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子ども・若者支援地域協議会体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  3−3.工藤委員からの示唆  

3−3.工藤委員からの示唆

●テーマ:「地域における若者支援のあり方について」



地域体制整備の成功要因は「ひと」である


景気の低迷に伴う求人数の減少などにより、困難や課題を抱える若者が“それでもなんとか仕事に就く”ことすらできなくなり、若者支援における地域単位での認識に変化を感じた。「地域」という単位で若者の支援を考えるとき、その地域特有の若者支援はどうあるべきなのかが議論されることになるが、今年度は過去に比べ“地域の若者”という大きな括り、世代的な観点から取り組みの方向性を検討する意識が強くなり、地域におけるビジョン設定が明確にされたように思う。


方向性が共有されれば、その方向性に沿って「私」「私たち」は何ができるのか。何をすべきなのかという議論も活発化する。私は、中央企画委員として主に事業実施の初回と最終回を任されることが多かったが、事業を始めるにあたり集った個別の支援者が、事業の最後にはひとつの支援組織であるかのような一体感を持った雰囲気を有し、「顔と顔が見えるネットワークを構築する」が単なるキャッチフレーズに留まらず、実質的に機能する地域体制を見ることができたのは、当該事業の成果と言える。


当該事業に関わらず、地域支援体制が成立するところには「ひと」が存在する。汗をかき、泥にまみれながら、各分野を横断し、行政や民間の垣根を取り払い、「あのひとにお願いされたら一肌脱ぐしかない」と、周囲を突き動かす人間がいる。それは行政担当者でも、企業営業マンでも、民間団体の支援者でもよく、ある部分、「私」ではなく「公」の観点から地域の若者に支援を差し上げたいという「志」を持っていることが重要になる。その意味から、仕事として、業務として、役割として地域の体制整備に取り組むというだけでは名ばかりのネットワークがひとつ作られるに留まるだろう。当該事業に関わるにあたり、実施内容も非常に大切な成功要因ではあるが、地域における若者支援の体制を有益なものにするためには「志あるひと」の発掘がどの地域にとっても最重要課題となるのではないだろうか。


ネットワークの意味


困難な状況にある若者を包括的に支援するネットワークを構築するのは急務である。ネットワーク関係の会議や委員会が設置される際にはこのような「意味」が理由付けされる。今年度、さまざまな地域で私は講義をさせていただいたが、ネットワークを作る際にはもう一つ「意味」を加えていただきたいと話してきた。それは、若者支援に携わる支援者のためにもネットワークには意味があるということだ。


支援を必要とする若者のなかには、解決することが難しい課題を複合的に有しているものもおり、それらを解決するには継続的な粘り強い支援が求められる。ネットワークが作られていない地域では、ひとりの支援者がこれらすべての課題解決に奔走し、しかも、支援対象となる若者は増え続け、支援者が疲弊し切ってしまうことが少なくない。確かに、複数の困難を有する若者を支援するためにネットワーク体制を作るのは重要だが、支援者を疲弊させない、支援者を護ることもネットワーク作りには含まれている。このような話をしたとき、当該事業に集った方々から「ネットワークの意味をより理解できた」とのお言葉をいただいた。


講義や委員会、会議で情報共有をし、互いの組織/個人がどのような支援に取り組んでいるのかを検討、理解することも大事である。それに加えて、自分自身のみならず、同僚や部下、自分が所属する組織の人間が疲弊しないよう、また、もっとよい支援、専門性に特化した支援ができる支援のために、という意識を持って参加をすれば、ある場所に地域内の支援に関わるひとたちが集うことにより大きな価値が生まれる、と私は考える。


子ども・若者支援地域協議会への発展/スタートを切る


今年度の事業を通じて感じたのは、地域の若者支援体制を整備するにあたり中心的な役割を担う「ひと」をいかに発掘するのか。そして、体制整備の意味を地域の方々にどう理解していただくか。この二点の課題を解決していくことが、今後の重要なテーマになってくるだろう。逆に、この二点の課題を解決できた地域では、若者の支援における見識を広げる。最新情報を共有する。支援者が集まりケース検討を開催する。ネットワークのあり方を定性的、定量的に検証していくことなど、さまざまな取り組みが大きな効果として表れるのではないだろうか。仕事は段取り、という言葉も最近は多く聞かれるが、地域の若者支援体制も「段取り」をどこまで追求していくのかで、その後の主目的である「支援」のあり方を決めると言っていいだろう。


平成22年度からは、「子ども・若者育成支援推進法」施行により、子ども・若者支援地域協議会の形成が各地で検討されてくる。既に検討が終わり、実行に移されつつある地域もあると認識している。その一方で、既存ネットワークとの違いがわかりづらい。“子ども・若者”というフレーズにより担当部署が決まらない。それぞれの支援者は多忙で会議に何度も出席できない。新たな予算措置は難しい。意見交換をさせていただくなかで、新たな地域協議会を作ることに対し聞かれた言葉はどれも「実行は難しい」というものが多かった。業務が増え、一人ひとりに負荷がかかるなかでは難しいという気持ちもわからないではない。余裕のないなかで協議会を設置しても形骸化してしまうのではないかという不安も理解できる。この部分は非常に難しい課題である。


私の周辺、特に民間組織の支援者は協議会設置に強い意欲と希望を持っている。協議会が設置されれば、子どもと若者をわけずに、成長過程の流れのなかで支援できるのではないか。既存のネットワークではつながれなかった地域の支援者と関係を作ることができるのではないか、など期待は高く、さらには、集うことは難しいがIT技術を使って物理的な制約を超えてはどうだろうか。予算がないからではなく、ない予算のなかでどこまでやれるかを考えたい、という議論も成されている。立ちふさがる数々の課題を前に立ち止まるか、それとも課題があることを前提としたうえでスタートを切るべきか、意見は分かれるところかもしれない。


しかしながら、地域で若者を支援していくことに「No」を突き付ける人間はいない。若者を支援することそのものは重要なことだと誰もが認識しているからだ。私は、初めから壮大なスケールで、地域ですべての若者に対応できる必要はない。現状の地域資源を鑑みて、やれそうな分野から無理なく進めていく「あり方」でよく、もっと言えば、“どうあるか”はやってみてから見えてくるくらい割り切る程度が丁度よいのかもしれない。今年度の当該事業を見ていても、初年度より二年目、三年目のほうがうまくいっているケースが多い。


いくらでも困難な理由は並べられるだろう。それでも、できそうなところから始めてみる。そして、できたところから広げていく。若者を支援していく取り組みは、今後、長年にわたって継続していかなければならず、また、長期に渡ればさまざまな社会状況、地域情勢に応じて「あり方」も変化させていかなければならない。いますぐに完成形を作る必要もなければ、完成形などはそもそもないのかもしれない。課題を挙げることはいくらでもできるが、最初で最大の解決すべき課題は地域での若者支援に取り組む実質的なスタートを切ることなのではないだろうか。



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