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地域における若者支援のための体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  2.工藤委員からの示唆  

2 工藤委員からの示唆

『若者支援の土台が地域に創られる』


2008年から始まった「地域における若者支援のための体制整備モデル事業」では、私の地元である東京都立川市での関わりだけでなく、福岡県北九州市、京都府宇治市、静岡県焼津市、千葉県市原市でも「ユースアドバイザー養成講座」の講師も勤めさせていただいた。各地域の講座には、長年に渡って若者支援に携わってこられた方々が参加され、若者が抱える複雑多様化した課題とは何か。それを解決するためにはどのような取り組みが必要なのか。どのように地域で若者を育んでいくのか。それぞれの専門分野で若者を支援する専門家が真剣に議論できる空間の重要性を改めて認識した。

全国さまざまな地域で若者支援についての勉強会があり、専門性を高めるための講座があり、地域ネットワークを構築するための会議が開催されている。新たな知識や支援手法の学習に留まらず、ケース検討までをも行う地域もあるだろう。しかし、当該事業においては、過去に私が関わった若者支援の集まりと比較しても、かなりの特異性、独自性を有していると考える。

第一に、参加してくるセクターの多様性が挙げられるだろう。若者支援の集まりでは、ハローワークや職業訓練校関係者、保健所や児童相談所などの福祉関係者、福祉事務所のケースワーカー、学校教育の代表者やPTA関係者、そしてNPOなどの民間支援団体が主な参加機関であるが、当該事業では警察関係者や刑務所関係者のみならず、キャリア・コンサルタントや民生委員などの個人もかなりの割合で参加している。若者に関係する組織のバックグラウンドを持たず、個人としても参加できる当該事業は、“地域における若者支援”を実現するうえでは画期的な取り組みである。

第二に、若者を支援するうえで土台となる共通認識の確立がある。各地域には独自の文化や風土を背景に、そこに“いる”若者もその地域性を帯びていることに疑いはない。しかしながら、現在の若者が抱える各種課題の根底にはある程度の共通性があり、その共通性という土台があって初めて、地域性に寄った工夫を凝らしていくことができるのではないだろうか。何も材料がないところから、「各地域で工夫をして若者を支援していく」と言っても、工夫をするための材料がなければ工夫のしようがない。最初から地域性を考慮して若者支援を展開するには膨大な時間とコストが必要となるが、当該事業では、その土台作りの基本資料となるテキスト、講座内容、講師となる有識者が揃っており、若者支援の前提となる課題共有が迅速、かつ、効率的に地域に落としこまれるという意味において非常に優れたものである。

第三に、長期間に渡って参加者が何度も顔を合わせ、議論ができる空間が準備されているため、各組織同士の連携に留まらない個人レベルの連携、いわゆる、“顔が見えるネットワーク”を創ることができる。これまでの若者支援では、就労に向かおうとする若者がいればハローワークを紹介するといった連携モデルに留まることが少なくないが、当該事業を引き受け、実行された地域では、“ハローワークの○○さん”を紹介できるようになった。紹介をする側からしても、紹介を受ける側からしても、互いの信頼関係があるからこそ、安心して受益者である若者を任せることができる。すなわちそれは、適切な支援が受けられる“新しい次の場”に一歩を踏み出していく若者にとっても大きな安心感を提供できるという、受益者のメリットを最大化することにつながってくるのではないだろうか。


『若者支援を地域に根付かせる』


若者支援が本当の意味で地域に根付くというのはどういうことだろうか。若者を支援することを法制化することであろうか。若者を支援する中核機関が、行政によって恒常的に配備されることであろうか。それとも、各地域にNPOなどの民間支援組織が形成されることであろうか。ボランティアベースで若者を見守って来られた民生委員のような存在が増えることであろうか。地域に暮らすすべての市民が、若者が抱える課題を共有し、何かあれば一丸となって、その課題解決に取り組めるようになることであろうか。

私には、「これが地域に根付くということだ」という明確な答えはない。しかし、ひとたび若者支援というものが地域に根付いたならば、それは簡単にはなくならない社会インフラ/地域機能として永続するのではないだろうか。では、地域に根付くとはどのようなものであろうか。ひとつのイメージとして、ここで私が体験したエピソードを紹介したい。

季節の変わり目になると、私はたくさんの衣類をクリーニングに出している。自宅の近くに“いきつけ”のクリーニング屋があるのだが、毎回その店を活用している。クリーニングをお願いするときには立ち話もする。すると聞かれるのである。なぜ、若者を支援しているのか。どのような若者がいるのか。彼ら・彼女らはどのような課題を抱えていて、それを解決するためには何が必要なのか。

あるとき顔馴染みの店員さんから、「子どもが自宅から出られなくて困っているお客さんがいるんだけれど、あなたたちの資料を貰ってもいいかしら。そのお客さんから是非と頼まれたの」と言われた。私は、もしかするとこのようなエピソードが“地域に根付く”ことのひとつになるのではないかと考える。いわゆる支援者がネットワークを作り、支援活動に取り組んでいく。ある若者の抱える課題が複雑多岐に渡れば渡るほど、支援者一人ひとりの負荷は重くなり、一つひとつの組織の負担も増していく。しかし、普段の生活のなかで出会う地域の方々が、ほんの少しだけ協力をしてくれる。ひと時の“聞き役”に徹してくれる。地域のつながりのなかで、支援者同士だけでは見つけられない情報が得られる。結果として、それはよりよい若者支援、より多くの若者の課題解決につながっていくのだろう。若者支援が地域に根付くということは、支援者だけではないネットワークがゆるやかに形成されるような“広がり”を言うのではないだろうか。


『若者支援のノウハウと経験の継承を』


各地域の講座受講者、特に個人ベースで参加されたのは比較的年配の方が多かった。講座が平日の昼間に開催されたことも大きく影響しているのは間違いないだろう。しかし、若者の支援をすることにおいて、被支援者ではない若者が関われないのは、若者支援という重要案件に対する機会損失といってもよいのではないだろうか。長年に渡り、社会とうまく関わることができない若者を支援されてきた方々の話を伺うと、そこにはとても素晴らしい若者支援のノウハウと経験を得ることができる。

深夜にコンビニエンスストアの前で騒いでいる若者への接し方。平日昼間から公園でたたずんでいる若者への声のかけ方。保護者や先生との間に入ったときのふるまい方など、若者を支援するうえでは非常に貴重な経験を惜しみなく伝えていただいた。私自身が関わっている若者とは異なる課題を抱えているケースに出会ったときには、「このように対応しているのだ」と感動すら覚えたのである。

若者だからうまく若者を支援できないということはない。しかし、長年地域で若者支援活動に携わってきたノウハウや経験が次世代に継承されないのは、目の前の宝物をみすみす捨てるようなものである。当該事業のみならず、今後の若者支援に求められるのは、こういった地域で培われたノウハウや経験の次世代継承である。委員会にせよ、会議にせよ、ケース検討会にせよ、組織の代表者や長年現場で支援活動に従事してきた中堅・ベテラン職員が集う理由が理解できる。ただ一つだけ欲を言わせていただけるのであれば、ある空間に集い、知識や情報の交換を行い、顔の見えるネットワークを構築する際には、参加者全体の数十%は、ノウハウや経験伝承のために支援対象者である若者と同じ世代の若者も集える仕組みや取り組みが成されてほしいと思う。


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