若者の包括的な自立支援方策に関する検討会
中間取りまとめ
近年、我が国の若者をめぐっては、厳しい雇用情勢の下で、就労の不安定化や親への依存の長期化など社会的自立の遅れが新たな課題として生じている。
このため、「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」においては、若者が就業し、親の保護から離れ、公共へ参画し、社会の一員として自立した生活を送ることができるよう、包括的な支援方策について検討を進めてきた。
本「中間取りまとめ」は、これまでの検討会における議論の中から、意見の一致がみられた点を中心に議論の方向性を整理したものである。
1 若者の自立をめぐる問題−若者の「社会的孤立」
(問題状況)
- 近年、若者の親への依存の長期化、社会への関心の希薄化など若者の社会的自立の遅れという新たな課題が生じており、いわゆるフリーターや無業の若者、ひきこもりと呼ばれる若者の増加等が社会的な問題となっている。
- 例えば、内閣府「青少年の就労に関する研究会」によると、2002年時点における15歳から34歳の若年無業者(通学、有配偶の者を除く)は213万人に及び、1992年からの10年間で約80万人増加している。また、若年無業者のうち求職活動も行っていない若者は約85万人に達する(*)。
- さらに、このうち就業希望を表明していない若者が約半数を占め(約42万人)、その約7割は過去に就業経験を持っていない。また低所得世帯に属する者の割合も増加するなど、大変厳しい状況が見られる。
- 若年無業者やひきこもりの若者など、社会とのつながりを失い社会的に孤立した若者の増加は、将来にわたる重大な問題であり、若者の自立支援は国をあげて取り組むべき喫緊の課題である。
- さらに、若者の社会への関心の希薄化などの状況が見られる中では、若者を社会に積極的に参加させ、社会の中核に位置付けていくことが必要であるが、我が国では、若者に社会の一員としての十分な位置付けが与えられておらず、その力の発揮が阻まれているのではないか。
(問題の背景)
- 若者の自立をめぐっては、若者の意欲の欠如や、コミュニケーション能力等対人関係を築く能力の不足等が問題とされることが多い。しかしながら、より重要な問題は、大人への移行期が長期化し、若者の自立のための環境整備や社会的サポートが必要となっているにもかかわらず、それへの対応を欠く社会の側にあるのではないか。また、自立の問題の背景にある社会的・経済的格差にも目を向ける必要があるのではないか。
(対象とすべき若者)
- 自立のための支援を必要とするのは若者全体であるが、特に、困難を抱える若者に対する重点的な対策が必要である。中でも、従来政策的な支援が届きにくかったいわゆる「ニート」(通学も仕事もしておらず職業訓練も受けていない人々)と呼ばれる若者など社会とのつながりを築きにくい若者に政策の焦点を当てる必要があるのではないか。
- ただし、支援の対象とすることにより特定の若者に対するレッテル貼りにならないよう十分に留意する必要がある。
(*) 若年無業者のうち就業希望は表明していながら求職活動は行っていない者及び就職希望を表明していない者のことであり、我が国ではいわゆる「ニート」として理解されているものと思われる。
2 若者の社会的自立と社会参加
(社会的「自立」の概念、目的)
- ここで目標とされる「自立」は、就業による経済的自立に限らず、親から精神的に独立しているかどうか、日々の生活において自立しているかどうか、社会に関心を持ち公共に参画しているかどうかなど、多様な要素を含むものととらえる。
- また、自立の在り方は、人々の生活様式や価値観が多様化した現代の我が国においては一様ではない。自立しているかどうかは、個人個人について、その置かれた社会的状況等に応じて判断されるべき問題である。また、支援の必要性についても個々に判断されるべきことがらである。
- 若者の自立、社会参加の第一の目的は、「若者自身のため」であり、若者の自己実現を果たすことである。第二の目的は、若者及びその世代を社会の資源ととらえ、税や社会保障制度等を支えることはもとより、社会の持続と発展のために、若者の活力・思考力・創造性を生かすということである。
(社会と若者の責務)
- 我が国社会においては、欧米諸国とは異なり、伝統的に個人の自立が社会的な目標とされてこなかったという特徴があるが、上記の目的を実現していくためには、若者の自立に価値を認め、社会的な目標としていくことが必要である。また、特に現代の消費文化の中では若者が受身のまま成長しがちであるが、若者自身が社会で価値をつくり出していく意欲を持ち、自立を目指すよう動機付けを行うことも重要である。
- 若者の自立を実現するためには、若者は自立し成長段階に応じて社会に参加する権利があることを社会が認識し、支援する責務がある。一方、若者の側も、自ら自立のために努力し、社会に参加するよう努める責務があることを自覚する必要がある。
3 具体的な取組
(1)若者の包括的な自立支援方策の推進
(包括的な若者自立支援方策)
- 国の最重要課題の一つとして若者政策を位置付け、教育・生涯学習・就労・社会保障・家族・健康医療その他に関する包括的な自立支援方策を全政府的に推進すべきである。その際、若者政策の進んだ欧州諸国の例も参考とし、社会における若者の参画を促進し、若者の影響力を高め、その力を社会の資源として生かしていくという視点が重要ではないか。
(社会的コンセンサスの形成)
- また、若者が教育を受けず仕事もしない状態に放っておかれてはならず、その自立支援に向けた取組が必要であるという社会的コンセンサスを形成する必要があり、いわば自立促進型社会の形成に向けた一歩を踏み出すことが必要である。
- 我が国社会において次世代を育成するために、家庭だけでなく、国や地方自治体、企業、民間団体等が協同すべきであるというコンセンサスをつくり出す必要がある。その際、教育は単なる個人的投資ではなく、国、地方自治体等が更なる役割を果たすべきことへの理解が必要ではないか。
(取組の基本的な視点)
- 一方、若者の側の問題点として、自分の力で物事の選択ができないなど、個人としての力が不足している者の増加が見受けられるが、このような若者にどのように個人としての力を付けるかが課題ではないか。その際、最近の欧米諸国の若者のための施策が、カウンセリングなど個人を対象とした手法へとシフトしており、参考とすることができる。
- 若者の自立のためには、高校卒業段階で自立のための基礎能力を身に付けさせることを目標として、発達段階に応じた取組を推進すべきではないか。また、卒業・中退等により無業やいわゆるフリーターの状態で学校を離れた若者に対しては従来支援の手が届いていなかったが、こうした若者にも、社会が積極的に支援し、フォローしていくべきではないか。
- また、大人への移行がスムーズにいかず、いわゆる「ニート」やひきこもりの状態を経験した若者も、再度教育や職業訓練を受け、自立に向けて立ち直ることができるような、やり直しのきく社会システムを構築していくことも重要である。
(2)いわゆる「ニート」など困難を抱える若者の自立に向けた取組
(「ニート」の背景)
- いわゆる「ニート」の増加の背景には、経済状況の変化による雇用機会そのものの減少という要因と併せ、若者自身が、厳しい就職状況や学校・家庭と職場における価値観のギャップを前に立ちすくんでしまうといった要因もあるのではないか。
- また、若者の側の問題点として、自分の将来についてのビジョンを持てないでいることや、仕事や人間関係に対する忍耐力が低下していること、さらにはコミュニケーション能力の不足等から人間関係を築いたり修復したりする力が弱いといったことも考えられるのではないか。
- 一方、社会の側の問題点として、我が国では若者が教育を受けず仕事もしない状態に放っておかれてはならないという社会的合意に乏しく、たとえ問題があってもその解決を家庭だけにまかせてしまいがちである。また、いわゆる「ニート」のうちには、貧困等家庭の状況からくる問題や地域の産業衰退等本人の意欲とは別の原因によると考えられる者もいることに留意が必要である。
- また、我が国社会の成熟によりいわゆる「ニート」が家庭にひきこもる余裕ができたという見方もあるが、将来的には親世代に経済的余裕がなくなり問題が一層深刻化するおそれがあることを忘れてはならない。
(若者を個人ベースで包括的・継続的に支援する体制の整備)
- いわゆる「ニート」など特に困難を抱える若者は複合的な問題を抱えていることが多いことから、様々な分野からの支援が必要である。こうした若者の自立を支援するため、早急に必要な取組として、個々の若者の状態を十分に把握し、個人ベースで自立のための包括的・継続的な支援を行うことのできる体制を整備すべきである。このため、英国で導入されているコネクションズ・サービスなども参考に、各分野の専門支援機関等が連携した相談・支援体制の整備を図るべきである。
- 例えば、困難を抱える若者は保健・医療機関等の専門家による心理面でのサポートを必要とすることが多いが、このような若者と専門家の間をつなぐようNPOが関わることにより、より適切で効果的な支援が期待できるのではないか。
- 関係機関が連携した包括的な相談・支援体制のイメージは別紙のとおり。
(農業、ものづくり等の就労体験等の機会の充実)
- いわゆる「ニート」などの若者の中には、体験の不足から職業イメージがサービス産業などに限定されていて、様々な職業に対する自らの興味に気付いていない者も多いと考えられる。このため、彼らに多様な職業観を持たせ、自らの能力や興味に合った職業を選択することを支援するとともに、地域において他者と関わる機会を与えるためにも、農業やものづくりを始め多様な就労体験やその他の社会体験を積ませる取組を推進してはどうか。その際、地域の産業振興に若者の力を活かすことで、若者自身が必要とされていると感じられ、動機付けにつながるのではないか。
(長期的な取組の必要性)
- これらの取組に加え、幼少期からの中長期的な取組によりいわゆる「ニート」の状態に陥ることを防止することも必要であり、(3)の若者全般に向けた取組を推進すべきである。
(3)若者全般に向けた取組
(親・家庭)
- 青少年の自立に大きな影響を与える親・家庭への支援が重要である。特に、親が子どもの乳幼児期のみならず中・高校生になるまできちんと向き合うことができるよう、子育て支援の充実や、男女の働き方や家庭における役割の見直しを図るなど、両性が親としての役割を果たすことができるようにするための企業を含めた社会全体の取組が必要である。
- 問題を抱える青少年には、家庭環境が非常に大きな影響を与えていることが多い。安定した家庭環境をつくるためには、特に、若い家庭や困難を抱える家庭への支援が重要である。
- 子どもの自立には幼少期の育ち方が重要な影響を与えると思われるため、幼少の頃から子どもに自分のことは自分でさせ、家庭の中で一定の役割を果たさせるなど、自立に向けた教育が重要である。親が過保護・過干渉などにより自立を阻害することなく、子どもの意思決定や自主性を尊重しつつ、自立に向けた判断能力を高めていくことが重要ではないか。
- 子どもの自立のためには、親自身が子どもの自立はすなわち親自身の自立であると認識し、子離れの時期についての明確なイメージを思春期段階の子どもと共有する必要がある。
- 親からの自立のための住宅面でのサポートや、独立資金の貸付など、自立に向けた多様な側面からの支援が必要である。
(学校)
- 自立に向けた教育として、学校と社会とのつながりの中で体験活動を行わせることにより、子どもに自ら学び、学んだことを生かす喜びを見出させ、また地域の人々との関わりの中で仕事や自分の役割を果たすことの楽しさ、自己の有用感を学ばせることが重要である。特に、中学校くらいの段階からある程度長期間の体験活動を行い、地域の大人との出会いを経験させることは有効である。
- 社会の仕組みやそこで生きていくための知識と技能についての教育(シチズンシップ教育)を充実すべきではないか。具体的には、まず、若者に高校卒業段階を目標に権利義務の行使ができるよう現実的な能力を身に付けさせ、また社会保障や雇用関係の制度などの社会的な仕組みをしっかり教えることにより、自立のために必要な基礎能力を備えさせるようにすべきではないか。また、若者の公共への関心を高め、社会に参加させていくために、学校において民主主義や社会の構成員としての役割を果たすことの重要性について理解させるべきではないか。
- 学業における児童・生徒のつまずきを早期に発見し、サポートすることが必要である。また、若者の中には、人間関係を築く能力等が弱いために就労においても社会生活においても困難を抱える者が見受けられるのではないか。このため、若者を学校において個人ベースで継続的にサポートする体制が必要なのではないか。
(就労)
- 近年の経済情勢の下で雇用する側の人材を育成するという姿勢が弱まり、新たに若者の就業に対する社会的サポートが必要となっているにもかかわらず、失業・無業が若者の側の問題とされる傾向にあることは問題である。非正規雇用型の労働者である者も含め、若者が自分自身で将来を見据え、意識的にキャリア形成を行うことができるよう支援していく必要がある。このため、若者が職業訓練を受けるための貸付制度の導入等が必要ではないか。
- また、職業によって求められる労働者の資質や能力は異なるが、若者の間では現実にはサラリーマン(企業の正社員)というモデルが一般化されすぎてきたものと考えられる。このため、若者が多様な職業観を持ちチャレンジすることを支援したり、若者一人一人の向き不向きや能力を見極めて仕事とマッチングしたりすることが重要ではないか。
- 現在でも若者の就労支援に向けた政府の様々な施策が講じられているが、これを継続的に推進する上では、国民的な理解を図るとともに、これらの施策を若者の視点から評価しつつ改善していくことが極めて重要である。
(地域社会)
- まちづくりなど地域における様々なプログラムへの若者の参画は、若者が自分自身の意思や興味、責任で社会に参加し、また地域での人間関係を再構築し、さらには他者と触れ合う中でコミュニティのセンスを学ぶ場となり、自立の力の育成に資するものである。このような様々なプログラムの担い手としてNPOの役割を重視し、支援策を充実していく必要がある。
- また、自立支援のためにコミュニティが協力していくための仕組みをつくる必要があり、例えば学校が中学生等の地域における体験活動を行う際にも、地域の企業やNPOの協力が不可欠である。
- さらに、若者が長期ボランティア活動やNPO等の活動に取り組むための支援が必要である。
- 都市化の進行により地域の人間関係が弱まっているが、上記のように地域の人々が若者のためにいわば「おせっかい」を焼き、その自立を支援していくことが極めて重要であり、このような社会的機運を醸成することが必要である。
(地方自治体等における取組)
- 親・家庭や学校、企業、地域社会が協力して若者の自立を支援していくためには、国レベルのみならず、身近な地方自治体レベルにおいて自立支援を重要課題として位置付け、例えば若者に関する協議会等の場でその地域の実状に応じた自立支援計画を策定するなど、諸施策を包括的に推進していくことが重要である。
- さらに、若者に影響を与えるような政府の政策・方針や各種機関の意思決定過程に若者の参画を促進することは、政策・方針を若者の視点を反映させたものとする上でも、また若者の一層の社会参加を促す上でも重要である。