援
<2> 会員企業への支援、名簿の作成
<3> 研修の実施
<4>社会的企業に関する調査(例Social Impact Measurement for Local Economies:SIMPLE
<5>コンサルティングサービス

 フルタイム職員は10名、パートタイム職員が2名働いている。仕事が忙しくなると16〜17名になる。SELの事務所のある建物には、チャリティ団体や社会的企業ばかりが50団体くらい入っている。SELのある3階には10団体が間借りしており、家賃は机の数に基づいて決められる。これは、CAN MEZZANINEという組織が始めた不動産管理手法である。SELはクライアント・関係者(政府・民間企業等)がコンタクトし易いようにロンドンの中心にいる必要があるのでここを借りている。CAN MEZZANINE自体も社会的企業である。
 SELの会員は約1,100団体・個人。年会費は個人が10ポンド<注22>、法人は45ポンド。SELはロンドン開発庁(London Development Agency)とロンドン評議会(London Council)からの補助金を受けている。補助金により、会員組織への電話でのアドバイスなどを行う。
 現在取り組んでいる課題のひとつに、2012年のオリンピックに社会的企業の参加を促進することがある。オリンピック開発当局(Olympic Development Authority)という組織がその調達を担っている。社会的企業も受注できないかと考え、その支援をしている。オリンピック関連の調達への受注には「供給ロンドン(Supply London)」や「ロンドン・ビジネス・コネクト(London Business Connects)」といった、調達窓口への事前登録が必要となる。
 「社会的企業:2012年の勝利(Social Enterprise:Winning with 2012)」という名称のプロジェクトを内閣府サード・セクター室の支援でSELとSECが実施している。このプロジェクトは、<1>社会的企業の声を政策担当者と調達関係者に伝え、<2>調達情報を社会的企業に伝えることを目標としている。活動の一つの例としては、イングランド各地方で競技を一種目は行われるように働きかけることがあげられる。

(2) 社会的企業ウェスト・ミッドランズ(Social Enterprise West Midlands

 社会的企業ウェスト・ミッドランズ(以下「SEWM」)は、イングランドのウェスト・ミッドランズ州にあるコベントリーという都市にあり、バーミンガムからは東へ25キロである。イングランドに9つある社会的企業中間支援組織の一つである。
 SEWMにはフルタイム職員が4名、他に2名働いている。事務所はコベントリー・ワーウィックシャーのコーポラティブ開発庁(Coventry & Warwickshire Co-operative Development Agency)の事務所中にある。現在の体制になったのは2007年6月からで、アドバンテージ・ウェスト・ミッドランズ(Advantage West Midlands:AWM)という地域開発庁(Regional Development Agency)がSEWMに資金援助をするようになったためである。RDAはもともと経済開発を進める組織だったが、最近は社会的排除への対策や少数民族のことも扱うようになった。
 AWMは専門センター(Centre of Expertise)という名称で、次の3つの組織を設立・支援している。

<1> 青年企業専門センター(Young People’s Enterprise Centre of Expertise
<2> ウェスト・ミッドランズ少数民族企業専門センター(West Midlands Ethnic Minority Enterprise Centre of Expertise
<3> 女性企業専門センター(Women's Enterprise Centre of Expertise

 SEWMはウェスト・ミッドランズ社会的企業専門センター(Centre of Expertise for Social Enterprise West Midlands)として支援されている。SEWMの目的は社会的企業を増やすことにある。若者に限定した起業支援<注23>は、青年企業専門センターが担当している。起業志望の若者と銀行が直接、面会しても話がかみ合わないことが多いので、青年企業専門センターが仲介する。プリンス・トラスト<注24>Prince’s Trust)も14〜30歳の若者支援を行っており、ウェスト・ミッドランド地域にも事務所がある。起業や企業経営については、ビジネス・リンク・ウェスト・ミッドランズ<注25>Business Link West Midlands)も支援している。
 SEWMの会員数は、2年前には20だったが現在は215になった。会費は無料である。ただし、会員を対象とした研修などは有料で行う。会員企業の約半分は、病院、保育、土木、建物のメンテナンス、家具、映像撮影などに関係する企業が占め、残りの半分はコンサルティングやプライマリーケア・トラスト(PCT)などの業務をしている。製造業、建設は少ない。
 SEWMは2007年11月にAWMの委託により、ウェスト・ミッドランド地方の社会的企業についての調査を行った。その調査によると、ウェスト・ミッドランド地方の社会的企業は5,514社、女性により経営されているのは36%だが、黒人とマイノリティーによる社会的企業は3.9%しか存在しない。社会的企業には約15万人、ウェスト・ミッドランド地域の雇用のうち6.58%を占めており、社会的企業連合(SEC)の調査によるイングランド平均の5%を上回る。約4割の社会的企業はコミュニティを対象とした事業をしており、残りの企業の多くも、不利な立場にあるグループを対象にしている。社会的企業間の協力はあまり活発ではなく、規模が小さいので大規模な調達事業になかなか参加できない。一般の小規模企業と同様に、会計、資金繰り、事業計画の作成が社会的企業の課題であるとの調査結果がある。
 AWMによれば、ウェスト・ミッドランズ地域は他の地域の平均に比べ100億ポンド程度生産性が低い。この地域は、以前はローバー社、プジョー社、ジャガー社等、自動車などの大規模な製造業とその関連会社による雇用機会に依存していた。しかし自動車産業では、ジャガーを除いて撤退してしまった。社会的企業の力でこれら大規模製造業による雇用を吸収するのは、現状では容易ではない。


<注22> 2009年1月現在、1ポンド=約140円。
<注23> 社会的企業のなかでも、心身に障害を持つ人等を対象に職場を提供するのは、ソーシャル・ファーム(Social Firm)と呼ばれている。英国ソーシャル・ファーム(Social firms UK)という全国組織もあり、ホームページは次のとおり。http://www.socialfirmsengland.co.uk/
<注24> NEETの若者を支援する、チャールズ皇太子が会長を勤めるチャリティ団体
<注25> ビジネス・リンクは起業を支援する英国政府の機関で、ここではそのウェスト・ミッドランズ地域の事務所を指している。

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