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地域における若者支援のための体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  1.座長 宮本みち子委員からの示唆  

1 座長 宮本みち子委員からの示唆

中央企画委員会委員による、「地域における若者支援のあり方について」(本年度モデル事業の成果と課題を踏まえて)と題した論稿を以下に示す。

『ユースアドバイザー研修事業の実施までを振り返る』


今年度、全国9地区で初めてユースアドバイザーの研修事業が実施された。思えば、2003年に青少年育成施策大綱が重点課題として「社会的自立の支援」および「特に困難を抱える青少年の支援」を掲げて以降の、変化する実態を踏まえて行われた多くの検討結果を踏まえて実現したものであった。大綱における「社会的自立の支援」とは、青少年が就業し、親の保護から離れ、公共へ参画し、社会の一員として自立した生活を送ることができるように支援すること、と定義されていた。社会的自立のなかで最優先課題と位置づけられたのは、1990年代後半から始まった若年層の失業者・フリーターの急増という時代状況を踏まえた「就労による自立の実現」で、具体的な方策のひとつとして、地域における就労支援のためのワンストップサービスセンター(関係機関の窓口の一元化、関連情報の集約化による包括的な一時相談の窓口)の整備など、教育施策と雇用施策の連携を強化することが掲げられた。また、「特に困難を抱える青少年の支援」に関しては、非行等の社会的不適応を起こしやすい状況になるなど、特に困難を抱える青少年に対して、その環境や条件が改善されるよう、特別な支援を行うことを強調し、そのための具体的な方策のひとつとして、医療、福祉、教育の専門家による適切な助言・指導の援助を充実することと、低所得・ひとり親家庭への就労支援、社会保障給付等が掲げられた。

その後、大綱を踏まえて内閣府が設置した「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」(2004年9月〜2005年6月)において、就労の不安定化や親への依存の長期化など、若者の社会的自立の遅れに関する踏み込んだ検討作業が行われた。検討会報告は座長名(宮本みち子)でつぎのように結んだ。その提言は、今年度始まったユースアドバイザー研修事業の経緯を確認するために重要と思われるので、引用して紹介しておきたい。

「欧米先進国に比べて、若者の雇用問題の発生が遅かったわが国では、大人への移行の長期化に内在する諸問題を認識するのが遅かった。近年ようやく社会的関心が高まり、国としても対策に乗り出した段階にあるが、それらは雇用対策が中心となっているのが現状である。また、現在の若者問題は景気が回復すれば解消される、という楽観的な見通しや、原因を若者自身の自立意識の甘さからくるもの、とする見方も根強くある。しかし、これらは木をみて森を見ない認識といわざるを得ない。若者の実態はもっと複雑で、総合的視野で理解する必要性のある問題であることを指摘したい。むしろ工業化時代に形成された、社会で一人前になるための仕組みが消滅しつつあるという考えに立って提言を行った。」

「若者の中でも、仕事に就けず社会的にも孤立した若者が特に自立の困難に見舞われている。社会階層格差の拡大という傾向は、若者の中でも明確に進行しているのである。本報告は、これらの若者が存在することに注意を喚起し、支援体制を早急に整えることを提言した。これらの若者の問題を、大人への移行の困難として再確認し、より正確な実態把握を進めながら、取り組みを強化することが必要である」。


『ユースアドバイザー研修事業の実施までを振り返る』


「近年、各地で官民それぞれに、若者の就労支援の取組が進められているが、これらはまだ単発的であり、諸機関・団体の連携は限られている。そのため、自立するまでの継続性のある有効な支援ができてはいない状況にあり、特に若者の複合的問題(例えば家庭の複雑な事情が原因となって、学校も続けられず、仕事にも就けないなど)に対処することができないという問題を抱えている。既存の行政の壁を打ち破り、教育・生涯学習・就労・社会保障・家族・健康医療等を包括する自立支援の仕組みこそが有効性を発揮するはずである。このような仕組みを作るための具体的検討作業を、各地で官民一体となって開始するべきであることを提言する」。

この提言の中で、地域における包括的自立支援体制のモデルとして提示されたのは、若者を継続的にサポートする専門支援機関のネットワーク(仮称 ユースサポート・パートナーシップ)と、その中核的担い手としてのユースアドバイザー(仮称。以下ではユースアドバイザーとする)を位置づけたことであった。この構想の参考にしたのは、英国のコネクションズ・サービスをはじめとする海外の実践であったが、それらに共通するのは、個々の若者を十分に把握し、地域の連携体制によって自立のための包括的・継続的な支援を個人ベースで行うという手法であった。

地域には、若者のニーズに対応する種々の専門機関・団体が活動しているが、それらの活動は機能別に独立していて、相互の関係性が十分ではない。そのうえ、日本では成人に達する年齢層の若者を対象とするサービスはもともと未発達であった。このような現状認識をもとに、この構想は、若者自身のニーズを中心にこれらの諸機関のサービスを統合するとともに、個々人の自立の課題に沿って継続的に支援をする中核的な機関として「(仮称)ユースサポートセンター」を作るというものである。ここには、若者のニーズに対応できるスタッフ(たとえば臨床心理士、キャリアコンサルタント、ケースワーカーなど)とともに、若者の全体像を理解し、諸機関の連携した活動を展開する要となるユースアドバイザーが配置される。ユースアドバイザーは、地域の包括的なサポート体制を有効に作動するのに不可欠の役割を果たす人材である。またユースアドバイザーはユースサポートセンターだけでなく、連携する専門機関にも配置されるという構想である。


『イギリスの子どもサービス改革がめざしたもの』


この提言は、支援機関や学会でも注目された。この構想を発展させるために、内閣府共生社会政策担当は、今年度まで、イギリスを中心に青少年若者の包括的支援施策に関する調査を継続してきた。イギリスに関してみると、2000年代に子どもサービスの大規模な改革が断行され、包括的支援サービスというコンセプトが実行に移された。そのきっかけとなったのは、2000年に起こった養母と同居人による6歳の少女の虐待死事件であった。事件後設置された「ヴィクトリア・クリンビー事件に関する調査委員会(ラミング卿委員長)」は、2003年の最終報告書でつぎのことを指摘している。少女は生前10ヶ月以上の間に、生命を救う決定的な機会が少なくとも12回あった。それにもかかわらず、死に至らせたのは、児童保護を行う機関が多岐にわたって広がり過ぎたために機能不全に陥っていたことに原因がある。つまり、現在の子どもサービスには、異なる関係機関の間の協力体制の無さや責任の所在の不明確さ、業務の重複による非効率性があるというのである。2003年に「Every Child Matters(すべての子どもが大事)」というグリーンペーパーが出され、広く各層の意見を収集した。それらを踏まえて、2004年には「子ども法Children’s Act」が成立し、国を挙げて子どもサービスの大改革が開始され、現在も進行中である。この改革路線は、国際的にみても子どもサービスの新しいモデルとして注目されている(「英国の青少年育成施策の推進体制等に関する調査報告書」内閣府政策統括官(共生社会政策担当)平成21年3月)。

イギリスの子どもサービス改革は、何の障害もなく進んでいるわけではない。その過程で、地域の関係機関の連携に関しては多くの困難が横たわっていることが指摘されている。根本的な原因は、これまでの支援専門機関は、それぞれに縦割りの行政機構にしたがって配置されてきた歴史を背負っていることから来ている。とくに、専門性が必要とされる職務に就いているほど、広い視野で連帯しながら支援をすることができにくいという状況がある。NPOやボランティア団体の役割が増加するなかで、これらの団体と公的機関さらには企業などとの連携が効果を生むことがわかってきたが、相互の連携を図るためには、これまでとは異質の「文化」が必要であると言われている。それは、“うちの仕事には手を出すな”という意識を払拭し、背景の異なる者が一緒になって仕事に取り組むという文化である。それを推進するための知識やスキルが求められている。

日本でも、近年青少年・若者の実態を踏まえて、包括的な支援ネットワークを地域に構築する必要性がますます高まってきた。2008年12月には新しい『青少年育成施策大綱』が取りまとめられ、5年前の大綱の路線を踏襲しつつ、より踏み込んだ内容になっている。このような経緯を踏まえて、2009年3月に『青少年総合対策推進法案』が閣議決定され、国会に提出される運びとなった。この法案では、自立に困難を抱える青少年を支援するネットワークとして「地域協議会」を設置し、これが調整機関として機能することを構想している。設置は、地方公共団体が単独または共同で行い、支援内容の協議と情報の交換を行い、支援状況の把握と連絡をするという構想になっている。


『モデル事業の成果は何だったか?』


このような経緯のなかで、今年度のユースアドバイザー研修事業が実施されたのであるが、その成果は何だっただろうか。

前述した包括的支援検討会の提言にある、「若者を継続的にサポートする専門支援機関のネットワーク」(仮称 ユースサポート・パートナーシップ)の具体的プランがない段階で、実像の定まらないユースアドバイザーを養成することには、多くの戸惑いや混乱があったことは無理もないことだった。研修が始まった当初は、ユースアドバイザーのイメージが地区ごとにまちまちであったため、参加者の構成にも偏りがあった。地区によっては思春期の青少年に関与するメンバー構成で、就労に関係する機関の代表者のいないケースもあった。しかし、それも徐々に補正されていった。地方自治体の関係部局の責任や役割に関しても、明確な理解がないまま開始された地区も少なくなかった。それにもかかわらず、回を重ねるごとに参加者の盛り上がりを見せ、途中から必要と思われる参加者を加えた地区もあった。

研修の成果は何だったのかといえば、第一の成果は、地域の関係機関・団体・個人の見える関係ができたことであろう。この成果をもって、今後は気楽に電話やメールで協力や助言を得ることができるようになるだろうと期待できる。第二の成果は、青少年・若者の実態を客観的に理解できるようになったことである。しかも彼ら/ 彼女らを、これまで各自の関係してきた分野を超えて学ぶことにより、全体的・総合的に把握することができるようになったということが重要である。第三の成果は、若者を<包括的に支援する>というコンセプトを関係者が共有できるようになったことである。これまでのシステムは、個別領域に分断され、他の領域のことはわからないという状態であったが、それを払拭しなければならないことが理解されるようになった。そして、第四の成果は、支援の手法についての大枠の理解が得られたことである。もとより、限られた研修のなかでは、広く浅い知識の取得に留まっていて、十分にこなし切れない点も多々あったことは事実であるが、一歩前進として評価できるであろう。


『ユースアドバイザーに求められるもの』


それにもかかわらず、研修修了時点でのもっとも大きな課題は、ユースアドバイザーとは何かという点で必ずしも十分な理解に達していないという問題である。まだ認識がばらばらな状態にあるといって間違いない。既存の行政システムの再編の青写真を示すことなくユースアドバイザーを養成しようとすることには、もともと無理があった。ユースアドバイザーは現行の諸機関のなかでどこにどのように配置されるのか具体的なめどが立っていないなかで、あえて実施したのであるから、多くの混乱があって当然だったといえよう。

再度繰り返すことになるが、ユースアドバイザーは個々の関係機関を結合する要の役割を果たす人材であり、複合的な困難を抱える若者に対して、専門の異なる関係者を束ねて包括的な支援ができるような役割を果たす人材である。つまり、地域の関係諸機関・団体の連携の必要性を十分に理解し、これらがネットワークとして機能するためのコーディネーターの役割を果たす人材である。ユース・アドバイザーは、支援に関する専門的知識はもとより、若者に対する広い見識があり、若者とともに活動する知識や体験をもっていることが必要である。

このような役割を果たすべきユースアドバイザーは、一定の権限をもっている必要があり、「ボランティアではない」という点を押さえておく必要がある。将来的には職業資格として確立するのが望ましいが、この点は将来の検討課題である。

つぎに、ネットワークの要となる中核機関をどこが担うのが適切だろうか。この点についてはいまだに明らかになってはいない。先に紹介したように、3月に国会に提出された「青少年総合対策推進法案」では、地方公共団体が、「関係機関等が行う支援を適切に組み合わせることによりその効果的かつ円滑な実施を図るため、単独で又は共同して、関係機関等により構成される青少年自立支援地域協議会を置くよう努めるものとする」(第18条)」としている。さらに、「協議会を設置した地方公共団体の長は、構成機関等のうちから1の機関又は団体を限り青少年自立支援調整機関をして指定することができる」「調整機関は、協議会に関する事務を総括するとともに、必要な支援が適切に行われるよう、協議会の定めるところにより、構成機関等が行う支援の状況を把握しつつ、必要に応じて他の構成機関等が行う支援を組み合わせるなど構成機関等相互の連絡調整を行うものとする」(第20条)。このように、地方公共団体が責任をもち、取り組むべき事業である。したがって、全市レベルで、有効なネットワーク像を体系化していくという検討作業が、ユースアドバイザーの養成に先立って(少なくとも平行して)行われなければならない。


『包括的支援システム作りの課題』


包括的支援システムは、早期発見・支援開始という入り口の課題と、支援後の自立に踏み出すという出口の課題とを含んでいる。入り口から出口までの一貫した、シームレスな仕組みを構築することで、初めて包括的支援が可能となる。入り口に関しては、学校段階での支援、学校から地域への連結が重要な課題である。一方、支援の出口に関してみると、支援の必要な若者たちは、「学校から雇用へ」というストレートな連結では自立できない困難を抱えている。このような若者を孤立させず社会へ参加させるためには、学校と家庭と雇用の間を媒介する「社会」が必要である。つまり、困難を抱える若者が生きられる世界を作るという課題が重要となる。さしあたって3つのタイプが考えられる。第一は、学校・職場・家庭以外の若者たちの居場所である。第二は、社会経験を積み、働く準備・訓練を受ける場である。具体的には、臨時雇用期間、インターンシップ、職業訓練・情報提供、キャリア・カウンセリング等がある。第三は、企業に代わる非営利組織等の働く場である。つまり、学校から雇用へという単線的なトラックではなく、多様な選択肢を地域社会に作り、生きられる世界の幅を拡大するという取り組みが必要である。

また、青少年・若者の支援は、早期に開始する必要がある。ドロップアウトしてしまってからでは支援の効果が薄くなるからである。支援の内容としては、<1>学校をドロップアウトしないための支援、<2>人生のトラックに乗れない状態にある若者を早期に発見してトラックに乗せる支援、<3>自分自身の生活基盤を築くための支援(親から自立できる支援)が必要であり、これらの予防的支援策を<能動的社会政策>という。ユースアドバイザーが、このような大きな展望をもって地域で活躍するようになることが、研修事業の目標であったことを確認したい。


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