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子ども・若者支援地域協議会体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  3−2.梶野委員からの示唆  

3−2.梶野委員からの示唆

地域における若者支援のあり方について



今年度から「地域における若者支援のための体制整備モデル事業」の中央企画委員のメンバーに加えていただきました。「子ども・若者育成支援推進法」が成立、公布された記念すべき年に、このような形で関わらせていただけたことを光栄に思います。

私の専門は「社会教育」です。社会教育の領域の一部に「青少年教育」があります。今年度の事業を振り返るとともに、教育行政の一翼を担う者の一人として、今後本格的な取組がはじまる地域における若者支援のための体制整備に必要だと考える視点をいくつか提示させていただきます。


【ソーシャル・サポート・ネットワークの中に学校を取り込む】


今年度の中央企画委員会やコーディネーター研修に参加していて、私自身最も強く感じていたのは、「地域における若者支援の体制整備の中に『学校』をどのように取り込んでいくか」ということです。今年度モデル地区15地区の取組をみても、地方企画委員会への学校関係者の参画の度合いはあまり高いとはいえないというのが現状だと思います。

宮本みち子委員長は、今年度の第1回中央企画委員会(平成21年7月15日)の席上で能動的社会政策の一つの方策として、「学校をドロップアウトしないための支援」を提案していますが、平成22年度から全国各地に設置されていく「子ども・若者支援地域協議会」中に「学校」をどのように取り込んでいくかが、取組の成否を分けるメルクマールとなってくるでしょう。組織論の研究者である太田肇が「囲い込み型組織」の典型例として学校制度を挙げています(太田肇『囲い込み症候群―会社・学校・地域の組織病理、ちくま新書』)が、日本における近代学校制度は“ソト”の社会と隔絶された空間の中で自己完結的に教育活動を行うことを旨として成立しています。

現在では毎日のように不登校・いじめ・学力低下・子どもの体力低下、さらには教員の指導力不足やメンタルヘルスの問題など、学校制度を取り巻く問題が報道されています。これらの問題を解決するために私たち教育行政の関係者は様々な教育施策の構築に日々奔走しているといっても過言ではありません。しかしその殆どが対症療法的施策の域を出ておらず、有効な解決策を打ち出せてはいないというのが現状です。

なぜ、有効な解決策を打ち出せないのか。「学校という(社会から隔絶された)自己完結的な空間の中で、教師が生徒を教え・導く」という枠組みの中で問題を解決しようとするスタンスに原因があるのではないかと考えます。私たちはインターネット社会の中で生活しています。そこでは、必ずしも大人が子ども・若者よりも優位な立場にいられるとは限りません。むしろ情報を獲得するスキルにおいては、大人と子ども・若者の力関係は逆転してしまいます。そのような社会状況の下で「教師が生徒を教え・導く」という一方的関係を学校の中で維持することは実質的には不可能であると考えた方がいいでしょう。

そうなると、子ども・若者たちが次代の日本社会の確かな担い手へと育っていくことをサポートする社会システムづくりのために学校は、自己完結的教育観から脱却し、“ソト”の社会と有機的につながることが必要となってくるのです。

これから全国各地で展開されるであろう「子ども・若者地域支援協議会」で重要となってくるのは、一人ひとりの子ども・若者(いわば「個」)に着目し、そこから社会との接点を見い出し、社会参加への道すじを切り拓いていくことを可能とする「ソーシャル・サポート・ネットワーク」づくりを進めることです。そのネットワークの中に学校を取り込むことが重要となってくるでしょう。


【自立していく主体として、子ども・若者を捉える】


ある青少年教育の関係者から「子どもがおとなになっていくために、子どもは一生懸命に子ども時代を過ごす必要があるのだ」という話を聞いたことがあります。これは子ども(若者)という存在が自ら伸びようという意志をもった主体であることを示している、非常に重要な指摘だと思います。

今年度私が出席させていただいた会議の中で、モデル事業の関係者のみなさんから「支援」という言葉が何度も飛び交っていました。この「支援」という言葉を私たちはどのような意味として捉えたらよいでしょうか。会議の中では「指導」というものに対抗する概念として「支援」という言葉を用いているように聞こえましたし、また私たちが様々な社会的困難を抱えている子どもや若者たちを「支え」ることが必要だという文脈で使っている場合もありました。

このように私たちはあたりまえのように「支援」という言葉を遣っています。子どもや若者の存在を、支援を受ける“客体”と捉えるのか、それとも自ら育つ“主体”として捉え、その歩みを支えていくという意味で「支援」という言葉を遣うのでは、その意味合いが全く異なってきます。このモデル事業に関わっている殆どの方たちは、はもちろん後者の意味で「支援」という言葉を遣っているとは思いますが、具体的な取組を始める前にもう一度「支援」の意味を考えてみる必要があるように思います。


【ただ「かかわる」ということ〜非専門性】


会議に参加していて、もう一つ引っかかりを覚えたのは「専門(性)」という言葉です。会議では「専門機関のネットワーク」の重要性が繰り返し指摘されていました。私の職業は社会教育主事という教育行政の「専門」職ですので、私自身は「専門性」ということを非常に大事にしたいと考えている者の一人です。しかし、「専門性」ばかりがひとり歩きしてしまっては、子ども・若者を支える地域のネットワークは持続可能なものになっていかないのではないかとも考えています。

私の知り合いに相川良子さんという方がいます。相川さんは、元中学校の教員(校長も務めた)で、退職後の平成11年から渋谷区で地域の人たちを巻き込んで、「渋谷ファンイン」という(地域主導の)居場所づくりの仕掛け人として知られています。その「渋谷ファンイン」のメンバーを中心にして昨年の夏「ピアサポートネットしぶや」というNPOが設立されました(http://peersupport.jp/を参照のこと)。このNPOでは、「引きこもり、フリーター、ニートなど若者が抱える問題を社会の課題としてとらえ、それらの若者が再び生き生きと社会とつながりながら生きていくことが出来るようお手伝い」をすることを目指して様々な活動を展開しています。

このNPOが最も重視しているのは「ピアサポート」いう概念です。ご存知の方も多いとは思いますが、「ピア(peer)」というのは「対等」という意味の言葉です。相川さんはピアサポートには、「ボランティア性」、「対等性」、「柔軟性」、「非専門性」という4つの特性があると指摘していますが、中でも私が着目したいのは「非専門性」という概念についてです。

ピアサポート活動を行うスタッフたちは、何か決められたゴールを設定することをせずに不登校やひきこもりの子どもや若者と向き合あおうとしています。それは他者にたいして不安を強く感じている子ども・若者たちにプレッシャーを与えないように配慮するというのが、その理由です。そこで重視されているのは「ただ、かかわる」ことです。「ただ、かかわる」という目的的ではない行為の根本には、子ども・若者を受容するという姿勢が見て取れます。先ほど、子ども・若者の存在を自ら育つ“主体”として捉えるという視点を示しましたが、「信じて、待つ」という非専門的なかかわりも、子ども・若者の自立に向けた育ちにとって、不可欠なものであると考えます。


【今後、どのような地域ネットワークづくりを進めていくか】


最後に「子ども・若者支援地域協議会」を設置したのち、どのような展望を描きながら地域で社会的に困難を抱える子ども・若者を支援していく活動を展開していったらよいかについて、これまで述べてきたことを踏まえて、私なりの提案をさせていただきたいと思います。

最近「ソーシャル・キャピタル」という概念に注目が集まっています。これはアメリカの政治学者であるロバート・パットナムの著作『Making Democracy Work』 (邦訳『哲学する民主主義』、NTT出版)によって巷間に広がりましたが、端的に言うと「人々がもつ信頼関係や社会的ネットワーク」の重要性を指摘したものです。

パットナムは、ソーシャル・キャピタルを「結合型(bonding)」と「橋渡し型(bridging)」に分類していますが、この分類を援用して、地域における子ども・若者支援のネットワークづくりの構図を整理してみたいと思います。

子ども・若者育成支援推進法に基づき設置される「子ども・若者支援地域協議会」は、社会的困難を抱える子ども・若者の支援のためにタテ割り行政を乗り越え、専門機関のヨコの連携を志向しています。これは(異なる組織間における異質な人と組織を結び付けるネットワークづくりといった)「橋渡し型」のソーシャル・キャピタルの形成を重視しているものです。一方、先に紹介NPOピアサポートネットしぶやが展開するピアサポーターの活動は、信頼をベースにした「共感的関係づくり」を第一義に志向しています。これは「結合型」のソーシャル・キャピタルの形成に力点を置いているといえます。

これから重要になってくるのは、それぞれの地域特性を踏まえて、この2つのタイプのソーシャル・キャピタルの関係をどのように紡いでいくかという点です。専門的なネットワークの周縁に地域における子ども・若者との「かかわり」を重きをおいた(インフォーマルであり、かつ目的志向ではない)非専門的な人びとのつながりをつくることが重要だと私自身は考えています。既存の枠組みを乗り越え、一人ひとりの「個」(子ども・若者)を中心に据えた、ゆるやかな社会システムづくりに向けて、共に歩みを進めていきましょう。


参考文献


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