本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第3章 > 3−4.斎藤委員からの示唆
子ども・若者支援地域協議会体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  3−4.斎藤委員からの示唆  

3−4.斎藤委員からの示唆

地域における若者支援のあり方について



1.事例検討


今年度実際に関与したモデル事業は松江市と千葉市であり、そこで経験したところから本モデル事業を考えると、地域関連機関による連携ネットワークがいかに有効に形成されるかという点に、事業としての成否がかかっていることを実感した。関与した両モデル事業とも事例検討に多くの時間をかけており、そこでの議論に両地域の参加機関の独自性が反映されているように感じ興味深かった。やはり、子どもや若者の支援のための連携とは、複数の異分野の機関が合同して詳細な検討を行う事例検討に成否の鍵がありそうである。

では、地域連携ネットワークでの必須な活動である「事例検討」とは何だろう。ここでいう事例検討とはけっして結果の出た過去の事例の検討のことではない。今まさにある機関が支援を続けており、あるいは開始しようとしており、しかも展開に重大な疑問が生じてきたり、支援そのものが非常に難しい状況に直面していたり、支援の意義が見えなくなったりしている現在進行形の事例についての検討であり、何がおきているのか、どのように対処すべきか、次ぎの一手は何か、どのような機関に手伝ってもらえるのか、あるいはバトンタッチしてもらえるのかといった多様な疑問に具体的な答えを見つける実践的な検討でなければならない。このような事例検討はケース・マネージメントという観点からのそれということができる。


2.地域連携ネットワーク


若者支援、とりわけ「ひきこもり」を対象とした支援は、「出会い・評価」の段階を経て、「個人的支援」の段階へ、そしてそこから「中間的・過渡的な集団との再会」の段階へ、そして「社会参加の試行」段階へと一段一段階段を踏むように進んでいく辛抱強い支援過程であり、段階に応じた多様な支援を提供する必要がある。したがって、このような支援の全体を一分野、一機関だけで担うことは不可能といってよいだろう。地域連携ネットワークが必要な理由はまさにそこにある。

地域連携ネットワークはどのような構造を持つべきであろうか。著者は次のような3種類の機能を果たす構成要素を有機的に組み合わせ、実践的に運用することが地域連携ネットワークであると考える。すなわち、第一の要素はネットワークの窓口機能およびコーディネート機能を果たす「事務局」であり、第二の要素はネットワークに参加する各「専門機関」であり、最後の要素が専門機関が集まって定期的に開催する「ケース・マネージメント会議」である。

事務局は参加機関の連絡担当者とこまめに連絡をとりあい、現在困っている事例がないかどうかをたずね、もしあるならそれをケース・マネージメント会議で検討するよう提案し、そのための準備についての情報を提供する。こうして検討することになった事例を集めて、毎回のケース・マネージメント会議のプログラムを作成し、さらに各事例ごとに会議に必ず参加してほしい機関を調整し、必要に応じてその事例に実際に関与している各機関のスタッフの出席をアレンジすることも事務局の仕事である。

定期的なケース・マネージメント会議にはできるだけ実務者が参加できるような運営に配慮すべきだろう。定期会議では可能な限り「今」ある機関が対応に苦慮している事例を検討するべきである。そこでの検討が諸機関の積極的な発言で有意義なものとなれば、その積み重ねは参加機関のひきこもり理解や対応法の向上につながる啓発的効果が期待できることは明らかである。また、ケース・マネージメント会議では少なくとも一つは新たな取り組みの方向を出し、少なくとも一機関は一緒に取り組むことへ手を上げることを原則とするべきだろう。

さらに、連携ネットワークにおける定期的に開催されるケース・マネージメント会議において、議論が有益な忠告、具体的方向の提案、支援への参加の表明などを含む活発な検討と交流の場になることができれば、そこに参加していた各機関の実務者は信頼感を共有する「顔見知り」と感じあえるようになる。それは緊急時の対応を急ぎ機関間で打ち合わせなければならない際に大いに活用できるものであり、連携ネットワークを設置し運用する意義の一つでもある。

このネットワークには子どもから若者までの広い年代の青少年に関わる地域諸機関(教育、保健、福祉、警察など)が可能な限りたくさん参加すべきである。特に、精神科医療機関、理想的には児童精神科と一般精神科の両方の機関が参加していることはネットワークの質を高めることにつながる。

最後に、連携ネットワークは各機関の立場と限界を理解しあったつながりを大切にすべきであることを強調しておきたい。


3.地域協議会形成に向けた方向性、課題


地域協議会は、上記の地域連携ネットワーク機能の3構成要素をきちんと備えていなければならない。この協議会は各機関の責任者もしくはそれに準ずる人を集めネットワークの運営をめぐる水準の検討を行う会議と、各機関の実務家が集まり、文字通りケース・マネージメントに関する検討を行う会議との両者が存在することが望ましいが、もしそれが難しければ、むしろケース・マネージメント会議を優先させるべきである。

地域連携ネットワーク構築にあたって特記すべきは、NPOをはじめとする民間機関との連携が必須である一方で、公的機関がある支援領域を民間機関へ丸投げすることは絶対にすべきではないということである。公的機関もNPOが提供する活動と同種の活動に率先して取り組み、民間機関の活動のモデル(活動内容的にも、倫理的にも)とならなければならない。その上で、民間機関にどこを担ってもらうかを明確にし、責任ある指導を続けるべきである。丸投げは責任転嫁になりかねないことは常に心得た上で、公的機関と民間機関の深い信頼感に支えられた連携を目指すべきである。

地域協議会には成人精神科および可能なら児童思春期精神科の医療機関を加え、ケース・マネージメント会議では医療的、各当事者に応じた個別支援システムの構築のために医療者のメンタルヘルス的な評価と支援の感覚を活用すべきである。



本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁