特集 若者の仕事観や将来像と職業的自立,就労等支援の現状と課題

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1 はじめに

政府による就労等支援施策について,若者がどのように評価し,自分の将来に対してどのような展望を持ち,また,どのような未来を望んでいるのか等について把握するため,10代,20代の若者を対象にインターネット調査(以下,「本調査」という。)を実施。ここでは,本調査結果等から,若者の仕事や将来の生活に対する意識,また,職業的自立や就労支援等に関する国の施策についてどう考えているかなどについて見ていくとともに,国の施策や実際に地域,民間団体等で行われている取組事例の概要を紹介する。

2 若者の考え方についての調査(若者の仕事観や将来像と職業的自立,就労等支援等に関する調査)結果から

(1) 調査の概要

本調査は,平成23年12月から平成24年1月までの間,インターネット調査会社のリサーチモニターとして登録している全国の15歳から29歳までの男女3000名(男性1500名,女性1500名)を対象に実施したインターネット調査である。調査対象者は,全国を7のブロック(北海道,東北,関東,中部・北陸,近畿,中国・四国,九州・沖縄)に分け,各ブロックの15歳~29歳までの人口比率を,回収サンプル数の3000サンプルに割り付けて設定している。

(2) 仕事観について

仕事の目的は,「収入を得るため」が63.4%で最も高く,次いで「自分の生活のため」51.0%,「自分の夢や希望を叶えるため」15.0%,「家族の生活のため」12.6%,「仕事を通して達成感や生きがいを得るため」11.3%などとなっている。(複数回答)

図表14 何のために仕事をするのか

(3) 働くことについての不安や現実

「とても不安」「どちらかといえば不安」を合わせた「不安」の割合が高いのは,「十分な収入が得られるか」82.9%,「老後の年金はどうなるか」81.5%,「きちんと仕事ができるか」80.7%,「社会の景気動向はどうか」80.4%が8割を超えており,仕事,収入,老後の年金,景気動向などの経済的な不安を訴える割合が相対的に高くなっている。

図表15 働くことに関する不安

(4) 相談機関の認知と利用

働くことを支援する相談機関の認知は,「ハローワーク」が90.0%で最も高い(図表16)。また,公的な相談機関を利用した効果については,「就職先を選ぶ参考になった」が60.1%で最も高く,次いで「自分の考えや気持ちの整理がついた」24.3%,「自分の考え方が広がった」22.2%などとなっている(図表17)。(いずれも複数回答)

図表16 働くことを支援する公的な相談機関等の認知状況

図表17 公的相談機関を利用した効果

(5) キャリア教育・職業教育の現状

キャリア教育・職業教育を受けた経験は,「受けたことはない」64.2%,「受けたことがある」25.5%,「わからない」10.3%となっている(図表18)。

また,キャリア教育・職業教育を受けたと答えた者を対象に,受けた効果としてどのようなものがあったかについて質問したところ,「自分の考え方が広がった」68.8%,次いで「働く事の大切さが分かった」64.6%,「社会で必要とされるスキル(能力)・知識がわかった」58.2%となっている(図表19)。

図表18 キャリア教育・職業教育を受けた経験

図表19 キャリア教育・職業教育を受けた効果

(6) 職業選択・就職活動に有効だった支援

職業を選ぶ際や就職活動をする際,どのような支援が有効だったかについて見ると,「試験や面接に対する助言・指導」が最も多く38.3%,次いで「会社説明会」37.6%,「適性診断の実施」30.1%,「家族,友人などの助言や情報提供」28.9%,「職場体験・インターンシップ」22.2%となっている。

図表20 有効だった支援

3 職業的自立や就労支援の取組

(1) ハローワークによる失業者以外への支援の取組

ハローワークでは,新卒者等に対して,様々な就労支援プログラムを準備し,大学等との連携を進めるなどしてその充実を図っている。

例えば,大学院・大学・短大・高専・専修学校の学生で就職活動をしている者や,卒業後就職が決まっていない者(既卒3年以内の卒業生等)の就職をワンストップで支援する専門のハローワークとして,平成22年9月から,全都道府県に新卒応援ハローワークが設置され,地元から全国までの求人情報の提供や仕事探しに当たっての各種相談を行っているほか,年間を通じて,就職説明会や各種セミナーを開催している。

また,大学等との連携が進められており,ハローワークで受理した新卒者対象求人情報や面接会等イベント情報などをメールマガジンで大学に発信したり,大学常駐のジョブサポーターによる模擬面接会などの就職支援のほか,学内企業説明会においては新卒ハローワーク相談ブースを設け,未内定者への就職相談を実施するなどの事例がある。

(2) キャリア教育を実践する学校の取組やそれを支援する政府の取組

○ 小学生の職場見学「ゆめ・仕事ぴったり体験」(千葉県)

千葉県では,「実践,実習,現場体験に重点を置いたキャリア教育の推進」を図ることを目的とし,主に小学校高学年を対象に,児童が企業や役所などで働く人々に密着するという「ゆめ・仕事ぴったり体験」事業を実施している。半日間,小学生が働く大人にぴったりと密着して,仕事に取り組む大人の姿を観察し,大人が仕事にかける情熱を感じとり,あいさつやマナーの大切さを知り,働くこと,将来の夢へのイメージを膨らませるというもの。

大人の仕事を身近に観察したり,大人と会話をしたりする中から,自分の将来の仕事や学校で学ぶことの意味などを考える機会とすること,中学校での職場体験の導入段階の活動とすること,学校・家庭・地域がそれぞれの役割を自覚するとともに,連携して次代を担う子どもたちを育てる場とすること等をねらいとしている。

○ 労働者としての権利を学び,スキルとネットワークを形成する視点からの授業実践

大阪府では,実践的なキャリア教育・職業教育に力を入れている高校を支援するため,「実践的キャリア教育推進校」事業を実施している。その事業の指定校の一つである大阪府立福泉高等学校では,学年ごとに,将来働くことの現実的なイメージをつくる,興味のある職業に至る道筋を理解する,自分の目標に向かって主体的に努力するといった方針を掲げ,キャリア教育に力を入れているところ,中でもユニークな実践として,井沼淳一郎教諭(現:堺東高等学校)による現代社会の授業が挙げられる。

井沼教諭による年間の授業は,授業で学んだスキルを生かして現実社会に参加し,高校時代の様々な人間関係のネットワークを基にして,将来困ったときに助け合えるネットワークにつなげていくことを目指して,「働くこと」「生活すること」を教材化し,調べ学習を中心に,弁護士や司法書士などの専門家のアドバイスを受けるなどして進められる。

調べ学習のテーマの一つに「アルバイト先から雇用契約書(労働契約書)をもらってみよう。」というものがある。これは,正社員が前提ではない「働く権利」の学習が必要であるとの視点から設けられたもの。授業では,実際にアルバイト先から雇用契約書をもらってきて,それを素材にグループ討議を行ったり,雇用契約書を出してほしいと依頼したときの状況(なかなか出してくれない雇用主と交渉したり,むしろ勉強になったと雇用主から感謝されたりしたこと)などを発表したりして,専門家からアドバイスを受けながら,働くために必要な知識やスキルなどについて学んでいる。

○ キャリア教育推進連携シンポジウム(文部科学省・厚生労働省・経済産業省主催)

平成24年1月26日,東京都千代田区にある有楽町マリオンにおいて,教育関係者・企業関係者等が一堂に会し,キャリア教育推進連携シンポジウムが開催された。

キャリア教育を推進していくに当たっては,学校等の教育関係者と地域・社会や産業界の関係者が連携・協働し,お互いにそれぞれの役割を認識しながら一体となった取組を進めることが重要であり,本シンポジウムは,このような垣根を超えた連携・協働によるキャリア教育の先進事例を世の中に広く共有し,キャリア教育の意義の普及・啓発を行い,その推進を図ることを目的として,文部科学省・厚生労働省・経済産業省の3省の主催により開催されたものである。

シンポジウムでは,アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)創業者・最高顧問の大竹美喜氏による基調講演「与えられた道を選ぶより選び取る人生を―好きでたまらない仕事を見つけるために」が行われたほか,「みんなで創る子供たちの未来―キャリア教育の実践に当たって」をテーマにしたパネルディスカッション,キャリア教育アワード優秀賞を受賞した団体と学校関係者等による事例発表,キャリア教育アワード,文部科学大臣表彰,キャリア教育推進連携表彰の表彰式が行われた。

(3) 仕事と生活の両立を図ることができる職場環境の整備

本調査では,若者の52.9%が仕事よりも家庭を優先するとしているほか,40歳くらいになったときには,親を大切にしている,幸せになっている,子どもを育てていると答える割合が相対的に多くなっている。一方,「子ども・若者ビジョン」においても,大人社会の在り方の見直しとして,「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」の実現に向けた取組を進めるとされている。そこで,ここでは,仕事と生活の調和を進めている企業・組織の取組について紹介する。

岡山県にある社会福祉法人愛誠会(介護老人福祉施設)は,職場に設けた「両立支援委員会」の提案による制度を毎年創設し,離職率を低下させた企業等として,「次世代のための民間運動 ~ワーク・ライフ・バランス推進会議~」が主催するワーク・ライフ・バランス大賞優秀賞を受賞した。

従業員の働きがいや働きやすさを高めるための具体的な取組としては,託児施設を設置したほか,子のバースデイ休暇(中学就学前までの子の誕生日を休日とする)を創設して家族と過ごせる日を増やしたり,ノー残業デイを導入したり,経験に応じて自分を試す機会としてキャリアアップ研修を実施したり,子育て中の職員など約20名からなる両立支援委員会を設置して働きやすい職場をつくるための提言をするといったもの。これらの取組により,一般的に離職が多いと言われている介護施設の中で離職率が全国平均より低く,また,求人が厳しい介護業界の中で市外,県外からの新卒者が就職してきており,人口減少の地域にあって安定した人材の確保につながっている。さらに,働くことに対する職員の自己実現も図られ,職員の態様やサービスに対する利用者の評価も高くなっている。

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