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第3部 調査の分析結果

第1章 グローカル化社会における青少年の生活と意識

8 自国社会に対する意識と構え

  1. 自国社会に対する意識と構え

     国際化や経済のグローバル化が進んできたとはいえ,私たちの生活の大部分は,国民社会という枠組みの中で展開している。国民社会は人々の意識と行動を枠付け,社会生活の水準と様式を左右している基本的な単位である。そこで次に,そのような自国社会を青年たちはどうみているかを検討しよう。 表1−34は,「自国の社会に満足していますか,それとも不満ですか」という質問に四段階評定法で回答してもらった結果のうち,「やや不満」と「不満」の合計(以下,不満と表記),その経年変化を示したものである。表1−34の第7回調査(2003年)の欄に示されているように,アメリカとスウェーデンでは2割強に留まっているが,ドイツ,日本,韓国では,6割前後が不満を抱いている。

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    表1-34国別の自国社会への不満の経年変化(Q39)

     経年変化をみると,アメリカは,83年と93年には55%台と高かったが,前回の98年,今回と低下してきている。スウェーデンは,88年には12.4%にまで低下したが,93年には34.1%に上昇し,その後再び低下してきている。それに対して,ドイツは,88年まではかなり低かったが,93年には52.8%に急増し,その後も微増して,今回は65.7%に達している。ドイツで93年以降,不満が急増したのは,東西ドイツの統合に伴う社会秩序の混乱や経済不況によるとものと考えられる。
     韓国の場合,83年は42.7%であったが,88年,93年には8割弱と非常に高くなり,そして,前回の98年には低下し始め,今回は58.2%となっている。韓国の場合,特に80年代以降,急激な経済発展を遂げてきたが,90年代前半までの高い不満の背景には,その急激な経済発展に伴う貧富の差の拡大や社会生活のラディカルな変化,さらには政治の混乱などがあったと考えられる。それに対して,98年以降の不満の減少は,この間の経済発展によって世界の先進国の仲間入りを遂げ,生活水準も高くなってきたからだと考えられるが,それでも不満の水準がかなり高いのは,学歴格差や貧富の差が問題になっているからだと考えられる。
     他方,日本の場合,88年には41.8%にまで低下したが,93年,98年には53.4%,58.3%と上昇し,今回も59.4%になっている。不満の水準が90年代に上昇し,現在に至っているのは,バブル経済の崩壊とその後の経済不況や失業率の上昇などが影響しているものと考えられる。
     このように,社会に対する不満は,短期的にはその時々の経済状況や政情などに左右される面が少なくないと考えられるのだが,もう一方で,長期的には,その社会が抱えている構造的な問題,たとえば貧富の差が大きいとか,種々の差別があるとか,社会正義がどのように実現されているかといった要因を反映していると考えられる。そこで次に,青少年は,自国社会のどういう点に問題があると感じているかをみてみよう。



  2. 自国社会の問題点

     表1−35は,自国社会のどのような側面に問題があると感じているかを,無制限多肢選択法で聞いた結果を整理したものである。社会構造面,文化規範面等のカテゴリーは,後述のコレスポンデンス分析の結果(図1−30)を参考にしつつ,項目の意味を判断して分類し,名付けたものである。最下欄の「平均反応数」は,各回答者が,表中の14項目のうち問題があるとして選んだ項目数(○をつけた項目数)の平均である。また,網掛けをしてあるのは40%以上の項目,下線をしてあるのは30%以上の項目である。この結果は,自国社会への不満に関する前項の解釈を概ね支持するものであるが,そこから以下の諸傾向を確認することができる。

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    表1-35 国別の自国社会の問題点(Q40)


     (1)項目別にみると,一部例外があるものの,どの国でも問題だと感じられている項目が多いのは,社会構造面と政治・政策面である。社会構造面では,「学歴によって収入や仕事に格差がある」は,5か国すべてで30%以上になっており,特に韓国では63.2%にも達している。「貧富の差がありすぎる」も,日本を除く4か国で30%以上になっており,特に韓国では61.7%,アメリカとドイツでは5割になっている。この点で日本は例外的に低く,11.4%でしかない。国民所得水準も高く,「1億総中流社会」といわれるようになって久しいことや,「独身貴族」「パラサイト・シングル」といった流行語にもみられるような,多くの青年が親の丸抱えで大学まで進学し,あるいは就職しても衣食住を親の世話になるといった青年たちの恵まれた状況を考えるなら,これは当然の結果であろう。「身分や家柄が重視されすぎている」も,日本とドイツを除く3か国で40%以上になっており,特に韓国では55.3%にも達している。「性別によって差別がある」は,スウェーデン,アメリカ,韓国で,40%前後になっているのに対して,日本とドイツでは20%前後でそれほど多くはないが,この項目は,他の項目よりも,男女の平等/差別に関する規範のありように左右される傾向が強いので,日本やドイツが他の3か国と比べて,必ずしも男女平等になっているということを意味するものではない。
     (2)政治・政策面では,「就職が難しく,失業も多い」が5か国すべてで30%以上になっており,特にドイツでは70.5%,日本では64.6%,韓国でも55.2%になっている。これは,これら3か国の近年の経済不況・景気後退と失業率の上昇を反映したものと考えられる。日本の場合,88年調査では,この点を問題としてあげた者は12.3%でしかなかったが,前回の98年調査では40.3%に急増し,今回はさらに増えて64.6%になっている。この問題の重大性・深刻さを示しているといえよう。「社会福祉が十分でない」と「環境破壊に対して,国民が無関心である」も,5か国すべてで30%以上になっている。社会福祉については,スウェーデンでもっとも高く,57.1%にも達しているが,これは,スウェーデンの社会福祉の水準が他の4か国よりも低いということではなくて,福祉先進国として,福祉に対する要求水準や,それを重視する規範が強いことと,もう一方で,90年代後半以降,高福祉・高負担への不満や財政事情の悪化を背景にして,福祉政策の見直し・後退が進んでいることを反映したものと考えられる。逆に日本の場合,93年調査では50.4%であったが,前回の98年には40.9%になり,今回はさらに減少して34.5%になっている。これは,経済不況や政府財政・年金財政の悪化といった福祉を取り巻く状況の悪化という点はスウェーデンと類似しているが,反面,福祉を重視する意識の浸透度がスウェーデンほど徹底しておらず,青年たちの福祉政策や年金制度に対する関心もそれほど高くないからだと考えられる。いずれにしても,就職難・失業問題,社会福祉,環境破壊などは,経済社会の構造・状況や人びとの意識・態度に関わる問題でもあるが,もう一方で,政治・政策によって適切に対応すべき問題でもある。
     「よい政治が行われていない」も,スウェーデンを除く4か国で30%以上になっており,特にドイツでは57.0%,日本では43.7%になっている。この評価は,実際の政治や政策の善し悪しはもちろん,政治風土にも左右され,もう一方で,その時々の政治経済状況や政争・スキャンダルなどにも左右されると考えられる。韓国では経済不況の深刻化や政治腐敗の発覚,ドイツでは東西ドイツの統合以降の社会変化やEU(欧州連合)の発展に伴う政治社会的な諸課題,日本では55年体制崩壊以降の政党の離合集散やバブル経済崩壊以降の経済不況に対する政策対応,アメリカではクリントン・スキャンダルやブッシュ政権下でのイラク戦争への突入などが,多少なりとも反映していると考えられる。
     (3)文化規範面と社会規範面では,項目によって異なるものの,総じて欧米3か国と日本・韓国との差がかなり大きい。「人種差別」は,特にアメリカとスウェーデンで高く,6割弱に達している。他方,「風俗の乱れ」は,特にアメリカで高く43.9%に達している。風俗に対する評価は,その担い手自身がどのような風俗にコミットしているかによって分かれることを前提にするなら,「風俗が乱れている」といった否定的な評価の実質的な上限は100%よりかなり低いと考えられるから,40%という数値はかなり高いといえる。
     (4)社会規範面では,「正しいことが通らない」が,欧米3か国で5割前後になっている。「まじめなものが報われない」も,スウェーデンの46.4%を最高に,アメリカ,ドイツでも約35%になっている。さらに,「若者の意見が反映されていない」も,欧米3か国は3割台となっている。
     青年期は一般に,社会のさまざまな不正や歪みに対して批判的になる時期だといわれるが,この社会規範面で問題視されているのは,具体的な不正や歪みそれ自体というより,そうした不正や歪みを産出し持続させている社会の仕組みや組織原理・社会規範のありようであると考えられる。こうした側面を問題視するまなざしは,実際の社会構造やその組織原理における矛盾がどの程度顕在化しているかに依存するが,もう一方で,社会の矛盾や政治・規範のありように対する批判精神がどの程度浸透しているかにも依存する。日本と韓国で,この社会規範面の諸項目を問題視する者の割合がそれほど多くないという結果は,実際の矛盾や問題がそれほど深刻でないということの表れとみることもできるが,もう一方で,その批判精神が低下しているからだとも考えられる。
     (5)次に,国別の特徴を簡単にみておこう。まず,平均反応数に示されているように,多くの青年が問題だと感じている項目の数は,欧米3か国で多く,韓国がそれに続き,日本がもっとも少ない。そのことは,網掛け項目や下線項目の数にも表れている。また,図1−30は,これまでと同様に,コレスポンデンス分析を行った結果であるが,そこにも,各国の特徴が示されている。次元1は,政治・政策面の問題か,文化規範面の問題かという次元,次元2は,社会構造面の問題か,それとも社会規範面の問題かという次元のようである。そして,韓国は社会構造面と政治・政策面の問題が重視されている点に特徴があり,アメリカとスウェーデンは,文化規範面と社会規範面の問題が重視されている点に特徴があるといえる。それに対して,ドイツは社会規範面と政治・政策面の問題が重視されている点に特徴があり,日本は政治・政策面の問題が重視されている点に特徴があるといえる。

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    図1-30 国別の自国社会の問題点のコレスポンデンス分析(Q40)

     ところで,どのような問題がどの程度重視されているかは,すでに述べたように実際に問題が深刻化しているかどうかにもよるが,もう一つには,諸領域に対する社会的関心・意識のありようにも左右されるからだと考えられる。たとえばアメリカの場合,人種差別や貧富の差などはその歴史を通じて重大な政治社会的な課題になってきたことであり,また,風俗の乱れについては,特に80年代以降,離婚率の上昇やエイズへの関心の高まりやクリントン・スキャンダルなどもあって,性や家族の在り方をめぐって保守的勢力のキャンペーンが広まったことなどが影響していると考えられる。ドイツの場合,すでに述べたように,東西ドイツ統合以降の社会秩序の再編とそれに伴う混乱や90年代半ば以降の経済不況などが反映していると考えられる。韓国の場合,特に1980年代以降急速な経済成長と学校教育の拡大が進んだが,それに伴って,受験競争の激化や新旧秩序の矛盾や貧富の差や発展のアンバランスが目立つようになってきた。また,90年代になってアジア経済危機が韓国にも押し寄せ,企業倒産が相次ぎ,就職難・失業も問題化するようになった。こうした事情が,これらの国で問題点としてあげられた項目が多い背景になっていると考えられる。他方,スウェーデンで平均反応率が高く,問題視されている項目が多いのは,実質的な矛盾や問題もさることながら,諸問題に対する意識や関心が高いからでもあると考えられる。
     それに対して,日本の場合,平均反応率がもっとも低く,3割以上が問題視している項目も,「学歴格差」,「よい政治が行われていない」,「就職難・失業問題」,「社会福祉が不十分」,「環境破壊に対する国民の無関心」の5つでしかないが,それは,ある程度は意識や関心が低いからでもあると考えられるが,実際,多くの側面で比較的問題の軽微な社会であるからだと考えられる。実際,3割以上が問題視している点については,いずれも,それなりに理由があるといえる。学歴主義の問題については,数十年来,世間一般でも問題視され続けて,現在に至っている。就職難・失業の問題は,バブル経済崩壊以降,失業率が上昇し続け,「就職難の時代」とか「就職氷河期」などといわれている。社会福祉についても,少子高齢化が進み,もう一方で,経済不振と財政赤字が続く中で,年金財政・保険財政の悪化や介護問題の深刻化が進み,福祉の在り方が政治社会的な重要課題となっている。環境問題についても,自然破壊はもちろん,食品公害やダイオキシン問題などざまざまの問題が重要課題となっている。しかし,その他の領域については,性差別のように人びとの意識や関心の広がりが必ずしも十分でない領域もあることは確かだが,総じて日本の現状は諸外国に比べて比較的問題が少ないといえる。
     日本についての以上の解釈は,一連の問題についての経年変化によってもある程度確認される。表1−36に示されているように,77年ないし83年の水準と比べて,その後ほぼ一貫して減少してきたのは,「正しいことが通らない」「まじめなものが報われない」「貧富の差」の3項目である。それに対して,「社会福祉が不十分」と「環境破壊への無関心」は,依然30%台にあるとはいえ,93年に一度上昇したが,その後再び低下し,今回調査では比較的低かった83年時点よりもさらに低くなっている。「治安の乱れ」は,少年非行の「第3の波」が到来したといわれ,また,校内暴力・いじめが非常に深刻化した80年代前半(83年)に24.1%と高くなり,それらが沈静化した80年代後半から90年代前半(88年と93年)にかけては10%前後の水準になったが,90年代後半から校内暴力やいじめの統計が上昇し始め,少年の凶悪犯罪も増加し始める中で,98年調査で再び18.2%に上昇し,今回調査でも17.2%になっている。他方,「若者の意見が反映されていない」と「身分や家柄が重視されすぎている」は,後者が今回調査でやや低下したものの,77年調査以来大きな変動はなく,20%強の水準で推移している。


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    表1-36 日本における自国社会の問題点の経年変化(Q40)

  3. 自国社会に対する誇り

     次に,青少年は自国社会の良さをどこにみいだしているかを検討しよう。表1−37は,自国社会で誇りに思える点を無制限多肢選択法で聞いた結果である(Q36)。表中,網掛けは50%以上の項目,下線は30%〜50%未満の項目である。また,「伝統・統合性」「科学・文化」等のカテゴリー名は,図1−31のコレスポンデンス分析の結果を参考にしつつ,各項目の意味内容を勘案して分類・付与したものである。


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    表1-37 国別の自国社会の誇れる点(Q36)


     まず,国別の特徴をみてみよう。表1−37の最下欄に示されているように,これまでの無制限多肢選択法による質問の場合と同様,ここでも,平均反応数は国によって大きく異なっており,アメリカとスウェーデンが7前後でもっとも多く,次いでドイツが約4,日本と韓国が2.5前後でもっとも少ない。これは,これまでの同種の質問項目の場合もそうであるが,日本と韓国の人びとは自分や自分たちの所属集団の長所や短所について明確な判断や両極の判断をすることに消極的な傾向があるということも関係しているとも考えられる。したがって,単純に割合の大小を比較し,その差をすべて実質的な差として解釈することには慎重でなければならないが,そこに実質的な差が表れていることも確かだと考えられる。特にここでの「誇れるもの」といった質問ではそうである。そこで,図1−31の結果と合わせて,国別の特徴を確認することにしよう。
     図1−31における次元1は,「生活水準」「社会福祉」「社会の安定性」などに象徴される生活・福祉の側面か,「国民の一体感」や「歴史・文化遺産」などに象徴される伝統・社会統合の側面かという次元,次元2は,科学・文化・芸術などの側面か,「宗教」や「国民の一体感」などに象徴される信念面での統合性かという次元のようである。そして,この図と表1−37からも明らかなように,韓国の青年たちは「歴史・文化遺産」と「国民の一体感」を誇りに思っている点に特徴があるのに対して,ドイツは,韓国とは対照的に,「生活水準」「科学技術」「文化・芸術」「社会福祉」などに誇りを感じている点に特徴がある。


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    図1-31 自国社会の誇れる点のコレスポンデンス分析(Q36)


     他方,スウェーデンの青年たちは,「生活水準」「社会福祉」や「自然や天然資源」,「教育水準」や「スポーツ」,さらには「自由で平和な社会」といった点に誇りを感じているのに対して,アメリカの青年たちは,表中の過半数の項目(15項目中の9項目)に5割以上が誇りを感じているが,特に「科学技術」や「自然や天然資源」,「生活水準」や「スポーツ」,さらには「教育水準」や「将来の発展可能性」に誇りを感じている点に特徴がある。
     それに対して日本の青年たちは,「歴史・文化遺産」「文化・芸術」「治安のよさ」などに誇りを感じている点に特徴があるといえるが,先述のように,総じて誇りを感じる者の割合がどの項目でも,韓国と並んで低い点にも大きな特徴がある。日本の場合,さまざまの客観的な指標に基づくなら,上記3点だけでなく,例えば「教育水準」「社会の安定性」「自由で平和な社会」などについても,もっと誇りを持ってもいいように思われるが,調査結果はそうなってはいない。さらには,「宗教」「国民の一体感」や「将来の発展可能性」の割合が5か国中もっとも低い点,「国際的発言力」が韓国に次いで低い点,「誇れるものはない」の割合が5か国中もっとも高い点も,日本の特徴だといえる。
     日本では,何故このように誇りの水準が低いのか,その原因や背景を特定することは容易なことではないが,検討に値する問題である。先にみた自国社会への不満や問題点の場合もそうだが,こうした主観的な評価の水準を事実水準と混同すべきでないことはいうまでもない。なぜなら,主観的な評価は評価者の持っている評価尺度に左右されるからである。しかし,それにしても,多くの国民が共通に誇りに思えるものがあるかどうかは,集合的にも個人的にも重要なことである。
     一般に人びとが何かを誇りに思うかどうかは,(1)誇りに思えるような事実があるかどうか,(2)その事実が,他(諸外国)との比較を含めて,どのように認知されているか,(3)誇りに思えるものを積極的に評価する基準や姿勢が形成されているかどうか,(4)誇りの高揚や表出を重視し促進する風潮があるかどうか,といった要素に左右される。さらに,以上に加えて,(5)教育やマスコミをはじめ,日常生活のさまざまの場面で,誇りに値するものがどのように賞揚・伝達されているかにも依存する。
     (1)については,多くの国で「歴史・文化遺産」が第1位になっていることは,注目に値する。それぞれの国が歴史を通じて築き上げてきたものは,その国に固有のものであるから,それを誇りに思い,そこに誇りの源泉をみいだすことは至極当然のことである。その意味で,例外的なのはドイツである。おそらく,ドイツの場合,ナチズムの経験が汚点となっているのであろう。その点で,同じような過去の経験を持っているにもかかわらず,日本の青少年の意識は,ドイツの青少年のそれとはかなり違うように見受けられる。これは,上記(5)の要素,すなわち,教育やマスコミ等における歴史の扱い方の違いによるとも考えられるが,それと並んで,上記(3)の要素,すなわち,日本の場合,大正時代までに育まれ蓄積された日本固有の文化やその遺産が戦争経験の歴史とは切り離されて特異なものとして評価されているからだとも考えられる。
     それに対して,「科学・技術」「生活水準」「治安のよさ」は20%台で,他の諸項目よりも相対的に高く評価されているが,「科学・技術」は83年から93年までの45%前後から前回,今回と低下しており,「生活水準」「治安のよさ」も前回,今回と低下傾向にあるのは,上記(1)の要素の悪化,すなわち,バブル経済崩壊以降の経済の不況・失業率の上昇や近年の犯罪の増加などを反映したものと考えられる。「社会の安定性」と「将来の発展可能性」についても,その評価は前回,今回と低下してきているが,これも,そうした経済社会の動向を反映したものと考えられる。
     「教育水準」についても,前回,今回と低下してきているが,これは,上記(2)の要素(事実認知のありよう)と(5)の要素(マスコミ等の扱い方)による面が大きいと考えられる。「自由で平和な社会」(前回調査からの追加項目)の評価が著しく低いのは,「教育水準」の場合と同様,上記(2)と(5)の要素によると考えられるが,それに加えて,上記(3)の要素(積極的に評価する基準や姿勢)にも原因があると考えられる。また,「国際的発言力」(前回調査からの追加項目)の評価が著しく低いのは,経済力や経済的な国際貢献に比して,上記(1)の要素(誇りに値する事実があるかどうか)が少ないことなどを反映したものと考えられる。
     他方,「宗教」「国民の一体感」を評価する割合も小さいが,これは,一般に世俗化・都市化・国際化などが進むにつれて低下していくものである。そのことは,スウェーデンやドイツでも,どちらの割合も10%以下でしかないことにも表れている。
     以上,自国社会の誇りについて検討してきたが,いずれにしても,狭隘で排他的なナショナリズムを好ましいということはできないが,自分の属する集団や民族や社会に対して誇りを持てることは,自分自身に対して誇りを持つことと同様,重要なことである。



  4. 自国人,日本人,及び日本についてのイメージ

     次に,自国人について,どのようなイメージを持っているかをみてみよう。表1−38と図1−32は,「自国人についてどう思いますか」という質問(Q41a)に無制限多肢選択法で回答してもらった結果を,国別の割合とコレスポンデンス分析の結果で示したものである。表中の網かけは,各国の上位3項目である。この表と図より,次の諸傾向を確認することができる。

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    表1-38 国別の自国人のイメージ(Q41b)


    図1-32 自国人のイメージのコレスポンデンス分析(Q41a)


     (1)表1−38の平均反応数からも明らかなように,これまでと同様,肯定反応率は国によってかなり大きく異なっており,肯定的に反応する傾向は,ドイツがもっとも強く,日本はもっとも弱い。(2)項目別で肯定反応が多いのは,「勤勉」「見栄っぱり」(5か国すべてで3割以上),「実際的」「礼儀正しい」「平和愛好的」(以上,4か国で3割以上),「進歩的」(同,3か国)である。
     (3)国別の特徴については,アメリカは「知的」「勇敢」「寛大」「横柄」などの点で,ドイツは「実際的」「進歩的」「勤勉」などの点で,スウェーデンは「平和愛好的」「礼儀正しい」などの点で,日本と韓国は「見栄っぱり」「礼儀正しい」「勤勉」などの点で特徴があると,多くの青年たちは考えている。 本調査では,「日本人についてどう思いますか」という質問(Q41b)もしている。表1−39と図1−33は,その結果を示したものである。表中の日本の数値は,上記の「自国人についてどう思いますか」という質問の日本の数値を再掲したものであり,図ではそれを棒グラフで示してある。網かけは,各国での上位3項目を示している。
     この図と表より明らかなように,国によって日本人についてのイメージに違いがあるだけでなく,日本の青年たちの自国人に対するイメージと諸外国の青年たちの日本人に対するイメージの間にもかなり顕著な違いがある。


     
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    表1-39 国別の日本人のイメージ(Q41b)

     
    図1-33 国別の日本人のイメージ


     まず,日本の青年たちの自己評価が比較的高い4項目についてみると,「勤勉」と「礼儀正しい」では,前者に対するアメリカの評価を除いて,諸外国の評価の方が自己評価より高くなっているのに対して,「見栄っぱり」と「平和愛好的」では,後者に対するドイツの評価を除いて,自己評価の方が諸外国の評価より高くなっている。「見栄っぱり」かどうかは,一般的にいって,日常的な接触・交際がある場合はともかく,そうでなければ,他者・外部者には分かりにくいものであるから,自己評価の割合の方が大きいのは当然であると考えられる。それに対して,他の3項目は事情が異なる。「勤勉」と「礼儀正しい」については,日本人はもっとポジティブに自己評価してもいいとも考えられるが,もう一方で,近年の若者の態度や行動(それに対する世間・大人世代の批判的な評価)を考慮するなら,青年たちの自己評価も妥当なものであるとも考えられる。他方,「平和愛好的」については,平和憲法の下での戦後半世紀の日本の在り方などを考慮するなら,諸外国の評価はもっと高くてもいいようにも思われるが,何故そうでないかは,学問的・実践的にはもちろん,政策的にも検討に値する問題だといえる。例えば,海外での日本のプレゼンスの仕方や対外政策の在り方に問題があるのか,日米同盟の在り方や自衛隊の軍事力が事実上相当に強大なものになっていることにあるのか,過去の日本の侵略戦争が影を落としているのか,あるいは,海外諸国に対する日本の広報・情報発信に偏りがあるからなのか,といったことを検討する必要があるといえよう。
     日本の青年たちの自己評価が低い項目では,「知的」「進歩的」「実際的」の三項目で,海外の評価と自己評価の差が特に大きく,海外の評価の方が高い。過大な評価を受けているとみるべきか自己評価が低すぎるのだとみるべきかは判断の分かれるところであろうが,これらの側面に対する海外の青年たちの評価は,科学技術面,経済面や,日本からの輸出の目立つ自動車産業やアニメをはじめとする娯楽産業などに注目する傾向があることも,海外の評価が高い一因と考えられる。
     表1−39と図1−33で,もう1点注目しておきたいのは,隣国・韓国での評価である。落差の大きい項目についていえば,韓国の青年たちの相当数は,日本人は,進歩的・実際的であるが,同時に,横柄で信頼できないとみている。また,知的かどうかという側面では,アメリカやスウェーデンの評価に比べて,韓国の評価はかなり厳しい。こうしたネガティブな評価もあるということについては,政策的にも実践的にも適切な配慮と対応をしていくことが重要だと考えられる。
     本調査では,さらに,「日本についてどう思いますか」という質問で,日本の政治,経済,文化・芸術,途上国援助,平和への貢献,環境問題への取り組み,の6項目について,無制限多肢選択法で聞いている(Q42)。表1−40と図1−34は,その結果を示したものである。表中,網かけは,各国における評価の第1位項目を示す。図では,日本の青年たちによる評価(自己評価)と他の4か国の青年たちの評価との比較を容易にするために,前者の自己評価については棒グラフで示してある。
     図より明らかなように,特に「経済的豊かさ」と「途上国援助の積極性(発展途上国への援助に積極的に取り組んでいる)」については,海外の評価と自己評価との間にかなり大きな違いがある,前者では海外の評価の方がかなり高く,後者では自己評価の方がかなり高い。「途上国援助の積極性」については,日本の援助額の大きさを考慮するなら,海外での評価はもっと高くてもいいはずであるが,そうでないのは,主としてその情報が十分に伝わっていないからだと考えられる。そうであるなら,外交や政策面でのより適切な広報・宣伝が必要だということになろう。
     もう1点注目しておきたいのは,ここでも,「すぐれた文化・芸術がある」という側面に対する韓国の評価が欧米3か国の評価と比べてもかなり低いことである。先にみた日本人についてのイメージの場合と同様,韓国の青年たちの日本に対するアンビヴァレントで複雑な心境を示唆しているように見受けられる。


     
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    表1-40 国別の日本のイメージ(Q42)

     
    図1-34 国別の日本のイメージ

  5. 環境問題・ボランティア活動・自国社会への関わり方

     最後に,環境問題・ボランティア活動・自国社会への関わり方について検討しておこう。表1−41は,「自然環境を守るために,次のようなことを行うつもりがありますか」(Q43)という問で,「環境に配慮した商品が製造された結果,商品の価格が高くなってもそれを買う」「環境を守るために,今より税金が高くなっても仕方がない」及び「生活が不便になっても,環境に悪影響を及ぼすようなものは使わない」の3項目に関して,「はい」と答えた者の割合を示したものである。なお,この調査項目は前回調査から新規に追加されたものである。
     表より明らかなように,第一に,今回調査の結果では,3項目のうちのどの項目でも,韓国,アメリカ,スウェーデンでは,40%以上であるのに対して,日本とドイツでは,「生活が不便になっても,環境に悪影響を及ぼすようなものは使わない」で40%以上になっているが,他の2項目は3割前後でしかない。第二に,前回調査の結果と比べると,項目にもよるが,韓国とスウェーデンでの低下が目立っている。また,日本でも,若干減少している。第三に,以上のような国による差があるとはいえ,三項目とも,どの国でも最大で50%前後でしかない。環境問題の難しさと啓蒙の重要性が示唆される。

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    表1-41 国別の環境問題への構え(Q43a・Q43b・Q43c)

     次に,ボランティア活動への関わり方について検討しよう。表1−42は,ボランティア活動の経験,ボランティア活動に対する興味,及び,興味がある場合の内容について聞いた結果をまとめたものである。表中,興味の内容について,50%以上に網かけ,30%〜50%に下線を施してある。この表より,以下の諸傾向を確認することができる。


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    表1-42 ボランティア活動への興味関心


     まず,現在ボランティア活動を行っている者は,アメリカとスウェーデンがもっとも多くて,約20%,次いでドイツが8.2%,韓国が5.0%で,日本はもっとも少なく,3.3%でしかない。他方,「以前,したことがある」では,韓国とアメリカが約4割でもっとも高く,次いで日本が31.7%,スウェーデンが23.4%,ドイツがもっとも低くて,14.4%となっている。現在の活動率と以前の経験率の合計(活動・経験率)では,アメリカがもっとも高くて約6割,次いで韓国が5割弱,スウェーデンが4割強,日本が35.0%と続き,ドイツがもっとも低くて,22.6%となっている。
     ボランティア活動に興味を持っている者の割合の国別順位は,活動・経験率のそれとほぼ同様で,韓国55.4%,アメリカ52.8%,スウェーデン49.1%,日本42.9%,ドイツ20.3%となっている。
     では,どういう点でボランティア活動に興味を持っているのであろうか。表1−42の下半分に示されているように,もっとも多いのは,「困っている人の手助けをしたい」というもので,ドイツ以外の4か国で,約6割以上がこれをあげている。次いで多いのは,「いろいろな人と出会いたい」で,韓国以外の4か国で,5割強となっている。それ以外の項目では,「新しい技術や能力を身につけたり経験を積んだりしたい」が,スウェーデンで6割,アメリカで5割弱,ドイツ及び日本でも3割強になっている。また,「自由時間を有効に使いたいから」という理由も,スウェーデン,ドイツ,アメリカで4割前後があげている。「自分のやりたいことを発見したい」という理由も,韓国以外の4か国で,2割〜3割があげている。さらには,「進学,就職などで有利になるようにしたい」という理由も,スウェーデン,アメリカ,ドイツで,2割〜3割になっている。
     このように,青年たちがボランティア活動に興味を持つ理由はさまざまであるが,それらの理由にはどのような特徴があるのだろうか。また,各国の特徴は,先に確認した興味を持つ者の割合の大小に加えて,どういう点にあるのだろうか。図1−35は,その点を検討するために,コレスポンデンス分析の結果を示したものである。


     
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    図1-35 ボランティア活動をする理由のコレスポンデンス分析(Q35


     次元1は,「困っている人の手助け」や「いろいろな人と出会いたい」にみられるような慈善的・人格的な他者志向か,「進学・就職などで有利になるようにしたい」や「周りの人がやっているから」といった項目に代表されるような実利・同調志向かという次元,次元2は,「自由時間を有効に使いたい」にみられるような現時充足的志向か,「新しい技術や能力を身につけたり経験を積んだりしたい」や「いろいろな人と出会いたい」「自分のやりたいことを発見したい」にみられるような自己探求・自己形成的志向かという次元のようである。こうした幾つかの志向によって区別されるが,ボランティア活動に興味を持つ日本の青年たちは特に自己探求的志向と人格的な他者志向が強く,韓国の青年たちは特に慈善的・人格的な他者志向が強い点に特徴があるのに対して,欧米3か国の青年たちの場合,それぞれに特徴はあるものの,興味を持つ理由が多岐にわたっている点で共通しているといえる。



  6. 自国への誇り,自国への貢献,及び,政治への関心

     表1−43は,「自国人であることに誇りを持っている」かどうかと,「自国のために役立つと思うようなことをしたい」かどうかについて,「はい」「いいえ」「わからない」で答えてもらった結果,及び,「今の自国の政治にどのくらい関心がありますか」という質問に「非常に関心がある」から「全く関心がない」までの四段階で聞いた結果を示したものである。また,表の下欄3行の数値は,それら3項目間の相関係数の値である。この結果より,次の諸傾向を確認することができる。


     
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    表1-43 自国及び自国人である事のイメージ,政治への関心

     (1)「自国人であることに誇りを持っている」と答えた者の割合は,アメリカでもっとも高く,90.7%,次いでスウェーデンが85.1%,韓国79.6%,日本72.6%と続き,ドイツがもっとも低くて,49.7%となっている。「自国の役に立ちたい」では,韓国がもっとも高くて,73.3%,次いでスウェーデンが69.6%,アメリカが63.1%と続き,日本は50.0%,ドイツがもっとも低くて,29.5%となっている。韓国で「自国の役に立ちたい」の割合が多いのは,北朝鮮との関係に関する問題や,日中の間に位置し,両国との歴史的経緯や経済競争等に関わる課題を抱えながら,急速な経済発展と近代化が進んでいるという状況にあって,国民の一体感が強く,士気も高まっているからだと考えられる。他方,ドイツではどちらも,5か国のなかでもっとも低く,誇りで約5割,自国への貢献で約3割でしかない。表示はしないが,経年変化でも,ドイツは一貫して,ほぼ同じ低い水準で推移してきた。これは,一つには,第2次世界大戦やナチズムの経験が負の遺産として影を落としているからだと考えられる。この点では日本も同様のはずだが,それほど大きな影響があるようには思えないのは,一つには,侵略戦争の体験に対する記憶の仕方や社会での扱い方に差があるからだと考えられるが,いま一つには,現時充足的志向の強い情報消費カルチャーのありようや普及の仕方にもあると考えられる。
     (2)政治に対する関心は,アメリカがもっとも高くて,69.2%,次いで韓国が53.3%,日本を含む残りの3か国は45%前後になっている。アメリカ,韓国で高いのは,国内的には種々の社会的な格差や差別が比較的身近な問題として注目されていることや,対外的・国際的な関係のなかでの種々の緊張やプレゼンスの仕方が政治の争点になる度合いが強いからだと考えられる。
     (3)表1−43の下3行に示されているように,自国への誇りと自国への貢献の間には,程度の差はあれ,どの国でも,統計的に有意な相関があり,自国に対して誇りを感じている人ほど,自国のために役立ちたいと思う傾向がある。自国への貢献と政治への関心との間にも,スウェーデン以外の4か国では,1%水準で統計的に有意な相関があり(スウェーデンの相関も5%水準で有意),政治に関心のある人ほど,自国のために役立ちたいと思う傾向がある。以上二つの相関に比べると,自国への誇りと政治への関心との相関は小さく,しかも,スウェーデンでは逆の相関になっている。スウェーデンでは,自国に対して誇りを感じている人は,どちらかというと政治にあまり関心がないということであるが,これは,政治社会的には比較的平穏で,自国への誇りに関わることが必ずしも政治や外交の重大な争点になっていないからだとも考えられる。



  7. 青年たちの生きがい

     最後に,青年たちはどういう時に生きがいを感じているかをみてみよう。表1−44と図1−36は,「あなたは,どんなときに充実していると感じますか」という質問に,無制限多肢選択法で回答してもらった結果を示したものである。なお,各国の上位3項目に網かけを施してある。この図と表より,次の諸傾向を確認することができる。
     第一に,表に示されているように,「充実している」と感じるのは,どの国でも,「友人や仲間といるとき」が,アメリカ(2位)以外の4か国では1位で,割合でも,韓国(52.7%)以外の4か国では,70%以上,スウェーデンでは84.5%にもなっている。また,「友人や仲間といるとき」に加えて,欧米3か国では,「家族といるとき」及び「親しい異性といるとき」も日本や韓国より相当に多く,前者ではアメリカが74.1%にも達しており,後者ではスウェーデンが55.5%となっている。以上より,青年たちにとって,友人・仲間関係が充実感のもっとも重要な源泉の一つであるといえるが,特に欧米3か国では,友人・仲間だけでなく,家族や親しい異性も含めて,プライベートで親密な人間関係が,充実感の最大の源泉になっているといえる。
     第二に,「仕事に打ち込んでいるとき」は,韓国,アメリカ,スウェーデンで4割強,ドイツと日本でも,それぞれ36.4%,30.6%となっている。また,「勉強に打ち込んでいるとき」も,アメリカの38.0%を最高に,スウェーデン,韓国でも,3割強となっているが,日本とドイツでは15%前後でしかない。ところで,この数値は,全調査対象者を母数としたものであるが,特にこの2項目については,在職者か在学者かによって異なると予想される。表1−44の下欄2行に示されているように,在職者で「仕事に打ち込んでいるとき」を選んだ者の割合5割弱になっている。また,在学者で「勉強に打ち込んでいる」を選んだ者の割合も,かなり高くなっているが,アメリカとスウェーデンではそれぞれ57.5%と53.1%になっているのに対して,ドイツと日本はそれぞれ31.2%と30.3%で,20ポイント以上の開きがある。
     第三に,「スポーツや趣味に打ち込んでいるとき」もかなりの割合になっており,特に日本では50.9%で,5か国中で最高の値になっている。次いで,スウェーデンとドイツがそれぞれ48.6%と36.9%で日本に続き,韓国とアメリカでも,3割前後になっている。誰もがスポーツをしたり,特定の趣味を持っていたりするとは限らないことを考えるなら,スポーツや趣味も,かなりの青年たちにとって充実感の重要な源泉の一つになっており,その傾向は特に日本で強いといえよう。日本では市販の履歴書等にも「趣味」を書く欄が設けられているが,そうした趣味を強調・重視するカルチャーの反映でもあると考えられる。



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    表1-44 国別の充実している時


    図1-36 充実している時のコレスポンデンス分析(Q49)


     第四に,「社会に役立つことをしているとき」は,アメリカが最高で44.6%,次いで韓国27.5%,スウェーデン21.7%となっているが,ドイツと日本では1割強でしかない。この結果は,これまでにみた「自国に対する誇り」や「自国の役に立ちたい」や「ボランティア活動への興味」の水準と整合的であるが,日本とドイツの割合が他の3か国に比べて小さいことは注目に値する。
     最後に,コレスポンデンス分析の結果を示した図1−36でも,以上と同様の傾向が確認されるが,「友人や仲間といるとき」がどの国でも非常に多い点以外では,各国の特徴として,次のようにいうことができる。スウェーデンの場合,「親しい異性といるとき」や「一人でいるとき」が目立つこと,その意味で,プライベートの親密な関係が志向される傾向が強い点に特徴があるのに対して,アメリカの場合,社会貢献や仕事といった社会活動面での貢献・自己実現的志向が強く,もう一方で,家族志向が強い点に特徴がある。韓国の場合,仕事や勉強といったキャリアに関わる志向が強い点に特徴があり,ドイツの場合,スウェーデンと韓国の中間に位置し,プライベートな関係と仕事志向が比較的強い点に特徴がある。それに対して,日本の場合,趣味志向と仕事志向が強い点に特徴がある。



おわりに

以上,本章では,2003年に実施された第7回世界青年意識調査の結果及び第2回からの同調査の結果に基づいて,青年たちの生活と意識の諸側面について概観・検討してきた。特に,(1)今回の調査対象となった5か国の青年たちの生活と意識に共通する傾向,(2)それら5か国の国別の特徴及び特に日本の特徴の所在,(3)生活と意識の諸側面の内的構造や相互関係,(4)幾つかの側面・項目に関する経年変化とその背景要因との関連,などに焦点を当てて検討してきた。以下に続く各章でのテーマ別分析の結果と合わせて,青少年の生活・意識や青少年問題についての理解の深化に多少なりとも寄与することになるなら,また,青少年に関わる政策・施策を考える際の参考になるなら,このうえない幸いである。


【付記】本稿執筆に際して,膨大な図表の作成・整理に関し,国際基督教大学大学院教育学研究科修士課程(2004年4月より博士課程進学)の森口和くんに多大の協力を得た。記して謝意を表したい。

引用・参考文献
・藤田英典 1999 変動社会における青少年の生活と意識 「第6回世界青年意識調査細分析報告書」 総務庁青少年対策本部,11-40
・M・ヤング 1982 窪田鎮夫・山元卯一郎訳 メリトクラシー 至誠堂(Young, M., 1958, The Rise of Meritocracy)
・米山俊直 1981 同時代の人類学―群れ社会からひとりもの社会へ 日本放送出版協会

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