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地域における若者支援のための体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  4.斎藤委員からの示唆  

4 斎藤委員からの示唆

『地域における若者支援のあり方について』


今年度実施された内閣府の「地域における若者支援のための体制整備モデル事業」に中央企画委員会委員として参加させていただき、多くのことを学ぶことができた。特に、ユースアドバイザーの養成という目的に向かうモデル事業の実施が、これまで取り組まれてきたニートと呼ばれる非就労者(その中心は精神障害とはいえない水準の青少年)とともに、ひきこもりなどの非社会的な状態や不安・抑うつなどの精神症状を前面に出す内在化障害を持つ青少年や、著しい反抗や非行といった反社会性を前面に出す外在化障害を持つ青少年を同じ青少年支援の大きな枠の中でとらえ、その支援を国レベル、地域レベルで、連携して取り組もうという姿勢を明らかにしていると感じており、こうした青少年を診療・支援対象としている児童思春期精神科医として心強く感じるところである。直接に就労支援の対象となりうる水準の非就労青年や、非行からの立ち直りにリンクした社会復帰支援に比べて、ひきこもりを示す青少年への支援はこれまでとかく後回しにされがちであった。

たしかにひきこもりは、障害と通常発達の境界領域として以前から定義されてきたことから支援対象と認知されることが難しい領域であり、不登校として支援が積極的になされる義務教育期間を越えてひきこもる青少年は、支援もないまま、家庭に閉居することがこれまでの普通の姿であった。しかし、現在ではひきこもりも不登校も背景に何らかの精神障害が関与している可能性が高い状態像であることがわかってきている。すなわち現在という時代は、ひきこもりが自己同一性の確立しにくいこの時代の若者の一存在様式であるとか、若者の自己決定を保留している期間(すなわちモラトリアム)の一状態像であるとか、現代社会への精神分析的な意味での無意識的抵抗、あるいは無意識的であるにしろ政治的な異議の一表現であるとかといった象徴的意味をめぐる議論の対象であるよりは、精神医学的病理現象として具体的な治療と支援の対象であることを実感できるようになった時代なのだといえよう。

現在青少年から40代くらいの成人の間でひきこもりの経験者は1.2%ほど、現在ひきこもっている人は0.6%ほど存在するという疫学的調査結果もあるように、ひきこもりはけっして稀な現象ではない。このひきこもり、あるいは不登校(不登校の中のひきこもり状態の明確なもの)を示している青少年への支援にはニート対策として実施されてきた従来の就労支援が利用可能とされているが、実際にはなかなか本格的なひきこもりを示している青少年の利用者に利用してもらえないのが現実である。就労という課題に対して自発的な就労意欲の高い青少年が、たまたま就労の機会を得られないまま、非常勤状態での断続的就労や無職の状態にとどまらざるをえないという状況に対する支援と、ひきこもりを続ける青少年への就労に至るまでの支援とはまったく異なるといっても過言ではないことがこうした現実からも推測できる。さらに、ケース・バイ・ケースとしか言いようのない個々のひきこもり青少年の状態像や彼らの置かれた状況の千差万別ぶりは事情をさらに複雑にしているといってよいだろう。

ユースアドバイザーのような専門的知識や技能を持ったスペシャリストを養成する必要性の一つが、まさにここにあると言えるだろう。ユースアドバイザーはおそらくは各地域における不登校やひきこもりを遷延化させている事例を中心とする青少年への最も身近な支援者として動員・配置されることになるだろう。そしてその活動は、不登校・ひきこもりとなり、さらにそれが遷延化することになった事情や精神病理に規定された個人的存在としての青少年の現在と、社会の中でどのように存在し、どのような機能を担いうるかという社会的存在としての青少年の可能性とを慎重につなごうとする支援ということになるだろう。

しかし、そのようなユースアドバイザーの機能はただある機関に配置されるというだけで発揮できるものではないだろうし、さらにいえばユースアドバイザーを配置された一機関だけでこうした青少年を支援しきれるものではないといえよう。また、ある地域でユースアドバイザーがコーディネーター機能を担うことになったと仮定して、ある事例をユースアドバイザーがある機関に支援を依頼するだけでよい結果を期待することは難しい。早晩、依頼された機関はこれ以上事例を回さないで欲しいと言わざるをえなくなるだろうし、ユースアドバイザーへの反感を露骨に示すようになる機関もあるかもしれない。

ユースアドバイザーがこのような事態を回避し、その事例の展開を諸機関と手を携えて支援していく一貫性のある支援システムの要(かなめ)として機能できるためには、ユースアドバイザーの存在だけではなく、地域の問題として登場してくる青少年を冷静に評価し、複数の機関でかかわっていく形の支援方策を組み立てるとともに、事態の変化に柔軟に対応して新たなかかわりの必要性について検討しあうような地域連携システムの存在が必須である。こうした地域連携システムは教育機関、児童福祉機関、市町村の母子保健や障害福祉担当部門、保健機関はもとより、青少年に関わる医療機関や警察を含む多様な公的機関や委嘱された専門家による事例検討が機能の中心となり、機関間の顔の見える連携が実現できるようつとめるシステムでもある。窓口機能を果たす機関に配置されたユースアドバイザーが、青少年やその家族による相談や地域機関からの検討依頼により対象となった事例を、その概要の評価を通じた受け入れにはじまり、連携システムでの事例検討的な協議の対象とし、その場で方向づけられた支援(当面関わる機関の組み合わせが協議により決まる)の経過をフォローアップし、支援機関がもし再協議を求めるならその機会を作り、協議の場で支援の修正に取り組むといった一連の流れ(別図)のコーディネーター役を果たすようになったら、地域における不登校・ひきこもりが長期化した青少年やその保護者にとって大きな支援となるだろう。さらに、窓口機能を果たす機関だけではなく青少年の治療や支援に取り組む各機関にもユースアドバイザーが存在するようになると、窓口機関のユースアドバイザーはコーディネーター機能をよりいっそう果たしやすくなることが予測される。

こうした大きな機構の中に、いかに民間の諸機関の機能を組み込むことができるかという課題がいま一つの課題である。若者支援に関わるNPO・NGOだけでなく、民間病院なども含んだ各地域における若者支援に欠くことのできない機関を柔軟に組み込む必要がある。ただし、守秘義務をはじめ事例の個人情報の保護を保障する情報管理の枠組みをどう構築できるかという課題が残されている。この点をうまくクリアできるなら、地域における公的機関・私的機関の機能を統合した現実的な連携システム、ないし協議体が多くの地域で設置可能ではないだろうか。

いずれにしてもユースアドバイザーの普及と地域協議体という形の連携システムの構築は今後の青少年支援にとって欠かせないものとなるだろう。


図 ユースアドバイザーと地域連携システム
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