本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁
本編 > 第3章 > 3−5.長須委員からの示唆
子ども・若者支援地域協議会体制整備モデル事業
第3章 中央企画委員会委員による総括
  3−5.長須委員からの示唆  

3−5.長須委員からの示唆

地域における若者支援のあり方について



1.はじめに


今回,「地域における若者支援のための体制整備モデル事業」においては,各モデル地域の実情に応じて事業が展開されたわけであるが,中央企画委員会委員としてそのいくつかの地域を訪ね,あわせてユース・アドバイザー養成研修等も行った。本稿は既存のデータや今年度の事業報告,実際の訪問などから標記のテーマにアプローチしようとするものである。


2.支援の対象となる子ども・若者はどんな人たちなのか−若者を中心にして−


2009年7月に成立した「子ども・若者育成支援推進法」(平成21年7月8日法律第71号)は,その第15条において支援すべき若者にふれている。すなわち,「・・修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって、社会生活を円滑に営む上での困難を有するもの・・」と規定している。いわゆる「様々なリスクを抱える子ども・若者」がそれにあたる。それでは,実際に,支援の対象となる子ども・若者とはどんな人たちなのだろうか?


「岩手県における青少年の進路と就労に関する実態調査」報告(2007)は,岩手県青少年男女共同参画課からの委託をうけて,調査研究委員会を組織して2006年度に実施した調査の報告である。その要点を以下に示す。


(1)高校類型別「浮動層」輩出率の検討(横井修一・長谷晃憲)


<1> 「(青年)浮動層」という概念は有効である。「浮動層」とは,正規就労しない(できない)まま,「フリーター」←→「ニート」の生活状態にある青年を意味する(15〜34歳の未婚者)。
<2> 岩手県においては,「一時的就業」も「無業・進路未定」もともに「浮動層」であり,その時点では区別されるにしても青年層の区分としてはそれほど明確な違いがない。
<3> あくまで暫定的な見積もりであるが,岩手県の高卒者の「浮動層」は5%程度。平成18年3月卒業生についていえば,総数14,283人(学校統計)の5%,700人位が「浮動層」。
<4> 「浮動層」輩出のルートに関しては,岩手県においては,普通高校と実業高校の違いによる影響が小さい。


(2)「浮動層」の実態 −ヒアリングによる質的検討−(長須正明)


☆「浮動層」はどんな人たちなのか?
《 高校調査から 》
<1> 個人的な要因としては,学校に適応しない・できない生徒である。親など養育者にも生活上の問題があるケースが多い。
<2> パーソナリティ特性としてはコミュニケーションがうまく取れない人が浮動層になりやすい。慎重な検討が必要ではあるが,単にコミュニケーションが苦手というだけではなく発達上の障害やそうした傾向が背景にある可能性もある。
<3> 環境要因としては,県全体に十分な求人がないことが大きい。絶対数が少ない上に地域間格差,地域内格差がある。

岩手の進路指導は「好きなこと」「やりたいこと」言説に惑わされてはならない。今
だからこそ,地域に根ざした,地に足をつけた,現実に生きる指導=方向付けをしなければならない。また,高校を離れる時点で進路がはっきり決まらなかった生徒は「ファースト・チャンス」を逃したばかりか,再チャレンジ=セカンド・チャンスは容易に巡ってはこないし,場合によっては学校時代に抱いた自分の願いをかなえるチャンスは二度とないのかもしれないのである。
《 個人調査から 》
<4> 生活のリズムが崩れることで精神的・心理的な安定,バランスが崩れる。やることがないのでゲームをして時間をつぶし,人とかかわる時間と機会が少なくなり,そのうちに「人とかかわれない」という認知を持つにいたる。
<5> 学校生活に対する積極的・肯定的な評価をしている人は少ない。
<6> 先生との交流に関しては,交流があったというよりは,先生としての立場から「指導してもらった」という印象を語っている。とくに問題を起こすわけでもなく,自分から動くというタイプでもない生徒は通り一遍の教員の指導をスルーしてしまう実態がある。
<7> 人的交流に関しては,家族以外にはほとんど人的交流を持たない人が多い
<8> 学校時代に「いじめ」を経験している人がほとんどである。共通するのは「ひどいいじめを受けた」ことを「心配させるから」という理由で親にも話していないことである。「いじめられ」経験は「人とかかわる」ネガティブな経験として現在の生活に,そしてこれからの生活に向かう気持ちを萎えさせるという意味で将来に影響を与えている。
<9> 家庭的背景に関しては,経済的には中以下の家計を背景としている人がほとんどであり,社会的ネットワークにも十分にアクセスしているとはいえない。
<10> 本人が無業〜浮動層の状態でいることに対して,家族はとくに何も言わないケースが多い。
<11> 将来展望に関して,主として経済的な事情から「仕事に就く」ことを願っている人が多い。しかし,無業でいる状態の時間が長いほど「働くこと」を回避したり,「働けない自分」という固定化した自己意識を持つようになっている。


全体としてみれば,働かないでいるうちに体力も含めて「働けなくなる」負のスパイラルに陥るケースが多い。働くことには習慣性があるから,その点では作業療法的な関わりが重要であり,それを段階的に行い,セルフ・モニタリングさせて,自己の存在,他者と共に生きている現実を認識させることが重要になる。その意味では,無業の若者支援の最重点ポイントは「リアリティ認識形成」にある。

こうした若者に加えて,社会とのかかわりをもてなくなった「引きこもり」も存在する。今回の法律はその第15条の1において,支援の内容の一つを「社会生活を円滑に営むことができるようにするために、関係機関等の施設、子ども・若者の住居その他の適切な場所において、必要な相談、助言又は指導を行うこと。」と規定している。とくに「子ども・若者の住居・・」という部分はアウトリーチ(訪問支援)の可能性にふれていると考えられる。その意味では,従来の「無業者」に「引きこもり」を重ねて支援しようとするものともいえる。


3.地域で「困難を抱える子ども・若者」を支援するシステム


困難を抱える子ども・若者を支援するために「子ども・若者支援地域協議会」を設置するわけであるが,それは「関係機関」から構成される。関係機関とは「国及び地方公共団体の機関、公益社団法人及び公益財団法人、特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体並びに学識経験者その他の者であって、教育、福祉、保健、医療、矯正、更生保護、雇用その他の子ども・若者育成支援に関連する分野の事務に従事するもの」と規定されている(法第15条)。関係機関は地域資源であるから,当然のこととして中核を担う機関と共に地域によって様々な差がある(各地域のネットワーク図参照)。


一般には以下のような機関が地域協議会に参加(区分することに意味があるのではないため便宜的に入れている機関もある)している。


《教育系》市町村教育委員会,青少年センター,学校法人,広域通信制高等学校,フリースクール・・など
《福祉系》市町村生活福祉課,障害福祉課,児童相談所,社会福祉協議会,社会福祉法人,自立援助ホーム,精神保健福祉センター,保健所・・・など
《就労系》公共職業安定所,障害者職業センター,障害者職業リハビリテーションセンター,仕事センター,ジョブカフェ,地域若者サポートステーション,(社)産業カウンセラー協会,労政課,産業振興課・・・など
《医療系》病院,クリニック,精神保健福祉センター,保健所,・・など
《矯正系》少年院,少年鑑別所,保護観察所,警察署,少年サポートセンター・・など
《その他》様々な背景を持つ子ども・若者を支援するNPO,・・など


4.地域協議会(地域支援ネットワーク)設置の意義


こうしたネットワークを構築した上で,ケース会議を開き,ケースに応じて支援の方向性の合意を作り,実際に支援を進め,サイドケース会議で検討を重ねるというプロセスをたどって「よりよい環境,よりよい状態を作る」目標を実現するわけである。

地域ネットワークを作る意義は,地域資源の確認と複数の目を通した支援の多様性,顔の見える関係の担当者によるリファーのしやすさである。


5.地域で若者を支援する際の課題


<1> アウトリーチ(訪問支援)
アウトリーチは以下のプロセスで行われることになると思われる。


1.インテーク(受理面接)

2.アセスメント(事前評価)

3.プランニング(援助計画)    ← 支援ネットワークのケース会議(方針決定)

4.インターベンション(援助開始)← 支援ネットワークのケース会議(支援経過報告)

5.モニタリング(分析・評価)← 支援ネットワークのケース会議(支援の検討・評価)

6.エヴァリュエーション(事後評価)

7.ターミネーション(終結) 

*   〈参考資料〉アウトリーチ神戸(藤本圭光代表)のHP


問題点は i)家族・本人の同意が得られるか ii)現在でも多くの支援の機会においてアウトリーチが模索されているが費用負担はどの程度になるか・・たとえば,M市では3回までは家族・本人負担はゼロ。4回以上の場合は家族・本人負担とする・・とたんに3回で中断するケースが多い iii)引きこもり支援に多くの労力をかけることに関する合意形成の困難 である。



<2> 支援すべき子ども・若者の特定が困難

義務教育修了以後の,支援すべき若者の特定が困難である。もちろん支援を求めてくる人はいるが,本当に困っているはずの人・家族に支援が届いていないことも大いに考えられる。家族の中の閉ざされた関係に閉じ込められていたり,本人に困り感さえないことだってありうる。

今までの支援経験では,困難を抱える未就労・非就労,非修学の若者は義務教育卒業年齢の段階でリスクが顕在化していたり,潜在的リスクが疑われるケースが多いことが指摘されている。個人情報の保護には十分な配慮が必要ではあるが,公平で公正な支援を実現するためには義務教育卒業年齢段階での「困難・リスクを抱える子ども」のデータ・ベースが不可欠なのではないだろうか?


<3> 多くの地域では様々な困難に対する支援会議がすでにあり,あらたに立ち上げることによる時間と労力の重複が考えられる
今までの支援会議・協議会をベースに「部会化」して,ネットワークはそのまま生かし,
新たな関係を付加して,時間的,人的重複によるロスを最小限にする運営上の工夫は必要になろう。

<4> 地域によっては就労への誘導が困難

地域に産業の集積がない場合,労働市場の広がりが十分ではないので就労への誘導は困難である。とくにひとつの市町村単位では難しいことの方が多いだろう。その場合,広域行政単位でのネットワークを構築せざるを得ない。場合によっては,行政機関等の臨時職員の仕事をジョブ・シェアするといった,まさに「地域で生きる」方策を講じる必要も出てくると思われる。


<5> 日本型子ども・若者支援モデルを示す必要がある

ユース・ワークは北欧などをモデルとした発想である。根底には「社会的排除」に至らないようにするという社会的合意がある。日本には残念ながらそうした合意はない。地域で困難を抱える子ども・若者を支援して包摂してゆくためには,まず何よりも問題の共有,支援の必然性と実際の支援活動に関する合意形成が求められる。その上で,各地域で行っている活動から普遍的に日本的モデル,あるいはそれぞれの地域における重点的支援対象を明確にした支援対象カテゴリー別モデルを示す必要がある。モデル地区以外の地域では,自分の地域に近い特徴,重点支援対象を持つ地域のモデルを参考に地域ネットワークを構築することになろう。


<6> 事業の継続を規定するのは継続した予算措置

事業の立ち上げに関しては,ここ2年のモデル事業の各地域の成果が大いに参考になるだろう。しかし,来年度の事業継続を諦めたり,保留したりしている地域があることを考えると,今後の安定した事業継続と子ども・若者の支援ネットワークをより質の高いものにするためには継続した予算措置とそれを可能にする資金的裏づけが不可欠である。どの地域においても,この事業の重要性は十分に認識されている。しかし,それぞれの地域にはより重要な,より緊急性が高い問題があるので,この事業の優先順位は決して高いとはいえない。その中で,限られた短い時間内での成果を出しにくいこの事業を継続させるためには,事業資金面での国からの支援は不可欠と思われる。首長の英断が得られる自治体はすばらしい。しかし,全ての自治体にそれを期待することは出来ない。



本編目次  前頁 前頁   次頁 次頁